Permanents(田中和将&高野勲)と田島貴男が出会った、特別な夜

日常の中に一篇の詩のように射し込まれた、非日常のような90分

9月25、26日の2日間、GRAPEVINEの田中和将(Vo,Gt)と高野勲(Key)によるユニット、Permanentsによる有観客のライブイベント『Permanents presents A ZIG/ZAG SHOW』がBillboard Live TOKYOにて開催された。『A ZIG/ZAG SHOW』はPermanentsが不定期に行っているゲストを招いたイベントで、今回は初日の公演にORIGINAL LOVEの田島貴男が招かれ、Permanentsとのコラボレーションを繰り広げた。

2日間それぞれ2ステージ制で行われた今回の『A ZIG/ZAG SHOW』。ソールドアウトとなった全4公演のうち、1日目、9月25日の2ndステージは生配信が行われた。この配信はスペースシャワー、J-WAVE、CINRAの三団体が共同で立ち上げた「UNITED FOR MUSIC」プロジェクトの一環として行われたもので、チケットの売り上げはライブ制作経費に充てられ、残った金額は、新型コロナウイルスの影響によって仕事を失ったライブハウス、アーティストやコンサートのスタッフ、収録スタッフといった人々に還元していくためのライブエンタメ従事者支援基金「Music Cross Aid」へ寄付される。この記事では9月25日の2ndステージの模様を生配信で家から視聴していた筆者がレポートする。

いきなりアンコールの話を書くのはなんだが、アンコールでPermanentsと田島の3人がステージに揃いGRAPEVINEの“ピカロ”を演奏する、その前に、田中がこのライブを観ている人たちに言葉を投げかけた。にこやかな表情の彼は、「これを手始めに、少しずつでもいい方向にいってもらえるといいなと思います。世の中に対する努力は欠かさず、皆さんが少しでも、非日常を感じられるような……」と、そこで言葉を切ると、後ろを振り返り、「いいですね、これ。ビルボードの特権ですね」と、ステージ後方のガラス張りの向こうに広がる夜景を見つめた。このとき、田中の「非日常」という言葉が自分にはしっくりきた。たしかに、この夜、Permanentsの演奏を聴いていた1時間半、自分が過ごしたのは、まるで日常の中に一篇の詩のように射し込まれた、非日常のような時間だったのだ。

Permanentsと田島貴男

「魔法を手に」したPermanents。田島貴男とのハーモニーが特別な夜を祝福する

ライブは田中の「こんばんは、マーパーです」という簡素な自己紹介と、「今宵は素敵な夜になるでしょうって言おうと思っていたんですけど、2ndステージなんで、既に私たちにとってはすごく素敵な夜になっております。皆さんに魔法をかけてあげられるかどうかわかりませんが、私たち、既に魔法を手にしております」という粋な言葉ともに、“それを魔法と呼ぶのなら”で幕を開けた。田中の奏でる穏やかなアコースティックギターの音、それに寄り添う、高野の奏でる繊細なキーボードの音が、ゆっくりと、会場の空気を震わせていく。間奏では田中が「勲助教授っ」と掛け声を上げる場面も。「ふたり」というとても小さな単位の関係性が、優しく音や空間を分ち合いながら、どんどんと大きなものを生み出していく……そんなことの凄みを感じさせられる。

2曲目は「会場に来てくれていない方にだけ届けます(笑)」という田中の言葉に続いて、“遠くの君へ”。田中と高野の声の重なりが美しい。久しぶりのステージだったのだろう、この夜の田中はライブができることが本当に嬉しそうで、その喜びに満ちた表情が、自分が見ているパソコンの画面に映し出される。演奏者の表情や手つきを鮮明に見ることができるのは、ライブ配信の醍醐味だ。

Permanents

3曲目で、ゲストの田島がステージに招かれる。演奏前、田中は「やっていると、夢はいろいろ叶っていく。一緒にやりたいなと夢見続けていたら、叶う夜がきました」と、リスペクトを込めて田島を紹介した。そして演奏されたのは、ORIGINAL LOVEの名曲“プライマル”。一発目、イントロで失敗して「もう1回やらせて(笑)」という愛嬌を見せつつも、田中がこの曲を歌うことで醸し出される繊細な色気がたまらなく、田島とのハーモニーも、声と声が照れ混じりに、しかし出会いを祝福するように幸福に響いていて素晴らしかった。田中と高野のハーモニーに関しても言えることだが、「人と人の声が重なるということは、なんて特別なことなんだろう」と思わせられる瞬間が、Permanentsのライブにはたくさんある。

Permanentsの静けさと、田島貴男の力強さ。田中和将「幸せな夜が、また更新しました」

ここで一旦、Permanentsのふたりがステージからはけると、田島のソロステージが幕を開ける。田島ソロの1曲目は“接吻”。まるで楽器が、リズムが、メロディが、筋肉や神経と直接結びついているような豊かな身体性を感じさせるパフォーマンス。重層的なリズムを生み出し、さらに歌いながら足元ではストンプボックスとタンバリンを踏み鳴らす……言うなれば、「全身音楽家」というか。ひとりの人間が、知性も感性も肉体も研ぎ澄ませ、そのすべてを音楽に没頭させることによって成り立っている、そんなすさまじい演奏。

2曲目のファンキーな“bless You!”では、「クラップユアハンズ!」と聴き手を煽る場面も。この日、前列のオーディエンスはフェイスシールドを着用していたようで、やはりコロナ以前とは会場の空気も違ったのではないかと推測するが、しかし状況がどうであろうと、田島貴男は田島貴男。そのほとばしる「個」の力が会場の空気に浸透して震わせていく様子が、生配信の画面越しにもよくわかる。そして田島ソロ最後の3曲目“フリーライド”では、ギターのボディを叩いてパーカッシブな音を出すスラム奏法も駆使し熱気あふれる演奏を披露。優雅な静寂に炎を投げ込むような、衝動溢れるソロパフォーマンスを繰り広げた。

田島貴男

「最高の夜、確定でございます」という田中の言葉とともに再びPermanentsのふたりがステージに戻ると、3人で“エレウテリア”を演奏。Permanentsのふたりが醸し出す繊細な静けさと、田島が発する獰猛なほどの力強さ、そのふたつが混じり合うことで生まれる豊潤な空気感。田中の「田島さん!」の声に導かれて始まった田島の激しく饒舌なギターソロも素晴らしかった。

田島がステージから離れると、田中は「幸せな夜が人生の中で何回かあるんですけど、また更新しました」と、この夜の幸福を噛み締めていた。再びPermanentsふたりだけでの演奏へと戻り、「この曲だけはやっておかなければいけない」と、ORIGINAL LOVE“ORANGE MECHANIC SUICIDE”のカバーを披露した。そして、続く“こぼれる”はこの夜で唯一、田中がエレキギターを持った1曲で、田島とはまた違った、ノイズの奥に静寂を感じさせる演奏を披露。次の“小宇宙”は、高野が奏でる様々な音色が田中の歌をドラマチックに彩りながら、その曲名のような深淵を演出する。そして、「皆さん、ライブに行きたくても行けなかったんですよね? なんか、あれやな……」と、田中がなにかを言いかけて口をつぐむ。田中がなにを言おうとしたのかはわからないが、とにかく曲をやれば自分の想いは伝わると思ったのだろう。そして、本編最後を飾る“smalltown, superhero”へと至った。

田中和将
高野勲

アンコールでは冒頭にも書いたように、再び田島もステージに上がり、3人で“ピカロ”を演奏。田中、高野、そして、田島。彼らの声が、音が、出会い、重なり、「合奏」という奇跡が生まれる。1曲のなかで、風に揺れる波のように、木々のように、グラデーションを描くように鳴りを変えていくセッション感溢れる演奏。それは、奇跡がいかに奇跡であるかをダイレクトに伝えるような演奏だった。こうして、我々の目の前に唐突に表れたこの「非日常」の夜は、深くじんわりと染み入るような余韻を残し、終わりを告げた。

Permanentsと田島貴男

もちろん、僕にもあなたにも「日常」がある。昨日も、今日も、明日も。簡単にそこから逃げ出すことはできない。しんどいこと、煩雑なこと。たくさんの情報、たくさんの嘘。考えなければいけないこと、悲しいことムカつくこと、目を背けたくても、やっぱり見つめるべきこと……いろんなことがある。しかし、そんな日常の中に現れた、美しい「非日常」のような時間。激しく、艶っぽく、確かな体温のある時間。周囲にあるあれこれのすべてを断ち切って、歌と旋律とリズムがあり、ただ、自分がいる……そんな単純なことだけを、単純な心で許せるような時間。優しい時間。Permanentsと田島貴男の厚みのある演奏を聴いている間は確かに、そんな時間が流れていた。いつもこうじゃなくてもいい。それでも自分の人生には、こんな時間が時折、絶対にあってほしいと、ライブを観終えたときに思ったのだった。

イベント情報
『Permanents A ZIG/ZAG SHOW Supported by UNITED FOR MUSIC』

2020年9月25日(金)
出演:Permanents(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)
ゲスト:田島貴男(ORIGINAL LOVE)
料金:前売3,000円 当日3,500円

『GRAPEVINE FALL TOUR』

2020年11月1日(日)
会場:神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール

2020年11月3日(火・祝)
会場:大阪府 オリックス劇場

2020年11月7日(土)
会場:東京都 中野サンプラザ

料金:各公演 指定6,000円

『田島貴男 ひとりソウルツアー2020』

2020年10月3日(土)
会場:静岡県 LiveHouse浜松 窓枠

2020年10月17日(土)
会場:神奈川県 Yokohama Bay Hall

2020年10月31日(土)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

2020年11月8日(日)
会場:福岡県 DRUM Be-1

2020年11月21日(土)

会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST

※生配信あり

2020年11月23日(月・祝)
会場:愛知県 NAGOYA CLUB QUATTRO

2020年11月28日(土)
会場:大阪府 なんばHatch

料金:各公演5,500円(ドリンク別)

プロフィール
Permanents (ぱーまねんつ)

GRAPEVINEのボーカリスト田中和将(Vo/Gt)とキーボーディスト高野勲(Key)のロック・デュオ。GRAPEVINEのレパートリーや、敬愛するミュージシャンのカバーを演奏します。気儘な編成ゆえ多彩なミュージシャンとセッションを重ねてきたのも彼らの持ち味です。

田島貴男 (たじま たかお)

85年に結成した田島を中心とした前身バンドが87年にORIGINAL LOVEと改名。91年にORIGINAL LOVEとして『LOVE!LOVE!&LOVE!』でメジャーデビュー。2019年2月ORIGINAL LOVEで新作「bless You!」をリリースしました。
またバンド形態での表現だけではなく田島貴男としてフットストンプやフットタンバリンも使用した独自の「弾き語り」、「ひとりソウルショウ」などのスタイルでもライヴを行っています。



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