レビュー

非日常を楽しませる、エンターテインメントに対する徹底したこだわり

タナカヒロシ
2012/02/27
非日常を楽しませる、エンターテインメントに対する徹底したこだわり

この日、映画試写後に行われたトークショーの最後で、『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』のメガホンを取った飯塚健監督はこう語った。

「撮影中に(震災という)本当に大変なことがあって、撮影が止まったりもして、映画なんて作ってる場合なのかよってみんなで話したりして。でも、僕らにやれることは変わらないだろうなというところで、本当に楽しんでもらえたらいい、それだけを考えて作った映画です」

『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』公開記念イベント

本作はその言葉通り、随所に強い意気込みを感じさせる作品だった。原作漫画が持つ独特の空気感を作り上げるために、茨城県水海道の河川敷に巨大なアートと言ってもいいほどの「村」を作ってロケを行い、実写化なんて到底無理と思われた河童の「村長」(小栗旬)や「星」(山田孝之)といった奇抜な登場人物は、「イケメンの無駄遣い」と言われるほどの特殊メイクで再現。そして、トークショーでラストサムライ役の駿河太郎が「キャスト一同が絶賛した」と語った脚本は、一度見ただけでは細かすぎて見落とすレベルまでネタを詰め込み、もとより突っ込みどころ満載だった原作にさらなる味付けを加えた。

「上映している115分の間だけは、日常を忘れて映画の世界に浸ってほしい」。冒頭の監督の発言は、そうした気持ちから出たものだったのだろう。そしてその気持ちはキャストたちにも共通していた。本作で描かれた桃源郷のような河川敷の暮らしは、現実には決してありえない光景だが、キャストたちは見た目も中身も個性的すぎる村人たちを息の合った一体感で演じきり、もしかしたら本当にこんな場所があるんじゃないか? と、まるで夢を見ているような気分にさせてくれた。

『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』公開記念イベント

また、この日は映画主題歌“涙のスターダスト・トレイン”を書き下ろしたザ50回転ズのミニライブも行われ、映画を観た後に主題歌を生で聴くという贅沢なイベントとなった。わずか2曲という短い時間だったこともあり、終始全力ですさまじい熱量を放出した彼ら。嵐のような勢いでステージを駆け抜けたその様は、『荒川』の世界から飛び出してきたような見た目も含めて、まるで映画の続きであるかのように楽しませてくれた。なお、同主題歌はザ50回転ズのファンを公言する飯塚監督たっての願いで書き下ろされたもので、ミュージックビデオは飯塚監督指揮のもと、映画ロケ地の河川敷で撮影が行われ、ヒロインのニノを演じた桐谷美玲や、鉄雄・鉄郎兄弟を演じた末岡拓人・益子雷翔も出演。こちらはYouTubeでも視聴できるので、ぜひ映画のスピンオフ気分で楽しんでほしい。



映画、ライブを通じて強く感じたのは、スクリーンやステージの上では非日常を見せるというエンターテインメントに対する徹底したこだわりだ。『荒川』はその特異な登場人物たちからして、実写化に大変な苦労があったであろうことは想像に難くない。しかし、実写化=現実に近づけるという安易な発想ではなく、むしろ不自然さを強調することで原作の持っていたバカバカしさに磨きをかけたり、困難を逆手に取って演出する姿勢は作り手のプライドすら感じさせた。ザ50回転ズにしても、先にCINRAで行われた飯塚監督との対談で、「(ライブをやるときは観客に)ロックンロールの魔法にかかってほしい」とダニー(Gt,Vo / ザ50回転ズ)が語っていた通り、この日のミニライブではMCすら挟むことなく、一瞬たりとも現実に引き戻させないステージを作り上げていた。映画と音楽、表現の手法は異なれど、どちらも日々の細かな悩みなど忘れさせてくれる素敵な時間だった。

作品情報

『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』

2012年2月4日から新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本・編集:飯塚健
原作:中村光『荒川アンダー ザ ブリッジ』
主題歌:ザ50回転ズ“涙のスターダスト・トレイン”
出演:
林遣都
桐谷美玲
小栗旬
山田孝之
城田優
上川隆也
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテイメント

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