レビュー

見た目はあどけない少女、演奏はグッと大人の女性。藤原さくらが同世代SSWと一線を画す理由

黒田隆憲
2015/07/01
見た目はあどけない少女、演奏はグッと大人の女性。藤原さくらが同世代SSWと一線を画す理由

幅広い世代からの期待を背負う、藤原さくらの初ワンマンライブ

シンガーソングライター藤原さくらのメジャーデビュー後初となるワンマンライブツアー『bon appétit』の東京公演が、6月26日、duo MUSICEXCHANGEにて行われた。今回のワンマンは、今年3月にリリースされたメジャーデビューミニアルバム『à la carte』を引っ提げ、彼女の地元である福岡のROOMSと2か所で開催されたもの。両公演ともにソールドアウトで、この日も会場には彼女と同世代の男女から、ジャズバーで見かけるような音楽通と思しき年配の人まで、幅広いオーディエンスが駆けつけた。

ハイチェアに座って声を発した瞬間、会場の空気を変えた

開演時間を10分ほど過ぎたところで客電が落ち、ジョン・メイヤーの“Clarity”が流れる中ステージにバンドメンバーが現れる。この日のサポートは、池窪浩一(Gt)、岩崎なおみ(Ba)、平里修一(Dr)、そして、藤原さくらファンの間では「けいこりん」のニックネームでお馴染みKeiko(Key)の四人。そして最後に、白いドレスの上からカラフルなブラウスを羽織った藤原さくらが登場し、ステージ中央の白いハイチェアに腰掛ける。手早くチューニングを済ませた彼女が静かにカウントを唱え、昨年リリースされたアルバム『full bloom』収録の“Ellie”でライブがスタートした。


池窪のボトルネックギターに導かれ、まるでノラ・ジョーンズのような、ブルージーでスモーキーな声が彼女から発せられた瞬間、会場の空気がにわかに濃密になった。もう何度も繰り返し音源を聴いてきたはずなのに、目の前で歌う、まだあどけなさが残った彼女の出で立ちと声のギャップには、やはり戸惑いを禁じ得ない。聴き手の心のひだに優しく染み込むような低い声から、鼓膜を心地よくくすぐるような高い声まで、息継ぎのニュアンスも含めて自在に使い分ける歌唱スタイルに、まるで酸いも甘いも噛み分けた大人の女性の包容力すら感じてしまう。

そうした歌声の魅力を最大限に生かすため、厳選された少ない音数を丁寧に置いていくバンドメンバーたち。リバーブやエコーといった空間系エフェクターも極力抑えられ、いなたいフォーキーなアレンジが、彼女のキャッチーなメロディーと絶妙なコントラストを醸し出す。かと思えば、間奏や後奏でスパークするギターソロや、つんのめるようなピアノソロ、ドライブするウォーキングベースが楽曲に華やかさとダイナミズムをもたらしている。

藤原さくら 撮影:西槇太一

藤原さくら 撮影:西槇太一
藤原さくら 撮影:西槇太一

随所に表れる、ポール・マッカートニーからの影響

以前、藤原さくらにインタビューをしたとき、リスペクトしているアーティストとして「ポール・マッカートニー」の名前を真っ先に挙げていたが、こうして生で歌っている姿を観て、改めてマッカートニーからの影響を随所に感じることができた。例えば、ドラマ『学校のカイダン』(2015年1月~3月に、日本テレビ系列にて放送)の挿入歌にも使われた“Just One Girl”のトリッキーなコード進行と、そうは感じさせない自然と耳に馴染むメロディーの相関関係。あるいは、今回のワンマンが初お披露目だという新曲“Oh Boy”の、カントリー調のアレンジやサビ部分の転調。そういった聴き手をハッとさせる仕掛けや人懐っこい旋律は、紛れもなくマッカートニー譲りのものだ。そして、“ラタムニカ”や“嘘つき”のような、狂おしい情念すら感じさせる楽曲もあり、作風の振り幅の大きさに驚かされつつ、「一体、これまでにどんな孤独や寂しさを彼女は経験してきたのだろう」と思いを馳せずにはいられなくなるのだった。

藤原さくら 撮影:西槇太一
撮影:西槇太一


アンコールでは「マッチョ愛」を爆発させ、会場を笑いの渦に巻き込む

恐るべき19歳。そう思っていると、今度はMCでの天真爛漫なトークや、地方での「ずっこけエピソード」の数々に、大いに笑わされ心が和む。極め付けがアンコールの1曲目。「私は筋肉が好きで好きで、『マッチョカフェ』へ遊びに行ってしまうくらいなんですけど、そんな筋肉への『愛』を歌った曲を今からやります」と話すと、会場が呆気にとられる中ひたすら筋肉のことを綴ったブルージーでフォーキーなナンバーを弾き語り始めた。可憐な少女が、スモーキーな歌声で、筋肉について歌う。こんな変態チックな場面を観たのは生まれて初めて。しかも「本編明けのアンコール」という、無礼講でお祭り騒ぎな場としては最高の演出だ。下手すりゃそれまで作り上げた世界観をぶち壊してしまうかもしれない、チャレンジングなお祭り企画にシレッと挑む、そんな彼女がますます好きになった。

藤原さくら 撮影:西槇太一
撮影:西槇太一

冒頭で述べたように、今回のワンマンライブのタイトルは『bon appétit』。藤原さくらのアラカルト(à la carte)を、「どうぞ召し上がれ」という意味である。そうしたタイトルに相応しく、この日のステージには音楽的な引き出しの多さはもちろん、彼女のパーソナルな部分での計り知れない魅力もぎっしりと詰まっており、食べきれないほど濃密な一夜となった。

イベント情報

『bon appétit』
『bon appétit』

2015年6月26日(金)
会場:東京都 渋谷 duo MUSICEXCHANGE

リリース情報

藤原さくら『à la carte』ジャケット
藤原さくら『à la carte』ジャケット

藤原さくら
『à la carte』(CD)

2015年3月18日(水)発売
価格:1,944円(税込)
VICL-64288

1. Walking on the clouds
2. Cigarette butts
3. My Heartthrob
4. Just one girl(Original Ver.)
5. We are You are
6. ありがとうが言える

プロフィール

藤原さくら(ふじわら さくら)

福岡市出身。19歳。父の影響ではじめてギターを手にしたのが10歳。洋邦問わず多様な音楽に自然と親しむ幼少期を過ごす。高校進学後、シンガーソングライターへの憧れからオリジナル曲の制作をはじめ、少しずつ音楽活動を開始。地元・福岡のカフェ・レストランを中心としたライブ活動で、徐々に注目を集める。2013年、その独特の感性から生まれた楽曲たちは『bloom1』『bloom2』『bloom3』と名付けられた自主制作盤(各4曲入)としてライブ会場を中心に販売し完売。2014年3月、高校卒業と上京を機に、それら楽曲と新曲を含んだフルアルバム『full bloom』をリリース。楽曲制作やライブ活動を本格的に開始し、CM出演での歌唱や、テレビドラマへの曲提供などで話題となる。2015年3月18日、スピードスターレコーズよりミニアルバム『à la carte』でメジャーデビュー。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。

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