レビュー

スマホカメラ時代に、デジカメが提案する新しい写真体験。オープンプラットフォームカメラとは?

野路千晶
スマホカメラ時代に、デジカメが提案する新しい写真体験。オープンプラットフォームカメラとは?

明和電機の元アシスタントがロンドンの名門美術大学を経て、世界的なサウンドアーティストになっていた

子ども向けのイベントが各地で開催される夏休み中の8月4日、六本木の森美術館オーディトリアムにて、OLYMPUSとアーティスト・スズキユウリによるOLYMPUS AIRを使ったワークショップ『自分だけのカメラを作ろう! Let's make our own camera!』が開催された。

『自分だけのカメラを作ろう! Let's make our own camera!』会場

1980年生まれのスズキは、大学在学中より、テクノロジーを駆使したパフォーマンスユニット・明和電機のアシスタントを経験。その後はロンドンを活動のベースとし、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にも作品が収蔵されている。たとえば代表作の1つ『Color Chaser』は、マジックペンで描いた黒いラインの上をミニカーが走ることで音が発音され、そのライン上に赤、青、黄色といった色を塗り足していくことで、音色に変化がもたらされるという作品。体験者は自ら描いた色彩のコンポジションによって、自分だけの楽譜を作ることができる。また12の音階をもつDIYシンセサイザーキーボード『OTOTO(オトト)』は、水道管から野菜まで、電気を通すあらゆる素材を『OTOTO』のセンサーへつなぐことで電子音へと変容させるユニークな作品だ。

これらの作品は一貫して、難しい手立てや理解は不要の、子どもから大人まで、世代を問わず親しめるものばかり。じつはそうしたスズキの活動の根底には、自身が抱える難読症(読み書きを不得手とする先天的特徴)があるという。「僕のように文字が苦手な人でも、プログラミングを楽しめる仕組みを作りだせたらいいな、と常に思っていました」と話すスズキのサウンドアートは、楽譜もプログラムも技術も必要としない自由な楽器と捉えることもできるだろう。

自由にカスタマイズできる、オープンプラットフォームカメラで遊ぶ

筒型の形状が印象的なオープンプラットフォームカメラ「OLYMPUS AIR」の特性を利用し、自分だけのカメラを作るという趣旨のこの日のワークショップ。一見ただの交換用レンズと見間違ってしまいそうなOLYMPUS AIRだが、スマートフォンとWi-Fi接続することで液晶タッチモニターを追加したり、専用アプリで撮影機能を追加できるなど、自分好みにカスタマイズ可能な新しいスタイルのカメラだ。

OLYMPUS AIR
OLYMPUS AIR

じつは、前述の『OTOTO』もOLYMPUS AIRへ接続することで、シャッターボタンを好みの位置に変更したり、電気を通すものをセンサー代わりに使って自由な方法でシャッターを切れるようになるなど、電子楽器と融合したカメラを作ることが可能。このように各々が機能を追加することができるオープンプラットフォームのOLYMPUS AIRは、スズキのようなサウンドアーティストにとっても、大きな可能性を秘めたカメラだといえるだろう。

ワークショップは、iPhoneとOLYMPUS AIRを取り付ける「カメラ本体」のデザイン、そのカメラで森美術館や六本木ヒルズ展望台で撮影を行うという2部構成で行なわれた。朝早くの会場に続々と集まった約30名の小学生たちは、保護者に見守られているからなのか、賑わいがありながらもどこか静かな雰囲気が印象的。

『OTOTO』とOLYMPUS AIR
『OTOTO』とOLYMPUS AIR

1部は、iPhoneにOLYMPUS AIRのアプリをインストール後、カメラ本体部分を型紙で組み立てて、iPhoneとOLYMPUS AIRを取りつけるところからスタート。その後、マジックペンやシール、テープを使って、独自のカメラをデザインするという手順へと進んでいった。スズキやスタッフの指導に沿って工作を行う子どもたちの顔つきは真剣そのもの。各々の試行錯誤を経て完成したカメラは、自分のイニシャルをワンポイントにしたデザインや、抽象画を思わせる色彩で彩られたもの、また知ってか知らずか、ドイツのインダストリアルデザイナー、ディーター・ラムスを思わせるミニマルなデザインまで、まさに「自分だけ」の完成品だ。

そして2部は、チームごとに分かれ、完成したカメラと共にいざ撮影へ。先ほどの神妙な様子から一転、子どもたちは時に談話を交えて、和やかな様子で写真撮影に挑む。なかにはプロ顔負けの構図で森美術館『ディン・Q・レ展:明日への記憶』の作品を撮影する女の子や、展望台で、風景の一部分にズームし、幾何学的な要素だけを抽出する男の子など、それぞれが思い思いに対象を撮影。約2時間におよぶワークショップは、子どもたちの満足した表情で終了した。

森美術館『ディン・Q・レ展:明日への記憶』2015年 会場風景
森美術館『ディン・Q・レ展:明日への記憶』2015年 会場風景

六本木ヒルズ展望台から撮影する様子
六本木ヒルズ展望台から撮影する様子

ユーザーと共にカメラを作り、成長していくことで、カメラの価値が高まっていく

カメラや医療機器の会社として知られるオリンパスだが、近年テクノロジーを用いた先鋭的な研究を行うことで知られる「MITメディアラボ」のメンバーに加入し、OLYMPUS AIRでは、SDK(ソフトウェア開発キット)を通して、デベロッパーやユーザーと共に次なる写真体験を切り開く「OPC Hack & Make Project」を発足するなど、新境地を目指している最中だ。本ワークショップを主催したオリンパスモバイルシステム開発本部の石井謙介は、「これまでのカメラ市場は完成品を世に出すスタイルでしたが、私は数年前から、ユーザーと共にカメラを作り、発売後も共に成長していくことで、カメラの価値が高まっていくのではないかと考えています。MITメディアラボのメンバーになって、ユーザーとの共創時代であることをあらためて実感しましたし、今はまさに学びながら経験値を積んでいるところなんです」と話す。

オリンパスモバイルシステム開発本部の石井謙介(左)、スズキユウリ(右)
オリンパスモバイルシステム開発本部の石井謙介(左)、スズキユウリ(右)

ワークショップ参加者で記念撮影
ワークショップ参加者で記念撮影

カメラ内蔵スマートフォンの急速な台頭によって、その役割を問い直されているともいえるデジタルカメラ。しかし、「共創時代」というキーワードから、その新たな可能性が見えてきた。今回のワークショップに参加し、OLYMPUS AIRを体験した約30人の子どもたちは、そんなカメラの未来をかたち作る一員になるのかもしれない。

イベント情報

『自分だけのカメラを作ろう! Let's make our own camera!』

2015年8月4日(火)
会場:東京都 六本木 森美術館オーディトリアム
時間:9:00~11:00
講師:スズキユウリ
参加費:無料(小学4~6年生とその保護者のみ、定員30組)

『自分だけのカメラをつくろう! DIY CAMERA KIT for OLYMPUS AIR ワークショップ』

2015年8月22日(土)
会場:東京都 西新宿 エステック情報ビルB1F オリンパスプラザ東京
時間:12:00~、14:00~、16:00~(計3回)
参加費:無料(小中年生とその保護者のみ、各回定員10組)

プロフィール

スズキユウリ

1980年東京生まれ。ロンドン在住。明和電機で5年間のアシスタントを経て、2006年、文化庁新進芸術家海外留学制度により、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに入学。「音楽とテクノロジー」をテーマに作品制作を行い、現在はサウンドアーティスト、プロダクトデザイナーとして活躍している。近年のプロジェクトに『Juke Box meets Tate Britain』(テートブリテン、2013-14年)、『Garden of Russolo』(ヴィクトリア&アルバート美術館、2013年)、『Ishin-Den-Shin for Disney Research』(2013年)などがあり、『Color Chaser』(2010年)『OTOTO』(2013-14年)の2作品が、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のコレクションに認定されている。

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