レビュー

ペコちゃん誕生65周年。まったく表情を変えてこなかったのに、飽きられない理由を考える

武田砂鉄
2015/08/17
ペコちゃん誕生65周年。まったく表情を変えてこなかったのに、飽きられない理由を考える
三沢厚彦『ペコ・ポコ・ドッグ』(陶)2015年

ペコちゃんには1歳年上のボーイフレンドがいる

不二家のキャラクター・ペコちゃんが誕生して今年で65年になる。6歳のペコちゃんがもしもそのまま年を重ねていれば、もう年金暮らしに突入している計算になるが、彼女は夢の国からやってきた「永遠の6歳」なのだ。6歳の女の子が不二家の店頭で見つめてきたのは、戦渦から立ち上がっていく日本の戦後史そのものである。ペコちゃんに、相方のポコちゃんや仲間の犬がいることは知っていたが、ポコちゃんが友達ではなく1歳年上のボーイフレンドであることや、時たま連れ添っている犬の名前が「Dog」という名前だったことを、『ペコちゃん展』に出向いて初めて知った。

「ペコちゃん」の歴史を、数々の店頭人形やグッズ、コラボアートで振り返る『ペコちゃん展』が、9月13日まで神奈川県・平塚市美術館で開かれている。「ミルキー」同様に飽きのこない風貌をしているペコちゃんだが、このベロを出した女の子が登場した1950年は、まだまだ戦後の貧困状態から完全には抜けきれていない時分だった。初代の張り子の店頭人形は日劇の大道具さんが作ったそうだが、当時のカルチャー情報誌『ARS GRAPH GINZA』では、この店頭人形について「何とも云えない、アンニュイ(倦怠的)な、しかも誰も一ペン殴らずにはいられない人形」と、かなり辛辣に書かれていたという。今風の言葉でいえば「ダルい」存在として受け取られていたのは、まだまだお茶目に振る舞っている状態ではなかった時代背景と無関係ではないのだろう。でも、ペコちゃんはそんな反応をもろともせず、あの表情を守り続けてきた。

ペコちゃん卓上人形 1959年頃 新関コレクション
ペコちゃん卓上人形 1959年頃 新関コレクション

「ミルキーはママの味」というキャッチコピーの強さ

全身で愛情を注ぐように、背丈が同じくらいのペコちゃんを抱きしめる女の子。人形にぶら下がっている空っぽのミルキーを、空っぽだと知らずに狙っている男の子。街中に置かれたペコちゃん人形を捉えたこれらの写真が館内に並び、時代ごとの風景を伝える。ペコちゃんといえばミルキーだが、ミルキーができたのは、実はペコちゃんが誕生した翌年の1951年である。様々なミルキーのパッケージが展示されているが、やはり、当初から使われていた「ミルキーはママの味」というキャッチコピーの強さが光る。

商品のブランド力を決定づけたキャッチコピーは多々あるが、日々の暮らしに必須なんだと端的に訴求してくるコピーはやっぱり強い。「お口の恋人ロッテ」「やめられない、とまらない!(かっぱえびせん)」「バファリンの半分はやさしさで出来ています」などなど挙げればきりがないが、なかでも、練乳をまぜこんだ飴玉を「ママの味」と言わせたこのコピーは、非の打ちどころがないストレートさだ。

ミルキー箱 1950年代
ミルキー箱 1950年代

16歳のペコちゃんを描くコラボ企画

実は、ペコちゃんの目の鋭さや立体感は時代によって微妙に異なっており、時系列で並ぶペコちゃんからその違いを見つけ出すのが楽しい。その一方で、舌の出し方は一貫している。そもそも舌を出す行為って、本来はあまりポジティブな行為ではないはず。「あっかんべー」は侮辱の意味を持つし、舌を出して食べ物をすくうようにして食べるのは決して上品ではない。それなのに、舌を出すペコちゃんのしぐさは、どうしてチャーミングなのか。

ウエイトレスペコちゃん人形(幡野泰子作)1960年代
ウエイトレスペコちゃん人形(幡野泰子作)1960年代

店頭用ペコちゃん 1960年代
店頭用ペコちゃん 1960年代

その答えを探すように、展示のメイン企画である「現代アーティスト×ペコちゃん」と題した17名の作家が手掛けた「ペコ・アート」を見た。劇作家・小説家・俳優である戌井昭人の鉛筆画『むっ』は、ベロを出さずに膨れっ面のペコちゃんを描く。ペコちゃんがオーバーオールのポケットに手を突っ込むのは珍しいことではないが、ベロを出していないだけで、なんだかやさぐれているように見える。ステージ上では笑顔満開だったアイドルが、楽屋に帰った途端、すっかり態度が悪くなると知らされたようなわだかまりが生じる。

戌井昭人『むっ』(鉛筆・紙)2015年
戌井昭人『むっ』(鉛筆・紙)2015年

画家・木原千春の油彩画『ペコ16歳。』では、大人びた「ペコさん」が、それこそアンニュイに佇んでいる。渡部満『不在の時間/ペコのある風景』や伊藤誠『PEKO』のように、ペコちゃんそのものをとらえずに、感覚的に創作するアプローチをとった作品群も斬新だ。あらゆる自由な創作を通しても、そのほとんどの作品で口の端からペロッと舌を出す仕草がアイキャッチになっていることが分かる。

木原千春『ペコ16歳。』(油彩)2015年
木原千春『ペコ16歳。』(油彩)2015年

ペコちゃんの絶妙なバランスの正体

やなせたかしによるペコちゃん、ハロー・キティとコラボするペコちゃん、EDWINを身にまとったオシャレなペコちゃんなど、これまでもペコちゃんは強気のコラボに打って出ている。1960年代には、なぜか冒険ものの児童書『ペコポコ冒険シリーズ なぞのがいこつ山』といった本にまでなっているが、今回の展示でも、東京モード学園の生徒に自由に衣装デザインを作ってもらい、子どもたちに投票させて競わせるなど、野心的な取り組みが目立つ。

ペコちゃん・ポコちゃん人形は、1998年に登録立体商標第一号として特許庁より認定を受けている。これまでも、園児服を着たり、西陣着物を着たりしてきたが、どんなに派手な恰好をしようとも、ふくれた頬、ぱっちり過ぎる目、赤いリボン、ぺろりと出した舌のインパクトはぐらつかない。思えば、「ご当地キティ」の大ヒットって、キティ自体に表情がないこととも関係しているのではないか。おびただしい量のペコちゃんを見て、ふと気付いた。ペコちゃんにはキティのような汎用性はない。それは、キャラクターを決定づける情報が顔面のあちこちに詰まっているからだ。つまり、余白がない。それでいて不思議なのは、ペコちゃんというキャラクターは、過剰な存在感を放たない。あくまでも街角で佇んでいるのが似合う。65年間、ひとつの表情を維持してきたペコちゃん、目立ちすぎない存在感でブランドを維持してきたことを新たに実感する展示だった。

イベント情報

『ペコちゃん展』

2015年7月11日(土)~9月13日(日)
会場:神奈川県 平塚市美術館
時間:9:30~17:00(7月18日から8月30日は18:00まで開館、入場は閉館の30分前まで)
出展作家:
戌井昭人
伊藤誠
内田望
金川博史
川井徳寛
木原千春
小林孝亘
佐々木成美
玉川みほの
冨岡奈津江
西尾康之
町田久美
三沢厚彦
宮川慶子
山田啓貴
吉野英理香
渡部満
休館日:月曜
料金:一般800円 高大生500円
※ 中学生以下、毎週土曜の高校生、障害者手帳をお持ちの方とその付添者1名は無料

(メイン画像:三沢厚彦『ペコ・ポコ・ドッグ』(陶)2015年)

プロフィール

武田砂鉄(たけだ さてつ)

1982年生まれ。ライター / 編集。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「Yahoo!ニュース個人」「マイナビ」「LITERA」「beatleg」「TRASH-UP!!」で連載を持ち、「週刊金曜日」「AERA」「SPA!」「beatleg」「STRANGE DAYS」などの雑誌でも執筆中。著書に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。

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