バカヤローとか言いながら THE BITE インタビュー

パンク/ハードコア・シーンで名を馳せるBREAKfAST、NIAGARA33、U.G MAN、EXCLAIMといったバンドで、確固たる地位を築いてきた4人が、原点に立ち返って結成したロック・バンド、THE BITE。これまで、コンピレーションへの参加や、カクバリズムからリリースされた7インチ、ライブCDなどで、着実に支持を集めてきた彼らが、待望のファースト・アルバム『ポケットにブルース』を完成させた。THE COLLECTORSやくるりなども手掛ける吉田仁(サロンミュージック)をサウンド・プロデューサーに迎えた本作は、ボブ・ディランから大きな影響を受けたフォーク・ロックから、パンク/ハードコアを通過したソリッドなロック・チューンまで、詩情溢れる歌詞を力強いサウンドで表現した8曲を収録。池袋のボブ・ディランとも囁かれるフロントマンの酒井と、THE BITEと並行して現在もJOHNS TOWN ALOHAでハードコアを鳴らし続けるギターの伊藤に、溢れる音楽への想いを語ってもらった。

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:柏井万作)

ギャーって叫ぶだけじゃなくて、ちゃんと歌詞を歌ってみたいなという気持ちもあったし。

―THE BITEはメンバー全員が、もともとパンクやハードコアのバンドをやられていましたけど、それがなんでロックンロールやフォークに影響を受けたバンドをやることになったんですか?

バカヤローとか言いながら THE BITE インタビュー
酒井大明

酒井:もともと全員そういう音楽も好きで、ビートルズとか、ローリング・ストーンズとか、ハードコア一辺倒だったわけじゃないんですよ。俺はボブ・ディランが一番好きなんですけど。だから自然に、もうちょっとロックよりなものもやりたくなったんですよね。俺自身、ギャーって叫ぶだけじゃなくて、ちゃんと歌詞を歌ってみたいなという気持ちもあったし。

―もともとの音楽の目覚めは、どういう感じだったんですか?

酒井:小学生のときにビートルズとかを聴いて。

伊藤:僕はマドンナが大好きでした。

―おふたりともませた小学生ですね(笑)。ビートルズとかを聴くようになって、自分でも音楽をやりたいと?

酒井:そうですね。中学のときにジョン・レノンの“Stand By Me”とかを弾けるようになったらいいなと思って。それでギターを買ってもらって、一生懸命練習したのが最初ですね。中学のときはストーンズのコピーバンドとかをやって、高校になったらラモーンズとか、ジョニー・サンダースとハートブレイカーズとか。だから、いまは高校時代に戻ったような感じですね。

―おふたりは渋谷系全盛をリアルタイムで体験した世代ですよね?(※酒井は36歳、伊藤は35歳)

伊藤:モロその世代ですね。渋谷系からグランドロイヤル(※ビースティ・ボーイズが主宰していたレーベル)へって感じで。

酒井:でも、俺はそういうのは殆どいってない。

―それはなぜ?

酒井:流行りものが嫌だったんですよ。フリッパーズギターは同じ学校の先輩だったし。まぁ、年齢はだいぶ離れてるんですけど、同じ学年の女子とかが「小山田君かっこいい」とか言ってて。「バカ、ふざけんなよ」くらい思うじゃないですか(笑)。

―なるほど(笑)。ジェラシー的な感じですね。ハードコアの目覚めっていうのは?

酒井:最初に聴いたのは中学のときなんですけど、そのときはあんまり夢中にならなくて。同級生にビースティ・ボーイズを好きなやつがいて、ちょうど俺が中学のときに『Licensed To Ill』っていうファースト・アルバムが流行ってたんですけど、そいつが「ビースティ・ボーイズは昔はハードコア・バンドをやってたんだよ」って聴かせてくれて。いま思えば、よくそんなレア盤を持ってたなと思うんだけど(笑)。

―最初はハマらなかったんですね。

酒井:高校を出てからですね。フガジ〜マイナー・スレットを聴いてからです。やっぱハードコアって、ハタチ前後とかで聴くと、すごい影響を受けるというか。ワン、ツー、スリー、フォーでギャー!!!みたいな音楽って、ないじゃないですか。政治的な思想が強いところとかも魅力的に思えるし。それですっかり夢中になって、バンドを組んで。

(ボブ・ディランは)好きに自分の音楽をやってるんですよね。しかも、それがちゃんと売れてるっていう。

―ハードコアなバンドを10年以上やっていたわけですけど、その間に別な音楽性のものはやってなかったんですか?

酒井:やってないですね。家でアコギを弾いてたら満足できたというか。それにBREAKfAST(酒井がギターを弾いていた日本を代表するハードコアバンドの1つ)って、変わったコードや進行を使ったりとか、そのとき俺がやりたかったあらゆる音楽を注入できてたので。ただ、やっぱり煮詰まるじゃないですけど、ああしたい、こうしたいみたいな欲求がどんどん出てくるわけですよ。それに俺もバンドも対応しきれなくなってきて。

―これは別にBREAKfASTでやらなくてもいいだろう、みたいな。

酒井:そうそう。そういう感じになってきて。それで俺はもうちょっと原点回帰した音楽をやろうと思って、THE BITEを始めました。

―何か原点回帰したくなったきっかけがあったんですか?

酒井:ザ・フーがきっかけかな。俺、30歳過ぎてからフーを好きになって。フーはロックのダイナミズムみたいなものを、すげーかっこよく表現していたんですよね。それでBREAKfASTを、もうちょっと歌モノに近くて、なおかつ激しいテンションが出せるようにもっていきたかったんですけど、なかなかうまくいかなくなってきて。そうこうしているうちに耳を悪くしちゃって、BREAKfASTと、もうひとつやっていたEXCLAIMっていうもっと激しいバンドをやめることにして。

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―THE BITEをやるうえで、コンセプトっていうのは?

酒井:コンセプトみたいなものは特にないんですけど、ボブ・ディランのように歌いながら、フーやレッド・ツェッペリンみたいなバンドにできたらなって。結成当初は思ってました。

―ボブ・ディランのどういう部分に惹かれるんですか?

酒井:なんか、好きに自分の音楽をやってるんですよね。しかも、それがちゃんと売れてるっていう。コロムビアから契約を切られることもなく(※70年代に一時アサイラムに在籍)、いまでもずっと続いているっていうのは、やっぱりすごいなって。表現的にも、商業的にも、うまくやっている。初期の頃は弾き語りで人気が出たんですけど、リトル・リチャードみたいなロックンロールが好きだから、やっぱエレキギター弾いちゃおうとか。それでブーイングを浴びても「関係ないっしょ」みたいな感じで、自分の好きな音楽をやって。しまいにゃバイクで事故って、隠居してる間にブルースやらカントリーやらロカビリーに根ざした音楽を適当に録音して、それを聴いたビートルズやローリング・ストーンズが影響を受けたり…(以下、約15分のディラン講座が続く)。

―授業みたいになってきましたね(笑)。伊藤さんはボブ・ディランは?

伊藤:僕はTHE BITEに入るまで、本当に有名な曲しか知らなかったです。で、いまの5倍くらい長い話を、毎回のように酒井君から聞かされて(笑)。例えばこの時期のこれがいいとか、そこから勉強していった感じです。

中学生から老人まで、読めばわかるような、やるせない気持ちを書いてるつもりです。

―曲はどういうきっかけでできることが多いんですか? 歌詞を読むと、やりきれない気持ちとか、そういうものがきっかけになってることが多いんじゃないかと思ったんですけど。

酒井:そうですね。世間に馴染めないっていうのとか、そういうやりきれない気持ちがググッときたときに、一気にバーって作る感じですかね。

―リスナーに伝えたいものとかは?

酒井:リスナーとわかりあえるというか、「君と僕」みたいな歌詞が好きなんですよ。『虹をつかむ男』という映画に、「身につまされるわ、この映画」っていうセリフがあるんですけど、それに対して西田敏行さんが「身につまされる映画っていうのが、いい映画なんだよ」って言うんです。それを見たときに、「身につまされる歌詞」がいい歌詞なんだなと思って。だから、中学生から老人まで、読めばわかるような、やるせない気持ちを書いてるつもりです。

―僕の勝手な憶測なんですけど、酒井さんはボブ・ディランとか、いろんな音楽を聴いて、「その気持ちわかる」みたいな感じで救われてきた体験があるんじゃないかと思うんですよ。

酒井:そうですね、はい。歌詞に救われたというより、曲全体に救われてるなと思うんですけど。でも、自分が音楽をやることで誰かを救いたいとかは別に思ってませんよ。たぶんディランだって、いま辛い思いをしている人を救うために曲を書こうなんて、一切思ってないだろうし。それはビートルズもストーンズも同じだと思うんですよ。

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―ディランが何を思って書いたか知らないけど、それに救われてきた自分がいるわけですよね。そういう気持ちが、自分がやる側にまわったときに自然と出てるのかなって。

酒井:そうなっちゃったんですかね。そういうふうに感じられたなら、そういうことだと思います。

―ちなみに、今日取材するにあたって、ボブ・ディランの名言集を調べたんですけど、「僕が歌を書き始めたのは、どこにも歌いたい歌が見つからなかったからだ。見つけていれば自分で作るようにはならなかった」っていうのがあって。

酒井:俺もそんなこと言ってみたいねー。

伊藤:すごい男ですねー。

酒井:意外に他人の歌を沢山歌ってるけどね(笑)。

―それって、酒井さんにも当てはまるんじゃないかと思って。

酒井:うーん、どうなんですかね。ディランが歌うようなハートブレイクソングを歌いたいとは思ってましたけど、洋楽ばっかり聴いていたので、日本語のそういう歌をあんまり知らなかったんですよね。そういう意味ではディランと一緒なのかもしれないですけど…。

―ディランが歌うようなハートブレイクソングみたいな歌詞が、日本のポップスにはなかった?

酒井:いや、たぶんあるんですよ。俺が聴いてなかっただけで。吉田拓郎の“外は白い雪の夜”とか。あれは歌いたいなと思うけど、やっぱ表現が違うんですよね、俺と。あと“言葉”っていう曲の歌詞もすごい好きだし、はっぴいえんどとか、遠藤賢司とかも好きで。特に遠藤賢司の恋愛表現は凄い好きなんですけど、ボブ・ディランのとはやっぱり違う。もちろん完全に遠藤賢司スタイルになってるから、当たり前なんですけど。

一生懸命音楽を作りたい。いろいろ挑戦したいっていうだけですからね。

―酒井さんの歌詞って、生活に密着しているというか、すごくリアリティがあるんですよね。それは、メンバーのみなさんが普段は別の仕事をしながら音楽をやっているという背景があるからこそだと思うんですけど。

酒井:いや、できるなら音楽に100%集中したいですよ。曲を作るのって、すごく大変なんです。俺は天才じゃないので。ちゃんと仕事をして家に帰ると、もう疲れて寝ちゃうんですよ。そうすると、休みのときにしか曲は書けないし。

伊藤:それがすべてクリエイティブかっていうと、そうではないんですよ。音楽に100%使えれば、それにこしたことはない部分は絶対にあります。

―でも、音楽に100%全部を使っていたら、全然違う歌詞になったと思うんですよ。いまは、普段働いてるからこそ伝わるものが出ていると思うんですよね。例えばミスチルが同じ労働者としての視点で、グッとくる曲を書くことはできないんじゃないかと。

伊藤:それはあるかもしれないですね。見てるフィールドがまたちょっと違いますし。

酒井:まぁ、例えばミュージシャンとして非常に売れて、年収が何億円になったとなれば、いまみたいな歌詞は書けないと思うんですけど、がんばって売れたとしても、音楽だけでは月収15万くらいですよ。そのくらいなら、音楽で食えるようになっても、歌詞の世界は変わらないと思います。まぁ、金持ちになりたいわけじゃないので。俺は一生懸命音楽を作りたい。いろいろな音楽に挑戦したいっていうだけですからね。

―THE BITEとしては、今後の目標みたいなものは?

酒井:来年あたり武道館?

伊藤:えっと、ごめんなさい、いまのカットで(笑)。でも、やりたいですよ、正直な話。気持ちはいつだってあります。ただ、まずはいい音楽を作って。

酒井:そう。いい音楽を作って、日本中、できるなら世界中をバン2台くらいでグルグルまわってライブをするっていうのが夢なんですけど、現実はね…、仕事の合間をぬって曲を書いて、練習して…って、それさえちゃんとやる時間がないですから。ツアーの生活をしたいですね。それだけでそれなりの収入があるような。でも、金持ちになりたいわけではなくて、それでバカヤロー(笑)とか言いながら面白可笑しく音楽生活ができたら良いですね。

伊藤:それができるんだったら、もうそれ以上のことはないと思います。

酒井:すいません。もっとデカいこと言えればいいんですけど。

伊藤:小っちゃいですよね。でも、これがけっこうリアルな意見なんじゃないかなーと。

酒井:それすら難しいからね。それができる人って、なかなかいないと思う。だから、ちゃんとそれを続けられるボブ・ディランはやっぱりすごいね(笑)。

伊藤:やっぱりそこに戻るんだ(笑)。

リリース情報
THE BITE
『ポケットにブルース』

2010年8月25日発売
価格:2,300円(税込)
felicity PECF-1022(cap-108)

1. ルックアウト
2. 彷徨っては転ぶ
3. 魔法と損失
4. トラベリンバンド
5. ポケットにブルース
6. グッバイブルース
7. 雨の中
8. 夜が降る

プロフィール
THE BITE

伊藤敬(エレキ・ギター、コーラス)、岡林"コゾウ"大輔(ベース、コーラス)、酒井大明(アコースティック・ギター、ボーカル)、長友"デヴィ"清吾(ドラムス)。2006年、元BREAKfASTの酒井を中心に、パンク/ハードコアを通じて知り合った四人が、普通のロック・バンドをやってみようと結成。バックを務めるメンバーもNIAGARA33、EXCLAIMやU.G MANなどのハードコア・バンドで長くプレイしてきた面々だけに、そのBOB DYLAN、THE BANDやNEIL YOUNGなどからモロに影響を受けたサウンドは周囲を驚かせた。YOUR SONG IS GOODのJxJxが、THE BITEのライブを初めて見た時に「脅威的に古くさい音楽だ・・・」と呟いた(笑)という逸話が物語るように、酒井の音楽への愛が詰まりに詰まった楽曲は60‘S〜70’Sの古き良き音楽を新鮮に感じさせる。カクバリズムからのデビュー7インチに続き、司会にイルリメを迎えたスタジオ・ライブ盤「RADIO WALTZ」をリリース。そして、2010年、サウンド・プロデューサーに、吉田仁(サロンミュージック)を起用し1st Album 「ポケットにブルース」をリリース。



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