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ポップカルチャーの生きる伝説。巨匠リーボヴィッツの新作写真展

アニー・リーボヴィッツ展『WOMEN:New Portraits』
テキスト
島貫泰介
ポップカルチャーの生きる伝説。巨匠リーボヴィッツの新作写真展
Misty Copeland, New York City, 2015 © Annie Leibovitz. From WOMEN: New Portraits, Exclusive Commissioning Partner UBS

暗殺直前のジョン・レノンを撮影したフォトグラファー

写真家、アニー・リーボヴィッツのすごさについて知りたいなら、まずドキュメンタリー映画『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』(2007年)を見ることをオススメしたい。

アニーの実妹、バーバラ・リーボヴィッツが監督した同作では、『ローリング・ストーン』誌のチーフカメラマンとして活躍し、The Rolling Stonesのツアー撮影を手掛けるなど一躍有名になった20代、暗殺される直前に撮影されたジョン・レノンのポートレート(横たわるオノ・ヨーコに、裸のジョンが赤ん坊のように身を寄せるあの写真だ)の撮影秘話、ファッション誌『ヴァニティ・フェア』『ヴォーグ』移籍以降の、神話世界の荘厳を視覚化したようなエレガントでゴージャスな写真、そして2007年にこの世を去った、パートナーであり作家・活動家のスーザン・ソンタグの思い出などをリーボヴィッツが自ら語っているからだ。

アニー・リーボヴィッツ WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Christopher Jue, Getty Images
アニー・リーボヴィッツ WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Christopher Jue, Getty Images

劇中、映画『マリー・アントワネット』(2006年アメリカ公開)との関連で行われたヴェルサイユ宮殿でのシューティングシーンが登場する。マリー役を演じるキルスティン・ダンストをミューズに配した撮影は圧巻だ。宮殿内外のロケーションを贅沢に使い、数十人に及ぶスタッフをまとめあげ、茶目っ気のあるユーモアを忘れないリーボヴィッツは、ネイティブアメリカンの族長のようなカリスマ性に溢れている。無造作に伸ばしたロングヘアで颯爽と撮影に臨む彼女に、世界中のセレブリティーが撮影されることを切望する気持ちがよくわかるシーンだ。

対話を促すための、図書館のようなギャラリー展示

そんな勇猛果敢なリーボヴィッツのパブリックイメージを念頭に置いて、東京・東雲のTOLOT/heuristic SHINONOMEで開催中の『アニー・リーボヴィッツ WOMEN:New Portraits』展を見に行くと、その「意外な軽さ」に拍子抜けするかもしれない。

‘WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku
‘WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku

現代写真の、ある典型ともいえる「重厚な額装」「巨大なプリント」は1つもない。大型液晶モニターを組み合わせた大画面は、異なるかたちのビッグピクチャーとも言えるだろうけれど、過去の代表作がスライドショー的に次々と映し出されていく体験は、いわゆる「美術鑑賞」とは別種のものだ。会場左手に飾られた、さまざまな女性を主題にしたオリジナルプリントもささやかなサイズで、じつに素っ気なく展示されている。

‘WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku
‘WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku

むしろ印象的なのは、会場中央に円形に並べられたパイプ椅子。あるいは囲炉裏風のテーブルに無造作に積み上げられた写真集の山(リーボヴィッツの作品もあるが、むしろ他の写真家の著作が多い)。つまり、この展覧会は作品展示だけをメインには構想されていない。ここは会場を訪れた人たちが対話するためのワークスタジオ、対話を促すための知識を得る図書室なのだ。では、その「対話」とはいったいなにを議題にするものだろうか? それは「女性」についてである。

あらゆる「女性」を被写体にした『Women』シリーズ

今回の展示の主題となっている『Women』シリーズのはじまりは、1999年にさかのぼる。スーザン・ソンタグとの協働プロジェクトとして同年に発刊された肖像写真集『Women』は、その名のとおり女性だけを被写体にした内容である。卓抜した写真論、美術批評で名を馳せたソンタグは、フェミニストであり、同性愛者であり、アクティビストでもあった。1994年、ユーゴスラビア人民軍に包囲された都市サラエボに赴き、サミュエル・ベケット(『ノーベル文学賞』を受賞した、不条理演劇を代表するフランスの劇作家、小説家、詩人)の戯曲『ゴドーを待ちながら』の上演を強行した逸話は、極限下のサラエボ市民を勇気づけるだけでなく、芸術が社会状況に対してなにを成し得るかを示唆する批評的営為でもあった。リーボヴィッツがソンタグの行動に影響を受け、あるいは互いに共鳴し合った一つのかたちが『Women』なのである。

‘WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku
‘WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku

今回の『WOMEN:New Portraits』は、現代アート支援に力を入れる金融機関UBSのパートナーシップを受けて実現した世界巡回プロジェクトで、今年1月のロンドンを皮切りに、現在開催中の東京、そしてサンフランシスコ、メキシコ、イスタンブール、ニューヨークなど全10都市を移動していく。東京でもリーボヴィッツが同席する対話集会や、親子で参加できるワークショップ(今後の開催日は3月5日、6日、12日、13日。参加はすべて無料とのこと)が行われたが、巡回の過程で、さまざまな地域、文化圏で生きる女性たちの対話、連帯が結ばれるだろう。

Adele、テイラー・スウィフトから、アウンサンスーチーまで、信念を失わない女性たちを撮った新作

そして展示されている新作の被写体もまた女性たちである。ポップミュージックの世界から強いメッセージを伝えるAdele、テイラー・スウィフト。ありのままの女性の悩みや希望を描く、ドラマ制作者で女優のレナ・ダナム。長らく軟禁状態に置かれていたミャンマーの政治家、アウンサンスーチー、パキスタンで女子教育運動に従事したマララ・ユスフザイ。アフリカ系アメリカ人としてはじめてアメリカン・バレエ・シアターのプリンシパルに昇格したミスティ・コープランド、女性性を作品の主題とするアーティストであるシンディ・シャーマン、サリー・マン。トランスジェンダーの元オリンピック選手もいる。そしてビジネスや学問の分野でアクティブに働く経営者や研究者たち。長らく男性による寡占状態が続いてきた各フィールドで日々格闘し、自分の信念を失わず前に進んでいく彼女たちは、現代のダイナミズムと時代精神を体現する人々だろう。

WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Christopher Jue, Getty Images
WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Christopher Jue, Getty Images

芸術の世界で長らく「肖像画」といえば、政治や社会を中心的に動かす、権力を握った男性を描くものだった(もちろん妻や娘たちの肖像画はあるが、それらは時代の主役として描かれるものではなかった)。あるいはリーボヴィッツが好んで構図に援用する「歴史画」も、大半は英雄たちが戦う戦場や、戴冠式の儀礼的風景など男性によって牛耳られた空間が主題になっていた。

‘WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Christopher Jue, Getty Images
‘WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Christopher Jue, Getty Images

その意味で、男性による歴史画を女性によるファッション写真に換骨奪胎するリーボヴィッツの前衛性は一貫している。本展の出品作のなかに、1968年にフィリピンのクラーク空軍基地で撮られた『アメリカ兵士とネグリトの女王メアリ』という一枚がある。背の高い3人のアメリカ人男性に挟まれて立つフィリピン人女性の姿は、ベトナム戦争(第二次インドシナ戦争)時における、宗主国アメリカと実質的な植民地であった東南アジア諸国の関係を想起させるばかりでなく、男性と女性の長らく続く固定的な関係を思い起こさせる。この写真を撮った当時、リーボヴィッツは19歳の無名の美大生に過ぎなかった。けれども彼女はすでに、その後の長いキャリアを貫くテーマを発見していたのかもしれない。

『WOMEN:New Portraits』は、写真展であり、対話の場である。そして同時に、アニー・リーボヴィッツという人間の精神に触れる空間でもある。そこで得られるなにかは、ただの美術鑑賞よりもいっそう深く、意義深いものであるはずだ。

イベント情報

アニー・リーボヴィッツ展
『WOMEN:New Portraits』

2016年2月20日(土)~3月13日(日)
会場:東京都 東雲 TOLOT/heuristic SHINONOME
時間:11:00~19:00
料金:無料

『ファミリーウィークエンドワークショップ』

2016年3月5日(土)、3月6日(日)、3月12日(土)、3月13日(日)
会場:東京都 東雲 TOLOT/heuristic SHINONOME
時間:12:00、13:00(各回定員30名、対象年齢4歳~、小~高校生、大学生、そのご家族)
料金:無料

UBSと現代アートコレクションについて

世界有数のグローバル金融機関であるUBSは、長年に渡り現代アートをグローバルに支援するリーディング・サポーターとして、文化・芸術活動をサポートしてきました。UBSの所有する現代アートコレクションは3万点にものぼり、世界で最も重要な民間企業による現代アートコレクションの一つとして知られています。絵画、写真、図画、版画、ビデオアートや彫刻を含み、新進気鋭の芸術家から現代を代表する芸術家まで、幅広いアーティストによる作品で構成され、56か国余り837箇所を超える施設に所蔵されています。コレクションには、荒木経惟、畠山直哉、池田光弘、森村泰昌、佐伯洋江、澤拓、杉本博司、米田知子をはじめとする日本人芸術家の作品も含まれています。

プロフィール

アニー・リーボヴィッツ

1970年代初頭に『ローリング・ストーン』誌の写真ジャーナリストとしてキャリアをスタート。以来機知に富みパワフルなポップカルチャーのイメージを写し続けている。1980年代に入ってからは、社会的情景に焦点を当てた肖像写真に領域を広げ、『ヴァニティ・フェア』誌や『ヴォーグ』誌において活動を展開。広告キャンペーンも多く手がけ、受賞歴複数。他にも数々の著名な賞を多数受賞しており、米国議会図書館からは「Living Legend(生きる伝説)」の称号も授かっている。

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