『嘘じゃない、フォントの話』

連載『嘘じゃない、フォントの話』(supported by モリサワ) 第11回目 ブックデザイナー祖父江慎インタビュー P3

第11回目 ブックデザイナー祖父江慎インタビュー PAGE3

味わって読むには明朝体、情報収集にはゴシック体

ゴシックで組まれたの文字

それでは続いて、ゴシック体についてのお話をうかがえますか?

祖父江:ゴシック体を使うのは、例えば今行っているようなインタビューであるとか、物事を記録したようなものが多いですね。それから、ブログを書籍化したものや、子どもの本などですね。一般の読み物には明朝体を使うことが多いです。またゴシック体だと、視覚障害の方でも読みやすいという特徴があります。明朝体のように文字によって太さの差があると、なんの文字なのかわからなくなる場合があります。それから雑誌もゴシックが似合いますよね。

なぜ似合うんでしょう?

祖父江:それは、雑誌が扱うのが、おもに情報だからですよ。味わって読むためには明朝体、情報収集にはゴシックが合っています。一概にはそう言えないこともあるんですが。

WEBに親しんでいる若い世代は、ゴシック体に慣れているんでしょうね。今後WEBで読める小説が増えてくると思いますか?

祖父江:うーん、もう少し機能が豊富になれば、可能性はあるよね。でも、まだ面白味が足りないような気がします。読むときの大きさも定まっていませんので。例えば文字のサイズが変わったときに、自動的に書体がチェンジするようになったりとか、モニターに応じてサイズが変わるとかっていう機能があれば良いのかな、と思います。

DTPになることで、 書体の自由度が増した

ところで、写植の時代からDTPに変わったことで、良い面、悪い面がそれぞれあるかと思います。祖父江さんは長年お仕事をされていて、どのような変化を感じていますか?

祖父江:昔はもっと面倒だったんです。送られてきた原稿をもとに、それが何行分になるのかを計算して台割を考えたりと、無駄な時間がたくさんありました。それに、書体選びも命がけでした。なぜなら、この書体でやると決めて作業を進めて、「何か違うな」と思っても変更するとなるとイチからやり直しだから慎重になりますよね。写真の大きさにしても、天地を何ミリにしてくれと指定したら、もうそこからちょっとでもサイズを変更したりすると、製版のやり直しになってしまう。

DTPになったことで検証作業もラクになり、使用できる書体の自由度が増したわけですね。

祖父江:でも始めの頃は、デジタルフォントの種類が不足していたんです。例えば1990年には、DTPで使用できる明朝体はリュウミンしかなかった。その頃にくらべると、デジタルフォントの種類が増えて便利ですね。それにデジタルであれば、仮に気に入ったものが無かったとしても、自分で作るという選択肢もあるわけですから。

祖父江さんも、自ら書体を作られたりするんですか?

祖父江:1度だけあります。でも、普通はしてないんですよ。本当に大変な作業ですから。普段は、すでにある書体をブレンドするだけです。そのまま使っても良いかもしれないんですが、異なる書体を合成すると、不思議なことに全然違って見えてくるんですよ。そうやって、その本にふさわしい書体を選び取っていくわけです。

ふさわしい書体を選び取るる

フォントは形と大きさ のバランスが大事

例えば、現在は逆にフォントがありすぎて、どの書体を使えばいいのかわからないという若いデザイナーも多いと思います。祖父江さんは、こういう書体を定番に使い始めれば良いんじゃない、といったものはありますか?

『フォントブック』

祖父江:まずは自分の好きな明朝体を決めるのが良いと思いますよ。次に、好きな明朝体を3つくらいに増やして、その違いが分かるように味わうんです。それがわかるようになるところから始めればいい。わからなければ『フォントブック』を見て、活字時代に見出しで使われていたような、太い特徴のある書体と、本文で使われていた5号系の明朝体と、多く使われるイワタ系から始めればいいかなと。基本的に、日本語の本文書体は5号から入れば良くて、全ては築地5号から始まったと思えばいいです。それが後期5号になって、写研の石井明朝オールドになったりして、ここで止まっているものと、そこから教科書体に近づいていく書体とか、チャートのように広がって行くわけですが、この流れが掴めればOKです。

なるほど。また、書体を選ぶ際の注意点はありますか?

形と大きさのバランスが大事

祖父江:形と大きさの関係が大事ですね。書体って、もともとその形が落ち着くサイズを内包しているんです。
本文書体については、読者がなじんでいる書体から遠ざけすぎないことが基本です。見出しは何でもいいけど。

サイズ感がとても重要になるわけですね。

祖父江:そうなんです。先に大きさを決めてから、次にその大きさで使える書体を決めるという順序が良いんです。だから文字と大きさの感覚を養うためには、その大きさの文字を書くことから始めれば良いと思います。例えば見出しの大きさで書けばのびのびした感じになるわけだし、キャプションのように小さく書けば懐が大きくそろった形になっていくんです。サイズと形との良い関係を把握しておけば恐くないんです。

それでは最後に、もっとこういうフォントが欲しいとか、今後求められようになるのでは、というフォントはありますか?

祖父江:そうですね、筑紫丸ゴシックの細いのが欲しいとか、そういう具体的なことになっちゃうかな(笑)。子どもの絵本用の普通にやさしい書体が足りないですね。学習用のものとかマンガ文字のようなやりすぎの書体は多くあるけど、ちょうどくらいの書体がほしいです。少しずつ増えてきてはいますけどね。あと、整理されすぎていない書体もほしいです。

祖父江さんが欲しいと思う書体が出てくるのは、そこにニーズがあるからですよね。

祖父江:うん、僕にしろみんなにしろ、まだまだ足りないという感じなんじゃないでしょうかね。今の状況では「正しい」とされているような書体しか作られないから、つまんなくなってしまっている。それを打ち破るようなフォントが、是非出て来て欲しいなと思っています。

祖父江慎インタビュー

次回は

全12回に及ぶ本連載も、ついに次回で最終回。最終回では、本連載にて開催したブックカバーコンペティション「book in TYPO Award」の結果を発表。作品を無料でダウンロードできるほか、グランプリ受賞者のインタビューも掲載します。

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