『嘘じゃない、フォントの話』

連載『嘘じゃない、フォントの話』(supported by モリサワ) 第6回:「タイプフェイスデザイナー」という職業

第6回「タイプフェイスデザイナー」という職業
ここまでの連載では、フォントが作られていく過程や、フォントがどのような役割を持ち、どのように使われているのかを紹介してきました。連載第6回目となる今回は、これまで紹介してきた「フォント」の制作を行い、「タイプフェイスデザイナー」として生計を立てていらっしゃる鈴木功さんと竹下直幸さんのお二人に、「タイプフェイスデザイナーという職業」について、「フォントの制作秘話」について、さらには「フォント業界の今」について、幅広く語って頂きました。
(テキスト:CINRA編集部) 連載『嘘じゃない、フォントの話』(supported by モリサワ) 第6回:「タイプフェイスデザイナー」という職業
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鈴木功
鈴木功
1967年、名古屋生まれ。1991年、愛知県立芸術大学デザイン科卒業。1993年から2000年までアドビシステムズ株式会社に勤務し、小塚明朝の制作に関わる。2001年、タイププロジェクトを設立。同年9月、デザイン誌『AXIS』リニューアルのために制作したAXIS フォントを発表し、2003年には同フォントでグッドデザイン賞を受賞する。2007年にAXIS Condensedをリリース、同フォントで2008年グッドデザイン賞を受賞。2009年にAXIS Compressedをリリース。現在「都市フォント構想」の実現に向けて活動中。
http://www.typeproject.com/
http://www.cityfont.com/
竹下直幸
1970年、埼玉県生まれ。1993年に多摩美術大学卒業後、株式会社モリサワに入社。同年開催された『モリサワ国際タイプフェイスコンテスト モリサワ賞』にて銀賞を受賞する。1997年に同社を退社後、1998年にタケノコ・デザインルームを設立。2007年には、オリジナル書体「竹」をモリサワより発表する。2006年から多摩美術大学の非常勤講師を務めている。一年間限定のブログ「街でみかけた書体」を2006年に、2009年には「世田谷でみかけた書体」展を開催。
http://d.hatena.ne.jp/taquet/

タイプフェイスデザイナーへいたる道は人それぞれ

―お二人がタイプフェイスデザインに興味を持ったきっかけとは、何でしょうか?

鈴木:僕は、大学3年生の時に漢字の構造や起源について勉強をしていたんですが、それにのめり込んでしまって、卒業してからも2年くらいずっとその勉強をしていました。でも、もちろんそれで食べていけるわけではありませんから、大学の恩師の後押しもあって、アドビシステムズ株式会社(以下、アドビ)に入社させて頂いたんです。タイプ(フェイス)デザインに興味を持ったのはそこからですね。アドビで実際にフォントの制作に携わるうちに、その面白さに目覚めてしまいました(笑)。

竹下竹下:私は小学生の頃から「かきかた」の授業が大好きだったんです。中学生までは、ずっと学年の代表に選ばれるくらいで。

鈴木:明確なルーツがあるんですね。早熟だなぁ。

竹下:そうみたいですね(笑)。だから多摩美術大学に入ってタイポグラフィの授業を受けた時に、「ああ、自分は文字が好きだったんだ」と改めて思ったし、タイプフェイスデザインという仕事があることを知って、「自分はこれをやるために多摩美にきたんだ!」と思いましたね。

―竹下さんは、その頃にはもうタイプフェイスデザイナーの道を志していたんですね。

竹下:学生の頃って、自分の将来について考えたりするじゃないですか。私は、パソコンに向かって文字をデザインしている光景が思い浮かんで、タイプフェイスデザイナーになっている自分をイメージするのが楽しかったですね。それで、1993年にたまたまモリサワでデザイナーの募集があって、採用して頂いたんです。

タイプフェイスデザイナーの登竜門だった『タイプフェイスコンテスト モリサワ賞』
―オリジナル書体を作り始めたきっかけはありましたか?

鈴木:『国際タイプフェイスコンテスト モリサワ賞』(1984年から2002年まで3年毎に開催)の存在が大きかったですね。僕は3回出していて、最初(1996年)は佳作。その後2回は落選だったのですが、宋朝体(中国の宋時代に木版印刷に用いられた書体)でチャレンジしたんですよ。それがこれです。

宋朝体

竹下:でも、どうして宋朝体なんですか?

宋朝体鈴木:僕にも明確な理由はわかりません(笑)。大学時代の恩師に見せていただいた中国の篆刻に関する本の見出しが宋朝体で組まれていて、それが素敵だったんです。とても爽やかでいいなと。今でも宋朝体が好きですから、体質的なものなんでしょうね。

竹下:99年のものと、02年のものとでは印象がガラリと変わりましたね。

鈴木:そうですね。99年に応募した宋朝体は、長体(細長い)と正体(正方形)で書体ファミリーを構成しました。字幅が広くなるにつれて、画線が太くなっていくという提案です。

―これで落選なんですか! ものすごくハイレベルなコンテストだったんですね。

鈴木:世界中から作品が集まりますし、いま見れば稚拙な表現だと思います。だけど、やっぱり宋朝体を忘れられなくて、3年後のコンテストでもう一度宋朝体をやりました。改めて前回の宋朝体を見直してみた時に「泥臭さ」を感じたので、もっと洗練された書体にしようと考えたんです。

宋朝体

竹下:モダンな印象になりましたね。

鈴木:これもまた落ちるわけですよ(笑)。その三年後に、POLAさんから新しいコーポレートスローガンに合う書体を作ってほしいという依頼をいただいて、宋朝体の案が採用されました。いまでもテレビや雑誌の宣伝広告のなかで使われています。

POLA

竹下:こんな風にパンフレットなどで使い続けられているとは知りませんでした。これは、コンテストに出した書体から変化しているんですか?

鈴木:かなり変えているんです。より直線化してシャープになっています。

竹下:すごくスマートな印象を受けました。宋朝体というよりも、ウロコのあたりが明朝体に近いですね。よく見ると、終筆の辺りにこだわりが見受けられますよね。

鈴木:はい、宋朝体と明朝体のハイブリッドと言えるかもしれません。

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