レビュー

突然のアクシデント、そしてcinema staffの本当の強さ

金子厚武
2012/07/26
突然のアクシデント、そしてcinema staffの本当の強さ

先日CINRAで公開されたcinema staffとLOST IN TIMEの対談の中で、海北大輔はシネマの魅力について、「『俺たちの、私のcinema staffだ』っていう風に愛を注いでるファンがものすごい多いことだと思う」と語っていた。では、なぜシネマにはそのようなファンが多いのかと考えると、それは彼らの特殊なバランスに起因しているのではないかと思われる。

バンドというのはもちろんメンバー間の相互作用があってこそ成り立つものであるが、カリスマたるフロントマンがバンドを引っ張っているケースが多いのは事実。しかし、シネマの場合、詞曲を手掛けるのはボーカル/ギターの飯田ではなく、ベースの三島であり、しかし、ライブで真ん中に立つのはその三島でも飯田でもなくギターの辻という、非常に特殊なバランスで成り立っている(辻がステージ中央に立っている理由に関しては、THE NOVEMBERSとの対談記事参照)。このように絶対的な個が存在しないからこそ、オーディエンスは「誰々のファン」というよりも「cinema staffのファン」である率が高く、それがバンドとの距離の近さにつながり、ライブでの一体感を生んでいるのではないだろうか。実際、メジャーデビュー作1st EP『into the green』のリリースを記念したこの日のライブも、アクシデントによってわずかな危うさを露呈はしたものの、シネマだからこそ生み出すことのできる、バンドとファンとの強固な結びつきがしっかりと感じられるライブだった。

撮影:橋本塁
撮影:橋本塁

彼らのこれまでの歩みを振り返るように、古い曲から新しい曲へという流れを基本としたスペシャルなセットリストが組まれ、昨年発表のdouble A-side single『水平線は夜動く』に収録されながら、実は一番最初に作ったデモに入っていた“daybreak syndrome”が序盤で披露されたあたりは、熱心なファンからすればニヤリといったところだっただろう。『into the green』にも再録で収録された初期の人気曲“優しくしないで”と“KARAKURI in the skywalkers”が続けて披露されたところでライブは最初のクライマックスを迎えたが、その後にアクシデントは起きた。

9月5日リリースの新作『SALVAGE YOU』から2曲の新曲が披露され、そこからライブが後半に突入するという集中力の必要なタイミングで、飯田のギターアンプにトラブルが発生したのだ。三島がベースでメロディを奏でて何とか場をつなごうとするも、一向にギターアンプは回復せず、完全に曲がストップ。ここでカリスマたるフロントマンのいるバンドであれば、この逆境さえもむしろチャンスに変えたかもしれないが、シネマはあくまで4人のバランスで成り立つバンドであり、一度崩れたバランスを元に戻すことは決して簡単ではない。三島からドラムの久野へとMCをつなぎ、久野がアコギを持って場を和ませたものの、ここでライブの緊迫感が一端途切れてしまったことは否めなかった。

撮影:橋本塁
撮影:橋本塁

しかし、ライブ終盤で彼らはこの状況を一変させてみせた。「このままでは終われない」とばかりにメンバーそれぞれにスイッチが入り、バンドという不思議な生き物が4人の生み出すケミストリーによって躍動し始めると、オーディエンスもそれに敏感に反応。ステージとフロアが再び熱を帯び、ラストの“into the green”でライブは見事に大団円を迎えたのだ。そう、絶対的な個が存在しないことはときに弱点にもなるが、その分バンドとオーディエンスが支え合い、一体になったときの爆発力は計り知れないものがある。ここに、cinema staffというバンドの持つ大きな可能性を感じずにはいられないのだ。


アンコールでは「リキッドルームで初めて見たバンド」であり、残響recordの先輩でもある9mm Parabellum Bulletの“Talking Machine”のカバーを披露。THE NOVEMBERSとの対談でも、彼らと回ったツアーのファイナルでTHE NOVEMBERSの曲をカバーしたエピソードが語られていたが、この衒いのないミュージック・ラバーぶりも、やはりシネマとオーディエンスの距離の近さを生み出している大きな要因であることは間違いない。

なお、この日のライブの模様は『SALVAGE YOU』の特典DVDで確認できる。リリース後の10月からは、メジャーデビュー後初の全国ワンマンツアー『夜は短し歩けよ辻』が行われ、ファイナルは11月9日、場所は再びリキッドルームが決定している。4ヶ月間で彼らがいかなる成長を遂げ、この日のリベンジを果たすのか、今からとても楽しみだ。

リリース情報

cinema staff
『SALVAGE YOU』(CD)

2012年9月5日発売
価格:1,800円(税込)
PCCA-03652

1. 奇跡
2. WARP
3. さよなら、メルツ
4. her method
5. warszawa
6. 小説家
7. salvage me

プロフィール

cinema staff

2003年、辻 友貴、飯田瑞規、三島想平が前身バンドを結成。2006年7月に久野洋平が加入し、現在の編成となる。愛知・岐阜県のライブハウスを中心に活動を開始し、2008年に残響recordより1st mini album『document』をリリース。現在までに3枚のミニアルバムと1枚のフルアルバムとシングルをリリースし、2012年6月に満を持して1st E.P.『into the green』でメジャーデビューを果たす。

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