フラッシュモブってなんぞや? 三浦康嗣(□□□)インタビュー

池袋エリアの文化拠点を中心に開催される、日本最大級の舞台芸術フェス『フェスティバル/トーキョー』。今年の大きな話題の1つは、誰もが気軽に参加出来るプログラム『F/Tモブ・スペシャル』に、□□□(クチロロ)の三浦康嗣が参加することだろう。

メールやSNSを通じて集まった不特定多数の人が、街中で突如集団パフォーマンスを行い散会する「フラッシュモブ」。これまでも、劇団・ままごとの舞台『わが星』や、インタラクティブ広告『TOKYO CITY SYMPHONY』をはじめ、様々な「異分野コラボ」をおこなってきた三浦のこと、おそらく通常のフラッシュモブとは全く違う、画期的な「音楽モブ」を展開してくれるはず。総勢70名の一般参加者と第1回目のワークショップを終えたばかりの彼に、『F/Tモブ・スペシャル』参加への意気込みを語ってもらった。

そもそも、「モブってなんぞや?」ってところから始まった。まあ、頼まれたら大抵やるんですよ、僕は。

―三浦さんは□□□での音楽活動だけでなく、舞台作品の演出やインタラクティブ広告の音楽監督など、異分野とのコラボレーションを積極的にされていますが、そういったメディアミックス的なことへの興味は□□□の活動以前からあったのですか?

三浦:興味というほどのことではないんですけど、大学生の頃に陶器を作る作家さんと、サウンドインスタレーション的な作品を作っていたことはありました。小生意気で頭でっかちな大学生だったので。

―「陶器」と「音楽」ですか?

三浦:陶器を割って、その音をリアルタイムでサンプリングして、その場で音楽を作っていくっていう。歌はもちろんないし、リズムも定型的なものではない、すごくアブストラクトな音楽でした。でも、そういったことに関わるようになったのは、基本「頼まれたから」みたいなことの連続なんですよね。

三浦康嗣(□□□)
三浦康嗣(□□□)

―たとえば、劇団・ままごとの舞台『わが星』の音楽に携わった経緯もそんな感じだったのですか?

三浦:あのときも最初は、作・演出家の柴くんから「映画のエンドロールに流れるような曲を作って欲しい」って頼まれたんだけど、それじゃ面白くないなと。彼も僕と同じように作品を構造的に作る人だったから、当時制作途中だった、□□□の“00:00:00”(アルバム『everyday is a symphony』収録)のデモを聴かせたんですね。

―今回の『F/Tモブ』でも使われる曲ですね。

三浦:ええ。そのデモを、時報だけのトラック、リズムだけのトラック、ベースだけのトラックというふうに幾つかのパーツに分解して渡したんです。「これありきで戯曲も書いて、演出もやって欲しい」って。よくある「音楽と舞台のコラボ」って、一緒にやっていても「境界」が見えてしまうものが多いじゃないですか。せっかくなら境界が見えないものを作った方が面白いし、単に音楽を提供するだけなら、コラボの意味がないと思うんですよ。

―『わが星』は、第54回岸田國士戯曲賞にも選ばれましたね。

三浦:それがあったからか、その後『吾妻橋ダンスクロッシング』っていうパフォーマンス系のフェスに、何故か僕が短編の舞台作品で呼ばれたりして。そうやって自然に繋がっていくんですよね。舞台に限らず音楽にしても、自分から「やらせてくれ」って言ったことはデビューする前からほとんどなかったんです。頼まれてやってきたことの連続というか。もちろん、やるからには出来るだけ面白くなった方がいいかなって思いますけど。

―じゃあ、今回の『F/Tモブ』に関しても最初は全く白紙の状態だったんですか?

三浦:そもそも、フラッシュモブってモノ自体を知らなかったんですよ(笑)。「モブってなんぞや?」ってところから始まった。知らないことだからこそ「やってみようかな」と思える部分もあるし。まあ、頼まれたら大抵やるんですよ、僕は。

―YouTubeとかでモブの映像を見てみました?

三浦:見ましたけどすぐ飽きてしまいました(笑)。空港で突然みんなが踊りだすやつとか、商店街かどこかで音楽に合わせてオバチャンとかも一緒に踊りだすやつとか……。なんか、よく出来ていればいるほど単なるパフォーマンスになっちゃってて。PVみたいっていうかね。それはそれで否定はしないし、嫌いとかじゃ全然ないけど、もうちょっとユルい感じで出来ないかなと。

―「自分だったら、こんなふうに出来る!」みたいなアイデアはすぐ浮かびました?

三浦:その時点では特になかったです。でもそろそろ決めなくちゃいけないじゃないですか(笑)。それで何となく、「こんな感じだったらいいかなあ」とか「こうしたら面白いかも」みたいな漠然としたイメージを思い浮かべてますけどね。

参加者全員が、コード進行やフレーズを、時報の音に合わせれば、何となく音楽として成立するんです。

―先ほど『F/Tモブ』のワークショップを見学させてもらいましたが、前半は参加者70名による自己紹介が延々と続いたのでビックリしました(笑)。

三浦:僕がワークショップをやるときって、大抵は自己紹介から始まるんです。まず、その場にいる人を知らないと何をすべきか分からないじゃないですか。僕がやりたいことを一方的に押し付けるだけだったら、参加者も面白くないだろうし。参加者に面白い人がいたら、その人が前面に出てもいいと思うし。なんなら参加者が自分たちで考えてやってくれたらいいかなと。それで自己紹介から始めてみたんですけど、それだけで終わっちゃいましたね、今日は(笑)。

『F/Tモブ』ワークショップの様子

『F/Tモブ』ワークショップの様子
『F/Tモブ』ワークショップの様子

―まずは「全員で作り上げていく」っていう意識を持つところから始まるわけですか?

三浦:「人ありき」って言うと聞こえはいいかも知れないけど。でも、「個を活かす」とか言うつもりはないし、その逆でもない。変に平等ぶる気もないし。ただ、最初から「こうする」って決め込んでおきたくはないんです。

―あの自己紹介のおかげで、参加者間の距離がグッと縮まったように思いました。さっそく皆さんで飲みに行かれているみたいですし(笑)。

三浦:一見、普通に見える人でも、ああやってちゃんと話を聞くと面白いじゃないですか。だからあれは単純に、僕自身の好奇心からやったところでもあります。実際、変な人ばっかりでしたよね(笑)。それで、自己紹介を聞きながら、勝手に配役とかを決めるのが楽しいんですよ。「この人とこの人でバンドを組んで、バンド名は何々で」みたいな。

『F/Tモブ』ワークショップの様子

―(笑)。まずはディテールから入るわけですね。

三浦:そうそう。そういうのが一番楽しい。

―最初のお披露目となる、11月9日の『F/T13オープニング・イベント』が迫ってきていますが、なんとなく、『F/Tモブ』のアウトラインは決まってきましたか?

三浦:ざっくりとした流れは一応考えましたけどね。まず、“00:00:00”という曲を使うこと。会場にストリートミュージシャンに扮した人を何人か仕込んでおいて、適当に演奏していてもらう。で、見えないところに設置したスピーカーから時報を流すんです。夕方になると、普通に街で“赤とんぼ”とか流れるじゃないですか。ああいうイメージですね。時報だったら、いきなり街中で流れ出しても「まあ、そんなもんかな」って思うんじゃないかなって。

『F/Tモブ』ワークショップの様子

―「池袋って、そうだったかも……」みたいな(笑)。

三浦:で、それをキッカケに周りのみんなが一斉に演奏を始める。時報の「ポ、ポ、ポ、ポーン」っていう音って、「シ」の音なんですよ。だから参加者全員が、コード進行やフレーズを、時報の音に合わせれば、何となく音楽として成立するんです。

―今日のワークショップ後半に少しだけ試していましたよね。参加者はそれぞれ持参した楽器を自由に鳴らしていましたが、カオスなようで調和のとれた不思議な空間が生まれていました。

三浦:こういうやり方なら何となく形になるし、別にカチッと決め込まなくてもいいのかなって。あと、パフォーマンスの時間も少し遅めの時間帯にして、あんまり参加者同士の顔が見えないようにしたい。いっそう匿名的な感じも出るだろうし、やってるときの「ドヤ顔」が見えてしまうのもイヤだから(笑)。

―仕込んであるスピーカーからは時報を鳴らすだけで、それ以外の音は参加者全員が出すわけですね。

三浦:そう。バッテリー駆動のアンプとかを持ってきてもらったり。管楽器やパーカッションの人はそのままでも大丈夫ですしね。

―つまり、メインのフレーズは存在しない曲なんですね。

三浦:単純に2つのステレオスピーカーから音を鳴らしてしまったら、その時点で音の中心が決まってしまうじゃないですか。それは面白くない。「その場所全体から音が出ている」っていう臨場感を大事にしたいんですよね。池袋西口公園は円形なので、真ん中にいる人はサラウンドで楽しめるかもしれませんね。

『F/Tモブ』ワークショップの様子

―時報の音は、あらかじめ録音していた素材を使うのではなく、リアルタイムで流す予定ですか?

三浦:おそらく普通に携帯電話から「117」にかけて、それをスピーカーで流す予定です。今日、ワークショップをやりながら思いついたのは、その携帯電話の番号を、その場所付近やウェブサイトで告知しておくのはどうかなと。で、電話をかけてきた人には電話口で歌ってもらう。いきなり人前で歌うのは恥ずかしいけど、電話なら少しは気軽ですよね。時報が流れているスピーカーから「もしもし」って声が突然入ってくるのも面白そうだし。どういうテーマで歌ってもらうかとか、細かいことはまだ全然考えていないんですけど。

みんな携帯から時報を鳴らしてくれるだけでもいい。それだけでも参加している気分を味わえるじゃないですか。

―ワークショップで三浦さんはピアノを弾かれていましたが、時報の「シ」に合わせて音を出せば、音楽としてユルく成立するっていうのは、本当に面白いアイデアだなと思いました。

三浦:あくまでも「ユルく」がいいんですよね。ただ、どこかで「シュッ」としている部分は必要だから、それをどうするかが今後の課題ですね。さっき言った、電話で歌ってもらうというのはいいアイデアかもしれない。

―電話口で歌う、というアイデア以外に何か浮かんでいることはありますか?

『F/Tモブ』ワークショップの様子

三浦:参加者全員で、携帯から一斉に時報を鳴らしてみたらどうなるんだろう? っていう、個人的な興味はありますね。あとは、二手に分かれて別々の場所でモブを始めて、その後合流したらどうなるだろうって思っています。池袋西口公園で本隊がやっていて、そこに別動隊が流れてくるっていう。それぞれが時報に合わせて演奏しているから、別の曲を奏でていても、ちゃんと自然に繋がるんじゃないかって。


―それは、すごく面白そうですね。フラッシュモブは、「観客が観ることも参加することも出来る」とか、「日常空間が、突然非日常空間に変わる」とか、その辺がいわゆる普通のパフォーマンスとは違うと言われていますが、三浦さんはどんなふうに捉えていますか?

三浦:でも、実際に自分がその場に遭遇したら、参加せずにそのまま素通りしてしまうかもしれませんね(笑)。「ああ、なんかやってんなー」って。たとえばYouTubeでモブを見ると、映像作品として優れているものはありますけど、実際にその場にいる人には全貌は見えないわけですよね。最初から目撃しているとも限らないし。まあ、それがいいところなのかも知れないけど。

―三浦さんの考えている音楽モブは、「その場にいたら全貌が見えない」というモブの特徴を逆手に取ったパフォーマンスになりそうですね。参加する場所、時間によって、曲の聴こえ方も全く違うだろうし、演奏する曲もカッチリ決めないことで、最初から聴いてなくても、最後まで聴かなくても楽しめる。

三浦:そうですね。モブとはいえ、完成された曲を演奏するだけだったら、参加する人にとっても「自分事」にはなりにくい。だけど、時報の音とリズムに合わせて、参加者それぞれが自分の音を出すことから生まれる音楽だったら、もうちょっと「自分事」として引き寄せられるかもしれないですよね。まあ、通りすがりの人がどこまで参加してくれるかは分からないけど、そこはまあ、あまりねらい過ぎるのも良くないかなって思っています。

―足踏みするだけとか、手拍子だけとか、そういうリズムの一部として参加するだけなら、わりと敷居は低そうな気がします。

三浦:僕ね、フラッシュモブって、ちょっとファシズム的なものを感じるんですよ。大勢の人による統制されたパフォーマンスで公共の場をジャックするわけだし。だから今回の『F/Tモブ』では、その感じをなるべく消したくて、薄暗い時間帯にやりたいっていうのもそういう理由があるんです。週末の夕方、明日のことを考えながら歩いている人たちが、「あ、なんか気持ちいいな」って思ってくれるようなものにしたい。ほんの少しだけ、「自分事」として感じられるものになったら充分じゃないかなと。

『F/Tモブ』ワークショップの様子

―これまでのフラッシュモブとは違う、画期的なものになりそうですね。

三浦:うーん、画期的というところまでいくかどうか。あと3つ4つミラクルなアイデアが浮かんで、それが全部実現出来たらそうなるかもしれないですけど(笑)。さっきの電話のアイデアがうまくいったら良くなりそうな気がします。っていうか、みんなが携帯電話で時報を鳴らしてくれるだけでもいい。それだけでも参加している気分を味わえるじゃないですか。

―携帯電話から時報を鳴らすだけなら、本当にいつでも誰でも参加出来そうですね。今回の『F/Tモブ』の中では、最も参加の敷居が低く、実はフラッシュモブのもっとも本質的な部分に迫ったパフォーマンスになるのかもしれません。

三浦:ああ、確かにそうですね。全然、自分では意識してなかったんですけど。でも、やるからにはそうなったらいいなって思います。

―ところで、誰かから電話がかかってきたら三浦さんが取るんですか?

三浦:そのつもりです。イタ電とかかかってきたら面白いんですけどね(笑)。そしたら僕が対応しますよ。

―それこそ現代芸術でいうところの「ハプニング」ですよね(笑)。

三浦:うん。それを面白く出来るかどうかは腕の試しどころだし、そういうのもモブっぽいじゃないですか……モブっぽいのか?(笑) ともかく、そういう「ハプニング」も混じり合って、当日ミラクルが生まれたらいいですね。

イベント情報
『F/Tモブ・スペシャル』

2013年11月9日(土)〜12月8日(日)毎週土、日曜日
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場、池袋西口公園、サンシャインシティほか
参加アーティスト:
近藤良平(コンドルズ)
古家優里(プロジェクト大山)
三浦康嗣(□□□)
矢内原美邦(ニブロール)
料金:無料

『フェスティバル/トーキョー13』

2013年11月9日(土)〜12月8日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 池袋 池袋西口公園
※実施プログラムはオフィシャルサイト参照

プロフィール
三浦康嗣(みうら こうし)

□□□(クチロロ)主宰。スカイツリー合唱団主宰。作詞、作曲、編曲、プロデュース、演奏、歌唱、プログラミング、エディット、音響エンジニアリング、舞台演出……等々を一人でこなし、多角的に創作に関わる総合作家。平井堅、m-flo、土屋アンナ、坂本美雨、MEG、私立恵比寿中学等様々なアーティストの楽曲、リミックスや様々なCM音楽、今年の『カンヌ広告祭サイバー部門』銀賞受賞した『TOKYO CITY SYMPHONY』の音楽監督、岸田戯曲賞受賞作『わが星』の音楽担当、音楽劇『ファンファーレ』の音楽・演出等々。□□□最新アルバムは3月にリリースされた『JAPANESE COUPLE』。



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