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又吉直樹×武田砂鉄 1本のメールから始まった無目的な思索の応答

又吉直樹・武田砂鉄『往復書簡 無目的な思索の応答』
テキスト
タナカヒロシ
撮影:鈴木渉 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)
又吉直樹×武田砂鉄 1本のメールから始まった無目的な思索の応答

コントでウケてない時間って、みんな不安なんですけど、僕はあんまり不安じゃないんですよ。(又吉)

まるでフィクションのような馴れ初めを語った2人だったが、ここから話はコロコロと転がっていく。

又吉はすれ違う人から二度見されるという話を武田が切り出すと、話題は街中での目撃談へと移る。さらに武田は長身で目立つという話から、同じ身長186センチの大林素子(元バレーボール日本代表)を意識するようにしていること、又吉の実際の身長は164.5センチだが精神的には174センチだと思っていることなど、次から次へと展開していく。

雑談と言ってしまえばそれまでだが、「本当に目的のない会話が続いてますけども」と武田が口にすると、今度は「無理やり目的ある話に変えようとしたらどうなるんですかね」と又吉が提案。それに対して武田が「あのときの俺があったから、いまがあるっていうことになるのかも」と返して自己啓発本の話になり、「そういう着眼で見ると、本当に役に立たない本ですね」と、再び『往復書簡』の話に戻ってきた。

相手の話を受けて、気になる部分を拾って展開していく。誰にでも真似できる芸当ではないと思うが、これはまさに2人が『往復書簡』のなかで繰り返していた『無目的な思索の応答』そのものだ。

武田:編集の方も、この本の宣伝文句を考えるのは大変だったと思うんですよね。これを読んだらこういう気分になりますとか、読み終わったらどうなりますみたいなことを示せたほうがいいはずだから。でも、この本にはそれが徹底的にない。個人的にはうれしいことなんですけれど。

武田砂鉄

この発言に至るまでも、前述したように短くはない「応答」があったわけだが、それは決して無意味だったわけではない。さらに武田は続ける。

武田:世の中で出回っている対談や鼎談記事って、きれいな字面で会話が成り立っているじゃないですか。この対談もどこかで掲載されるのかもしれないけど、この探り合いみたいなものはカットされて、きれいに収まっているはず。

自分も文字起こしして、インタビューや対談をまとめることがありますが、現場で、ぐちゃぐちゃながらも充実していると感じた状態が続いていたとして、掲載のための、そのぐちゃぐちゃを整理して、充実だけを残すのって、むずかしい。毎度悩むんです。

でも、なぜ充実しているかと言ったら、ぐちゃぐちゃしているからで。だから、まとめるのがうまくいかないことがあるんです。

しかしながらこの対談、すべて文字に起こすと4万字近くある。限られた文字数のなかでレポートを書く身としては、壇上から強烈なプレッシャーをかけられてしまったわけだ。

話をイベントに戻そう。この「充実だけを残す」ことについて、コントの場合はどうなのだろうか。武田が質問すると、又吉は「他の人やったら、コントでウケてない時間って、みんな不安なんですけど、僕はあんまり不安じゃないんですよ」と回答。

さらに音楽にたとえて、サビばかりでなく、イントロやAメロも大事ではないかと話し、自身が最もよく聴いている曲として、約14分30秒の大曲、ギリアン・ウェルチの“I Dream a Highway”を挙げる。これに呼応して武田は、23分を超えるPink Floydの“原子心母(Atom Heart Mother)”を愛聴していると発言するのだが、決してマウンティングをしたわけではない。Pink Floydはライブで即興演奏をするため、どこから曲が始まったのかわからないというエピソードを話し、文章もそれでいいのではないかと持論を述べる。

ギリアン・ウェルチ“I Dream a Highway”を聴く(Apple Musicはこちら

Pink Floyd“Atom Heart Mother”を聴く(Apple Musicはこちら

武田:今、情報を伝える中で、ここからはこういう展開ですよ、って指し示してくるものが多いですよね。それをしないことがどんどん難しくなっている。「わかんない」って言われちゃうから。

又吉:それを意識してやるのはいいんですかね。僕、こないだ意識してやったんです。サビを自分も提供しようとしすぎてしまうし、みんなそうやなと。できるだけ起伏がないというか、そういう高まっていくものがないものって、できるのかなと思って。やっぱりコントをずっと作ってきたので、クセでやっちゃうんですよね。

又吉直樹

武田:盛り上がりを作っちゃう。

又吉:でも、いろいろ書いているうちに、意識的に起伏を作るということが、果たしてそれでいいのかという疑問も出てきて。起伏を抑えてみようとなったのですが、今度は意図的に抑えてもいいのかとも思ったんですよ。

「そんなことしなくてもいいんだよ」って言われて、「じゃあ普通にします」でできたらいいんですけど、抑えることに起伏をつけるより努力してもうてるやんっていう。それは全然自然じゃない。

武田:でも、時間をかけて、がんばって抑えるっていう光景は、たぶん読む人にはわからないわけですよね。

又吉:わからないですね(笑)。

武田:そっちのほうがたぶんいいですよね。これだけたくさんの作品を書かれていると、ファンの人たち、読む人たちが、「又吉っぽさ」みたいなものを求めてくると思います。そこでコミュニケーションが成立しちゃうのって、あまり面白くないじゃないですか。でも、それを崩そうと考えたときに、がんばって抑えるっていう行為のほうが、いいのかもしれないですね。

又吉:コントでもたまにやりたくなるんですよね。でも、それは絶対言えないというか、ウソつけと思われるので。ウケへんかっただけやろって言われる可能性があるから、言えないんですけど。

武田:そうですよね。「うーん、ちょっとこの方向性はまだ難しいかな?」なんて言うのは偉そうですもんね。

又吉:そうですね(笑)。でもいろんなコントが、自分でライブやるとできるので。笑いがいっぱい起こってるっていう状態も、もちろん気持ちよくて好きなので、そういうものも作りたくなるし。ゆっくりなやつも、やってる分には楽しいので。いろんな種類があっていいと思うんですけどね。

左から:武田砂鉄、又吉直樹
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イベント情報

『違和感の居場所 ~芸人とライター、書くときに考えていること~』
『違和感の居場所 ~芸人とライター、書くときに考えていること~』

2019年5月17日(金)
会場:紀伊國屋ホール

書籍情報

又吉直樹・武田砂鉄『往復書簡 無目的な思索の応答』
又吉直樹・武田砂鉄
『往復書簡 無目的な思索の応答』

2019年3月20日(水)
価格:1,620円
発行:朝日出版社

プロフィール

又吉直樹(またよし なおき)

1980年大阪府生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。2003年にコンビ「ピース」を結成。2015年に『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞。著書に『東京百景』(ヨシモトブックス)、『劇場』(新潮社)などがある。毎日新聞で連載した小説『人間』が今秋に単行本化予定。

武田砂鉄(たけだ さてつ)

1982年東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。著書に『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論――テレビの中のわだかまり』(青弓社)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋)、『日本の気配』(晶文社)などがある。

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