レビュー

大橋トリオが新作『PARODY』のジャケットで過去の偉人たちに扮した真意とは?

金子厚武
2015/03/17
大橋トリオが新作『PARODY』のジャケットで過去の偉人たちに扮した真意とは?

さすがは大橋トリオ、天邪鬼気質はまったく変わっていない

アンディ・ウォーホル、ビートルズ、KISSのポール・スタンレー、サルバドール・ダリ、ジミ・ヘンドリックス……さまざまな過去の偉人たちに扮した姿が並ぶジャケットが非常にユニークな大橋トリオの新作は、その名も『PARODY』。昨年3月に発表されたベスト盤『大橋トリオ』でそれまでの活動に一区切りをつけ、当時のインタビューでは「これまでは1年に2枚のペースで作品を作ってきたが、これからは1年で1枚にして、何をやりたいかをちゃんと考えて作りたい」ということを話してくれたが、その後に出てきた最初の作品がこのジャケットというのは、いきなり変化球を投げ込まれたような気分だ。さすがは大橋トリオ、天邪鬼気質はまったく変わっていない。

大橋トリオ『PARODY』ジャケット
大橋トリオ『PARODY』ジャケット

では、この『PARODY』はどんな作品なのか? ジャケット通りに、ビートルズやKISSのパロディーが繰り広げられているのかと言えば、もちろんそういうことではない。基本線はこれまで同様にジャズをベースとしたポップスであり、端正で、軽快で、ときに叙情的な、愛すべき大橋トリオワールドが本作でも繰り広げられている。ただ、これまでは作品ごとに「ダンス」や「ロック」などのコンセプトを掲げることも多かったが、本作では1枚の中にカントリー、ロカビリー、ファンクなど、多彩な音楽性が内包されているのが特徴となっている。



ファレルの“Happy”に見習う、過去と現代の融合

では改めて、この『PARODY』というタイトルは何を意味しているのだろうか? 僕なりに翻訳してみれば、これは「過去をリスペクトしつつ、それをモダナイズする」ということなのではないかと思う。大橋は前述のベスト盤発表時のインタビューでファレルの“Happy”を絶賛し、「古いものと新しいものの融合が見事」と評し、「かっこよくて、なおかつ大衆性のあるものが今でも作れる」という意味で勇気をもらったと語ってくれた。つまり、『PARODY』というタイトルには、「自分がこれからやっていくことは、過去を参照しながら、新しいものを作っていくことなのだ」と、再度宣言する意味合いがあるように思える。

もしかしたら、「それってパロディーっていうより、オマージュじゃない?」という突っ込みが入るかもしれない。それはその通りで、“Happy”にしても、1970年代にベルベット・ハンマーが発表した同タイトル曲のオマージュになっているわけだが、大橋トリオは洒落を愛する男でもある。アメリカにおけるパロディーの大家、アル・ヤンコビックによる“Happy”のパロディー、“Tacky”(「ダサい」という意味)がリスペクトとユーモアの産物であったことと同様の感覚が、今回のタイトルとジャケットにも表れているのではないだろうか。

mabanuaとのコラボレーションと、ぶれない大橋トリオの芯

そして、「モダナイズ」のために今回招かれたのが、現在活動休止中のOvallのドラマーにして、プロデューサーとしても多方面で活躍しているmabanuaだ。ジャズやヒップホップをはじめとしたブラックミュージックに対する強い愛情を持ち、生楽器とエレクトロニクスを横断して活動するその姿勢は、大橋とシンクロする部分が非常に多く、納得の人選である。本作では主にプログラミングを担当し、爽やかなポップチューンの“サリー”や、カントリー調の“めくるめく僕らの出会い”に参加している他、ミニマルなファンクの“game over”や、複雑なビートを提供した“くるみ”において、「モダナイズ」に特に貢献していると言えよう。



今年に入ってmabanuaが多くのアーティストのプロデュースを手掛けていることも象徴的しているように、今日本の音楽シーンでは明らかにブラックミュージックの勢いが増していて、ファンキーな音楽が強く求められている。『PARODY』を実際に聴くまでは、大橋トリオがファレルのような音楽性で帰還を果たしたりすれば、時代にジャストなんじゃないかという淡い期待も少し持っていたのだが、部分的にファンキーなパートも聴けるとはいえ、『PARODY』はやはりそういう作品ではない。もちろん、やろうと思えばそれなりのものを作ることはできただろう。しかし、日本人である我々が同じことをやっても、黒人のファンクネスには到底及ばず、それこそ言葉通りの「パロディー」に過ぎないものになってしまう危険性を、大橋は重々承知していたはずだ。

だからこそ、やはり本作のポイントもこれまで同様に、日本人らしい細やかなアレンジと、ウィスパー系の声質を生かした美しいメロディーであること自体に変わりはない。個人的なベストトラックは、管弦楽器を配しつつ、構築されたリズムパターンとフリージャズの要素が同居したような、とんでもない完成度の“eito”。自らの長所をより伸ばすことで、革新性と大衆性を同時に捉えた、大橋トリオ印の傑作だと思う。

なお、5月からは『ohashiTrio TOUR 2015 ~PARODY~』が開催されることが決定していて、5月8日の新潟・新潟市音楽文化会館を皮切りに、6月5日の東京・NHKホールまで、全8公演が予定されている。大橋は昨年もベストアルバムの発表に伴うホールツアーを行い、年末にはキャリア初となるビッグバンド編成での公演も行うなど、近年活発にライブ活動を展開しているので、新章の幕開けとなる今回のツアーも非常に楽しみ。『PARDY』のツアーなので、大橋を含めたバンドメンバーがみんな仮装して出てきたら盛り上がりそうだけど……さて、どうなるだろうか?

リリース情報

『PARODY』
大橋トリオ
『PARODY』(CD)

2015年1月28日(水)発売
価格:3,240円(税込)
RZCD-59698

1. PARODY
2. サリー
3. Cherry Pie
4. めくるめく僕らの出会い
5. 灰色の世界
6. eito
7. game over
8. くるみ
9. サーカス小屋
10. 君のいない冬
11. FLY

イベント情報

『ohashiTrio TOUR 2015 ~PARODY~』

2015年5月8日(金)
会場:新潟県 新潟市音楽文化会館

2015年5月10日(日)
会場:富山県 南砺市福野文化創造センター ヘリオス

2015年5月15日(金)
会場:宮城県 仙台 若林区文化センター

2015年5月22日(金)
会場:愛知県 名古屋市公会堂

2015年5月24日(日)
会場:広島県 NTTクレドホール

2015年5月29日(金)
会場:大阪府 オリックス劇場

2015年5月31日(日)
会場:福岡県 福岡市民会館

2015年6月5日(金)
会場:東京都 渋谷 NHKホール
料金:各公演 6,500円

CINRA.STOREにて特典付きチケットを販売中

プロフィール

大橋トリオ(おおはしとりお)

2009年5月にミニ・アルバム『A BIRD』でメジャー・デビューを果たす。同年5月には第一回となる、CD SHOP大賞にて準大賞を授賞。メジャーデビュー盤となった『A BIRD』はFM20局パワープレイ、CS音楽チャンネル3局パワープレイ獲得など各地で話題なりスマッシュヒットを記録。続いて11月にはメジャー1st albumとなる『I Got Rhythm?』をリリース。2010年の夏は、各地のフェスにも多数出演を果たす。2015年1月28日、ニューアルバム『PARODY』をリリース。

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