レビュー

こんなにも、痛くて哀しいセックスシーンを観たことがあるだろうか?

松井一生
2012/03/06
こんなにも、痛くて哀しいセックスシーンを観たことがあるだろうか?

セックス依存症をリアルに描き、その過激な性描写ゆえ各国で最も厳しい上映規制がかかり、日本国内でもR18+規制ですら上映許可が危うかったという超問題作―こんな触れ込みを聞いたら、ふしだらな妄想ばかり広がってしまっても仕方ないだろう。でも、そうした期待を超える圧倒的な力が、本作にはあった。

マイケル・ファスベンダー演じる主人公ブランドンは、ニューヨークのエリートサラリーマン。一見紳士のようなブランドンだが、とにかく彼はセックスのことしか考えていない。地下鉄で女と乗り合わせれば、太腿を舐めるように凝視する。それだけなら世間一般男性とさほど変わらないように思うが、女が降りた瞬間に焦って駆け出し追いかける彼には、まるで犯人を追跡するかのような緊迫感があって可笑しい。

『SHAME ―シェイム―』 ©2011 New Amsterdam Film Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute
『SHAME ―シェイム―』 ©2011 New Amsterdam Film Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute

夜になれば、ラウンジバーで同僚らとの下世話な話に同席し、上司の狙っていた美女を何食わぬ顔で頂戴する達人技を披露。しかし、それでも自慰行為は欠かせない。朝夜問わず、バスルーム、オフィスのトイレ、所構わず没頭している彼はやはりどこか面白い男ではあるのだが…彼はちっとも幸せそうじゃない。

ブランドンはその逞しい裸体に似合わず常に虚ろな表情をしている。例え女たちと視線の交感を楽しむ時ですら、その瞳は乾いていてロボットのようだ。彼は、セックスを介してでしか女性との関係の価値を見いだせない。しかし、それは何も女性だけに限った話ではない。ブランドンの周囲のあらゆる人間関係が、浅薄な価値観や意味によってギリギリで成立しているのだ。そして、その虚しさが蔓延したような冷たい街の情景。誰もが皆、こんな世界に見覚えがあるんじゃないだろうか。

たしかに、このような「希薄さ」や「孤独」といったテーマは既に使い古されたかのようにも思える。でも、それはもしかしたら、僕らにとってあまりにも「普通」になってしまっただけかもしれない。そんな疑念が、ブランドンの「異常」を観察することによって、沸き上がってくるのだ。

鏡、窓、PCモニター、自分の姿を映し出すあらゆるものから、彼は自然と目を背ける。理由は何だ? タイトルにもなっている「SHAME(恥)」が関わっているはずなのだが…。

『SHAME ―シェイム―』 ©2011 New Amsterdam Film Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute
『SHAME ―シェイム―』 ©2011 New Amsterdam Film Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute

その謎の鍵を握っているのは、ブランドンの妹であるシシー(キャリー・マリガン)だ。彼女は、ブランドンが唯一心をさらけ出せる相手であるが、その平穏だった生(性)活を狂わせるきっかけにもなる。ふたりは単なる兄妹でなく、どこか奇妙な関係だ。シシーが別の男を部屋へ連れ込んでいる間、ブランドンはこれまでからは想像もできないほどに動揺する。その様は、見ているだけで胸が苦しくなるものだ。こんな感覚、ラブストーリーですらなかなか起きない。

シシーは、恋愛依存症で自傷癖がある。ブランドンが心の無い状態だとすれば、彼女は心が壊れる寸前。まるで互いに半身であるかのように、痛みをぶつけ合う。そんな兄妹がたどり着く物語のラストは、救いか絶望か。是非、その目で感じていただきたい。

作品情報

『SHAME ―シェイム―』

2012年3月10日(土)よりシネクイント、シネマスクエアとうきゅうほか全国で公開
監督:スティーブ・マックイーン
脚本:アビ・モーガン、スティーブ・マックイーン
出演:
マイケル・ファスベンダー
キャリー・マリガン
ジェームズ・バッジ・デール
ルーシー・ウォルターズ
ニコル・ベーハリー
配給:ギャガ

スティーブ・マックイーン

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