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「気が狂いそう」という思いを、絵画が食い止めることもある

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「理性ある狂気」で描く心の風景 松井冬子インタビュー

インタビュー・テキスト:内田伸一 撮影:菱沼勇夫(2011/12/02)

「痛み」「恐怖」「狂気」。世間の最大公約数的な「美しさ」とは相容れないこれらのキーワードが、彼女の絵画人生の道標となってきた。古典的な日本画の技法で描かれる美しくもおぞましき世界は、どんな必然性から生まれたのか? また、才色兼備と謳われ、インタビューでも快活な彼女が抱える、孤独な「当事者分析」の道のりとは? 横浜美術館で12月17日から3月18日まで開催される大規模個展『松井冬子展 −世界中の子と友だちになれる−』に向けて制作中の画家に、「CGでは表現し得ない、アナログ的なもの」を信じるに至った道程を聞いた。

PROFILE

松井冬子
1974年、静岡県森町出身。2002年、東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻を卒業。2007年、同大学大学院美術研究科 博士後期課程美術専攻日本画研究領域修了。同大学日本画専攻の女性としては初の博士号取得者となる。主に絹本に岩絵具を用いて描く古典的な画法で、女性や花、その幽霊などを描き、内臓や身体器官もモチーフにしつつ、自己分析的に「痛み」「狂気」を絵画で追求する。
松井冬子/まついふゆこ/Fuyuko MATSUI

「自分が描いた絵、破ける?」と詰め寄られたことも

―松井さんが画家を志した最初のきっかけはなんでしょう?

松井冬子
松井冬子

松井:小学4年生のとき、学校の図書室に『モナ・リザ』が掛けてあったんです。もちろんレプリカですが、薄暗い廊下でどこに立っても彼女と目が合うのが、怖いやら美しいやらで心を奪われました。「芸術家になりたい」という思いはこのころからありました。一生をかけられる仕事だろうと思ったんです。

―自分で満足に描けた、最初の絵の記憶は?

松井:小学1年か2年生のときの、かぐや姫の絵です。十二単をまとった姿を、色鉛筆で描いたものでした。このころ、クラスの女の子に「自分で上手いと思ってるでしょ」と言われ、「そんなことないよ」と言ったら「じゃあ自分が描いた絵、破ける?」と詰め寄られて。ビリビリに破いた後、号泣した思い出もあります。

―なかなか激しい小学生時代ですね…。

松井:毎日がそんな感じだったわけではなく、いま思い出したというくらいのことですが(苦笑)。

―今回の大型個展のサブタイトル「世界中の子と友だちになれる」を考えるとき、ちょっと興味深いエピソードという気もします。このタイトルは東京藝大での卒業制作の作品名でもありますね(※その後修士課程の修了制作でもこのタイトルを採った)。

松井:はい。当時、それまでの自分の集大成を目指した1枚です。現時点から見れば「ここから始まった」という原点でもあるので、今回の個展タイトルにしました。

―満開の藤や少女など、遠くから眺めると美しい情景に感じられますが、よく見れば枝には異様な数のスズメバチがいたり、少女の指に血が滲み、虚ろな表情だったり…すでに松井さんの代名詞と言える「痛み」「恐怖」「狂気」の予感に満ちた絵に思えます。そして傍らの揺り籠はなぜか、赤ん坊が不在ですね。

松井:この絵はひとことで語りにくいのですが、ひとつには、オブセッシブ(強迫観念的)に陥っていく人間の姿を描いたものです。私自身、すごく没入して描いていました。いまおっしゃったような要素に加え、そこには怒りもあります。空の揺り籠についてですが、これは堕胎を暗示してもいます。当時は毎日、この制作に心血を注いでいて、作品を描き終えた後もしばらく他の制作ができない状態でした。

―タイトルは、逆説なのでしょうか?

松井:いえ、いまでも信じていますけれど。気合い次第で世界中の子と友だちになれるって(笑)。でも、それもある種の狂気だとは思います。

《世界中の子と友達になれる》 2002年(平成14) 絹本着色、裏箔、紙 181.8×227.8cm 作家蔵(横浜美術館寄託)
《世界中の子と友達になれる》 2002年(平成14) 絹本着色、裏箔、紙 181.8×227.8cm 作家蔵(横浜美術館寄託)


2/3ページ:怖がらせようと思って描いているわけではないんです

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