「いま」を映すUSポップカルチャー

The StrokesやD・グローヴァー…米大統領選候補の誰を支持した?

ついに2020年大統領選挙における指名候補がジョー・バイデンに実質的に決定したアメリカの民主党。本命が中々定まらなかった指名争いはカオスの様相だったが、民主党派が多いセレブ界にしても、支持対象にはバラつきがあった。ギルティプレジャーな試みだが、歌手やラッパー、ハリウッドスターなど有名人を通してアメリカ社会を探る4月30日発売の自著『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)にあわせて、「セレブ支持者から見る民主党候補者」の個性をザックリ見ていこう。

(メイン画像:ジョー・バイデンのTwitterより)

Bon Iver、The Strokes、Vampire Weekend……「2020年最大のインディロック・ギグ」とも称された、サンダースの支持集会

ミュージシャンなどの人気セレブたちからの支持が最も目立っていたのは、前回の大統領選挙である2016年度の指名争いでも活躍したセカンドランナーのバーニー・サンダースだった。特に熱かったのは、ヒラリー・クリントンと最後まで指名争いをした2016年度からバックアップしてきたインディロック勢だろう。アイオワ州ではBon IverにVampire Weekend、ミシガン州ではジャック・ホワイトといった具合に、全国を巡る応援集会は「2020年最大のインディロック・ギグ」と呼ばれるほど音楽公演が多かった。

ニューハンプシャーでの集会に参加したThe Strokesのフロントマン、ジュリアン・カサブランカスの声明は、熱狂の理由を簡潔に表現している。「企業に取り込まれていない唯一の候補者として、バーニー・サンダースは我々が持つたった一つのチャンスを象徴している。企業パワーを打倒し、アメリカの民主主義を取り返す機会を」。最低賃金の引き上げや公立大学の学費無料化、国民皆保険、富裕層への増税を掲げる「民主社会主義者」サンダースは、民主党主流のエリート政治家とは言えない。左寄りの思想を長らく貫いてきた「信念の人」だ。その反エスタブリッシュメント性、「草の根」運動っぽさもインディロックと重なるところかもしれない。

The Strokesは2020年2月にバーニー・サンダースの集会でパフォーマンスを行なった

サンダースを支持する理由を語るジュリアン・カサブランカス(The Strokes)

The Strokesと共にニューハンプシャーの集会に参加したバンド・Sunflower Beanのジュリア・カミングとジェイコブ・フェイバーは「信念の人」同士としての意見を述べた。「インディミュージックの人々は、ビッグなロックスターのように豪邸には住んでいない。やることをやって、自らの真実を追求する」「アートと政治の問題には共通点がある。人々は真実に飢えている。バーニーは(それを潤す)唯一の候補だ」。

Sunflower Beanはニューハンプシャーの集会で、The Who “My Generation”をカバー

アリアナ、ホールジー、そしてハーレイ・クインも。ポップカルチャーにおけるサンダース現象

2020年には、メジャー中のメジャーである若手ポップスターもサンダースを厚く支持した。1990年代アメリカ生まれのアリアナ・グランデやホールジーのみならず、デュア・リパもイギリスから応援を送り、架空キャラクターであるハーレイ・クインすら新作映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』にて「バーニーに投票した」と語った。

アリアナ・グランデのTwitterより。サンダースとのツーショット

サンダースへの支持を表明するホールジー

このポップカルチャーにおける現象は、サンダース支持層の一面を反映している。彼の重要な支持基盤は若年層なのだ。『ワシントン・ポスト』の出口調査によれば、2020年3月のミシガン州予備選では、18~29歳層のなんと76%がバーニーを支持。同世代におけるバイデン支持は20%にも満たなかった。候補者のなかでも高齢となる1941年生まれの78歳が若者から支持を集めたことは、アメリカのユースにおける進歩主義人気の象徴だとする声もある。

しかし、候補争いでのサンダースの敗因の一つもこの層にあった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は予備選の結果を受けてシビアなオピニオンを提示している。黒人層や学位を持たない白人層を十分に掴めなかった同陣営が期待する票田はミレニアル世代であったが、30代に入った2016年当時のサポーターは彼から離れていったという。サンダースをかねてより支持してきたスターの中には「音楽と同じくらい生活費の支払いについて情熱を燃やしてる」とマネー論を語る20代ラッパー、カーディ・Bがいる。貯蓄を持たない若者にお金の重要性を語る彼女は、「バーニー・ブランド」にぴったりだった。しかし、カーディ風に言うなら、アメリカの元・若者たちは、子育てや家賃の支払いにもがくあまり、社会的使命への情熱を薄れさせていったのかもしれない。

サンダースと対談するカーディ・B

中高年の白人が支持した「若きホープ」ピート・ブティジェッジ。リゾとの「気まずい」ツーショット

サンダースとは対極のような候補者として、1982年生まれ30代の穏健派ピート・ブティジェッジがいた。この「若きホープ」を応援したビッグネームは、MCU『アイアンマン』シリーズで活躍したアラフィフ女優グウィネス・パルトロウや、お茶の間番組『エレンの部屋』司会をつとめる60代のエレン・デジェネレス、ファッション誌『VOGUE』編集長である70代のイギリス出身者アナ・ウィンター。うっすらと伝わるように、彼を特に支持した層はミドルエイジ以上の白人だった。まるで、若者が左派サンダースの「歴史ある信念」を信頼した一方、中高年が穏健派ブティジェッジに「未来の可能性」を見出したかのように。

『エレンの部屋』に出演したピート・ブティジェッジ

「親・祖父母世代に気に入られる優等生」然としたブティジェッジだったが、非白人層からの支持獲得に苦戦して実質的な敗北を喫した。黒人の人々と対話する写真が並ぶ撤退前のInstagramには、偶然テレビ番組で一緒になった音楽スター、リゾとのツーショットが掲載されている。ここで映されたリゾの厳しい真顔こそ、彼の道筋を表していたのかもしれない……。

『CBS This Morning』で共演したブティジェッジとリゾ。笑顔のブティジェッジと対照的なリゾの表情が注目を集めた

スカーレット・ヨハンソンや『クィア・アイ』ジョナサンが支持したエリザベス・ウォーレン

ハーバード大学で教鞭をとった経験もあるエリザベス・ウォーレンは、巨大テクノロジー企業の解体や国民皆保険制度などプログレッシブな方針が注目を集めたが、急進と穏健のあいだでバランスよく支持を集めたベテラン候補だ。MCU『ブラック・ウィドウ』の主演女優スカーレット・ヨハンソンは堅実さを評価した。「ウォーレンは、思慮深く進歩的であると同時に現実的な人だと思う。彼女のキャンペーンは狂騒を巻き起こさないし、達成不可能そうな突飛な約束ではなく戦略を掲げている」(『ハリウッド・レポーター』のインタビューより)。

セレブの支持者にしても、歌手ジョン・レジェンドやジャネール・モネイ、『クィア・アイ』のジョナサン・ヴァン・ネスなど、マイノリティの権利擁護活動に熱心なリベラル派が並ぶ。

『クィア・アイ』のジョナサンはウォーレンの集会にも参加

民主党の内側から進歩的方針を掲げたウォーレンは、マイノリティ人種権利運動のリーダーたちの心も掴んでいったが、票がついてきたとは言い難い。真面目なインテリそのもののウォーレンの支持層は高学歴白人に偏った。民主党の内部からバランスをとった彼女の立ち位置は、急進派からすれば権威の内側すぎたし、トランプ打倒を重んじる穏健派からしたら外者すぎた。スカーレットの言う通り「進歩的であると同時に現実的」すぎたのかもしれない。

「打倒トランプ」へのベターな候補者? 「オバマの相棒」ジョー・バイデン

以上3人の有力候補に打ち勝ったのが、民主党が誇るベテラン、ジョー・バイデンだ。彼を取り巻くセレブリティを見てみよう。国民的俳優トム・ハンクス、大御所歌手シェール、そして『ゲーム・オブ・スローンズ』原作者ジョージ・R・R・マーティン。予備選挙と同じく、若年層から目立った喝采はなかったが、シニアの信頼は掴んでいる。彼の長所を表す言葉は、『glee/グリー』でお馴染みの女優ジェーン・リンチのツイートにある。「ジョーは善良で真っ当な人間。ホワイトハウスの尊厳を取り戻すでしょう」。2016年当時は異色だったトランプ政権より「前の時代」に時計を巻き戻せる存在、これが安心安全の中道派「バイデン・ブランド」である。共和党が批判の矛先とするウクライナ不正疑惑やセクシャルハラスメント疑惑など懸念材料はあるものの、サンダースを含めた民主党の元・主要候補からの支持もとりつけた。

最たる有名人の支持者は、実質的な指名争いの終了後にサポートを公表したバラク・オバマ元大統領だろう。バイデンには、オバマ政権で副大統領をつとめた強力なキャリアがある。この「オバマの相棒」イメージもうまく働き、ライバルがなかなか掴めなかった黒人有権者層で抜群のパフォーマンスを発揮した。年長者や女性人気も高く、ミシガン州予備選では労働者階級の白人の支持もとりつけたのだから、多くの民主党員が望む「打倒トランプ」目標で見るならベターな候補である。シェールの息子チャズ・ボノのように「個人的な第一候補にはなりえないが選挙で勝てるから票を投じる」という心持ちの有権者も期待できる。

バイデンのTwitterより、「ともにトランプを倒す」。候補者レースを争った面々と並んで

新型コロナ禍で、ベーシックインカムを公約に掲げたアンドリュー・ヤンに再び注目が集まる

2020年春から深刻化した新型コロナウイルスの感染拡大によって、アメリカの大統領選挙レースも停滞を見せている。そんななか、脚光を集めた元候補者がいた。2月に選挙戦からの撤退を表明していた企業家アンドリュー・ヤンだ。

彼が掲げた目玉公約は、18歳以上の国民すべてに月額1,000ドルを支給するユニバーサル・ベーシックインカムだった。新型コロナ禍でトランプ政権が発表した現金給付案と近いことが再注目の追い風になったのだ。彼の応援団「ヤン・ギャング」は「ヒップな集団」と謳われたが、セレブサポーターもまたヒップである。チャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローヴァー、コメディアンのデイヴ・シャペル、テスラCEOイーロン・マスクにDIYアーティストのグライムス……主流派の啓発には迎合しない、癖のある革命家肌といったところだろうか。経済重視のヤンは、共和党員からも人気のある民主党候補だった。今後に期待できるかもしれない。

アンドリュー・ヤンとドナルド・グローヴァー

2020年大統領選挙における民主党の指名争いとセレブリティについてまとめるとしたら、当然ながら「セレブは有権者全体を反映しない」ことだろう。うつし鏡たりうるなら、民主党に限ってもバイデン人気の幅がもっと広いはずだ。エスタブリッシュメントな議員からの支持を十分に掴めなかったサンダースがトップスター圏では大人気だったため、アメリカで長年ささやかれる「セレブは民主党の既得権益と癒着しきっている」説も通りづらい。

11月に大統領選挙本選を控えるアメリカでは、新型コロナウイルス問題すら選挙運動のツールとなりつつある。そんななか、困窮する人々への支援に走るバルバトス出身歌手リアーナが先日行なったInstagram Live中に(アルバムリリースを求めるファンに向けて)放った怒声は、残念ながら、同意する人々も多く出た。 「私は世界を救おうとしてるんだよ!アンタたちの大統領とは違って!」

書籍情報
『アメリカン・セレブリティーズ』

2020年4月30日(木)発売
価格:1,870円(税込)
発行:スモール出版

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