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美術手帖とTHEATRE for ALL、アートとアクセシビリティを語る

MOTION GALLERY CROSSING
インタビュー・テキスト・編集
タナカヒロシ
美術手帖とTHEATRE for ALL、アートとアクセシビリティを語る

バリアフリー化が進んでいる近年では、音声ガイド付きの映画、手話付きの演劇など、身体的困難を持つ人に対して、鑑賞のアクセシビリティを高める様々な取り組みが行なわれている。見えるものを音で、聞こえるものを手話で表現することは、つくり手が意図したことを正確に伝えられるかなど、様々な難しさがあることは容易に想像できるが、本質的には洋画に日本語字幕をつける翻訳と変わらないということは、忘れてしまいがちなポイントだろう。

もっと言ってしまえば、たとえ身体的困難がなかったとしても、鑑賞者によって解釈が異なるのは当然のこと。誰かと一緒に映画を観に行ったが、感想が大きく違った。こんな経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。

2月より番組レポートを掲載しているポッドキャスト番組『MOTION GALLERY CROSSING』では、4月7日より4週にわたって「見える音、聞こえる風景」と題した特集を配信。文化芸術へのアクセシビリティ向上に取り組むゲストを迎えて、どのような試みが行なわれているのか活発な議論が繰り広げられた。

『MOTION GALLERY CROSSING』<br>編集者の武田俊と演劇モデルの長井短が「これからの文化と社会のはなし」をゲストとともに掘り下げていく、日本最大級のクラウドファンディングサイト「MOTION GALLERY」によるポッドキャスト番組。毎月テーマに沿ったゲストトークが行なわれるほか、「MOTION GALLERY」で進行中の注目プロジェクトも紹介。東京・九段下の登録有形文化財「九段ハウス」で収録され、毎週水曜に最新回が公開されている。
『MOTION GALLERY CROSSING』
編集者の武田俊と演劇モデルの長井短が「これからの文化と社会のはなし」をゲストとともに掘り下げていく、日本最大級のクラウドファンディングサイト「MOTION GALLERY」によるポッドキャスト番組。毎月テーマに沿ったゲストトークが行なわれるほか、「MOTION GALLERY」で進行中の注目プロジェクトも紹介。東京・九段下の登録有形文化財「九段ハウス」で収録され、毎週水曜に最新回が公開されている。

作り手として「伝わってほしいけど、何を受け取ってくれるかは、受け取り手の自由」(長井)

今回のテーマとなった「見える音、聞こえる風景」を語るにあたりゲストに迎えられたのは、美術雑誌『美術手帖』のウェブ版編集長を務める橋爪勇介と、『THEATRE for ALL LAB』編集長でボイスパフォーマーの篠田栞。『MOTION GALLERY CROSS-ING』では、はじめにテーマありきでゲストが決められているが、特集テーマとゲストが決まった経緯について、番組パーソナリティの武田俊が説明する。

武田:自分たちがポッドキャスト番組をやっているなかで、音声および音声メディアを切り口とした特集は、いつかやりたいと思っていたことでした。ただ、企画するにあたって、音声メディアを掘り下げる回とするのか、あるいは音声を軸に違う視点で切り取る回にするのかを考えたときに、アートやインクルーシブデザインなど、クリエイティブ領域からいまの社会課題を見つめている方にお話を伺いたいなと思い、橋爪さんと篠田さんをお招きしました。

ゲストの2人については、少し補足が必要だろう。橋爪はウェブ版『美術手帖』の編集長を務めると同時に、ポッドキャスト番組『instocial by 美術手帖』でもMCを担当しており、音声を使って美術について発信。篠田が編集長を務める『THEATRE for ALL LAB』は、バリアフリー対応や多言語翻訳でアクセシビリティに特化したオンライン劇場『THEATRE for ALL』のリサーチ機関である。詳しい活動内容は配信内で語られているが、まさに「見える音、聞こえる風景」を実践している2人なのだ。

収録は緊急事態宣言の解除前だったこともありリモートで行なわれたが、利用しやすさを意味するアクセシビリティについて、そして誰も排除しないことを意味するインクルーシブについて、話を深めていけばいくほど、アートとは、鑑賞とは、創作とは、といった本質的なことを考えさせられる時間となった。演劇モデルとして自身も舞台に立つ長井短は、収録を終えてこれまで感じていたモヤモヤが解消されたようだ。

長井:たとえば駅で白い杖を持って歩いている人がいたら、助けてあげるんだよって教えられてきたじゃないですか。でも、大人になるにつれて、助けなきゃってことでもないよなというか。困っている人がいたら、相手が誰であれ「大丈夫ですか?」となるから、特別なことではないんだよなと思いながらも、聞こえない人にわかるようにしてあげようとか、見えない人にも伝わるようにしてあげようみたいな意識が、どうしても消えないなぁと気になっていたんです。

でも、今日お話を聞いて、やっぱり一緒に遊ぶなら、みんなができる遊びのほうが楽しいよね、そしてそれぞれが自分のやり方で遊んだほうが楽しいじゃんっていうシンプルなことに立ち返れたのが、ちょっと救いになったんです。やっぱり演劇をつくるときでも、伝わってほしいけど、何を受け取ってもらうかは、受け取り手の自由だから、そこのせめぎあいが特に演出や作家の人はあると思うんですけど、コントロールしようとすることが、だんだんそれって違うよねみたいになってきて。もっとそうなっていくといいなって思いました。

長井短(ながい みじか)<br>1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、雑誌、舞台、バラエティ番組、テレビドラマ、映画など幅広く活躍する。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気があり、様々な媒体に寄稿。近年の主な出演作品として『賭ケグルイ双』『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』『真夏の少年~19452020』『家売る女の逆襲』、舞台KERA×CROSS第二弾『グッドバイ』、今泉力哉と玉田企画『街の下で』、映画『あの日々の話』『耳を腐らせるほどの愛』などがある。執筆業では恋愛メディアAMにて『内緒にしといて』、yom yomにて『友達なんて100人もいらない』、幻冬舎プラスにて『キリ番踏んだら私のターン』を連載。2020年に初の著書『内緒にしといて』(晶文社)上梓。
長井短(ながい みじか)
1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、雑誌、舞台、バラエティ番組、テレビドラマ、映画など幅広く活躍する。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気があり、様々な媒体に寄稿。近年の主な出演作品として『賭ケグルイ双』『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』『真夏の少年~19452020』『家売る女の逆襲』、舞台KERA×CROSS第二弾『グッドバイ』、今泉力哉と玉田企画『街の下で』、映画『あの日々の話』『耳を腐らせるほどの愛』などがある。執筆業では恋愛メディアAMにて『内緒にしといて』、yom yomにて『友達なんて100人もいらない』、幻冬舎プラスにて『キリ番踏んだら私のターン』を連載。2020年に初の著書『内緒にしといて』(晶文社)上梓。

みんなが同じ体験をできるようにっていう社会の作られ方は「けっこうヤバい」(武田)

一方の武田も、これまで持っていた危機感に対して、さらに確信を深めたようだ。

武田:まず前提として、人々の身体的特徴や認知特性について、先天的なもの、後天的なものも含め、みんなが同じ権利を持っている状態を社会が目指すことは、すごく尊いことだと思っているんです。しかしながら、みんなそれぞれ別の存在であるし、世界の甘受のしかたも違うっていうことを見過ごしてしまった状態で、みんなが同じ体験をできるようにっていう社会の作られ方がされていることは、けっこうヤバいことだとぼくは思っているんです。

じゃあ、どういう形が望ましいかという話ですけど、それはまだまっさらな状態。ならば「できるだけ選択肢を増やすことが、じつは社会の豊かさにつながるんじゃないか」っていう篠田さんのトライは、本当にその通りだなと思いました。

さらに武田は、インクルーシブやアクセシビリティについて考えることで、美術とは何かという原点に立ち返れたと続ける。

武田:多くの人がそれぞれの認知に合った見方で鑑賞するには、どうしたらいいのかっていうアプローチは、ひるがえって「鑑賞するとは何か」という原点の問いに戻ってくるというか。美術でも映画でも音楽でも、いままで自分がスタンダードだと思っていた楽しみ方って、「なんでそれがスタンダードな楽しみ方になっているんだっけ?」と立ち返って考えられる、みたいな。自分が選ばなかった楽しみ方を考慮せずに、ただ無意識に「一般的な楽しみ方」として触れていたのではないか。

そこが今回、自分が得た視点としては重要で。みんなで一緒に、あるいは、みんなでそれぞれ楽しめるようにするには、どうすればいいのかを考えることで、そもそも美術とは何か、鑑賞するとは何か、本質の議論に戻ってくる。そういうところに豊かな議論があったと思うし、ハッとさせられたポイントでした。

武田俊(たけだ しゅん)<br>1986年、名古屋市生まれ。編集者、メディアリサーチャー。株式会社まちづクリエイティブ・チーフエディター。BONUS TRACK・チーフエディター。法政大学文学部兼任講師。大学在学中にインディペンデントマガジン『界遊』を創刊。編集者・ライターとして活動を始める。2011年、代表としてメディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。『KAI-YOU.net』の立ち上げ・運営のほか、カルチャーや広告の領域を中心にプロジェクトを手がける。2014年、同社退社以降『TOweb』『ROOMIE』『lute』などカルチャー・ライフスタイル領域のWebマガジンにて編集長を歴任。2019年より、JFN『ON THE PLANET』月曜パーソナリティを担当。メディア研究とその実践を主とし、様々な企業のメディアを活用したプロジェクトにも関わる。
武田俊(たけだ しゅん)
1986年、名古屋市生まれ。編集者、メディアリサーチャー。株式会社まちづクリエイティブ・チーフエディター。BONUS TRACK・チーフエディター。法政大学文学部兼任講師。大学在学中にインディペンデントマガジン『界遊』を創刊。編集者・ライターとして活動を始める。2011年、代表としてメディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。『KAI-YOU.net』の立ち上げ・運営のほか、カルチャーや広告の領域を中心にプロジェクトを手がける。2014年、同社退社以降『TOweb』『ROOMIE』『lute』などカルチャー・ライフスタイル領域のWebマガジンにて編集長を歴任。2019年より、JFN『ON THE PLANET』月曜パーソナリティを担当。メディア研究とその実践を主とし、様々な企業のメディアを活用したプロジェクトにも関わる。

ここからは約2時間に及んだ収録のなかから、4月7日に公開された1週目の配信分の一部を書き起こし、編集・補足を加えてお届けする。

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番組情報

『MOTION GALLERY CROSSING』
『MOTION GALLERY CROSSING』

編集者の武田俊と演劇モデルの長井短が「これからの文化と社会のはなし」をゲストとともに掘り下げていく、日本最大級のクラウドファンディングサイト「MOTION GALLERY」によるポッドキャスト番組。毎月テーマに沿ったゲストトークが行なわれるほか、「MOTION GALLERY」で進行中の注目プロジェクトも紹介。東京・九段下の登録有形文化財「九段ハウス」で収録され、毎週水曜に最新回が公開されている。

プロフィール

武田俊(たけだ しゅん)

1986年、名古屋市生まれ。編集者、メディアリサーチャー。株式会社まちづクリエイティブ・チーフエディター。BONUS TRACK・チーフエディター。法政大学文学部兼任講師。大学在学中にインディペンデントマガジン『界遊』を創刊。編集者・ライターとして活動を始める。2011年、代表としてメディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。2014年、同社退社以降『TOweb』『ROOMIE』『lute』などカルチャー・ライフスタイル領域のWebマガジンにて編集長を歴任。2019年より、JFN「ON THE PLANET」月曜パーソナリティを担当。メディア研究とその実践を主とし、様々な企業のメディアを活用したプロジェクトに関わる。

長井短(ながい みじか)

1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、雑誌、舞台、バラエティ番組、テレビドラマ、映画など幅広く活躍する。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気があり、様々な媒体に寄稿。近年の主な出演作品として『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』『真夏の少年~19452020』『家売る女の逆襲』、舞台KERA×CROSS第二弾『グッドバイ』、今泉力哉と玉田企画『街の下で』、映画『あの日々の話』『耳を腐らせるほどの愛』などがある。執筆業では恋愛メディアAMにて『内緒にしといて』、yom yomにて『友達なんて100人もいらない』、幻冬舎プラスにて『キリ番踏んだら私のターン』を連載。2020年に初の著書『内緒にしといて』(晶文社)上梓。

橋爪勇介(はしづめ ゆうすけ)

1983年生まれ。三重県出身。立命館大学国際関係学部を卒業後、美術年鑑社『新美術新聞』の記者を経て、2016年に株式会社美術出版社に入社。2017年にウェブ版『美術手帖』を立ち上げたのち、2019年より編集長を務める。2020年12月にスタートしたポッドキャスト番組『instocial by 美術手帖』ではMCも担当。

篠田栞(しのだ しおり)

1990年生まれ。奈良県出身。京都大学在学中より日本の民俗芸能や古典芸能に惹かれ、特にお能の身体をリサーチして、国内外でクリエイションを行う。傍ら会社員として、広告・デザインのプロデューサー業を経験。『THEATRE for ALL』では、コミュニケーションチーム現場統括、および『THEATRE for ALL LAB』の編集長として、アクセシビリティをテーマとしたサービスの立ち上げに関わった。ボイスパフォーマーとしても活動を行なっている。

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