「いま」を映すUSポップカルチャー

米で起こる「反省」の潮流 今、なぜ人々はブリトニーに謝罪を?

(メイン画像:Ringo Chiu / Shutterstock.com)

著名人、メディア、一般の人々までもがブリトニーに「謝罪」。新作ドキュメンタリーを発端に巻き起こる、「2000年代文化の反省」

今、アメリカで「2000年代文化の反省」の動きが巻き起こっている。それを引き起こした存在は、豪華絢爛なミレニアム・ポップカルチャーの象徴たる歌手、ブリトニー・スピアーズである。

世紀末、ティーンエイジャーとして発表したデビューアルバムを2700万枚以上売り上げ「プリンセス・オブ・ポップ」となった彼女は、並みいるスターの中でも特別な存在だった。大衆を熱狂させる魅力が抜きん出ていたのだ。カリスマ性と親しみやすさを兼ね備えるその姿はアメリカンドリームの象徴でもあったし、なにより、カトリック学校を舞台とするデビュー曲“...Baby One More Time”のMVが示した「敬虔深き清純さを持ちながらも好戦的に性表現を行う少女」という像は、当時のアメリカ、とくに白人層の理想そのものだったとも語り継がれている。

ブリトニー・スピアーズのデビュー曲“...Baby One More Time”MV。同曲を収録した同名アルバムは1999年1月発表

そして2021年の春、2児の母として40歳になろうとしているブリトニー・スピアーズが、またしても大きな話題になっている。理由は音楽ではない。推定資産6000万ドルを超える彼女が、実の父親に財産と生活を支配されているという疑惑にもとづく解放運動「#FreeBritney」が大きく報道されているのだ。

ことの発端は、精神的問題を抱えたブリトニーが入院した2008年、父親ジェイミー・スピアーズが手続きを行ったことで、彼がブリトニーの恒久的な成人後見人となることがロサンゼルス裁判所より認められたことにある。ブリトニーの「解放」を求めるファンによる「#FreeBritney」運動は長らく陰謀論のように扱われてきたが、発足から約10年経った2020年、ブリトニー側の弁護人が裁判所に病気で休職中の父親を後見人に復帰させないよう要請し、それが認められるまでパフォーマンスを行わない意向、そしてファンへの感謝を表明したことで半ば公認化した。さらに2021年2月には、この問題を追うThe New York Times制作のドキュメンタリー『Framing Britney Spears』がリリースされたことで、注目度が急騰。マイリー・サイラスやサラ・ジェシカ・パーカーなど、多くのセレブリティが支持を表明する一大ムーブメントとなった。

『Framing Britney Spears』トレイラー映像。2021年2月に米FXとHuluで放送された。日本での放送は未定

成年後見人制度の問題は複雑だ。しかしながら、この騒動の特殊なところは、著名人、メディア、そして一般の人々までもがブリトニーに謝罪を表明していったことにある。たとえば、ドキュメンタリーを見たテレビパーソナリティのアマンダ・クルーツは自身の番組でこう語った。「全世界がブリトニーに謝らなければいけないと思う」。

こうした余波は、ドキュメンタリーの構成によるところが大きい。そもそも、ブリトニーが成年後見人制度の保護下に置かれた要因には、世界中にショックを与えた「メルトダウン」と呼ばれた騒動がある。2007年、元夫と親権争いを行っていた彼女には、突如来店したヘアサロンにて自らスキンヘッドに剃髪したり、群がるパパラッチの車を襲撃したりするなど、情緒不安定な行動が見られていた。その後、彼女が入院している間に手続きを行った父親が後見人に就いたのだ。ただし、『Framing Britney Spears』は、さらに遡って「プリンス・オブ・ポップ」が置かれていた環境を指し示す。それは、2021年のアメリカでは「到底ありえない」ような性差別的な攻撃がまかりとおる2000年代メディアの姿である。

2020年11月、ロサンゼルスでの「#FreeBritney」運動の参加者Ringo Chiu / Shutterstock.com

タブロイド文化全盛期、メディアや大衆が彼女に公然と向けた性差別的な質問やバッシング

1999年のデビューアルバムリリース、つまり「敬虔深き清純さを持ちながらも好戦的に性表現を行う少女」像が人気を博して以降、メディアが重視したものの一つは「プリンセス・オブ・ポップ」の「処女性」であった。当初、婚前交渉を行わない意思を明かしていたブリトニーは、同じ人気ポップスターのジャスティン・ティンバーレイクと交際したこと、破局後ジャスティンが彼女の浮気を示唆する楽曲で話題を集めたことにより、公然とバッシングを受けていった。

たとえば2003年、DV防止会議で演説した当時のメリーランド州知事の妻、ケンデル・アーリックは、家庭内暴力を促進する悪しきロールモデルとしてブリトニーを糾弾した。「もしその機会があれば、私は彼女を撃つでしょう」。この発言をブリトニー本人にぶつけて、婚前交渉を行いジャスティンに不貞を働いた疑惑、そして彼女の性表現について責め立てたダイアン・ソイヤーというジャーナリストもいた。『Framing Britney Spears』の制作者は「資料が多すぎるほどだった」旨を明かしているが、それもそのはずだ。当時は、名のあるテレビ司会者がブリトニーに処女であるのか、豊胸手術を受けているのか、堂々と質問するような環境だったのだから。

ブリトニー・スピアーズ Anton_Ivanov / Shutterstock.com

2000年代アメリカといえば、タブロイド全盛期だ。そのビジネスで「最も稼げる標的」とされた存在こそ、スクープ写真に100万ドルの値がつくとされたブリトニー・スピアーズである。だからこそ、大勢のパパラッチが日夜彼女を追いかけ回したのである。この潮流は、2005年、ブリトニーが20代半ばで第一子を出産したことで加速する。それまで「処女性」に反する行為を咎めていたメディア攻撃に、「母性重視」のスタンスが加わったのだ。たとえば、2006年には、生後5か月の息子を膝に乗せて運転するプライベート写真が報道され、児童福祉当局に抗議が殺到する騒動が発生した。これを受けて反省を表明したブリトニーは、NBC番組において、車窓を叩いてくる大勢のパパラッチから子どもを守って逃げるために行ったのだという経緯を説明。一方、インタビュアーのマット・ラウアーは、ブリトニーの「母親としてのスキル」を問い詰めるようなスタンスをとった。この衝撃的な番組には、こんなやりとりもあった

ラウアー「『ブリトニーは悪い母親か?』ということが問われています。これは、『ブリトニーの曲は酷い?』とか『ブリトニーの服は駄目?』『悪い結婚をした?』みたいなことではないわけで……ブリトニーは悪い母親なのか、という問題なのですよ」

スピアーズ「アメリカって、そういうものだからね」

当時のブリトニー・スピアーズにとって、アメリカとは、彼女をモノのように扱い攻撃しつくそうとする国だったのだ。

インタビューの翌年、前述の「メルトダウン」騒動を起こした彼女は、その後『MTVビデオ・ミュージック・アワード』でカムバックパフォーマンスも行った。しかし、出演後には、コメディアンのサラ・シルバーマンがMTV側より希望された「ブリトニーイジり」ネタを披露している。「彼女が母親なんてクレイジー。数年前この番組に出た時、ふしだらな服を着たスウィートで無垢な少女だったのに」「彼女の子どもを見たことある? あれは、これまで見た中でもっとも愛らしい『あやまち』よ!」。こうしたメディア環境に晒されながら精神的問題を抱えていったブリトニーが入院したことで、父親による成年後見人制度が締結されたのだ。

ポップロックバンドParamoreのボーカルとして、ブリトニーと同じ2000年代音楽シーンを駆け抜けたヘイリー・ウィリアムスは『Framing Britney Spears』に関してこうツイートしている。

「今日のアーティストは、メディアや社会、徹底的な女性蔑視者がブリトニーに課してきた文字通りの拷問に耐えてなくていい環境にいる。文化的観点として、今現在あるメンタルヘルス意識は、彼女が支払った恐ろしい代償なくして生まれ得なかった」

SNSの普及によるメディア環境の変化、マイノリティの権利やメンタルヘルスに対する意識向上などが、近年の「反省」の潮流につながった

ヘイリーが語るように、ブリトニーが成人後見人制度を適用されたあとの10年で、アメリカのメディア環境は様がわりした。まず、ソーシャルメディアの普及により、パパラッチビジネスが縮小した一方、セレブリティたちはセルフブランディング、そしてメディアへの反論を容易に行える立場を手にした(参考:「テン年代の「ファンダム」の熱狂。SNSがファンとスターの景色を変えた」)。女性やマイノリティの権利、そしてメンタルヘルスに関する意識も向上している。

スターのパーソナリティや問題を深掘りするドキュメンタリー黄金期も起こった。ブリトニーと同時代に生きた友人パリス・ヒルトンも、2020年自主制作ドキュメンタリー『パリス・ヒルトンの真実の物語』の中で、ティーンの時に恋人から半ば強引に撮影されたセックステープが流出した事件、それを嘲笑の標にしたマスメディアの問題を取り上げ「今だったらあんなことになっていない」と語っている。

2020年にYouTubeで配信された『パリス・ヒルトンの真実の物語』

『Framing Britney Spears』のセンセーションは、こうした流れで生まれた。ある種、大勢の人々による「2000年代文化の反省」潮流と言えるものだ。当時のメディアが特に女性セレブに対するバッシングと侮辱を煽っていたのは、それが儲かるからだった。金が稼げるということは、多くの消費者が望んでいたことになる。だから、当時の性差別的な社会環境の一端を担った罪の意識を抱く人々が「犠牲者」の象徴でもあるブリトニー・スピアーズに謝ったのだ。80余年もの歴史を持つ有名女性誌『Glamour』も、Instagramにおいてスタッフライターのジェニー・シンガーによるコラムを引用するかたちで謝意を表明している。当該記事には、こうも綴られている。「私たち全員が、ブリトニー・スピアーズに起こったことへの責任を負っています。彼女の凋落を招いたのは私たちではないとしても、私たちはその資金を提供しました」。言い換えれば、当時、多くの人々は、ブリトニーを直接的に追い詰めるパパラッチではなかったものの、その暴力なくして生まれえない写真、そして「話題」を買い支えていた。

ひとつの指摘もなされている。女性著名人に対する性差別的攻撃は今でもありふれているのだから、ブリトニーが受けた被害を「驚愕」とする反応はおかしい、と。確かに、暴力的な有力タブロイドメディアは減退したが、それに代わって台頭したソーシャルメディアには、日夜膨大な誹謗中傷がうごめいている。

『Glamour』Instagramより

『ハスラーズ』や『プロミシング・ヤング・ウーマン』。近年のフェミニズム・アンチヒーロー映画で使用されるブリトニーの楽曲

ブリトニー・スピアーズ個人に関しては、もうひとつの潮流もある。『Framing Britney Spears』によって「#FreeBritney」運動が拡大する前より、彼女の再評価は活気づいていたのだ。

たとえば、2019年の映画『ハスラーズ』(参考:「『ハスラーズ』の怒り。オスカー候補から漏れた事実も物語と共振」)、2020年の映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、自身の性的魅力を用いて復讐を敢行する女性を描いて評価されたフェミニズム・アンチヒーロー作品だが、どちらもブリトニーの楽曲を劇中で使用している。

映画『ハスラーズ』に使用されたブリトニー・スピアーズ“Gimme More”MV

前者で使用された楽曲“Gimme More”は、2007年、騒動禍のカムバックとして発表されたシングルだ。実は、当時ミュージシャンとしてのブリトニーは、盛大なバッシングとスキャンダルを経てもメディアの攻撃に屈しなかった。むしろ、同曲にて挑発的に「It's Britney, Bitch」と名乗りあげてセクシュアルなダンス表現を行い、女性、音楽家としての自分自身を誇ってみせたのだ。この曲が収録されたアルバム『Blackout』は、当時怒りや反発を買ったものの、その10年後「キラー・フェミニスト・レコード」(2017年「i-D」より)として高い評価を受けることとなり、現在は映画界においても再解釈が活性化している状態にある。「犠牲者」として注目されがちなブリトニーだが、暴力的な不平等に屈さず音楽表現によって復活してきた経緯があるからこそ、今なお尊敬を集める特別なスターとして君臨しているのだ。後見人制度問題がどう着地するかはわからない。ただ、そこで何が起ころうと、音楽家としてのブリトニー・スピアーズのレガシーが潰えることはないだろう。

映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』はブリトニー・スピアーズの“Toxic“を使用している

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