日本を代表する映像ディレクター関和亮が、クリエイティブの裏側を見せた贅沢授業を徹底レポート

本気で映像を学びたい人のための、1日限りの特別授業

クリエイティブのプロフェッショナルを目指す人なら、「第一線で活躍するにはどうすべきか?」を知りたいと思うはず。そんなニーズに応えるべく、業界で活躍できるプロフェッショナルを育成する映像専門学校、「UTB映像アカデミー」主催の『本気で映像を学びたい人のための関和亮による模擬講座』が、1月24日、東京・お茶の水のUTB映像アカデミーで行なわれた。

講師はNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』『マッサン』のオープニングムービーやPerfumeやサカナクション、OK Goの空撮MV“I Won't Let You Down”でも世界的な話題を呼んだ映像ディレクター・関和亮だ。

左から:松澤和行(UTB映像アカデミー講師)、関和亮
左から:松澤和行(UTB映像アカデミー講師)、関和亮

UTB映像アカデミーが関を迎えて開催する模擬講座は、今回が3回目。公募された数十名の受講者は大学生から社会人まで映像制作を志す人々が多く、大阪や神戸、宮城など遠方からも集まった。

地道な撮影と、スピーディーなアイデア出し。プロのMV制作現場を「見て、学ぶ」

本講座の主な企画は、関がMV制作を実演し、その様子を受講者が見て学べるというもの。昨年6月の模擬講座でワークショップ形式で撮影された、「クンクンニコニコ共和国」というバンドのライブ映像を用意し、午前中はボーカル・クリ子を招き、曲に合わせて歌うリップシーンと、演出効果を高めるためのイメージカットを新規に撮影。

昨今のMV撮影ではフィルムに代わって一眼レフのデジタルカメラが使われることが多いが、「レンズの種類による映り方の違いを知らないと適切な指示が出せないから、しっかり勉強してほしい」など、関自身の撮影エピソードやテクニックの話を挟みながら、撮影はなごやかな空気の中で進んでいった。

撮影の様子
撮影の様子

約2時間かけて撮影されたのは、合計約15カットほど。黒い布と白い壁の2種類の背景を使ったクリ子の歌唱シーンでは、関自ら音楽に合わせて手拍子で場を盛り上げ、クリ子に「もっとアクティブに!」「いいね~!」などと声を掛けていたのが印象的だ。関いわく「演者の体調を気づかったり、現場を盛り上げるのもディレクターの大事な仕事」なのだとか。

モニターをチェックしながら、拍手で場を盛り上げる関
モニターをチェックしながら、拍手で場を盛り上げる関

プロの撮影現場らしさを最も感じさせてくれたのは、インサートカットの収録だ。用意したのは数種類の果物とサッカーボール、そしてギター。リップシーンと同じく黒バックと白バックの両方で、クリ子が果物やギターをカメラのフレーム外から受け取り、逆サイドにフレームアウトさせるという撮影を、手の動きなどの演出を変えながら何度も繰り返す。

果物を渡すカットの撮影風景
果物を渡すカットの撮影風景

撮影の様子

「実際のMV撮影現場は、こういう地道な撮影を半日以上かけて繰り返す」と言いながら、モノの受け渡し方のアイデアを次々に繰り出していく。現場の状況や演者に合わせて、いかに多くの引き出しを瞬時に用意できるかが重要だと実感させてくれた。

MVに仕込まれた、一つひとつの編集効果を解き明かす

午後からは、前回のライブ映像と今回の撮影素材を編集しながら、様々なテクニックを解説。まずは、「曲の前半でどんなバンドかを知ってもらうため」に、ライブシーンの華やかな映像をザクザク切り出して繋ぎ、合間に午前中に撮った映像を吟味しながら挟み込んでいく。

映像編集の様子
映像編集の様子

黒バックの映像と同アングルの白バック映像を交互に表示させることで、映像空間に奥行きと面白みが加わることなどを説明しながら、手際良く編集作業を続けていく。

映像編集の様子

カットの切り替えタイミングの違いによる演出効果の差や、MVにおけるストーリー構築の方法についても、関が手がけたPerfumeやsupercellのMVを見ながら解説され、より映像制作への理解が深まった。

本講座中に関が編集した動画

映像業界の未来は厳しくも明るい? これからの映像人に求めること

MV完成後は、関とUTB映像アカデミー講師である松澤プロデューサー、伊藤先生、午前中の撮影を担当した同学校の卒業生3名を交えてのトークタイム。卒業生たちの現在の仕事中の失敗談や「業界あるある」話では、松澤プロデューサーが「買い出しのときに請求書をもらうことを知らなくて、ずっと自腹で払っていた」という話を暴露し、会場は笑いに包まれた。

トークタイム風景

さらに関からは「今後は映像の需要が上がってくると思うので業界の未来は明るい。とにかくやる気のある若い人に挑戦してもらいたい。時間のある学生のうちに映画、美術、本などいろいろなものを見て引き出しを広げ、いつか一緒に仕事をしましょう!」とエールが飛んだ。

松澤プロデューサーは、「自分も大学卒業後にUTBに通い、その後、映像業界で働く中で、一般的な学校は演出や撮影の知識のノウハウばかりを教えていて、「業界で働くこと」について教えないため、現場に出た多くの若者が映像の仕事を働き始めてすぐに辞めてしまうのを数多く見てきた。そこで、UTB映像アカデミーに講師として戻ってきて、撮影現場に生徒を送り込む『現場主義』の学校に方針を変え、業界で働く上で必ず必要になる「実績」と「人脈」を手に入れられるカリキュラムに変える改革を行った。卒業後にクリエイターという肩書きのフリーターを生む学校にはしたくない」というなみなみならぬ想いを伝え、講座を締めくくった。

撮影から編集まで、映像業界で働くことの厳しさと喜びを垣間見ることのできた本講座。作り手の意図と方法論を知ることでMVの見方も変わり、自分でも「映像を作ってみたい」という意欲が湧き上がるイベントだった。

プロフィール
関和亮 (せき かずあき)

1976年長野県生まれ。1998年トリプル・オーに参加。音楽CDなどのアートワーク/デザイン、ミュージック・ビデオ、ショート・ムービー等のディレクションを数多く手がける一方、TV CMの演出も行う。

UTB映像アカデミー(ゆーてぃーびーえいぞうあかでみー)

日本で唯一映画・映像業界への就職を目的とし、「学校だけど制作現場!」をモットーに年間600本以上のプロの制作現場に多数参加することによりマスコミ業界に就職するために必ず必要になる「人脈と実績」を手に入れることができる独自のカリキュラムは業界内でも注目されている。



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