レビュー

50年の歴史を誇る、日本現存最古の野外彫刻展『UBEビエンナーレ』ってなんだ?

坂口千秋
2013/09/20
50年の歴史を誇る、日本現存最古の野外彫刻展『UBEビエンナーレ』ってなんだ?

広大な自然公園の中で繰り広げられる、現代彫刻とサボテンのマッチアップ


今、日本各地では『瀬戸内国際芸術祭』や『あいちトリエンナーレ』といったアートイベントを訪ねる旅が人気のもよう。そんな中、山口県宇部市が主催する『UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)』は、今年でなんと25回目。1961年から2年に1度、名称を変えながらずっと続き、歴史を誇る日本現存最古の野外彫刻展だ。しかし、実は彫刻家以外でその存在を知る人はあまりいない。かくいう私もその1人(ごめんなさい)。というわけで、知られざる日本の元祖(?)ビエンナーレの魅力を探りに、宇部へ行って来ました。

田辺武『Locus of Time III』(2001年)
山口宇部空港に降り立つと、すぐに巨大彫刻作品のお出迎えが……。
田辺武『Locus of Time III』(2001年)

瀬戸内海に面した山口宇部空港からほど近いときわ公園は、常盤湖を囲む壮大な園内に遊園地、石炭記念館、動物園(2014年リニューアルオープン予定)、ときわミュージアムを併設する総合公園。ペリカンが住む常盤湖を臨む芝生の一角が野外彫刻広場だ。面白いことに、このミュージアムにはなぜか立派な熱帯植物園とサボテン園が併設されていて、珍しいサボテンの姿に目がすっかり釘付け。なにを見に来たんだか、コラコラ。

ときわミュージアムに併設されている本格的なサボテン園
ときわミュージアムに併設されている本格的なサボテン園

『UBEビエンナーレ』に展示される彫刻作品は公募形式をとっている。訪れた日は作品設置の完了予定日。石や鉄でできた重たい彫刻を設置する大型クレーンやフォークリフトが入り、作家や業者の人が作業していた。

佐藤圭一『じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった。』(2013年)
佐藤圭一『じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった。』(2013年)

その広場から湖へと続くなだらかな斜面の先にひときわ目立つオレンジ色の巨大彫刻が、彫刻家・向井良吉の作品。1962年に「宇部」をテーマとして、ときわ公園で現地制作され、翌1963年の「全国彫刻コンクール応募展」(現代日本彫刻展の前身)に招待出品された『蟻の城』だ。この作品の成り立ちから、宇部の街とビエンナーレの歴史が見えてくる。

向井良吉『蟻の城』(1962年)
向井良吉『蟻の城』(1962年)

石炭の街から芸術の街へと変化した宇部


野外彫刻展の始まりは戦後の高度成長期。宇部は石炭化学を中心に急速に工業都市化し復興を遂げたが、同時に工場からの降灰による公害問題が深刻化。その中で街中に木や花を植える運動が始まり、花の種募金の残金で園芸用のレプリカ彫刻を購入して駅前に置いたところ、これが大人気。もっと街中に彫刻を置こうと話が発展した。

「当時の宇部は労働者の街で、新聞の広告欄にはナイトショーや夜の街の広告が並んでいました。やくざ同士の抗争とか、傷害事件のニュースの中、『駅前の噴水池に彫刻が設置されました』『子どもがスケッチに来ています』という記事は、さぞ市民の心を癒しただろうと思います」

外礒秀紹『Sin』(2013年)
外礒秀紹『Sin』(2013年)

と教えてくれたのは、麦わら帽子の似合う学芸員の山本容資さん。そうして1961年、美術評論家・土方定一の提案で、日本で初めて大規模な野外彫刻展が開催され、翌年『蟻の城』が完成した。屋外彫刻といえば銅像くらいしかなかった時代に登場した『蟻の城』は、日本初の大型抽象野外彫刻として、彫刻の教科書の表紙にもなっているそうだ。

向井良吉『蟻の城(部分)』(1962年)
向井良吉『蟻の城(部分)』(1962年)

「チェーン、レール、キャタピラなど、別々の役割を持っていた鉄のスクラップを1つにまとめあげた彫刻は、産・官・学・民が一致団結して公害問題を克服した『宇部方式』と呼ばれるシステムと繋がっています。公害の街から文化の街へと変わった宇部を象徴する重要な作品です」と山本さん。古いパーツは時折交換してメンテし続けているのだそう。こんなに愛される公共彫刻ってあまりない。

公園には過去の展示作品もいくつか点在する。通称「蟻地獄」とよばれる『標的と人』は、1969年の設置以来、宇部の小学生なら必ず遊んだことがあると言われる作品。今50歳の大人にも10歳の子供にも共通するアート作品の記憶があるって、なんだかすごい。

広井力『標的と人』(1969年)
広井力『標的と人』(1969年)

200点を超える彫刻によって、街全体が美術館状態に


このように『UBEビエンナーレ』は街作りとの深い関わりが特徴だ。毎回受賞上位作品は、展覧会終了後に宇部市によって買い上げられ、宇部の街中に設置される。50年でその数なんと200点以上(!)。東京スカイツリーのデザインを監修した澄川喜一をはじめ、清水九兵衞、村岡三郎、関根伸夫、佐藤忠良など有名作家の作品もひょっこり混じっていて、さすが。50年の歴史をナメてはいけない。公園や川沿いの遊歩道、市街地などに設置され、街全体が現代彫刻の野外美術館と化しているが、こうした彫刻のある風景は、宇部の人にとってはごく当たり前の風景だそう。当たり前すぎてこれまで特に対外的にアピールしてこなかったので、それで知られざる日本現存最古の野外彫刻展になった、というわけか。

吉野辰海『大首III』(2005年)
吉野辰海『大首III』(2005年)

祝祭やスペクタクルは非日常を提供するものだが、パブリックアートは日常の風景を豊かにするものだ。いつでも誰でも、見たり触れたり対話をすることで、やがて人々の共通の記憶となっていく。それは国際美術展を始めた多くの地方行政が夢見る、アートによる街作りの何十年後かの景色ではないだろうか。夕暮れ時、車の窓から大きな交差点の角に建つステンレスの球体と、その後ろで白煙をあげる工場の高い煙突が見えた。宇部の人にはごく日常の風景だけど、そこに過去から未来へ、アートのバトンを引き継いでいく人々の存在が象徴されているように思えた。この風景を見に行くだけの旅があってもいい。

伊藤憲太郎『SEED 増殖』(1999年)
伊藤憲太郎『SEED 増殖』(1999年)

『UBEビエンナーレ』の会場ときわ公園へは、山口宇部空港から車で10分。これまでの50年間に集まった膨大な作品を見るなら、宇部市街地とときわ公園全体の彫刻を紹介するウォーキングマップが便利だ。ときわ公園だけでも十分楽しく過ごせてしまうが(サボテン園もぜひ見てほしい!)もっと刺激がほしい方は、最先端のテクノロジーアートや舞台芸術を発信する山口情報芸術センター[YCAM]と一緒に回るのがおすすめ。サボテンとペリカンとテクノロジーアートと現代彫刻がミックスした、オリジナルな体験が、アートな旅の満足度を高めてくれるだろう。

イベント情報

『第25回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)』

2013年9月29日(日)〜11月24日(日)
会場:山口県 宇部 ときわミュージアム 彫刻野外展示場
時間:9:00〜17:00
料金:無料(駐車料金別)

(メイン画像:向井良吉『蟻の城』(1962年))

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