『嘘じゃない、フォントの話』

連載『嘘じゃない、フォントの話』(supported by モリサワ) 第7回:時代を映し出す欧文フォント

欧文フォントの盛衰

こんなにも数多くの種類がある欧文フォント。これらにも、音楽やファッションなどと同じように、その時代その時代で流行り廃りというものがあります。かの有名なHelveticaでさえ、あまりの人気ゆえに、敬遠された時代もあったと言います。私たちがよく目にするフォントは、どんな時代に生まれ、そして使われてきたのでしょうか? ここでは、近代以降、よく使用されてきた欧文フォントを年代別にご紹介します。
(参考文献:『欧文書体』上・下 小林章著 美術出版社)

1920年
Bodoni Garamond

産業革命以降、看板や広告に使用するために洗練された活字書体が開発されていきます。特に、人目を引く黒みの強い書体や凝ったデザインの書体が流行しました。例えば、「Thorowgood」は、当時のイギリスの代表的な書体です。また、サンセリフ体も19世紀に生まれました。現代では、本文書体としても使用されているサンセリフ体ですが、当時は見出し書体として使われる程度だったそうです。

1921 - 1940年
DIN Trajan American Typewriter

バウハウス運動やアール・デコ様式の影響で幾何学的な書体が多く作られた時代です。バウハウスの非常勤講師を勤めたパウル・レナーにより、「Futura」がデザインされました。ラテン語で“未来”を意味するこの書体は、今日でも多くのデザイナーによって使用されています。また、30年代には、イギリスの新聞『The Times』紙が新聞用に書体を開発しました。この「Times Roman」も、凡庸的な本文書体として今もなお人気のある書体です。

1941 - 1960年
Universe Helvetica Sabon

広告を中心に「Flashi」などのスクリプト体が多く使われました。そして、「Helvetica」が発表され至る所で使用された時代でもありました。「Helvetica」は、日本でも有名企業のコーポレイトロゴに使われるなど、今日も世界中で見かけることのできる書体です。また、アドリアン・フルティガー氏が「Univers」をデザイン。これは、とても有名な書体であり、デザイナーなら知っておきたい書体のひとつだと言えるでしょう。

1961 - 1980年
Frutiger  Avenir  Eurostile

フルティガー氏が空港のサイン用書体として「Frutiger」を発表しました。これは、現在も鉄道標識のサインなどに使用されています。また、この時代はヒッピー文化とともにアール・デコやアール・ヌーボーがリバイバルし、サイケデリックな書体や「Eurostile」などの近未来を思わせるSFっぽい書体が流行しました。アメリカでの有名な書体には、「I♥NY」のロゴに使われた書体などがあります。

1981 - 2000年
Myriad Optima Arial

1984年に、初代Macintosh発表。また、翌年にはMicrosoft Windowsがリリースされ、以降、パーソナルコンピュータが一般的に普及し始めます。それぞれのコンピュータにはデジタルフォントが搭載され、文字というものをモニター上で選択して使用する時代が到来しました。そして、DTPの普及と同時に活字書体が急激にデジタル化されていきました。

2001年以降
DIN Trajan AmericanTypewriter

無料で使用できるフリーフォントを活用する人が増えています。それだけでなく、有料のものでもインターネットなどで比較的簡単に購入でき、国境・文化を超えてクオリティの高い様々な文字を楽しむことができる時代になりました。また書体に関する展示や出版物が世界中でブームとなるなど、デザイナーだけでなく、一般的にも文字に対する意識が高まっていることがわかります。
こうした書体人気が続く一方で、書体の選び方や使用上の基本的なルールが軽視されるといった問題も出てきています。自由に書体を選べる環境だからこそ、それを使いこなす基礎知識を身につけておくことが必要でしょう。

文字もグローバル化が起きている!

時代とともに国際化が進み、和欧混植(和文と欧文を混ぜて使う)文章が増えました。このときに読みにくい文章にならないように、和文と欧文のそれぞれの特徴に合わせて、フォントは企画・開発されています。例えばどんなフォントがあるのか、モリサワ文研さんに聞いてみました。これを知れば、今まで感じていた文章の違和感が解消されるかもしれません。

モリサワ文研とは? もっと詳しく知りたい方は、連載第3回記事へ

欧文に合わせて作られた和文があるってホント? Helvetica に合わせて作られた「ネオツデイ」

「ネオツデイ」は、「ツデイ」から誕生した「新ゴ」のかな書体。そもそも「ツデイ」は、当時世界的によく使用されていたHelveticaに合わせた和文フォントを作ろう、という発想からスタートしました。結果的には、和文と欧文のそれぞれの行間の考え方の違いを乗り越えることができず、イメージの近い「和欧文」をセットにすることになりました。

欧文の単語は小文字が中心なので、和文中に欧文の単語が入った時に、英単語が和文に比べて小さく感じて読書視線が停滞してしまいます。これを防ぐために、「和欧文」ではエックスハイトを高く取られています。このように、「和欧文」は、あくまでも日本人の可読性を考えて開発されたものなので、外国人の方が英語の長文に使用するのには不向きだと言えるでしょう。

日本で使われている「和欧文」と「欧文」

海外で作られた「欧文」に対して、「和欧文」は、日本で開発された欧文フォント。日本人にとっての可読性を重視しており、純粋な「欧文」よりも行間が広いのが特徴です。

逆に、和文の特徴に併せて作られた欧文フォントがあった! 新ゴ に合わせて作られた「 ClearTone SG」

2009年にモリサワからリリースされた「ClearTone SG」は、和文フォント「新ゴ」に合わせて開発されました。
「新ゴ」は、システマチックな雰囲気をもつ現代的なゴシック体です。大きなサイズではインパクトがあり、小さなサイズでも可読性が高いので、公共のサインからパーソナルユースの名刺まで、広範囲に使用されています。そんな「新ゴ」ファミリーと組合せて開発されたのが、「ClearTone SG」という欧文書体です。文章の中にアルファベットや英数字を用いることが多い現代のニーズに対応し、洗練されたイメージとグレード感のあるデザインされています。

次回は?

和文、欧文・・・その他にも、世界にはハングルやアラブ文字など様々な種類の文字が存在します。現代にいたるまで、文字はどのようにして進化してきたのでしょうか。次回は、文字の発生から現代にいたるまでの歴史を紹介します。

ブックカバーコンペティション開催!

竹下フォントで楽しむ、ブックカバーコンペティション「biTA」は、フォントを使う・見る・選ぶ楽しさを、ブックカバーという普段手にするものを通してもっと身近に感じて欲しい!という願いから開催いたします。 読書にまつわるゲーテの詩「作者(Der Autor)」をレイアウトして、本を開くのが楽しくなるようなブックカバーをデザインしてください。好きなフォントを使ってデザインするのもよし、オリジナルフォントを作るもよし、あなただけのオリジナリティあふれた作品をお待ちしております!

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