これからの「文化的な生活」

  • 2021.10.04

「人間の影響が気候を温暖化させてきたことに疑う余地はない」──今夏に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新報告書はそう断定した。

このまま地球の温暖化が進むと世界各地でさらなる災害や生態系の破壊が起こり、いままでのような暮らしを続けてはいけなくなる。日本でも台風や豪雨が多くの人の命や住まいを奪い、国外でも洪水や山火事の被害がたびたび報道されている。

地球規模という大きな問題を前にして、無力感を感じるのは誰しも同じかもしれない。けれど、安心できる理由を見つけて見て見ぬふりをしているうちに手遅れになる。次世代の子どもたちは、そんな私たち世代に対してなにを思うだろう?

化石燃料を燃やして豊かな暮らしを享受してきた先進国に対して、「人間活動」が引き起こした気候変動のしわよせを受けやすいのは貧しい国や地域、社会において周縁化されたコミュニティーだ。その事実を前に私たちになにができるのだろうか?

過去は変えられなくても、いまを直視し、最悪の未来とは違う別の未来を想像することはできるはず。これまで「文化的な暮らし」の恵みを受けてきた私たちは、当たり前に受け取っていた「豊かさ」の定義を考え直してみることも必要かもしれない。

地球の危機の実態を知り、すでに行動を起こしている人々に学びながら、誰もが居住可能な地球のために、これからの暮らしを考える。

「人類にとっての
コード・レッド」

アントニオ・グテーレス国連事務総長

グテーレス国連事務総長は、2021年8月9日に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第6次評価報告書をこう形容した。人間の影響が気候を温暖化させてきたことは「疑う余地がない」と断定したこの報告書は、私たちへの強い警鐘だ。人間の引き起こした気候変動によって人間と自然は危機に直面している。

出典1:Sixth Assessment Report

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上昇する地球の気温

日本の年平均気温偏差
世界の年平均気温偏差

日本と世界の平均気温は変動を繰り返しながら上昇している。科学者たちは、今後数十年のあいだに温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、地球温暖化は、21世紀中に1850〜1900年水準から1.5℃および2℃を超える、と予測している(出典1)。

グラフ左:日本の年平均気温偏差の経年変化(1898〜2020年)
右:世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2020年)
(青線は基準値との偏差の5年移動平均値、赤線は長期変化傾向)
出典2:気象庁 | 日本の年平均気温
出典3:気象庁 | 世界の年平均気温

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    温暖化が地球に
    およぼす影響

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    海面上昇

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    温暖化が地球に
    およぼす影響

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    極端な高温

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    北極域の氷や雪、永久凍土の縮小

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    干ばつの増加

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    大雨や洪水の増加

さらに生態系・生物多様性や健康、農作物への影響、それに伴う食糧難の恐れ、自然災害の頻発、そして災害で住む場所を追われる気候難民の増加など、気候変動によるさまざまなリスクや被害の発生が危惧されている。

日本でも
すでに影響が。
たとえば……

大雨の日数が増えている

猛暑日や熱帯夜が増えている

米の品質低下、
果物
の着色不良が
報告されている

野生生物や植物の分布に変化が見られる。
水温上昇によるサンゴの白化現象も

出典4:環境省_「気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~」の公表について
出典5:環境省_「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について」(中央環境審議会意見具申)について(お知らせ)

叫ばれる
「気候正義(Climate Justice)

気候変動の影響はすべての国やコミュニティーにおよぶが、すべての人が等しくインパクトを受けるわけではない。先進国は大量の温室効果ガスを排出して経済発展を遂げてきたにもかかわらず、気候変動の影響による深刻な被害を受けやすいのは発展途上国だ。

また男性よりも女性のほうが災害リスクに脆弱だとされており、将来世代ほど気候変動によるリスクにさらされる。社会の不平等は気候変動によってさらに強化されてしまうかもしれない。こうした事実を背景に、気候変動の問題を人権の観点から考え、この不公正を解消しようとするのが「気候正義」という考え方。いま、世界の若者がこの言葉をかけ声に立ち上がっている。

脱炭素社会を目指す、
世界と日本の目標

  • 1.5

    に抑制

    2015年に採択されたパリ協定では、産業革命以前と比べて、世界の平均気温上昇を「2℃より十分低く、1.5℃に抑える」ことが、世界共通の長期目標として示された。産業革命以降、世界の平均気温はすでに1℃ほど上昇している。

  • 46%

    削減

    日本は世界5位の二酸化炭素排出国(2018年、出典6)。菅政権は、2021年4月、「2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減する」という目標を打ち出した。政府は容易に達成できる目標ではないとするいっぽう、46%ではパリ協定の目標達成には不十分という声もある。

2050年
カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引いて、「実質ゼロ」にすること。菅政権は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言。2050年までに「温室効果ガス排出実質ゼロ」の実現を目標に掲げている。2017年時点で、世界123か国、1地域が2050年までのカーボンニュートラルを表明している(出典7)。

わたしたちにいま、何ができる?便利な暮らしを
見直すこと、
声を上げること

たとえば

  • 国内で排出されるCO2のうち、14.6%は家庭からの排出(出典8)。なかでも電気の使用が多くを占める。節電を心がけること、電力効率の良い家電を使うことなど、家庭でできる省エネの試みはたくさんある。

  • 自動車由来のCO2排出量を減らすために、なるべく自家用車の使用を控え、公共交通機関を使う。一度に多くの人を運ぶことができる電車やバスを使ったり、近場なら自転車や徒歩で出かけてみる。

  • 畜産は多くの温室効果ガスを排出することから、肉の消費を減らすなど食生活を見直してみることも対策のひとつ。また、食品廃棄・フードロスを減らすことも温室効果ガスの抑制につながる。

  • 飲料水の供給、浄水場や下水場での水の処理、水の汲み上げなどには多くの電力を使う。水を大切にし、節水に努めることは省エネにつながる。

  • 使い捨てのものや、長く使えないものをなるべく買わない。必要以上に買わないようにする。また地球環境に責任を持って活動している企業から買うようにすることは、社会全体の意識改革につながる。

  • 再生可能エネルギーへの転換や生産体制の見直しなど、行政や大企業の動きが、社会のシステムを変えるきっかけになるよう働きかけることも必要不可欠。周囲の人と気候変動について話してみることも第一歩。



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