レビュー

三人の悪党が江戸を騒がすエンターテイメント、映像で楽しむ歌舞伎の新たな魅力

島貫泰介
2015/06/25
三人の悪党が江戸を騒がすエンターテイメント、映像で楽しむ歌舞伎の新たな魅力

150年以上の歴史を持つ、歌舞伎屈指のエンターテイメント『三人吉三』

歌舞伎は難しい? 古めかしくて、敷居が高い? そんな偏見は『NEWシネマ歌舞伎 三人吉三』を観れば、一気に吹き飛んでしまうだろう。

『NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」』 ©松竹
『NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」』 ©松竹

「吉三」という同じ名を持つ三人の若き悪党を軸に、過去の大きな過ちに呪縛される年老いた元悪党、禁断の愛に溺れる美貌の双子、出世欲にとらわれた武士、強欲な金貸しらが、伝説の名刀「庚申丸(こうしんまる)」と大金百両を巡って、動乱する幕末の江戸を縦横無尽に疾走する。三人の吉三が初めて出会い、大立ち回りの末に義兄弟の血杯を交わすことになる「大川端庚申塚の場」、降りしきる雪のなかで大乱戦を繰り広げるクライマックス「本郷火の見櫓の場」など名場面・名ゼリフが次々と登場し、さらには当世流行りのボーイズラブ的展開まで大盤振る舞いに盛られた『三人吉三』は、歌舞伎屈指の人気演目であるだけでなく、現代にも通じる普遍性を持った大エンターテイメントだ。

本作は、今日の歌舞伎界を牽引する中村勘九郎、中村七之助、尾上松也の1980年代生まれの若手俳優をメインに、コミカルな演技のなかにいぶし銀の渋さが光る俳優・笹野高史らを主要な役に据えた『コクーン歌舞伎 三人吉三』(2014年6月上演)を、映画作品としてリビルドしたもの。同公演で演出・美術を担当した串田和美が引き続き監督としてメガホンを取り、新たな撮影パート、BGM、映像効果を加えて再構成した。若き歌舞伎役者たちのみずみずしい才能と、半世紀近く現代演劇の最前線で活躍してきた演出家の技量、その鮮烈な融合を目撃することができる。

『NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」』 ©松竹

『NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」』 ©松竹
『NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」』 ©松竹

そもそもコクーン歌舞伎は、2012年に急逝した18代目中村勘三郎、中村橋之助ら歌舞伎俳優たちと串田が、「渋谷の街で、現代人のための歌舞伎=演劇を作り出そう!」を合言葉に1994年にスタートさせたプログラムだ。鶴屋南北や河竹黙阿弥らが書いた古典の名作を下敷きに、宮藤官九郎、椎名林檎、いとうせいこうなど現代のクリエイターらが演出家、楽曲提供、作詞といった多彩なかたちで参加し、歌舞伎ファンのみならず、歌舞伎を観たことのない若者をも惹きつけてきた。

特に今回の『三人吉三』は、上演時から大きな話題を集めた作品でもある。三人吉三のリーダー格であり、忌まわしい運命を一人抱え苦悩する和尚吉三を壮絶に演じた中村勘九郎。敵同士として最初は出会い、やがて、同士とも恋人とも感じさせる強い絆で結ばれるお嬢吉三とお坊吉三を演じた、中村七之助と尾上松也。役者としての血気盛んな野心が技巧の洗練と結び始める30代だからこそできるエネルギー迸る演技は、多くの観客をリピーター化させたというのも頷ける。そんな新たな幕開けを予感させる傑作が、ついにスクリーンに甦るのだ。

ゼロ年代以降、同時多発的に現れた、「演劇」を映像作品に変換する試みの1つ「シネマ歌舞伎」とは?

2005年にスタートして今年10周年を迎えた「シネマ歌舞伎」。劇団☆新感線の演目を映像化した「ゲキ×シネ」。ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場のオペラを上映する「METライブビューイング」など、ゼロ年代前半以降、舞台芸術を映像作品として再構成する試みが同時多発的に現れた。かたちに残ることのない一回性の芸術としての身体表現を、反復・再生可能な映像作品に変換することは、観客数が客席のキャパシティーに限定されてしまう舞台芸術の商業的可能性を広げる意味でも有効だったが、同時に演出や演技の意図をあらためて解析する機会を与えてくれるものでもあった。


劇場でオペラグラスや双眼鏡を持っている観客を見る機会は多い。それは主に「俳優の細かい表情を間近で見てみたい!」という熱いファン心理に支えられた慣習だが、上記のような映像作品では、カメラによる画面フレームとクローズアップの定位によって、ファジーになりがちな鑑賞行為は自ずと1本のタイムラインへと収束される。

たとえば、『NEWシネマ歌舞伎 三人吉三』は、江戸の町人生活の情景から始まる。炊事や洗濯、小間物の修理、布団干しなどの日々の営みからは、トントンと野菜を切る包丁の音、うちわで焼き魚をぱたぱたと扇ぐ音などが次第に立ち上がり、やがてリズミカルな音楽が場を満たしていく。それは世話物(戯曲が描かれたのと同じ時代を舞台にした、歌舞伎における現代劇)である『三人吉三』が、町人たちのエネルギーと、町に息づくリズムを基底にしていることを示している。さらに、そこにインサートされる三人の吉三の姿(おそらく映画版のための新撮映像)は、悪の道に堕ちた彼らが、市民生活に相容れないアウトサイダーであることを暗示する。このコントラストは、本作全体の主題である「親の因果が子に報う」という、呪わしい因果応報の強い拘束も暗示するものでもあるだろう。

映像が演出する新しい「演劇」のかたち

通常、舞台ではこういった多層的な演出が同時に進行する。発声の強弱、照明効果による強調、音楽の変化などによって、観客の視線はその時その場において見るべき要素へ誘導されるが、さらに歌舞伎などの古典では、そもそものストーリーや約束事に対するリテラシーによって、理解の深さが大きく左右される。そのあたりが、冒頭の「歌舞伎は難しい。敷居が高い」という偏見につながるわけだが、シネマ歌舞伎が提案する映像的な鑑賞スタイルは、観客ごとの知識やリテラシーの差異を埋め、娯楽としての解像度、透明度をぐっと高めてくれる。

『NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」』 ©松竹
『NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」』 ©松竹

だから、本作のプレスリリースに踊る「かつて無い『シアトリカル(演劇的)・ムービー』誕生!」という野心的な惹句は、まったく偽りのないものだ。NEWシネマ歌舞伎は、ライブで観られる演劇の代替物ではなく、そこから派生して生まれた「新しい歌舞伎」のかたちの1つだ。その意味でも、本作は歴史を超える普遍性と瑞々しさに溢れている。至極の2時間15分を堪能してほしい。

作品情報

NEWシネマ歌舞伎『三人吉三』
NEWシネマ歌舞伎『三人吉三』

2015年6月27日(土)から新宿ピカデリー、東劇ほか全国で公開
作:河竹黙阿弥
監督:串田和美
出演:
中村勘九郎
中村七之助
尾上松也
坂東新悟
中村鶴松
真那胡敬二
大森博史
笈田ヨシ
笹野高史
片岡亀蔵
配給:松竹

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