「フジワラノリ化」論 −必要以上に見かける気がする、あの人の決定的論考− 第5回 優香 其の二 30歳を前にしてアラサーを固辞する優香

其の二 30歳を前にしてアラサーを固辞する優香

優香はデビューして今年で12年、来年30歳を迎える。こうやってまず数字を並べてみると、優香という人は、経歴や年齢から来るあらゆる風格から逃れているなと感じるだろう。逃れているのか、そもそも付着しそうにないのか、その点も改めて考慮すべきだが、とにかく現在置かれている状態に、歳を重ねることでの何がしかが目立ちにくくなっているのは確かであろう。優香という名前は公募によってつけられた。そのネーミングには、優しく香るとの意図もあるが、当時の流行り言葉であった「ってゆうか」も、その名を付ける一因になったとされる。本名が岡部広子であると率先して言及しているが、例えば、「岡部ひろこ」としてデビューするのと優香という名で表に出て行くのでは、その親しみやすさに違いがあっただろう……なんて書きたくなるが本当にそうだろうか。優香という名前は「ゆか」と読ませる可能性も含めれば至って平淡な名前である。今でこそ「優香」はあの優香だが、出てきた当初、そのネーミングにインパクトは無かった。むしろ、アイドルの瑞々しさより、キャバクラ嬢やAV女優の仮名性を臭わせるものだったのかもしれない。童顔巨乳アイドルにその仮名性が覆われる猥雑さがあったから……とはこれまた結果論から来るものにすぎず、優香は、優香という平淡な名前ですくすくと歩んできたのだ。

第5回 優香

優香という人は、自己主張を持ち出さない人である。競争思考が無い、とも言える。もちろんそれは見えないだけなのかもしれないが、見えなくさせているのだとすれば、そこには相当な作法が忍ぶ。「ってゆうか」みたいな論証や解説の類いを自分から持ち出さないのである。優香は笑う。くしゃっと顔を崩して笑う。グフフと吹き出しをつけたくなるような笑い方をする。しかし、オピニオンを発しても良いような場面でもその「くしゃっ」でこなしていく。バラドルという言葉が馴染みあるカテゴリーとして定着している現在、女性アイドルはお笑い芸人と軽妙なやり取りができなければ生存することが出来ない。若槻千夏や木下優樹菜の流れが顕著である。あれをやれば大成できると末端のアイドルは思う。アイドルの成り上がり方というのは具象化しにくいものだった。あれをやればいいのだという道程を提示できなかった。しかし今は、あの流れがある。踏襲しにかかるアイドルの卵が増えていることだろう。そんな卵達に、優香はどう写るのだろう。ユッキーナみたいになりたい、というのは具体的な目標であろう。一方で、深津絵里さんみたいになりたい、というのは理想郷である。優香になりたい、という思いがあったとして、それはどういったポジショニングを持つのだろうか。彼女ほど成功している元グラビアアイドルはいないのである。もう12年も芸能界の一線で「笑って」いるのだ。なぜ羨望が注がれないのか。

30歳前後、アラサー世代に輝く女性タレントは、その人気に何がしかの所属を持たせている。代表的な例は女性ファッション誌だろう。雑誌の顔になる。雑誌がどこかの年齢層を引っ張っている以上、スライドしてその年齢層を背負う。現在の連続ドラマは、20人くらいの女優をパズルのように組み替えて作っているかのようだ。あいつを使っておけば安全という女優が確かに安全だったりするようで、その安全女優がきっちりと羨望を頂戴してたりする。20名のうち2〜3名が何となく没落し、同じように2〜3名がなんとなく加入されてくる。こちらから率先して簡略化するつもりはないが、この2方面で大抵のアラサーの羨望は掴めてしまうのだ。

「婚活」という言葉がもてはやされている。「婚活」なんてずっと前からあったわけだ。近所の世話焼きおばさんが「そろそろ落ち着かないと…」と相応の男性を紹介してくれるケースだって、田舎の母からお見合い写真が送られてくることだってあったろう。「婚活」というのは、女性が能動的に結婚相手を探すという、その矢印の向かい方を指して言うのだ。こういうことに対しては積極的じゃないほうが……というのが年輩からの気配りに含まれていた。そして、それに同意していた。しかし、そうではなく、自ら動く。捕えるべきを捕える、その意思表明と行動が第一線で機能する。その一線に対する自信はあやふやだ。だから、代理人を求める。

優香は、その代理人に一切なろうとしない。「グータンヌーボ」という恋愛トーク番組は、その能動的な態度を示すにはナチュラルな番組である。普段バラエティに出てこないモデルや女優の類いがこぞって出てくることを考えれば、やはりそこいらの女性有名人勢が、能動的な恋愛態度(それは男を引っ張って行くという能動性だけでなく、恋愛血中濃度とでもいうべきか、要するに恋愛ネタへの機動力)を晒す利点を感じていると言えるだろう。優香はその番組のレギュラーでいるってのに、前のめりにはならない。むしろ、恋愛から話を逸らしてしまったりする。興味がある恋愛話には乗ってくるが、興味がなさそうならば、その態度をそのまま画面に映す。

凄く雑な言い方かもしれないが、女性タレントは、年齢=世代を背負い、その上で恋愛に臨む態度=指針を提示すれば良い。そのための、雑誌への所属であり、グータンヌーボでの恋愛話なのである。しかし、優香はそれをしない。年齢不詳とはまた違う「非・年齢性」のまま今を迎えた彼女は、その態度を貫くことで、「もう歳だな」とか「あの人の恋愛は憧れられない」といった減点の機会に晒されずに済んだのだ。得してるなあという話ではない。減点の機会が無いと言うことは加点の機会も無かったということなのだから。

次回は、「西東京アイドル成り上がり論」と題して、あきる野市出身の優香、都心からやや離れた西東京という地域性を問うことで優香を新たなベクトルから明らかにしていきたい。



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