レビュー

世界50か所の音楽フェスを体験した達人が分析する、日本のフェス事情

武田砂鉄
2015/06/23
  • 0
  • 541

世界50か所の音楽フェスを体験した達人が分析する、日本のフェス事情

海外フェスでストーンズを観て、帰りの飛行機で辞表を書いた

「『最近、テレビ見てなくて……』と同じ感覚で、『最近、夏フェス行ってなくて……』って言われている気がするんですよ。でも、そういう人たちこそ、実は色々なフェスのラインナップを隈無くチェックしているはずなんです。そんな人にもう1回、フェスの魅力を伝えたくって」

そう語るのは、世界の音楽フェス情報を網羅したウェブサイト「Festival Junkie」を昨年10月に立ち上げた津田昌太朗だ。このウェブサイトを立ち上げるきっかけとなったのが、2013年、イギリスの『Glastonbury Festival』でThe Rolling Stonesのライブを観たこと。ロンドンから200キロ近く離れた田舎町の農場で始まったこのフェスは、『FUJI ROCK FESTIVAL』を主催するスマッシュの日高正博社長が同イベントを立ち上げた際に目標と名指ししたフェスだ。

「『グラストンベリー』で、70歳にもなるオッサンたちが『I can't get no satisfaction(俺は全然満足できない)』って歌ってる。あっ、俺も満足しちゃいけないなと思って、帰りの飛行機で辞表を書いて、勤めていた広告会社を辞めたんです」

photo:Ai MatsuuRa
photo:Ai MatsuuRa

「泥まみれ」「尿入りのコップが飛ぶ」……海外フェスは過酷なのか?

海外フェスに足を運ぼうと思っても、目当てのフェスのウェブサイトを覗き込みながら手探りでプランニングするか、あるいは旅行会社が企画した、少し値段が高めのツアーに参加するしかない。津田が海外のフェス情報をブログに書き込んでいると、見知らぬ読者から感謝の連絡がいくつも飛び込むようになった。海外フェスを網羅的に紹介して、ハードルの低さに気付いてもらうことができれば、もっと多くの日本人が行きやすくなるんじゃないか。これが「Festival Junkie」を立ち上げる動機になった。

音楽雑誌などで時折見かける現地フェスのリポート記事では「泥まみれで……」「尿入りのコップが飛び……」「泥酔した誰それが……」という過酷さを伝えるものが多い。「現地まで飛んで記事を書くとなると、どうしてもそういう方向のネタを拾いますよね。でも、そういう一面だけではないですよ。正直、その辺りのジャーナリズムが足りないなとは感じてきました」。津田は「フェス民度」という言葉を使い、日本人の悪天候への備えは欧米人よりも民度が高い、どんなフェスでも対応できると指摘する。『フジロック』では数十分単位で天候が変わることもしばしばだが、雨が降り始めると、皆が皆、黙々とレインウェアを着始める。あの姿って、ステージ上の海外ミュージシャンからしたら、少なからず異様にうつるのかもしれない。

photo:Ai MatsuuRa

photo:Ai MatsuuRa
photo:Ai MatsuuRa

何かと忙しい大人たちが言う「最近、夏フェス行ってなくて……」

「最近、夏フェスに行ってなくて……」という声、確かによく聞く。たとえば『フジロック』。20年近い歴史を重ねてきたなかで改善を繰り返し、快適なフェスの形がいよいよ完璧に整ったと受け取る人が多い一方で、ラインナップを含め、形骸化したと捉える人もいる。都市型の夏フェスと比べて、初めて参加したと思しき若年層が少ない印象もある。

『フジロック』がモデルとした『グラストンベリー』は、ラインナップの発表前に、十数万枚のチケットが発売開始後、即完売する。『フジロック』を立ち上げた日高も、「現状では、出演者が決まるとその都度発表しているが、将来的には、1週間前とか3日前、さらに言えば、当日来てみるまで誰が出るかわからない、というようにしたい」(西田浩『ロック・フェスティバル』)と語っていたことがある。しかし、まわりの知人に尋ねていても「今年は2日間」「1日だけ」「3日間行くけど最終日の夕方には……」と、何かと忙しい仕事をやりくりし、狙いを定めて『フジロック』へ向かっている。少しずつ年を重ねていった音楽ファンが、ついつい「最近、夏フェスに行ってなくて……」という状態に陥ってしまうのも分かる。

photo:Ai MatsuuRa

photo:Ai MatsuuRa
photo:Ai MatsuuRa

「バブル」でも「崩壊」でもない、正しく整い始めた日本のフェス地図

とは言え、「今の音楽業界は、パッケージ商売じゃなくて、ライブに移行している」という声も、何年も前から繰り返し聞こえている。そんなに分かりやすい話ではない気もするのだが、津田は日本のフェスの移り変わりをどのように分析するのか。

「CDの売上が落ちていく状況のなか、フェスの開催と動員数だけが増えた時期を『フェスバブル』といい、2000年代中盤からその状態は比較的維持されてきました。東日本大震災のダメージを受けたフェスもいくつかありましたが、2012年に『フジロック』、2013年に『SUMMER SONIC』が過去最多動員を記録したように、フェスという市場は安定期に入っていると思います。ただし全てのフェスが上手くいっているというわけではなく、いくつかの老舗のフェスがなくなったことに加え、チグハグな企画意図やラインナップのフェスが槍玉に挙げられて、『客入ってない! 閑散としてる!』と話題になった。そのようなこともあり、一方で『フェスバブルも崩壊か?』とも言われるようになったのです」

フェスが生まれては消え、という模索は、どの国にも共通することなのだと津田は言う。むしろ日本のように、都市部から離れた『フジロック』と都市部で開催する『SUMMER SONIC』という2つの大きなフェスが、それぞれのカラーやスタンスを維持しながら続いている状態も珍しい。今や『SUMMER SONIC』を企画制作するクリエイティブマンが、枝葉分かれのように1つのジャンルに特化したフェスを増やし継続させているのを見ると、日本のフェス地図は「バブル」あるいは「崩壊」、そのどちらでもなく、正しく整い始めている状態とも言えるのではないか。

世界中のフェスを観てきた津田に訊く、どの国のフェスに行くべき?

最後におすすめの海外フェスを訊いてみた。

「イギリスやアメリカのフェスは、日本人も少しずつ増えてきていますし、『Tomorrowland』や『Ultra Music Festival』などのEDMフェスに行くと、これまで海外フェスで出会わなかったようなタイプの日本人も多く見かけます。レアなフェスに行ってみたいのであれば、クロアチアなどの南欧がおすすめですね。ヨーロッパの人たちがバカンスで訪れるような場所で行われるフェスです。真夏だけではなく9月くらいに行われることも多く、バカンスでやって来たハイクラスな人と現地のキッズたちが混じり合っている感じが心地いいんです。あとは、日本にも好きな人が多いアイスランド。『ATP Iceland』や『Iceland Airwaves』という現地のフェスは特におすすめですね」

津田は、また今週から『グラストンベリー』に出かけるという。まさしく「Junkie」。こちらはまず、このウェブサイトを眺めながら夏フェスシーズンに備えたい。

リリース情報

『軌跡』
Festival Junkie

プロフィール

津田昌太朗(つだ しょうたろう)

2013年にイギリスに移住し、現地で出会ったカメラマンらと、日本初の海外フェス情報サイト「Festival Junkie」を立ち上げ。世界中の音楽フェスに潜入取材を行い、オリジナルの写真、動画によるレポートを公開している。現在は東京とロンドンを拠点に、音楽サービス開発や音楽関連のプロモーションを手掛けており、音楽フェスに特化したプレイリストを公開する「Playfest」や日本のフェス情報サイト「Festival Life」(現在改修中)なども運営している。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

Chara “Tiny Dancer”

<わたしが置いていくものは小さな態度><愛したことは真実>という印象的なフレーズとは裏腹にCharaのとびきり甘く優しい歌声が包み込む。満島ひかりとはとても不思議な女性で、「こども」と「おとな」を併せ持っているようだ。それはCharaも同じかもしれない。そんな二人が溶け合って惹かれあっているみたい。(川浦)