レビュー

ロックフェスの違和感に抗うアーティストたちの動き。Poet-type.Mのライブから考える

金子厚武
2015/02/09
ロックフェスの違和感に抗うアーティストたちの動き。Poet-type.Mのライブから考える

ロックフェスの「罪」と、アーティスト側の自浄作用

1月26日、門田匡陽は自身のTumblrに以下の文章を寄せている。

道は大渋滞している。誰もが同じステージに上がるために。それは良い事。悪い事。
(中略)
だから違う路を進む事にする。決意は必要ではなく、ギミック、トリックも必要ではない。
ただ「違う」と思うこと。「違う」と言うこと。「NO」とすること。
(中略)
Poet-type.Mの新しい音楽は無敵。
道は開けなくて良い。
(門田匡陽オフィシャルTumblrより)

これは年明けに公開されたCINRAのインタビューでも語っていた通り、ロックフェスをはじめとしたライブのあり方に対して長年抱いていた違和感が沸点に達した結果、Poet-type.M(以下、PtM)はその「道」を進むことをやめ、自身の選択した「路」を進むのだということを意味している。既成のあり方に対して「NO」を言うのだ、と。そして、その具体的な手段として、ライブハウスではなくホールを会場に、「A Place,Dark&Dark」という物語を背景とした、新曲主体のライブを企画。それが1月31日に県民共済みらいホールで行われた『A Place,Dark&Dark-prologue-』だったのである。

僕自身も、昨年はフェスの功罪のうち、「罪」の部分がクローズアップされた年だったと思っていて、そんなことをいくつかの記事で書いたりもした。フェスの持つ意味が音楽マーケットの中で大きなウェイトを占めるようになり、その中で「一緒になって盛り上がる」という価値観が強くなり過ぎてしまった結果、オーディエンスのみならず、アーティスト側もそこに寄り添ってしまい、そこに馴染めないものは排除されてしまうような空気が、少なからずできていたように思うのだ。また、フェスでは「誰もが知ってる曲」の存在が重視され、特に若い人の間では「YouTubeで覚えた曲を歌いに来る」という、カラオケ的な楽しみ方も強いように思う。それ自体は悪いことではないにしろ、アーティスト側がその状況に合わせて、1コーラス聴いてすぐに耳に馴染むようなキャッチーさを最優先にしてしまうというのは、本末転倒な話だろう。

そんな中、アーティストからの自浄作用も徐々に起こりつつある。サカナクションが昨年の夏フェスで実験的なセットを組んだり、CAPSULEが年末のフェスで未発表の新曲をプレイしたりと、オーディエンスが知らない曲でも、展開やリズムの面白味で魅せようという動きがトップアーティストに見られたことは非常に心強かったし、今年に入ってからは東京カランコロンやindigo la Endなど、フェスで活躍してきた若手が「ちゃんと音楽を聴いてほしい」という想いから、ツアーにライブハウス公演だけでなくホール公演を組み込むなどもしている。PtMの今回のライブも、こういった流れのひとつとして見ることができるとは思うが、とはいえ「ワンマンを新曲主体で(結果的には15曲中10曲が新曲で、既発曲の多くもアレンジが施されていた)」というのがかなりのチャレンジであることは間違いない。どんなライブになるのかは、実際に幕が上がるまでわからないというのが正直なところだった。

Poet-type.M『A Place,Dark&Dark-prologue-』より
Poet-type.M『A Place,Dark&Dark-prologue-』より

拍手が起こらない、MCもない。それぞれの方法で埋没する世界

本日は「Dark&Dark鉄道「をご利用頂きまして誠にありがとうございます。この列車は「夜しかない街・Dark&Dark」の玄関口「プラネットステーション・バビロン」への直行便となります。
(中略)
まもなく「夜しかない街の物語」案内人「Poet-type.M」が到着いたします。それでは『A Place,Dark&Dark-prologue-』をお楽しみください。

会場入口には駅員の恰好をしたスタッフの姿。切符型のチケットにスタンプを押され、場内に入って待っていると、このようなアナウンスと共に、アーティスト写真同様の「Dark」な衣装に身を包んだメンバーが登場し、ライブが始まる。本編でのMCは一切なし。数曲ごとにモノローグが挟まれる形で、ステージは進行していった。

Poet-type.M『A Place,Dark&Dark-prologue-』より

結論から言えば、非常に素晴らしいライブだった。最初の数曲こそ、オーディエンスから「曲間で拍手していいのかな?」といった戸惑いも感じられたが、徐々にこの日のコンセプトを各自が把握すると、ジッとステージを見つめるもの、軽く体を揺らすもの、目をつぶって音に沈み込むもの、それぞれがこの列車の旅を楽しみ始めた。初めて聴く曲ばかりだからこそ、その分しっかり聴こうという心地よい緊張感と集中力の高さも感じられ、それはまさに、映画や小説の世界に埋没するような感覚に近いものがあった。

もちろん、今のPtMの音楽的な面白味自体も見逃せない。これも年明けのCINRAのインタビューで門田が語ってくれたことだが、彼は昨年1年をかけてロックバンドの枠に捉われないトラックメイキングの制作に尽力していたそうで、中でもDrakeに代表されるアンビエントヒップホップを影響源のひとつとして挙げていた。実際、この日披露された楽曲の多くでシーケンサーから浮遊感のある音色を流すなどしていて、一昨年に発表したファーストアルバムから大きな進化を果たしていることを実感させられた。



そして、そのトラックを生のバンドで再現するにあたっては、メンバーの存在が重要だったのは言うまでもない。ドラムの水野雅昭は曲によってパッドやマレットなどを使い分け、さまざまなリズムパターンを見事に再現。また、エフェクトを駆使して様々な音色を作り出したギターの楢原英介は、終盤での弦楽四重奏との共演においてストリングスのアレンジも担当し、ライブのクライマックスに大きく貢献していた。堅実なプレイでアンサンブルを引き締めたベースの宇野剛史も含め、この三人に支えられた門田はまさに語り部のごとく、「夜しかない街の物語」を歌で綴っていったのだった。

リアリズムとは、イマジネーションを具現化させること

アンコールでのこの日初めてのMCで門田は「リアリズムっていうのは、等身大とかそういうことではなくて、イマジネーションを具現化させることなんです」と語った。有機ELの光に照らされた夜しかない街は、脳内のイマジネーションを具現化したものであり、つまりは門田にとってのリアリズム、今の日本の音楽シーンへの強烈な「NO」なのである。「CDよりもライブが大事」と言われて早数年。その結果としてライブのあり方が硬直化してしまった今、PtMはライブのやり方を変えただけではなく、今年1年間に『A Place,Dark&Dark』をタイトルに冠した4枚のCDを発表する。音源にはライブとはまた違った価値があり、その重要性を再度見直したい。きっと、そんな想いがあるのだろう。


最後に、門田の「NO」はアーティスト側に、作り手側に向けられているのだということを、改めて書いておきたい。この日の最後に流れたアナウンスも、決してオーディエンスに対してだけではなく、作り手の側にも向けられていたはずだ。

本日もご乗車いただき誠にありがとうございます。この列車はまもなく「プラネットステーション・バビロン」に到着いたします。どなたさまもお忘れ物等なきようご注意ください。また同時に大人にならないようご注意ください。言葉の意味に捉われることにもご用心ください。日和ったり、無駄に許したりすることもないようお願いします。では本日はご乗車誠にありがとうございました。次のご乗車をお待ちしております。いい旅を。

Poet-type.M『A Place,Dark&Dark-prologue-』より

イベント情報

『A Place,Dark&Dark-prologue-』
『A Place,Dark&Dark-prologue-』

2015年1月31日(土)
会場:神奈川県 横浜 県民共済 みらいホール

リリース情報

『A Place,Dark&Dark-prologue-』
Poet-type.M
『A Place,Dark&Dark-観た事のないものを好きなだけ-』(CD)

2015年4月1日(水)発売
価格:1,620円(税込)
PtM-1030

・観た事のないものを、好きなだけ(THE LAND OF DO-AS-YOU-PLEASE)
・唱えよ、春 静か(XIII)
・救えない。心から。(V.I.C.T.O.R.Y)
・泥棒猫かく語りき(Nursery Rhymes ep1)
・楽園の追放者(Somebody To Love)
・痛いな、この光(Ticket To Nowhere)

プロフィール

Poet-type.M(ぽえと たいぷ どっと えむ)

1980年東京都生まれ。1999年より3ピースロックバンド「BURGER NUDS」のメンバーとして活動。2004年解散。同年、ファンタジックで独創的な世界観を持つツインドラムの4ピースロックバンド「Good Dog Happy Men」を結成。2010年にメンバーの脱退を受けて活動休止。2011年、門田匡陽として初のソロアルバム『Nobody Knows My Name』をリリース。その後、2013年4月1日よりソロ名義を「Poet-type.M」に変更し活動を再開。2014年6月21日にBURGER NUDS再結成、Poet-type.Mと並行して活動開始。2015年、「夜しかない街の物語」春夏秋冬4部作をリリースすることを発表。第1章として、『A Place, Dark&Dark –観た事のないものを好きなだけ-』が4月1日に発売予定。

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