恋愛よりも強い関係を求めて 美波×ジュリー・ドレフュス×小島聖

パルコ劇場の40周年を記念した舞台『iSAMU〜20世紀を生きた芸術家イサム・ノグチをめぐる3つの物語〜』が、8月より、横浜、渋谷、高松で上演される。彫刻家・インテリアデザイナー、造園家として活躍した20世紀を代表する芸術家、イサム・ノグチの葛藤をモチーフにしたこの舞台。演出にはブロードウェイミュージカルをはじめ、数々の舞台作品を手掛ける宮本亜門、主演には数々の映画はもちろん、蜷川幸雄演出の舞台でも高い演技力を見せつける窪塚洋介が起用され、高い注目を集めている。

『iSAMU』の中で、窪塚洋介演じるイサム・ノグチに負けず劣らず重要な役割を担っているのが、イサムを取り巻く三人の女性たち。イサム・ノグチの母、レオニーをジュリー・ドレフュスが、イサムと結婚生活を送った山口淑子(李香蘭)を美波が、そして、イサム亡き現代に生活し、イサムの遺した作品に強い影響を受けるビジネスパーソンを小島聖が演じている。はたして、不世出の芸術家に対して、女性たちはどのような視線を送っているのだろうか? 本番まで残り2週間を切り、稽古も佳境に入った三人が、「女性から見た『iSAMU』」を語った。

イサム・ノグチの作品は、あまり説明的だったり押し付けがましくないのに、とても印象に残っていた。(美波)

―まず、みなさんとイサム・ノグチとの関わりから伺いたいと思います。この舞台に参加する前から、イサム・ノグチの作品に触れた経験はありましたか?

『iSAMU〜20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語〜』ポスター
『iSAMU〜20世紀を生きた芸術家
イサム・ノグチをめぐる3つの物語〜』ポスター

小島:もともとミッドセンチュリーの家具が好きで、イサムの作品に出会いました。そこから高松やニューヨークにある「イサム・ノグチ庭園美術館」をはじめとして、北海道のモエレ沼公園や大通公園の「ブラック・スライド・マントラ」など、各地のイサム・ノグチ作品を観に行くようになりました。光の加減や天気によっても印象が異なるので、訪れたらずっと見続けてしまうほどに気持ちがいいんです。展示されている空間全体が作品だと思います。


―作品が単体で完結せずに、外とのつながりを保っているんですね。ジュリーさんはいかがですか?

ジュリー:フランスの実家に父が買ってきたイサム・ノグチのコーヒーテーブルがあったんです。今となってはテレビ番組やCMで使われるぐらい当たり前のものですが、当時は1970年代後半で、イサムが手がけたインテリアは、とても珍しいものだったんです。あと、ミッドセンチュリーの家具ギャラリーを手がけている友達が、「AKARIシリーズ」(イサム・ノグチの代表的なデザイン照明)のとても巨大なオリジナルを持っていました。「AKARIシリーズ」は60年代頭にパリで発表されていたんですよ。

左から:窪塚洋介、ジュリー・ドレフュス、美波、小島聖 撮影:尾嶝太
左から:窪塚洋介、ジュリー・ドレフュス、美波、小島聖 撮影:尾嶝太

―ジュリーさん自身も「AKARIシリーズ」を使用したことはあるんでしょうか?

ジュリー:20年ほど前、初めて日本に住んだときに買いました。フランスでは、スーパーや工場以外には蛍光灯はつけないので、日本の家の中に蛍光灯の照明があったことがすごくショックだったんです。それで、お風呂場とキッチン以外の照明器具を外してAKARIシリーズを取り付けました。今はhhstyleなど、おしゃれな照明を取り扱うお店が増えていますけど、当時はヤマギワでしか売っていなかったんですよね。

美波:ヤマギワって?

小島:秋葉原に本店があった照明器具の老舗。デザインショップの走りみたいなお店だったよね。

ジュリー:今大きな家具屋さんで売っているような類似品は、真っ白で和紙じゃないことも多いですよね。オリジナルと雰囲気が全然違うんです!

―美波さんは写真集を入り口に、イサムの作品に触れたそうですね。

美波:そうですね。でも、正直「わからない」っていう印象が強くて、自分とはちょっと遠い存在だったんです。素材やコンセプトの知識があって、初めて価値を感じられる作品なのかなと思っていて。でも、あまり説明的だったり押し付けがましくないのに、とても印象に残っていたんですね。この舞台のためにイサムの書いた本を読んだり、稽古で台本を読み込んでいくにつれて、どうしてこういった作品が生まれてきたのかということもわかるようになってきました。

山口淑子が抱える孤独とイサムの孤独が結びついたとき、それは単なる恋愛以上のものになると思うんです。(美波)

―イサムは、日本人とアメリカ人とのハーフとして生まれ、アイデンティティーの問題を強く意識した人生を送っていました。脚本を拝見すると、今作でもイサムの抱えたアイデンティティーの葛藤が1つの大きなテーマとなっているように感じます。特に、フランスと日本のハーフである美波さんや、フランス人でありながら、アメリカなどでも活躍するジュリーさんは共鳴する部分もあるのでしょうか?

美波:アイデンティティーについては常に考えていましたね。どこにも居場所がない感じ……というか。

ジュリー:私は逆で、ほとんどアイデンティティーの悩みはありません。コミュニティーに入りたいという気持ちがあまり強くないので、根を深く張らなくても全然大丈夫なんです。

ジュリー・ドレフュス
ジュリー・ドレフュス

―日本に長く暮らし、日本語もペラペラなジュリーさんは、てっきり、日本人と外国人の間で苦労されているのかと思っていました。

ジュリー:日本の他に、アメリカやイギリスにも長く滞在しましたが、そもそも自分のことをフランス人として意識することもあまりないんです。フランスよりも日本の方が住みやすいですしね。日本はサービス精神があるし、食事も美味しい、夜遅くに女性が1人で帰っても安全です。ただ、夏は暑いので嫌(笑)。この舞台がなかったらフランスに帰っていると思います(笑)。

―『iSAMU』では、物語の中心にイサムを取り巻く三人の女性が登場します。それぞれ、自分の役柄については、どのように感じていますか?

小島:私は、現代に生きる女性を演じるのですが、私自身37歳で、演じる役の年齢ととても近いんです。女性として気楽に生きてきたけれど、40歳を目前にして物事を現実的に考えなければならない年代。この役を演じながら自分の人生を改めて考えるきっかけにもなるのかなと思います。

小島聖
小島聖

―ジュリーさんはイサム・ノグチの母、レオニーを演じていますね。

ジュリー:レオニーは実在した人物です。イサムの著書を読むと、彼の記憶の中ではレオニーのネガティブな部分も残っているのですが、一方でレオニーが当時書いた手紙を読むと、その印象が全然違って見えるんです。イサムとレオニーとの関係がどのようなものだったか、本当のところは誰にもわかりません。稽古では、子ども時代のイサム役と毎日やり取りをしながら、イサムとレオニーとの距離を測っています。仲がよすぎてもいけないし離れ過ぎてもいけない。宮本亜門さんのリードのもと、毎日その距離感を変えながら試行錯誤を繰り返しているところです。

美波:女性三人はそれぞれ、違う時代の違う空間にいますが、同じ舞台で同じ作品を創作している関係でもあります。だから、一人の演技が変わったら、他の全員がバランスを取らなきゃいけないのが大変です。今はまだ自分とイサムとの関係で手一杯になってしまっているのですが、本番までには、他の共演者にもしっかり意識を漲らせて演技をしないと……。どんな作品になるのかまだ見えていないけど、楽しみな部分が多いです。

―美波さんが演じる山口淑子(李香蘭)は、イサムが唯一結婚生活を送った女性ですね。以前のインタビューで、宮本亜門さんも「山口淑子は特に重要」とおっしゃっていました。

美波:プレッシャーです……。この役を演じるのはとても難しいんです。まだご存命の方ですし、女優として出演している映画を見ると、とても独特な喋り方をしていますよね。けれども、その口ぶりを真似して、ただの真似事をしても意味がないじゃないですか? アーティストとしても、アイデンティティーに葛藤した生き方にしても、イサムや淑子は、現代の私たちが経験しないような孤独を味わっています。それを乗り切った二人が惹かれ合っているわけだから、その関係はただの恋愛よりも、もっと強いものなんだろうと思います。だから、演じるのではなく、二人の強い魂を理解して、感じながらステージに立たないといけない。そうしないと大切なものを取りこぼしてしまうような気がするんです……。

美波
美波

―「ただの恋愛よりももっと強いもの」というと、例えば「運命」といったような関係でしょうか?

美波:淑子は、ずっと一人でホテルや撮影所で生活を送ってきました。戦争の時代に中国人と偽りながら歌手として活動を行なっていたり、スパイの疑惑をかけられてしまったり。そんな淑子が抱える孤独とイサムの孤独が結びついたとき、それは単なる恋愛以上のものになると思うんです。言葉にするととてもチープになってしまうような気がして嫌なのですが……。

―イサム役の窪塚洋介さんと、役について議論をすることはありますか?

美波:かなりしていますね。イサムと淑子を演じるにあたって、まず信頼し合っているというのが大前提として必要なんです。壁をなくして、相手に自分を委ねなければなりません。その信頼が強ければ強いほど作品の展開にも説得力が増すと思っています。

そっと支えるだけの女の人だと、イサムは飽きそうじゃない?(小島)

―『iSAMU』にも描かれていますが、イサムはかなり女性を振り回すタイプの男性だったようですね。女性から見て、恋人として一緒に暮らしたいと思いますか?

ジュリー:私は作品を見ているだけで十分(笑)。

小島:うーん……。期間限定だったらいいかな。1週間くらいなら……。

―短すぎです(笑)。

小島:彼と一緒にいたら、得るものもたくさんあるだろうし、刺激的な毎日を送れそうですよね。でも、ずっと一緒にいるのはちょっと……。人生の中で、そういう時間があってもいいとは思いますが。

美波:エキセントリックな人が特別な目で見てくれるのは嬉しいですよね。けど、それがどれだけ続くのかなっていう不安は常につきまといそう……。

ジュリー:自分のキャリアを持ちたい女性だったら難しいかも。イサムのようなアーティスト気質の人には、影にサポートしている女性が必要。表現活動を続けたり、仕事を一生懸命こなしながら、イサムと一緒に暮らしたいという人だと難しいですよね。

小島:でもそっと支えるだけの女の人でも(イサムは)飽きそうじゃない?

美波:恋人もフリーダ・カーロ(メキシコの現代絵画を代表する画家)とか、アーティストが多かったしね。

―やっぱり不評のようですね……。ところで『iSAMU』は、2つの世界大戦が起きた20世紀という時代を生きた芸術家の人生を通して、さまざまなメッセージを受け取ることができる作品だと思います。その中で「母親」という存在も重要なテーマとなっていて、現在の日本では子どもを産む、あるいは産まないことに対して、自由な選択できるようになりつつありますが、女優でありながらも、女性として生きるみなさんは、そのあたりについてどのように考えていますか?

小島:私が演じるのは、9.11で父親を亡くして「予期せぬ妊娠」という事実に直面する女性ですが、子どもを産んでも産まなくても、どちらを選択しても素敵な生き方になると思います。ただ、その決断をするためには、自分でその決断をしっかりと飲み込んで、相手ともちゃんと会話をしてから決めるべきだと思います。

ジュリー:人間は動物なので、生き残るためには産まなければならないのも事実です。でも、私たちが生きている多くの国々では、女性の自由がだんだん保障されるようになってきていて、産むか産まないかということも、選択できるようになりました。女性だという理由で、プレッシャーを感じている女性もたくさんいるかもしれませんが、産まないという選択をできる時代です。母親になる道だけではなく、違う生き方もあるのは素晴らしいことですよね。

美波:以前の世の中とは道徳観や哲学が全然違いますよね。それに、みんな立場もバラバラなわけだから、そのときの立場や時代によって異なるものなんじゃないでしょうか?

イサム・ノグチによる石庭『天国』にて
イサム・ノグチによる石庭『天国』にて

―AKARIシリーズをはじめとするインテリアもいまだに人気が高く、彫刻家としても各地に作品を残しており、死後25年を経てもイサム・ノグチには多くのファンがいます。この舞台を見る観客には、どういった点を見てほしいと思いますか?

ジュリー:イサムは魅力的なアーティストであると同時に、一人の人間でもありました。その人生の中で、いろいろな苦しみも味わってきたからこそ、すごいアーティストになったんだと思います。人間としてのイサム・ノグチのストーリーを味わってほしいですね。

小島:私はこの舞台で、いろんな人の呼吸を感じられたらと思っているんです。イサムや淑子、今まで生きてきた人の空気をエネルギーに変えて舞台上に存在できたらと思います。

美波:女性の印象が強い作品だと思います。やっぱり、女性たちの与えるパワーがイサムの原動力になっているのかもしれないと、稽古をしながら改めて思います。

―そういった意味でも、美波さんの役は大変ですね。

美波:ただ、私自身は、そこに意識を持ちながら演技をするつもりはありません。何かを表現しようとすると、安っぽい演技になってしまうんです。いろいろな発見がある舞台なので、「こういう芝居だ」という先入観で観てしまうのはもったいない。お客さんにもこの舞台を通じて、発見してほしいと思いますね。

イベント情報
パルコ劇場40周年記念 パルコ・プロデュース公演
『iSAMU〜20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語〜』

原案・演出:宮本亜門
脚本:鈴木哲也、宮本亜門
出演:
窪塚洋介
美波
ジュリー・ドレフュス
小島聖
大森博史
ボブ・ワ―リー
犬飼若博
神農直隆
植田真介
天正彩
池袋遥輝
ほか

東京公演
2013年8月21日(水)〜8月27日(火)全9公演
会場:東京都 渋谷 パルコ劇場(渋谷パルコパート1 9F)
料金:一般7,800円 U-25チケット4,000円(25歳以下対象)

神奈川公演
2013年8月15日(木)〜8月18日(日)全4公演
会場:神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール
料金:S席6,800円 A席4,500円 高校生以下割引1,000円(枚数限定) U24チケット
3,400円 (24歳以下、枚数制限、S席のみ) シルバー割引6,300円(65歳以上、枚数限定)

高松公演
2013年8月30日(金)19:00開演(18:30開場)
会場:香川県 サンポートホール高松 3階 大ホール
料金:一般6,000円 会員5,500円

プロフィール
美波(みなみ)

1986年、東京都出身。2000年、深作欣二監督作映画『バトル・ロワイアル』への出演で注目を集め、その後も映画やドラマ、CMで活躍。また2005年には舞台『贋作・罪と罰』(演出:野田秀樹)や『エレンディラ』(演出:蜷川幸雄)にも出演する。

ジュリー・ドレフュス

パリ出身。大阪外国語大学に留学し、NHK教育テレビ『フランス語講座』に出演。日本でモデルやタレントの活動を始める。女優として、『キル・ビル』『イングロリアス・バスターズ』などの映画に出演する。

小島聖(こじま ひじり)

1976年、東京都出身。89年、『春日局』(NHK)でデビュー。99年に、映画『あつもの』で第54回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。以降、数多くの映画、TVドラマに出演。情感溢れる演技力と存在感には定評があり、09年には、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの名誉アソシエイトディレクターを務める英国人演出家ジョン・ケアード演出の舞台『錦繍』に出演し話題となった。近年の主な出演作品に、舞台『かもめ』(赤坂ACTシアター)、『温室』(新国立劇場)、『ハーベスト』(世田谷パブリックシアター)、『テイキングサイド』(天王洲 銀河劇場 他)、映画『シーサイドモーテル』、『劇場版タイムスクープハンター』、TVドラマ『ラブシャッフル』(TBS)、『トッカン 特別国税徴収官』(NTV)、『熱海の捜査官』(EX)などがある。



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