レビュー

イビサのタブーを破ったテクノの帝王、リッチー・ホウティンからのメッセージ

金子厚武
2014/07/24
イビサのタブーを破ったテクノの帝王、リッチー・ホウティンからのメッセージ

音楽を音楽だけで捉えていないリッチー・ホウティンとBuffalo Daughterの不思議な類似

ミニマルテクノの帝王、リッチー・ホウティンによるPlastikman名義としては実に11年ぶりとなる新作『EX』が遂にリリースされた。本作は昨年11月に、ファッションブランド「ディオール」のデザイナー、ラフ・シモンズによって企画され、ニューヨーク・グッゲンハイム美術館で行われたライブが元となっていて、全曲新曲によるその日の模様がそのままアルバムとなっている。収録曲は全7曲で、“EXposed”“EXtend”のように、すべて「EX」で始まる英単語が曲タイトルになっているのが特徴だ。


この作品の成り立ちは、同月に発表されるBuffalo Daughterの新作『Konjac-tion』の成り立ちとたまたま似ていて、『Konjac-tion』は2012年に 金沢21世紀美術館で行われたイギリス人の現代アーティスト、ピーター・マクドナルドの展覧会でバンドがパフォーマンスをしたことがきっかけとなって生まれた作品。DJとバンドという違いこそあれ、共に日英が誇るミニマリストであり、TB-303使いのエキスパートという共通点もあるが、この2組は音楽を音楽だけで捉えていない2組とも言える。「美術館でのパフォーマンス」でシンクロしたという事実が示しているように、彼らはあらゆる表現手段をフラットに捉えていて、現にリッチーは「アート、音楽、建築、絵画、それに彫刻、これらの表現手段はすべて共存すると思うんだ」という言葉を残している。


イビサのタブーを破ったリッチーの信念

この考えは2012年にイビサでスタートしたリッチーがオーガナイズするパーティー『ENTER』にも明確に反映されていて、このパーティーのサブスローガンは「MUSIC / SAKE / TECHNOLOGY / EXPERIENCE」であり、つまりは音楽を音楽だけに限定せず、体験として楽しもうという姿勢がよく表れている。『ENTER』には他のパーティーのメインアクトも出演し、リッチー自身も他のパーティーに出演しているそうで、これはこれまでのイビサのタブーを破るものだが、それによって『ENTER』は大きな反響を獲得しているのだという。つまり、彼が言いたいのは、何かひとつに固執して身動きが取れなくなるよりも、やわらかい頭でいろいろなものを繋ぎ合わせ、それを楽しもうということだろう。『EX』というアルバムも、まさにそういう性格を持ったアルバムだ。

現在のエレクトロニックミュージックの主流を形成しているEDMは、ド派手で厚みのあるサウンドを特徴とし、かなり硬質な印象を受ける。一方、クリックやミニマルを基調とするPlastikmanの作風は、かなり音数が少なく、余白があり、ニュアンスとしての「やわらかさ」を持っている。例えば、3曲目の“EXpand”(「広げる」の意味)について、リッチーはこんな風にコメントしている。

「サウンドは『Consumed』(1998年)を拡大させたもので、宇宙にいるときの漆黒、そこで浮きながら、また無重力の中で跳ねてる感覚を広げて行ったらメロディが浮かんできた」

彼の発言は哲学的なものが多く、捉え方は人それぞれだとは思うが、少なくとも「無重力の中で跳ねてる」というのは、硬いというよりはやわらかいイメージだろう。「コネクション」と「こんにゃく」から生まれた造語であるBuffalo Daughterの『Konjac-tion』というタイトルも、やはりこの「やわらかさ」の象徴。Plastikmanというネーミング自体も一見硬そうだが、これはパーティーが朝方を迎え、オーディエンスがサウンドに対してオープンマインドになっている状態を指す言葉の「Plastic」から来ているそうで、やはり柔軟な考えを表すネーミングなのだ。

本当に賞味期限切れ? 使い古したTB-303に、また新しい可能性を感じることもある

もっと言えば、リッチーはこの「やわらかさ」にこそ、音楽の、アートの未来を託しているようにさえ思う。収録曲の中で最も音数の多い“EXpire”(「満了する、終了する」の意味)の、タイムリミットを告げるように音程がどんどん高くなっていく終盤は、間違いなくアルバムのハイライトだが、リッチーはこんなコメントを残している。

「25年もやってきて、もうTB-303からは何も出てこないと思ったりしてたら、突然10年後にTB-303にまた新たな意味や生命を見出すなんてさ。このタイトルにはある種アンチな意味もあって、賞味期限切れかなと感じてるアルバムに、一番美しい瞬間が来ることが実際あったりするからね」

これはそのまま音楽業界の現状にも当てはまる言葉であり、もはや賞味期限切れとされている音楽業界も、柔軟な姿勢を持ち、あらゆる境界線を無効にすることで、美しい瞬間を見出すことができるのではないかという提案だ。うっすらとドアが開いて光が差し込んでいるようなジャケットのアートワークは、これが朝なのか夜なのか、「ENTER」なのか「EXIT」なのかは一概に判断できないが、どちらにしろ「始まり」を指し示していることは間違いないだろう。

 
Plastikman『EX』ジャケット

最後に少々余談だが、今の日本には「EX」で始まる超人気アーティストがいるが、彼らは自らを「TRIBE」と呼び、集団としてのまとまりをより強固なものにしようとしているように見える。そんな彼らが日本で高い人気を誇っているということは、今の日本自体にそういう雰囲気があるということだと思うが、個人的にはPlastikmanの「EX」の考え方こそが、今の日本に必要な考え方なのではないかと思う。

リリース情報

Plastikman
『EX』日本盤(CD)

2014年7月9日(水)発売
価格:2,462円(税込)
TRCP-168

1. EXposed
2. EXtend
3. EXpand
4. EXtrude
5. EXplore
6. EXpire
7. EXhale

2014年6月10日(火)からデジタル配信リリース

1. EXposed
2. EXtend
3. EXpand
4. EXtrude
5. EXplore
6. EXpire
7. EXhale
8. EX (Continuous Mix)

プロフィール

Richie Hawtin(りっちー ほうてぃん)

1970年イギリス生まれ。現在はベルリンを拠点に活動するDJ/ プロデューサー/ レーベル・オーナー。プラスティックマンは、彼がF.U.S.E.、サーキット・ブレイカー等多くの名義を使う中のメインプロジェクト。80年代、当時住んでいたカナダの対岸にあるデトロイトで産声をあげていたテクノに影響を受け、80年代後半から音楽活動をスタート。90年代よりプラスティックマン、F.U.S.E.名義など自身の作品を次々とリリースしていく。‘93年プラスティックマンのデビュー・アルバム『Sheet One』をリリースし、そのミニマル・テクノは世界中に一大センセーションを巻き起こした。プラスティックマンの代表曲として「Spastik」、「Plastique」、「Sickness」などがある。’98年、自身のレーベル MINUSを立ち上げる。2006年トリノ・オリンピック開会式のテーマ曲「9.20」を提供。2010年よりプラスティックマン・ライヴとして、巨大スクリーンを使用したワールド・ツアーを実施し、同年WOMB ADVENTUREで来日公演を実施。2011年東日本大震災の復興支援イヴェント「Minus Hearts Japan」を2011年5月に渋谷WOMBにて行う。また、日本食、とりわけ日本酒をこよなく愛する。2014年、7作目のプラスティックマンのニュー・アルバム『EX』をリリース。

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