レビュー

街を舞台に「どーぞ」で生まれるワクワクの話。旧平櫛田中邸で行われた謎のパーティー

ヤマザキムツミ
2013/03/25
街を舞台に「どーぞ」で生まれるワクワクの話。旧平櫛田中邸で行われた謎のパーティー

3月のウソみたいに春めいた日のこと。『どーぞじんのいえ』という名の謎のホームパーティーに招かれて行くことに。向かった先は東京・谷中、旧・平櫛田中(ひらくしでんちゅう)邸。のんびりとした谷中の空気に似つかわしい2階建ての古民家は、明治末期から昭和初期にかけて活躍した彫刻家・平櫛田中の自宅兼アトリエだった建物で、建てられたのはむかしむかしの大正8年のこと。「どーぞじん」が一体何なのかもよくわからないまま、「ひらくしたなか?」ぐらいの予備知識で、イベント名の看板だけを頼りに門戸をくぐる。

ホームパーティー形式パフォーマンス『どーぞじんのいえ』

受付を済ませても、今日のプログラムも渡されず、スケジュールも見当たらず、結局ここで何が行われるのかも知らされぬまま、ただただ受付の方に「どーぞどーぞ」、とりあえず「どーぞ」と笑顔で言われるばかり。言われるままに家の中へ進もうとすると、突然2階の窓からクッションが放り投げられ、当然のように「はい、これどーぞ」と渡されて、こちらはきょとん。それでも「どーぞ」の言葉についつい促がされ、クッション片手に、きょとん顔のまま『どーぞじんのいえ』へと足を踏み入れる。

ホームパーティー形式パフォーマンス『どーぞじんのいえ』

この『どーぞじんのいえ』という不可思議なイベント。実は、「妄想企画」を得意とする一般社団法人「谷中のおかって」と、東京における多様な地域の文化拠点の形成を目的とする『東京アートポイント計画』(東京文化発信プロジェクト)が3年前より共催で行っているアートプロジェクト『ぐるぐるヤ→ミ→プロジェクト』の締めくくり的イベントとして用意されたもの。「ぐるぐるヤ→ミ→」の「ぐるぐる」とは「人の中にうずまく何かカタチになっていない表現欲求」のことを表すそうで、それをカタチにする人たちや、それを見て何かを感じた人たちすべてが「ヤーミー」となっていくのだという。「→」が示す通り、ヤーミーたちはぐるぐると巡り、与え、与えられ、感じ続ける。3年にわたる『ぐるヤミ』の活動を通じて出会った人たちが今回、「どーぞじん」となって、平櫛邸を舞台にホームパーティーを開いているというわけなのだ。

ホームパーティー形式パフォーマンス『どーぞじんのいえ』

「どーぞじん」が集まる場では、何をするとか、誰がどーぞじんかなんてことは重要じゃなくて、とにかく「よくわからない何か」をよくわからないまま受け止め、楽しむことが主になっている。この日も、誰に聴かせるわけでもない風にどこかでいつも音楽が奏でられていて、この企画のディレクターであるちょりさんの「砂遊びっぽいおやつ」というリクエストに応えた見た目も食感もジャリっぽい(もちろん美味しい)お菓子がふるまわれたり、フラメンコギター奏者が窓辺に腰掛けて、ポロンポロンとギターを鳴らしているかと思えば、花魁姿のどーぞじんたちが何をするでもなく、ただただそこにいたりして、お客だかどーぞじんだかがごっちゃになって、トランプをしたりおしゃべりをしたり、とにかくみんなが自由気ままに過ごしていた。

ホームパーティー形式パフォーマンス『どーぞじんのいえ』

2階に上がると、ミシン縫いをする男性の姿があって、窓から放り投げられていたクッションのカバー(しかもオリジナル)がその場で縫われていたことを知る。家のそこかしこに赤い毛糸とともに張り巡らされた音の出る装置が道案内的に用意されていて、耳を澄ませるとかすかに音を響かせ、風流な心持ちにさせたりもした。茶の間では、平櫛邸の模型も発見。模型作りのどーぞじんに声をかけると、目をキラキラさせて話を聞かせてくれた。平櫛田中の人柄から弟子たちとどんな暮らしをしていたかまで、建築模型を作ることで浮き上がってきた当時の様子を語る姿は、まるで古い友人の思い出話をしているようで、タナカだと思っていたデンチュウさんが突然近しい人に思えたりもした。

ホームパーティー形式パフォーマンス『どーぞじんのいえ』

最後に、平櫛田中のアトリエだった部屋にみんなで集まって、ご近所さんが差し入れてくれたというバラの花を片手に、盆踊りをした。ちょりさんが谷中の風景からインスピレーションを得て作った歌だという“ぐるぐる節”。みんなで振り付けを覚えて、「棚からぼたもち嬉しいな、わーいわーい、美味しい」とぐるぐる回って踊り続けた。その姿は自然と笑顔で自然とあたたかくて、幼少時代の記憶が走馬灯のように思い出されるかのように、なんだか少し感動的だった。『世にも奇妙な物語』の中に妙にほっこりした気分になれる回があったりするけれど、まさにあんな世界を体感した後のような気分になる。藤子・F・不二雄先生の言う「SF(すこし・ふしぎ)」の世界。あぁ夢だったのか、とすら思ってしまうほど幻想的なのだ。

ホームパーティー形式パフォーマンス『どーぞじんのいえ』

「共有する」ということは人生の中で本当に大きい。ただ一緒にいて、ただ同じ時間を過ごすことはそれだけでステキだ。それなのに、ただ何をするでもなく集う場所が街にはほとんどない。ご近所さんなんてどこにもいなくて、お隣さんの顔も名前も知らないのが東京では当たり前だったりする。きっと本来は、人が集まることで場所が生まれ、それが広がって街の空気を作っていくのだと思う。「谷中のおかって」という名前の由来をちょりさんに尋ねると、「玄関からじゃなくてお勝手口から顔を出せるような関係っていいなと思って」と照れくさそうに微笑んだ。いつの間にかできてしまった街と人との距離を、人と人との距離を、アートというよくわからない存在がギュッと縮めてくれたりする。何かが生まれるかもしれないと思うだけでワクワクするし、その何かが自然と人を集わせる。そんな風に、街のそこかしこでワクワクに満ちた世界が生まれては広がって、「すこしふしぎ」への扉が街に溢れていったら、毎日はきっと、ぐっとおもしろい。

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イベント情報

谷中のおかって×東京アートポイント計画 ホームパーティー形式パフォーマンス『どーぞじんのいえ』

2013年3月3日(日)、9日(土)
会場:東京都 谷中 旧平櫛田中邸
時間:13:00〜16:00
料金:1,000円(要予約、定員各日50名)

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