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アートにとって苦難の時代を『岡山芸術交流』から考えてみる

『岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が』
テキスト
島貫泰介
編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)
アートにとって苦難の時代を『岡山芸術交流』から考えてみる

ユイグによる、異なる作品が集まり大きな「生態系」を作り出す試み

このひとつの見立てを得た瞬間、筆者にとっての展覧会の様相は一変した。例えば、同じく旧内山下小学校の校舎全体を使ったファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニの「反転資本」シリーズでは、校内に残された黒板の落書きや、「元気 やる気 思いやり」と書かれた微笑ましい学校の標語、かつて生徒たちが作ったとおぼしき人型のオブジェなどとともに、アーティストが設置した作品が設置されている。それらは何本ものホースや壁に穿たれた穴で緩やかに結ばれ、架空の未来世界をかたち作っているかのようだ。

ファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニの「反転資本」シリーズ(Photo:Ola Rindal)
ファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニの「反転資本」シリーズ(Photo:Ola Rindal)
ファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニの「反転資本」シリーズ(Photo:Ola Rindal)

あるいは2階の教室に置かれた実験器具のような『タイトル未定』では、ユイグが提供した水槽に、マシュー・バーニー(ビョークの元夫!)がエッチングを施した銅板を沈めるという、アーティストコラボというかたちでの協働・共生を示しているが、よく見るとカブトガニやノコギリイッカクガニが遊歩する水槽の底が最初に見た校庭の丘にそっくりであることに気づく。SF小説では「自分たちの生きる宇宙がじつは無数にあるちっぽけな箱庭のひとつでしかなかったのだ……!」といった衝撃の展開がしばしば起こるが、まるでその再現のようではないか。

マシュー・バーニー&ピエール・ユイグ『タイトル未定』(Photo:Ola Rindal)
マシュー・バーニー&ピエール・ユイグ『タイトル未定』(Photo:Ola Rindal)
マシュー・バーニー&ピエール・ユイグ『タイトル未定』(Photo:Ola Rindal)

このような異なる複数の作品がひとつの空間と時間を共有し、大きな「生態系」を作り出す試みをユイグは自身の展覧会でも試してきたが、今回のように自分以外の作家の作品でそれを作り出すことはなかった。できあがった展覧会を見て、彼は何を思っているのだろう?

ユイグのミッションは「アーティストが持ち寄ったアイデアが損なわれず、影響しあえる可塑的なプラットフォームを作ること」

―小学校や美術館など、岡山市の風景と共鳴するような作品が選ばれていることが印象的でした。

ユイグ:いろんな言い方ができるので迷いますが……。できるだけ作品自体がオントロジー(存在することへの問い)、自然との関係性、余白を生む多孔性、時間の継続性の意識を持つものを選びました。旭川の伏流水を引いて作品の冷却に使うメリッサ・ダビン&アーロン・ダビッドソンの『遅延線』などは、まさにそうですね。それから校舎の丘は作品ではないのですが、私自身が毎日、用務員のおじさんのように整地して作ったもので、その地形的な凹凸によって鑑賞体験のダイナミズムを生み出そうとしています。もともとあった風景を取り込むものもあれば、こちらから積極的に介入し、足していったものもある。そうやって観客の体験をナビゲートすることを考えていました。

ピエール・ユイグ(Photo:Taiichi Yamada)
ピエール・ユイグ(Photo:Taiichi Yamada)

―特にヨーロッパで議論されている地球の気候変動、あるいは人間以外・人間以降の存在について思考するポストヒューマンの問題を感じさせる作品も多くありますね。

ユイグ:そうですね。林原美術館の、ティノ・セーガル『アン・リー』と、イアン・チェンの『BOB(信念の容れ物)』などはわかりやすいでしょうか。前者は私とフィリップ・パレーノが始めたプロジェクトにセーガルに参加してもらったもので、もともと私たちが日本の企業から著作権を買い取った少女のキャラクターをモチーフに、さまざまなアーティストに二次創作としての新作を作ってもらって少女に新しい命を与えるというシリーズです。セーガルは、日本人俳優を使ってアン・リーを演じさせていますが、今回、その隣のスペースにはチェンが作った人工知能のデジタル生命「BOB」を置いています。

―孤独なアン・リーに、デジタル世界の友人を与えるようでチャーミングな空間でした(笑)。

ユイグ:結果を意識して配置することはあまりなかったです。ふとした瞬間に起こる偶然性が、いちばん大事にしたいものですから。それを起こすのが多孔性や余白であり、変化に対してオープンであろうとする作家個々のマインドです。

今回、私はアーティスティック・ディレクターという役を担いましたが、何かを強いるようなピラミッド構造のヒエラルキーを作りたくありませんでした。なるべくフラットな関係のなかでフィードバックを起こそうとした結果が、この空間なのだと思います。アーティストそれぞれが持ち寄ったアイデアや世界観が損なわれず、しかし、影響しあったり変化しあえるような可塑的なプラットフォームを作ることが、今回の私のミッションだということです。

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イベント情報

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『岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が』

2019年9月27日(金)~11月24日(日)
会場:旧内山下小学校、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館、岡山城、シネマ・クレール丸の内、林原美術館ほか市内各所
休館日:月曜日
開催時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)

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