フランシス・F・コッポラ監督に『Virginia / ヴァージニア』についてたずねてみた。

マット・デイモン主演の『レインメーカー』を1997年に発表して以来、長編監督としては約10年も沈黙していたフランシス・F・コッポラ御大だが(その間は製作者としてロマン・コッポラやソフィア・コッポラといった家族らの監督作をサポートしていた)、近年になりその活動が再び活気づいている。ただし70年代を彩った『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』のような大作路線ではなく、80年代以降の『ペギー・スーの結婚』や『ジャック』などジャンル映画を仕立てる手練れの職人としてでもなく、ミニマムな体制の「自主映画作家」として。

© Zoetrope Corp.2011
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「まず自分で物語を書きたいという欲求があった。それは私が脚本を書くのが得意だからではなくて、『得意になりたい』と思っているから。個人的要素は非常に重要で、映画製作を学ぶことは自分自身を学ぶことにもなるからね。自己資金で製作費を賄っているのは、他人の資産でリスクを取る必要がないからさ」

フランシス・F・コッポラ(右)、エル・ファニング(左) © Zoetrope Corp.2011
フランシス・F・コッポラ(右)、エル・ファニング(左) © Zoetrope Corp.2011

この回答のとおり、現在、コッポラは映画製作にあたって、「オリジナルストーリー」「個人的要素」「自己資金」という「3つのルール」を自らに課している。東ヨーロッパを舞台にした『コッポラの胡蝶の夢』(2007年)、ブエノスアイレスで自らの家族をモデルにした『テトロ 過去を殺した男』(2009年)と、本ルールに則って撮られた2本の復活作に続く「新生インディペンデント作家」としての第3作がゴシックミステリー『Virginia / ヴァージニア』である。今作はアートフルな作風を強めた前二作に対し、商業的な娯楽映画への回帰も見られるのが興味深いところだ。

「確かにいま、私は自分自身のキャリア初期の頃に戻ろうと考え始めている。現在のハリウッド映画、ひいては世界の映画の傾向について思うのは、経済的な成功がまず基盤になっていて、それはそれで別に良いのだが、他方で素晴らしい映画が無視されているのも事実だね」

キャリアの初期―そう、ゴシック映画といえば、コッポラは石岡瑛子を衣裳担当に迎えて『ドラキュラ』(1992年)を撮っているが、『Virginia / ヴァージニア』はむしろ、彼が若き日にスタッフとして師事していたロジャー・コーマンの怪奇ロマンを思わせる作品である。なにせモチーフとなっているのが作家エドガー・アラン・ポー。コーマンは『アッシャー家の惨劇』『恐怖の振子』『黒猫の怨霊』など、60年代前半にポー原作のホラーシリーズをヒットさせた。

© Zoetrope Corp.2011
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B級映画の帝王と言われ、「早い、安い、面白い」をモットーに低予算エンタメを長年連打してきた監督・製作者のコーマン。コッポラは自主製作で娯楽映画を作るにあたり、今回は「ロジャー・コーマン回帰」を志したのだろう。

「コーマンのもとで働くことで、映画を低予算で作ることを学んだよ! ポーの作品はコーマンもたくさん手掛けているし、当然彼の影響はとても大きいね」

先述した「3つのルール」の中の「自己資金」―他人の資産でリスクを取らず、自分で確実に回収できる資金内で映画を作る―これはまさしくコーマンが鉄則としているビジネスの掟だ。フィルムメーカーとしての歴史が、経済的な破綻の繰り返しでもあったコッポラにとって、コーマン流の堅実な経営術を参照しはじめたのは、自らのキャリアのリセット、リスタートを強く意識しているのに違いない。

「実はいま、小規模の映画を作るという考え方から変わってきていて、再び大きな予算で長い映画を製作しようと準備している。それは1960年代〜70年代を舞台にした三世代にわたる家族の話なんだよ」

ビッグバジェットで予定している3世代にわたる家族の話―それは『ゴッドファーザー』再び! ということではないか? どうやらコッポラは『Virginia / ヴァージニア』で「フレッシュな原点回帰」を試みたあと、もう一度、世界映画の最前線に食い込もうとしている。

© Zoetrope Corp.2011
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最後に、ひとつ大変気になっていた質問を。日本では全編2D上映で本作が公開されたが、オリジナル版は一部(時計台のシーン)だけ3Dが使われているらしい。そのココロは?

「3Dにはもちろん関心があるんだが(筆者注:コッポラは86年にディズニーランドの3Dアトラクション『キャプテンEO』を手掛けている)、あの専用メガネがあまり好きではないんだ。だから、ずっと映画を観る最中にかけていたくない。それに全編3Dだと、本当に3D効果が活かせないように思った。だから部分的に中間のシーンと最後のクライマックスだけ用いたんだ」

この発言をマーティン・スコセッシ監督の3D映画『ヒューゴの不思議な発明』の在り方に対応させてみても面白いだろう。オールドスクールな映画術に極太の根を下ろしながら、映画の最新形にも目配せしているコッポラ。『Virginia / ヴァージニア』は彼の「逆襲」の始まりの映画だ。

リリース情報
『Virginia/ヴァージニア』(Blu-ray&DVD)

2013年1月11日レンタル開始(TSUTAYAのみ)、2013年1月25日発売
価格:3,990円(税込)
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
セル販売元:東宝
レンタル:カルチュア・パブリッシャーズ

プロフィール
フランシス・フォード・コッポラ

1939年生まれ、アメリカ・ミシガン州デトロイト出身。映画監督、映画プロデューサー、脚本家。8歳から8ミリ映画を撮り始め、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の映画コース在学中にソフトポルノ『グラマー西部を荒らす』を発表。ロジャー・コーマンのプロダクションに入り、62年に『ディメンシャ13』を監督。『パットン大戦車軍団』の脚本で注目され、72年の『ゴッドファーザー』の世界的ヒットによりメジャー監督の仲間入りを果たした。79年の『地獄の黙示録』がカンヌ国際映画祭グランプリを獲得。92年の『ドラキュラ』を監督以降は、製作者としての活動が中心となっている。父は元NBC管弦楽団のフルート奏者で作曲家のカーマイン。妹は女優のタリア・シャイア。息子のロマンと娘のソフィアは映画監督、そして甥のニコラス・ケイジは俳優と皆、映画界に進出している。



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