ワンオクが、ロックの力が弱まったアメリカで勝つために選んだ道

初めて「アメリカ基準」で制作したアルバムから2年

「ひょっとしたら、『35xxxv』の先には、スタジアムクラスのロックバンドとして、さらにスケールの大きな表現を目指していく道が続いているのではないだろうか? 今のONE OK ROCKの持つポテンシャルを見ていると、そんな期待すら抱いてしまう」

そう書いたのは2年前のことだった(日本人の「エモーション」だって、世界を震わせられる。ONE OK ROCKとサム・スミスの共通項)。その期待に彼らは着実に応えてくれた。それが、『Ambitions』というニューアルバムを聴いての第一印象だ。

前作アルバム『35xxxv』(2015年)は、ロサンゼルスに制作拠点を移し、現地のプロデューサーに自らコンタクトをとってレコーディングを行った1枚だった。積み重ねてきた海外ツアーを経て掴んだ実感をもとに、「日本基準」ではなく「アメリカ基準」で制作したアルバムだった。

そして彼らは結果を出した。北米でのメジャーデビューアルバムとなった『35xxxv Deluxe Edition』は着実な評価を集め、熱いファンベースを築き上げた。だからこそ、その道の先に『Ambitions』というアルバムが生まれたのだと思う。

もはや「海外進出」という枠組みで彼らの存在を語るのは数年遅れの話だ。それはすでに通り過ぎた道である。特にここ数年は、世界各国のメインストリームの音楽シーンは急速に国境の壁がなくなり、ボーダレスな時代になりつつある。そしてONE OK ROCKは、そういうグローバルマーケットにおけるワールドクラスなロックバンドになるための切符を手に入れた。その上で何をすべきか。そういう挑戦が新作『Ambitions』に結実している。

ONE OK ROCK『Ambitions』ジャケット
ONE OK ROCK『Ambitions』ジャケット(Amazonで見る

ONE OK ROCKを、アメリカのスタジアムロックバンドと並べて語ることができる理由

ポイントは、彼らが昨年秋にアメリカの名門レーベル「FUELED BY RAMEN」と契約を果たしたこと。それまで日本以外のリリースはワーナー・ブラザース・レコードからだったが、傘下のFUELED BY RAMENに移籍した形となった。アルバムの第1弾リードシングル“Taking Off”も同レーベルと日本のレーベル・A-Sketchから全世界同時に配信リリースされ、1本目のビデオはFUELED BY RAMENのオフィシャルチャンネルにて公開された。

1本目公開から約3週間後に、ONE OK ROCKのオフィシャルチャンネルにて公開された映像

なぜFUELED BY RAMENへの移籍が、ONE OK ROCKの飛躍を後押しする大きなきっかけになるのか? その理由は2つある。1つは、FALL OUT BOYやPanic! At The Discoなど、彼らが憧れたバンドを送り出し、そして現在もなお所属するレーベルである、ということ。つまりONE OK ROCKは自身のルーツとレーベルメイトという形で同列に並んだわけだ。

そしてもう1つは(こちらがより重要なのだが)、FUELED BY RAMENが、いまやアメリカにおける「ロックの牙城」のようなレーベルになっているということ。近年、アメリカにおいてロックは必ずしもメインストリームの音楽ではなくなってきている。ここ数年、チャートを席巻し、メディアや批評家たちの評価を集めるのは、多くがヒップホップやR&Bのアーティストだ。一方でEDMのフェスやレーベルも引き続き力を持ち、一時のブームが沈静化したここ数年は、トロピカルハウスがプッシュされてきた。

今もロックシーンが独自の進化を果たしている日本で暮らしていると実感しにくいが、2010年代のアメリカでは、「ロックバンドというスタイル」自体が、90年代、00年代に比べ、明らかに力を失いつつある。そうした状況において、設立当初の「エモ、ポップパンク系のバンドが多く所属するレーベル」というイメージを旺盛に上書きしつつ、今なおコマーシャルな成功を収めているのが、FUELED BY RAMENというレーベルなのである。

レーベルは2012年にFUN.の『SOME NIGHTS』を世界的にヒットさせ、2013年にデビューさせたtwenty one pilotsは2015年のアルバム『Blurryface』で全米1位を記録。今年の『グラミー賞』にも、“Stressed Out”が「最優秀レコード賞」にノミネートされている。

すなわち、ロックというジャンル自体が急速に力を失いつつある今のアメリカにおいて、「スタジアムクラスのロックバンド」を送り出し続けているのがFUELED BY RAMENというレーベルであり、ONE OK ROCKはその系譜に属する存在でもある、というわけだ。

楽曲の柱となっているのは、Takaの圧倒的な歌の表現力

そして、ONE OK ROCK自身も、『Ambitions』でサウンドの革新に乗り出している。従来のバンドスタイルにこだわらず、よりシンプルな曲調、強靭なリズムと、よりスケール感のある歌を押し出した楽曲が収録されている。その背景にも環境の変化は影響しているはずだ。

象徴的なのが、リードシングルとしてリリースされた“Bedroom Warfare”だ。冒頭から、タメの効いたリズムに<Keep your enemies close>というフレーズをラップ的に聴かせる1曲。Aメロまでドラムの存在感が後景に退いていることもあり、一聴してバンドっぽさを感じさせない。

“One Way Ticket”、”Bedroom Warfare”っていうのは、向こうのレーベル、フュエルド・バイ・ラーメンが、ラジオにかける曲を作ってほしいって言ってきて。(中略)フュエルド・バイ・ラーメンのピートっていう人間がいて、彼の考えてることとか発言にものすごく納得してるんですよ。で、この人ほんと信頼できる人かもしれないと思ってて。彼の言ってることにここまで、出会ってから間違いがなくて、すげえなこいつっていう。
(『ロッキング・オンJAPAN』2017年2月号掲載のインタビューより)

このように、ボーカルのTakaはインタビューでもこの曲がレーベルの要請で生まれたことを明かしている。もちろん単にバンドというスタイルを脱ぎ捨てたわけではない。『Ambitions』では、これまでのアグレッシブでエモーショナルな方法論に頼らず、Takaの圧倒的なボーカリストとしての表現力を活かした「歌のスケール感」で魅せる楽曲が中心になっている。バンドのオフィシャルチャンネルで公開された“Taking Off”のアコースティックバージョンも印象的だ。

前述のインタビューでTakaは、この曲はBring Me The Horizonなどを手掛けるエンジニアのダン・ランカスターとの共同作業によって生まれたことを明かしている。激しいギターのディストーションや、打ち込み / 生ドラムのビートがなくとも、この曲の持つ力強いエモーションの「本質」のようなものが伝わってくる。

『Ambitions』というのは「野望」という意味である。それは、「海外進出」というタームを経てワールドクラスの存在へとエントリーしつつある今のONE OK ROCK自身のモードとも言える。さらにその言葉は、彼らに託された「ロックバンドの復権」という意味合いも持っているかもしれない。そんな期待もしてしまう。

リリース情報
ONE OK ROCK
『Ambitions』初回限定盤(CD+DVD)

2017年1月11日(水)発売
価格:3,780円(税込)
AZZS-56

1. Ambitions - Introduction
2. Bombs away
3. Taking Off
4. We are
5. 20/20
6. Always coming back
7. Bedroom Warfare
8. Lost in Tonight
9. I was King
10. Listen (featuring Avril Lavigne)
11. One Way Ticket
12. Bon Voyage
13. Start Again
14. Take what you want (featuring 5 Seconds of Summer)
[DVD]
1. We are(Studio Jam Session Vol.3)
2. Bombs away(Studio Jam Session Vol.3)

ONE OK ROCK
『Ambitions』通常盤(CD)

2017年1月11日(水)発売
価格:3,240円(税込)
AZCS-1062

1. Ambitions - Introduction
2. Bombs away
3. Taking Off
4. We are
5. 20/20
6. Always coming back
7. Bedroom Warfare
8. Lost in Tonight
9. I was King
10. Listen (featuring Avril Lavigne)
11. One Way Ticket
12. Bon Voyage
13. Start Again
14. Take what you want (featuring 5 Seconds of Summer)

イベント情報
『ONE OK ROCK 2017 “Ambitions” JAPAN TOUR』

2017年2月18日(土)
会場:静岡県 静岡エコパアリーナ

2017年2月19日(日)
会場:静岡県 静岡エコパアリーナ

2017年2月22日(水)
会場:和歌山県 和歌山ビッグホエール

2017年2月25日(土)
会場:大阪府 大阪城ホール

2017年2月26日(日)
会場:大阪府 大阪城ホール

2017年3月4日(土)
会場:宮城県 宮城セキスイハイムスーパーアリーナ

2017年3月5日(日)
会場:宮城県 宮城セキスイハイムスーパーアリーナ

2017年3月8日(水)
会場:徳島県 アスティとくしま

2017年3月9日(木)
会場:徳島県 アスティとくしま

2017年3月14日(火)
会場:愛知県 名古屋 日本ガイシホール

2017年3月15日(水)
会場:愛知県 名古屋 日本ガイシホール

2017年3月18日(土)
会場:兵庫県 神戸 ワールド記念ホール

2017年3月19日(日)
会場:兵庫県 神戸 ワールド記念ホール

2017年3月25日(土)
会場:埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

2017年3月26日(日)
会場:埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

2017年3月31日(金)
会場:新潟県 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター

2017年4月1日(土)
会場:新潟県 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター

2017年4月8日(土)
会場:千葉県 幕張メッセ国際展示場9・10・11ホール

2017年4月9日(日)
会場:千葉県 幕張メッセ国際展示場9・10・11ホール

2017年4月15日(土)
会場:北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ

2017年4月16日(日)
会場:北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ

2017年4月20日(木)
会場:神奈川県 横浜アリーナ

2017年4月22日(土)
会場:神奈川県 横浜アリーナ

2017年4月23日(日)
会場:神奈川県 横浜アリーナ

2017年4月29日(土・祝)
会場:福岡県 マリンメッセ福岡

2017年4月30日(日)
会場:福岡県 マリンメッセ福岡

2017年5月4日(木・祝)
会場:沖縄県 沖縄コンベンションセンター

2017年5月5日(金・祝)
会場:沖縄県 沖縄コンベンションセンター

2017年5月11日(木)
会場:熊本県 B.9 V1

2017年5月12日(金)
会場:熊本県 B.9 V1

2017年5月16日(火)
会場:広島県 広島 グリーンアリーナ

2017年5月17日(水)
会場:広島県 広島 グリーンアリーナ

プロフィール
ONE OK ROCK
ONE OK ROCK (わん おく ろっく)

2005年にバンド結成。エモ、ロックを軸にしたサウンドとアグレッシブなライブパフォーマンスが若い世代に支持されてきた。2007年にデビューして以来、全国ライブハウスツアーや各地夏フェスを中心に積極的にライブを行う。これまでに、日本武道館、横浜アリーナ、横浜スタジアム2Days、大規模な全国アリーナツアーなどを成功させる。また、日本のみならず海外レーベルと契約をし、アルバム発売を経てアメリカ、ヨーロッパ、アジアでワールドツアーを成功させるなど世界基準バンドになってきている。2016年9月に、静岡・渚園にて2Daysで11万人を動員する大規模野外ライブを開催した。



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