レビュー

永遠なるユース・フォト――じさまも子供も動物も

内田伸一
2013/04/24
永遠なるユース・フォト――じさまも子供も動物も

梅佳代の最新個展が東京オペラシティ アートギャラリーで始まった。美術館クラスでのこの規模の個展は、活躍中の彼女にとっても初だそうだ。

これまで見られた、手描きイラストや等身大の人物・動物パネル、あるいは提灯とかの不思議アイテムを交えた写真展と違い、写真のみで構成された集大成という印象。そのせいかすっきりした展示にも見えるけれど、初期作から最新作まで約570点(!)で会場を埋める「見せたい」エネルギーは健在だ。広い展示空間を活かした大型プリントも登場して、梅佳代ワールドを展開している。

展示風景『能登』2004−2013年、『じいちゃんさま』1998-2013年
展示風景『能登』2004-2013年、『じいちゃんさま』1998−2013年

10年ぶりの公開となる初期シリーズ「女子中学生」は、写真専門学校時代の彼女が、仲良くなった近所の女子中学生たちを自室に招いて撮影したものだ。プレスリリースには「梅の知られざる原点をさぐる手掛かり」との一文。当時は寮住まいだった梅の生活空間を覗ける点でも興味深いが(部屋中の壁を埋める写真や切り抜き類、本棚の一角を占める『バタアシ金魚』など)、メインの被写体は少女たちだ。思春期特有のワッショイ感と、性への好奇心も抱えた少女たちの無邪気な戯れ。そこには梅佳代テイストが既に発揮されつつ、どこか危うい、スキャンダラスな雰囲気も漂う。モノクロであることや、同セクションの壁を覆う派手なピンク色(会場・カタログ・宣伝物デザインは祖父江慎)もその一因だろうか。ただ、それよりも印象的なのは、写真そのものに、いわゆるユース・ドキュメンタリーフォトに通じる匂いがすることだった。

『女子中学生』より 2000-2001年 ©KAYO UME
『女子中学生』より 2000-2001年 ©KAYO UME

たとえば――タイプは全然違うけれど――『vice』マガジンとかに載っていそうな、パーティーや音楽やスケートに明け暮れるやんちゃな若い衆(Youth)が見せる悪ふざけやヘン顔。その瑞々しさと、「ちょ、何やってんのッ」と言いたくなる微笑ましさ、若さゆえの真っすぐさや屈折ぶりが見る者に与える、ちょっと落ち着かない感覚などなど――。

『男子』2000-2002年
『男子』2000-2002年

そう思った後に会場を回ると、実は続く梅佳代写真の多くにその要素は生き続けているように感じる。じゃがりこをこぼしながら草原に寝転ぶ幼女の一枚。御年90歳を超える祖父を、伴侶の死や新たな家族の誕生も交えて撮り続ける「じいちゃんさま」シリーズ。大阪・難波の小学生男子が繰り出すおバカな奇行に「かっこよさ」を感じて撮った「男子」シリーズ(今回は展示空間の全方位から攻めてくる)。中年男のハゲ頭に舞い降りた桜ひとひらや、愛犬が見せるVOW的瞬間を「シャッターチャンス」として狩るシリーズもそうだ。

『じいちゃんさま』より 2007年 ©KAYO UME
『じいちゃんさま』より 2007年 ©KAYO UME

もっとも、前述したユース・フォトの人気写真家たちを特徴付けるスタイリッシュな感覚、キツめの毒気、「俺たち / 私たちの今」的ナルシシズムは、梅写真には希薄だ。唯一「女子中学生」にはその一部を嗅ぎ取れそうだが、ここでは「自分も10代だったから撮れた」という梅の言葉を思い出してみたい。むしろ一貫しているのは、年齢も性別も種族(犬やゾウ、ハト含む)も超えて彼らの若々しさ・生命力をとらえる、永遠なるユース・ドキュメンタリーフォトといった感じ。写真の流れの中で見せる高揚感と倦怠感(梅の場合は脱力感?)のコントラストも、その一面ととらえることはできる。

『うめめ』より 2002年 ©KAYO UME
『うめめ』より 2002年 ©KAYO UME

そして、今回新たに発表された、故郷の老若男女に温かな視線を向ける「能登」シリーズ。仲良く寝そべり花火を見つめるオバちゃんたちの横顔は、今にも「ねぇねぇ、ウチのクラスの男子だと誰が好き〜?」的な会話を始めそうにさえ見える(野外フェスでの幕間のチルアウト状態)。ほか、梅のカメラに顔を向ける能登の人々のポートレートは爽やかで、一見おとなしめにも感じるが、そのぶん瑞々しさに溢れている。

『梅佳代展』エントランス
『梅佳代展』エントランス

ところで、実年齢的に「若い」人たちの姿を追った写真家の中には、キャリア(と年齢?)を重ねるにつれ、やがてよりコンセプチュアルな方向に変化したり、よりコントロールされた環境で「写したいもの」を突き詰めたり、はたまたセレブ御用達になったりする者もいる。梅佳代の明日がどっちなのかは知る由もないが、被写体を問わずこういう写真を撮れる彼女には、変化する必要などないのかもしれない。自らがおばあちゃんになっても、相変わらず首から愛機EOSをさげて、Pモード(カメラが諸設定を勝手に決めてくれるプログラムモード)で市井の生命を撮り続ける姿が目に浮かぶ。

『うめめ』より 2003年 ©KAYO UME
『うめめ』より 2003年 ©KAYO UME

なお、昨年末に同じ東京オペラシティ アートギャラリーで開かれた『篠山紀信展 写真力』では、美空ひばりなど時代のアイコンが巨大プリントで並んだ。対する梅が今回そこにやはり大判で張り出したのは、病院の待合室で額を寄せ合い何かを食い入るように見つめるオバちゃんたちだったりする。そこにもまた、名も知らぬ熟女たちのいわく言い難い生命のツヤ・ハリ(マイナス5歳肌とかとは別次元の)、本人たちも気付いていない魅力とユーモアがあった。それは文字通り「等身大」という形容詞を超えた彼女流の写真力なのだろう。

『能登』より 2009年 ©KAYO UME
『能登』より 2009年 ©KAYO UME

最後に。「女子中学生」からの一枚、押入に貼られた梅自筆の習字は「写真 梅佳代」と読めるが、上半分がフレームアウトしていて見えない。同行したCINRA編集部員さんたちと「『脱構築写真』とかだったらどうする?」としばし盛り上がったが、都築響一による同展カタログへの寄稿でそれが判明した。

「魂の写真 梅佳代」

おそれいりました。

イベント情報

『梅佳代展 UMEKAYO』

2013年4月13日(土)〜6月23日(日)
会場:東京都 初台 東京オペラシティ アートギャラリー
時間:11:00〜19:00、金、土曜11:00〜20:00(最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜、ただし4月30日は開館)
料金:一般1,000円 大学・高校生800円 中学・小学生600円
※土、日曜および祝日は中学・小学生無料

『梅佳代 アーティストトーク』

2013年4月25日(木)19:15〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティ アートギャラリー 展示室内
定員:各回50名(予約不可、当日先着順)
※開催当日17:30より入口にて整理券を配布します。整理券はおひとり1枚のみ
料金:当日の展覧会入場券が必要です。(整理券取得時にご提示ください)

書籍情報

『のと』

2013年4月26日発売予定
著者:梅佳代
デザイナー:祖父江慎
価格:2,415円(税込)
ページ数:160頁(予定)
発行:新潮社

プロフィール

梅佳代

1981年、石川県生まれ。日本写真映像専門学校卒業。2007年、ファースト写真集『うめめ』で第32回木村伊兵衛写真賞を受賞した他、写真集『男子』『女子中学生』が、それぞれキヤノン写真新世紀にて佳作受賞。共著『うめ版 新明解国語辞典×梅佳代』(三省堂)の他、新聞、雑誌等での写真連載や国内外での展示を数多く手掛けている。愛用のカメラはキヤノンEOS5。基本的に標準レンズ、プログラムモードのみで撮影する。

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