レビュー

いわゆる「障がい者アート展」ではない『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』

友川綾子
いわゆる「障がい者アート展」ではない『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』

いわゆる「障がい者アート展」ではない。ではなにが新しいのか?

「障がい者とアート」と言うと、「アールブリュット(生の芸術) / アウトサイダーアート」を思い浮かべる人も多いのではないか。アールブリュットこそが、障がいのある人や専門的な美術教育を受けていない人の中にも、生まれ持った才能で素晴らしいアートを生み出す人がいるのだということを社会の中で初めて発見したのだから、その功績は大きいわけである。そして、そうした芸術活動に光をあて、広く世に紹介する役割を、展覧会を通じて担ってきた。一方、同じく「障がい者とアート」という分野で第1回目のフェスティバルを開催することが決まった『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』ディレクターの栗栖良依は、「『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』が「障がい者アート展」だと思われるのには、少し違和感がある」と、プレイベントで語った。

『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014』プレイベント会場

『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』がアールブリュットという言葉の持つイメージと異なっているのは、さまざまな才能を持つ障がい者と、各分野のプロフェッショナル、国際的に活躍するアーティストの技術や経験値を掛け合わせ、障がい者が関与する芸術表現の幅をさらに押し広げようとしている所だ。つまり、「障がい者とアーティスト、あるいはプロフェッショナルとのコラボレーション」が、『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』の持つ面白さだと言える。こうしたコラボレーションの形は、じつは既に各地で実験的に行われているものでもあるが、それらは福祉施設の活動として行われることが多いため、人々の目に触れる機会が少なく、あまり知られていない。『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』は、多様な人々が気軽に訪れることができる象の鼻テラスで、『ヨコハマトリエンナーレ』の公式認定連携プログラムとして開催される。これにより、「障がい者とアート」の世界が、ぐっと身近になり、誰もが参加することができるようになるのだ。

2020年『東京オリンピック・パラリンピック』の文化プログラムに関わっていきたい

ありのままに伸び広がるように見える障がい者の感性と、真鍋大度+石橋素+照岡正樹+堤修一や、現代芸術活動チーム目【め】など、最新技術を駆使したり、地域に入り込んだ作品制作の経験を持つアーティストが出会い、タッグを組めば、これまでに見たことのないアートを見ることができるだろう。とはいえ、物事は、出会ってすぐに実を結ぶものではない。栗栖も、「今年はデモンストレーションに力を入れたい」言う。今後、『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』を『ヨコハマトリエンナーレ』の開催にあわせて3年に1度開催し、回を重ねる毎にフェスティバルを成長させていくイメージを持っているそうだ。順調に回を重ねていけば、第3回目の『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』は、2020年にあたる。そう、『東京オリンピック』の開催年である。

左:『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』ディレクター栗栖良依 右:ビジュアルアーツ部門キュレーター難波祐子
左:『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』ディレクター栗栖良依 右:ビジュアルアーツ部門キュレーター難波祐子

「私たちは2020年の『東京オリンピック・パラリンピック』において、文化プログラムの担い手となることを目指しています。『パラリンピック』の開会式で、ものすごいパフォーマンスをするようなダンサーの発掘と育成も視野に入れて、この『パラトリエンナーレ』の舵をとっていきたい」

栗栖の意気込みは決して夢物語ではない。『パラリンピック』で走る全盲のランナーには、必ず伴走者(アカンパニスト)がいるように、『パラトリエンナーレ』においても、新しい表現の創出を個人の力量に頼るのではなく、チームとして取り組むべきものと捉え、アーティストやパフォーマーの育成と平行して、制作や運営をサポートするアカンパニストの育成を掲げている。

自分の感覚を中心に考えてしまいがちな、思いやりの心の筋肉を、ストレッチすることができるダンスワークショップ

障がいのない人にとっても、『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』は豊かな学びを与えてくれる。プレイベントのこの日には、身体に障がいのある人と、そうした人と一緒に身体表現をしたい人を対象とする公開ダンスワークショップがあった。

ワークショップには、車椅子の人や足に障がいを持ち杖をつく参加者もいた。講師のクリシー・喜陽が、「誰かの背中に足をくっつけて」と指示すると、足を高く上げられない参加者は困って、少しまごまごしてしまう。その様子を見てさらに「しゃがむといいのよ」とアドバイスするクリシー。すると、すぐ隣にいた参加者が、足の不自由な参加者の足に自らの背中を近づけるように、かがみ込んでポーズが完成した。

公開ダンスワークショップ

この様子にはハッとさせられた。すべての参加者に、全く同じ動きを期待するのではなく、互いに出来ないことがあれば、積極的に代案を考えて実行する。単純なことであるが、日常生活において、常にこの思いやりある行為を意識し続けることは難しいだろう。ワークショップを通じて、相手の身体の状態を常に考えることに慣れれば、ふだんは自分の感覚を中心に考えてしまいがちな、思いやりの心の筋肉を、ストレッチすることができる。

「いろんな方達が出会いや恊働の機会を得ることができ、社会の中で誰もが居場所や役割を実感することができる、フェスティバルを繰り返すことで、そういう地域社会の実現を目指していきたいと考えています。今年のテーマは『first contact』。関わる方すべてにとっての初めてが溢れればいいなと思っています」

これまでもスローレーベルのディレクターとして、障がい者とアーティストの出会いに尽力してきた栗栖は、『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』では、障がいの有無やアーティストではない人にも、さまざまなレイヤーで出会いの場を創出している。自分とは違う文化、考え方、特徴を持った「他者」と出会うこと、そして、そこで起きる「気付き」こそが、心地のよい市民社会を育てる「種」となるのだろう。

イベント情報

『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014』

2014年8月1日(金)~11月3日(月・祝)
※コア期間は8月1日~9月7日
会場:神奈川県 横浜 象の鼻テラス

プロフィール

栗栖良依(くりす よしえ)

美術・演劇・イベント・製造と横断的に各業界を渡り歩いた後、イタリアのドムスアカデミーにてビジネスデザイン修士取得。その後、東京とミラノを拠点に世界各国を旅しながら、さまざまな業種の専門家や企業、地域コミュニティを繋ぎ、商品やイベント、市民参加型エンターテイメント作品を手掛ける。2010年3月、右脚に悪性線維性組織球腫を発病し休業。2011年4月、右脚に障害を抱えながら社会復帰を果たす。横浜ランデヴープロジェクトのディレクターに就任し、スローレーベルを立ち上げる。現在は、スローレーベルのディレクターとしてプロジェクト全般の企画開発と推進を担っている。

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