星野源はなぜ「希有な存在」でいられる? そのマニアックさと遊び心がお茶の間に愛される理由

星野源、初めてドラマの主題歌を手がける

星野源の通算8枚目となるシングル『SUN』が5月27日にリリースされた。前作『Crazy Crazy/桜の森』からおよそ1年ぶりとなる本作には、フジテレビ系ドラマ『心がポキッとね』(2015年4月クール、水曜22時放送)の主題歌でもある表題曲を含め、全4曲を収録。OKAMOTO'Sのハマ・オカモトや、伊賀航らお馴染みのサポートメンバーを迎えたバンド編成の曲や、全ての楽器を星野一人で演奏したナンバーまで並んでおり、星野源というアーティストの様々な表情を楽しめる内容である。

星野源
星野源

ブラックミュージックにのせて、ノイジーなアナログシンセ音もお茶の間に溶け込ませるアレンジ力

元々はドラマの制作スタッフから「パンクな曲を」とオファーを受けるも、編集途中の映像を見て「ファンクな曲」へとアレンジを変更した“SUN”は、星野の中にかねてからあった1980年代のディスコミュージックに対する溢れんばかりの憧憬が、存分に込められている。例えば、ストリングスアレンジは岡村美央(これまでの星野の作品やSAKEROCKにも関わってきたバイオリニスト)によるものだが、駆け上がるフレーズのスリリングな響きは、マイケル・ジャクソンの“Rock With You”や、フィリーソウル(フィラデルフィア発の都会的なソウルミュージック)を彷彿させる。また、鬼才・石橋英子が奏でるアナログシンセの音色はほとんどノイズまみれで、この「異常音」がお茶の間に響き渡る光景を想像すると、なんとも痛快な気分になる(意外にも、星野作品でアナログシンセはこれが初登場)。

こうしたマニアックなこだわりを随所に散りばめつつも、星野自身が愛してやまないJ-POPの「分かりやすさ」に落とし込んでいるアレンジが見事。ファンクといえばリフレイン中心のメロディーの方が当然ハマリがいいわけだが、そこをきちんと「歌モノ」として成立させるためには、相当な試行錯誤があったはずだ。


カップリング曲にも、ことごとく実験的な姿勢と遊び心が詰まっている

続く“Moon Sick”は、1950年代のジャンプブルース(アップテンポなブルース)やブギーを基調としたナンバーに仕上がっている。全ての楽器を一人で演奏した“いち に さん”は、筆者が『サウンドデザイナー』6月号でインタビューした時の話によれば、一度取り込んだアコースティックギターの波形をコンピュータ上でエディットし、その上からドラムを重ねたという。言わば、サンプリングを駆使してブレイクビーツを構築した、ヒップホップの手法を用いて生の演奏を再構築しているわけだ。一聴すると、はっぴいえんどへのオマージュがたっぷり入ったアコースティックな雰囲気だが、聴けば聴くほど歪に感じるのは、そうした実験的なサウンドプロダクションを施しているからだろう。

4曲目“マッドメン(House ver.)”は、ダンスミュージックの「House」ではなく、家の「House」を意味している。完全なる宅録による、本人曰く「四畳半ニューウェーブ」だ。まずはギターと歌を録音してから、リズムマシンを手打ちで重ねるという、通常とは真逆の手順で録音されており、イカレたドラムパターンが次から次へと飛び出すのはTalking Headsのファンクネスからインスパイアされたものらしい。こうした遊び心やユーモア精神こそが、星野サウンドの真骨頂である。

お茶の間に親しまれながら、マニアックな音楽リスナーも唸らせる、希有な存在

遊び心といえば、表題曲“SUN”には、昨年星野がラジオの企画でバナナマン日村勇紀のために作ったバースデーソング“日村さん42歳誕生日の歌”の一部が組み込まれている。しかも、このシングル曲の仮タイトルに“SUN VILLAGE”(=日村)とつけていたと話す。民放ゴールデンのドラマ主題歌でも自身が愛するラジオリスナーへの想いをさらっと入れ込んでしまうのが、星野源なのだ。

お茶の間に溶け込む親しみやすさと、通も唸るマニアックさ、そして、悪ふざけスレスレの遊び心を兼ね備えた存在といえば、星野が敬愛する大先輩、細野晴臣率いるYellow Magic Orchestraを真っ先に思い出す。彼らの背中を見て育った星野もまた、マニアックな音楽ファンと、そうでない人たちの架け橋となり、両者が楽しめる音楽を作る立場にいることをしっかりと自覚している。いくらでもマニアックな方向へ突き進むことだって、ポップで分かりやすい曲を大量生産することだって出来るのに、そこを敢えて踏みとどまり「架け橋的存在」で居続けようとする、星野源の強い覚悟に敬意を表したい。

リリース情報
星野源
『SUN』初回限定盤(CD+DVD)

2015年5月27日(水)発売
価格:1,944円(税込)
VIZL-835

[CD]
1. SUN
2. Moon Sick
3. いち に さん
4. マッドメン
[DVD]
・特別番組『その後のニセ明』
・“いち に さん”レコーディングメイキング映像
・『ビクターロック祭り2015』ライブ映像
※星野源によるオーディオコメンタリー付

星野源
『SUN』通常盤(CD)

2015年5月27日(水)発売
価格:1,296円(税込)
VICL-3705

1. SUN
2. Moon Sick
3. いち に さん
4. マッドメン

星野源
『SUN』(アナログ7inch)

2015年5月27日(水)発売
価格:1,404円(税込)
VIKL-30070

[SIDE-A]
1. SUN
[SIDE-B]
2. SUN(Instrumental)

イベント情報
『星野源のひとりエッジ in 武道館』

2015年8月12日(水)、8月13日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 九段下 日本武道館
料金:各公演7,000円

プロフィール
星野源
星野源 (ほしの げん)

1981年1月28日、埼玉県生まれ。2000年に自身が中心となりインストゥルメンタルバンドSAKEROCKを結成。2003年に舞台『ニンゲン御破産』(作・演出:松尾スズキ)への参加をきっかけに大人計画事務所に所属。2010年に1stアルバム『ばかのうた』、2011年に2ndアルバム『エピソード』(第4回CDショップ大賞準大賞)を発表。2013年5月発売の3rdアルバム『Stranger』はオリコンウィークリーチャート2位を記録した。最新作として、2015年3月25日に初の横浜アリーナ単独公演、2日間を収録したBlu-ray&DVD『ツービート IN 横浜アリーナ』をリリース。またテレビブロスで連載中の細野晴臣との対談『地平線の相談』が2015年3月28日に書籍化された。音楽家・俳優・文筆家として、幅広く活躍中。



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