『嘘じゃない、フォントの話』

連載『嘘じゃない、フォントの話』(supported by モリサワ) 第9回:どうなる?ニッポンの漢字

日本の漢字事情
テクノロジーやメディアの変化によって、混乱してしまった日本の漢字。いま、その混乱した世界を整理しようと、様々な取り組みがされています。

携帯やパソコンで表示できない漢字があるのはなぜ?

携帯電話の中に搭載されている文字数は、約8000字。その中で漢字は、約6500字あり、これが日本工業規格(JIS)の定めている文字コード規格の中の一つです。図を見てください。
同じJISコード(包摂)

それぞれの漢字に2つの字体があります。両方とも意味は同じなので、どちらを使っても大丈夫です。ただ、地名や人名はどちらでもよいというわけにはいきません。このように意味は同じだけれど字体が違う漢字を「異体字」といい、日本語において複雑なポイントです。
活字時代には、両方の漢字が活字鋳造されていたので使い分けが出来ました。携帯電話やパソコンなどのデジタル機器では、文字にJISコードが付いていないと文字として入力することが出来ません。それにもかかわらず、なかにはJISコードを付けていない漢字があります。それは、全ての漢字にJISコードを付けて識別するときりがないからです。そこで、「包摂」という考え方が誕生しました。「包摂」とは、JISでは、包摂規準を決めて、異体字の一部を、同じ文字として扱おうとするものです。

地名や人名など、どうしても使い分けたい時は…

Illustratorによる異体字切り替えほとんどのパソコンに搭載されているのは、JISコードの漢字のみ。ワードやエクセルで表示できない漢字があるのは、それが理由です。地名や人名でどうしても「包摂」の漢字を使わなければならない時、これまでは画像で埋め込むことでしかこの問題に対応できませんでした。それが、今ではソフトやOSの環境によって使い分けができるようになっています。
例えば、葛飾区の「葛」はWindowsXPだと「葛-ヒカツ」しか打てなかったのが、Vistaでは右側のカツが打てます。その秘密は、CIDコード。これは、アドビ社のプライベートコードで、それぞれの漢字に異なるコードが付けられているのです。また、Illustratorや、InDesignなどのソフトでは「異体字切り替え」という機能によって使い分けができます。プロ向けのソフトを持っていれば、CIDコードによって使い分けることが可能なのです。

時代によって付けられない名前とは?
こうした漢字をめぐる環境の変化は、私たちの名前にも関係しています。次のクイズを考えながら、「人名漢字」について考えてみましょう。
クイズ 時代によって名付けられない漢字とは…

戸籍法によって、名前に使用できる文字は、ひらがな、カタカナ、常用漢字、「人名用漢字」と決められています。このなかで「人名用漢字」は、時代ごとに数が追加されてきました。だから、時代によっては名付けることのできない漢字があったのです。先ほどのクイズを見てみましょう。上記の名前の中で、「桜」以外はすべて人名には使えない漢字でした。「茜」は1976年、「栞」は1990年に人名用漢字に追加された漢字なので、それ以降に生まれた人しか名付けられていません。よって、「栞」は20代。「茜」は30代です。[クイズの答え:C.栞(しおり)]

2004年には大幅に人名用漢字が増えました。あまりに一気に追加されたので、こうして増えた漢字にはまだJISコードが追いついていないのが現状です。JIS漢字が出来ていないと携帯電話などで表示できません。最近では、敢えて携帯電話に搭載されていない字にこだわって、我が子に名付けようとする親もいるそうです。

次回は?
連載第8回と9回を通して、テクノロジーやメディアの変化とともに文字が形を変えてきたことがわかりました。こうして環境が変わっても、人は文字を通して誰かに情報を伝え続けることでしょう。誰かに何かを伝える時に重要なのが文字の扱い方で、いつの時代も読みやすさが求められます。それには、何の情報をどこで、どんな人に伝えるか。その時々の内容に合わせてフォントを選び、文字を組むことが必要です。次回は、実際に文字を扱う「組版」について紹介します。

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