青葉市子×マヒト・NUUAMM、迷子になる贅沢さを思い出す

二人が並んで歩いている。平日のオフィス街。ふらふらとした足取りで進む青葉とマヒトの背中を眺めながら、私たちの周りだけ時間がゆっくり流れているような錯覚におちいった。当初、レコード会社の会議室で取材する予定だったが、天気がいいので少し散歩をして、近くの公園で話をしようということになったのだ。公園に着き、小さな池に面した芝生に腰をかけた。青葉が鳴き真似で池の野鳥を呼び寄せる。今度は時間がふわっと膨らんだ。

「NUUAMM(ぬうあむ)」とは何か。青葉市子とマヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)による音楽ユニットである。ただ、このたびリリースされる同名のアルバムを聴き、さらに二人の話を聞いていると、それは「NUUAMM」という場所の名前であり、時間であり、そこに行くための呪文のようにも思えてくる。

小さい頃に砂場でぐちゃぐちゃ砂をいじってたら、山ができて、それを今度はお城にして喜んでいる感じ。それが私たちにとっての音作りであるし、時間の過ごし方なんです。(青葉)

―お二人でユニットを始めるきっかけは何だったんですか? もともと下津光史さん(踊ってばかりの国)も入れた「おばけ」としての活動もあったと思うんですが。

マヒト:初めて二人で音を録ったのはいつだっけ?

青葉:今年の4月かな。

マヒト:ちょうどその頃、おばけの全員がけっこう調子悪かったんですよ(笑)。(青葉)市子はマネジメント事務所をやめて、一人で全部やらなきゃいけない状態になって、オレはオレで音楽活動のことで悩んでて……。二人とも、自分で何でもやれるという、ある意味「自由」な状態なのに、ちょっと落ち込んでたんです。でも、「ホントはこの自由さをもっと肯定できるはずなんじゃないか? そういうふうに音楽をやってみよう」と考え始めたのがきっかけですかね……って、ここまで言って大丈夫かな?

青葉:もちろん。事実だもん。

―青葉さんもマヒトさんも、もともと自由で自然体な音楽活動をされている印象はありました。

青葉:うーん……たしかにわりと自由にさせてはもらっていたんですけど、いろんな人と会っていくうちに、自分の中に可能性が眠っていることを自覚して、表現する方法やアイデアがもっとあるなって気づき始めたんです。それを実現させていくために、さらに自由になる必要があったんです。

マヒト:今回のアルバム『NUUAMM』も、何か完成形を求めてそれに寄せていくとか、このアルバムを作ってどうしたいとか、そういう目的があったわけではなく、ただ砂場で好きに遊んでいるうちにできた感じなんですよ。PAのけんたろうとナンシーに手伝ってもらって、ひとまず四人で目的を決めずに、ただ音を鳴らして、録ってみようって。

―実際、曲はどんなふうにできることが多いんですか?

マヒト:オレが曲を持ってきて、市子にメロディーと詞をのせてもらったり。

青葉:“なつばくだんふゆだるま”は、私が1番の歌詞だけを書いて、朝にメールで送ってスタジオに行ったら、マヒトが「2番作ってみたよ」って歌詞を見せてくれて。それで、その場で3番も作って、すぐに録っちゃった。そうやって、小さい頃に砂場でぐちゃぐちゃ砂をいじってたら、山ができて、それを今度はお城にして喜んでいる感じというか。誰も迎えにこない砂場で、延々そういうことをして遊んでいる感覚ですね。それが私たちにとっての音作りであるし、時間の過ごし方なんです。

左から:マヒトゥ・ザ・ピーポー、青葉市子 撮影:木村和平
左から:マヒトゥ・ザ・ピーポー、青葉市子 撮影:木村和平

―どの曲も二人の持ち味が溶け合っていて、どこまでが青葉さんでどこからがマヒトさんでっていう感じがしないです。

青葉:そう言ってもらえると、うれしいですね。

―やっぱりフィーリングが合うんですか?

マヒト:最初に市子と会わせてくれたのは下津なんですよ。ステップウェイっていう、もうなくなっちゃった代々木のスタジオで。そのときから市子の言葉とかがしっくりくる感じはありましたね。

青葉:多くの時間会話したわけではないんですけど、お互いの作品だったり、歌詞の言葉だったり、曲だったり、普段の生活で見ている光景とか、そういうものにわりと近いところがあって、すぐにぎゅっと接近したように思います。その後も、約束もなしに会えたりするんですよ。選ぶ場所が同じだったりして。

マヒト:偶然会ったタイミングで、最近作っている曲を聴かせたり、歌ってみたりっていうコミュニケーションがありましたね。それって今までの自分にはなかったものだったので、いまだにすごく新鮮です。その結果で、できたアルバムだと思います。

「純粋さ」だけで世に出る作品って、なかなかない気がするんです。もちろんこのアルバムも、外に出す時点でいろんな要素が入ってはくるんですけど、作っていたときの純粋な気持ちは最後まで大事にしました。(マヒト)

―青葉さんとマヒトさんと、あとPAのお二人だけで制作するとなると、外からのプレッシャーもないでしょうし、かなり自由な環境ですよね。そういう場合、ややもすると「ゆるさ」が出てしまうこともあると思うんですけど、『NUUAMM』に関してはそういう甘さが一切ないのがいいな、と。

青葉:作っているときには、「他の人からこの作品をどう見られるのだろう?」っていうのはまったく眼中になかったですけどね。

マヒト:外から見たカタチを意識したのは、エンジニアのキムケン(木村健太郎)さんにマスタリングをお願いするあたりからだったね。

青葉:そうだね。木村さんのスタジオはホントにいい場所でした。ドカーって大きな駐車場があって、穴蔵みたいな場所で。

マヒト:秘密基地っぽいんですよ(笑)。

青葉:廃墟っぽくもある(笑)。重そうな扉をキーッて開けて、そろそろっと歩いていくと、奥のほうに木村さんがドシッと座っているんです。ああ、この人に預けたら安心して世に出せそうだなって気持ちになりました(笑)。実際、マスタリングをしてもらったものを受けとったときに、初めてこの作品はこれからどんなふうに外の世界と関係していくんだろうっていう興味が湧いてきて。

―ジャケットのイラストを近藤聡乃さんにお願いしたのは?

NUUAMM『NUUAMM』ジャケット
NUUAMM『NUUAMM』ジャケット

マヒト:もともとオレがファンで、聡乃さんの絵は、市子のイメージともすごくあうだろうなと思って話をしたら、市子の家にも近藤さんの本があったんです。

青葉:マヒトから近藤さんの話を聞かせてもらったときに、「えっ、これ!?」って本棚から出したら、「そう、それ!」って(笑)。

マヒト:聡乃さんの絵って、子どもとも大人とも見分けがつかないような、男か女か、怒ってるのか1人ぼっちなのか、全てがぼやけてわからないような感じがいいなって。

―それって、まさにNUUAMMの音楽にも通じるイメージですね。

青葉:そうなんです。だから、ジャケットは聡乃さん以外に思いつかなかったんですよ。聡乃さんはニューヨークにいらっしゃるから、まずはCDと手紙をお送りしたんです。そしたらすぐにお返事をくれて、ぜひ描きたいと言ってくれて。

マヒト:すべてが自然な流れでしたね。無目的……っていうと違うのかもしれないけど、こういう「純粋さ」だけで世に出る作品って、なかなかない気がするんです。もちろんこのアルバムも、外に出す時点でいろんな要素が入ってはくるんですけど、作っていたときの純粋な気持ちは最後まで大事にしました。聴く人にも、そこがフラットに届けばいいなと思っています。

NUUAMM(撮影:木村和平)
撮影:木村和平

やっぱりみんな死に向かって老いていくわけで、それは決まっている。そのゴールに対して、どれだけ寄り道できるかっていうことを小さい頃からずっと考えていて。(マヒト)

―ちなみに「NUUAMM」というユニット名はどの段階で?

青葉:夏の終わりかな。だいたい曲が出揃ってきた頃ですね。メールをやりとりしているときに、マヒトが「夜をぬう 朝をあむ」っていうフレーズをポンと出してきて、「あ、これだ」と。それで私が、英語で「NUUAMM」と返したら、「それだね」って言ってくれて決まりました。

マヒト:なんかキャラクターの名前っぽくて気に入ってます(笑)。

―朝と夜のスキマだったり、“時間の墓場”っていう曲だったり、アルバム全体を通してそういう無時間性が印象に残ったんですよね。もっと言うと、この『NUUAMM』というアルバム自体、いつの時代に聴いてもきっと居場所があるようなタイムレスな魅力がある。

マヒト:さっき砂場遊びの例えを出しましたけど、子どもの頃に砂場でお城とかを作っているときの時間って、単なる時計の時間とは違う特別な流れがあったじゃないですか。他にも、公園から家に帰るとき、ちょっと1本違う道に入って、5分で帰れるところを30分かけて帰っちゃう贅沢さとか、そのときに鼻歌を歌いたくなる感じとか。ああいう時間の感覚を大事にしたくて。

―いまって目的地への最短距離が簡単にわかってしまってそれ以外の選択肢が選びにくいから、5分で帰れるところを30分かけて帰るっていうのはすごく贅沢なことですよね。そこをいくと、お二人は迷子の才能があるというか、いつもふらふらしてる(笑)。

青葉:フフフフ(笑)。

マヒト:すぐにボツって言われたけど、最初は『輝かしい迷走』っていうアルバムタイトルも考えていたんです。

青葉:えっ、そんなのあったっけ?

マヒト:「固いからダメ」って。

青葉:ホント? ごめん、記憶にない(笑)。

マヒト:たぶん市子の琴線に触れなかったんだ(笑)。

左から:青葉市子、マヒトゥ・ザ・ピーポー

―でも、意味としてはよくわかりますよ(笑)。

マヒト:やっぱりみんな死に向かって老いていくわけで、それは決まっている。そのゴールに対して、どれだけ寄り道できるかっていうことを小さい頃からずっと考えていて。オレがやってるレーベルの名前が「十三月の甲虫」っていうんですけど、それも12月31日と1月1日の狭間にある時間のことを指してるんですよね。そういう寄り道ができる時間や場所でいろいろ遊べたらなって思っていて、NUUAMMもそのひとつなんです。

青葉:目には見えないけど、本当に戻るべき場所を知っているからこそ、あえて迷子になれるというか。私もそういう表現を、NUUAMMに関わらず、ずっと続けていけたらいいなと思っていて、その感覚はマヒトと共有できていると思います。

マヒト:うん。ホントはそれって普通のことだと思うしね。

「キレイなものをキレイと思う」とか、自分が当たり前に感じることが理解されないっていう気持ちをずっと抱えていたんです。(マヒト)

―マヒトさんは大阪から東京に出てきて、バンドもソロもやっている。今の音楽業界の中でいろいろと考えていることがあると思うんですね。その中でNUUAMMの活動はどう位置づけているんですか?

マヒト:たしかにいろいろと考えていることはあります。アウトプットの方法がいくつかあることは、自分にとってすごく重要です。最初はGEZANっていう切り口しかなくて、すべてのアイデアをそこに集中させていたけど、今はいろんな形態で試せる。いろんな活動の場において、一つひとつ荷を下ろすことで、どんどんシンプルになっていく感じなんです。ただ、NUUAMMについて言えば、そういう作業ともまったく切り離すことができました。立ち位置云々ではなく、NUUAMMはオレにとって深呼吸みたいなものです。

―やっぱりNUUAMMは、マヒトさんにとってあくまでとても純粋なものなんですね。青葉さんはマヒトさんのことをどう見ていますか?

青葉:そうだなぁ……私は今までいろんな人とご一緒する機会があって、それぞれに私のできることを引き出してもらってきました。それで、2013年の初めかな? 下津っちゃんがマヒトと会わせてくれたんですけど、今まで他の人から感じたり、受けとってきたりしたものよりも、マヒトからもらうインプットの量が圧倒的に多かったんです。マヒトの感性が私の中に入ってきたというよりは、私の中にもともと同じような感覚があって、それがすごく引き出された感じでした。

NUUAMM 撮影:木村和平
撮影:木村和平

―「同じような感覚」というのは?

青葉:例えばGEZANの音楽って、私の弾き語りとは真逆といっていいスタイルですけど、根底に流れているものは同じだなと。わかりやすい言葉でいうと、キレイなものを素直にキレイと思う気持ちとか、花が咲いている場所を知っていることとか。あと言葉にはならないですけど、約束もなしに会える偶然ってなかなかないですよね。通常のコミュニケーションとは別に、もうひとつの何かが通ってるんだと思います。

マヒト:最初に市子と会ったとき、何を話すでもなく、アコギを弾いてみたら、勝手に市子が歌詞を乗せてきて、フリースタイルで曲ができたりして。そんなふうに朝までずっと歌ったんです。それがすごく象徴的な出会い方だったというか、NUUAMMも基本的にそういうリズムの中でやっていますね。

青葉:だれにも急かされることなく、自分たちのリズムでね。

マヒト:そういう同じ感覚とか、言葉で約束しなくても会えちゃう感じとか、放っておいても滲んでしまう色とかを大切にしたいんですよ。むしろ、それ以外のことは重要じゃないとすら思っています。例えば、市子が言ったみたいに「キレイなものをキレイと思う」とか、自分が当たり前に感じることが理解されないっていう気持ちをずっと抱えていたんです。だから、そこを翻訳しないでもわかってくれる人がいるんだっていうのがすごく新鮮。

青葉:私も、ずっと一人で弾き語りをやってきたので、こんなに濃密に人と関わるのは初めてのことなんです。刺激物みたいなところもありますね(笑)。まだ会って2年くらいですけど、マヒトのことを近くで見ていて、彼は日に日に感度が増していると思います。それに対して負けたくないとも思うし、なるべく近い景色を見ていきたい。マヒトが見落とすような部分も拾って共有したいし、それはお互いやっていくことでもありますね。ソウルメイトでもあり、戦友です。

NUUAMM 撮影:木村和平
撮影:木村和平

最近は音楽のフィールドよりも、舞台や小説をやっている人から刺激をもらうことが多いですね。それから世に名前が出てなくても、身近にいる友人たち、例えば服を作っている人とかからエネルギーをもらうことのほうが多いかも。(青葉)

―そんなふうに刺激を受けることで、青葉さんの活動の幅も広がってきているように見えます。

青葉:自分が表現として一番濃密に出せるものは音楽や歌詞だったりしますけど、もっとそれを総合芸術的に出せていけたらなと。先日も藤田貴大さん(マームとジプシー)が演出した舞台『小指の思い出』に音楽で参加したんですけど、やっぱり面白くて。

マヒト:藤田くんみたいにそんなに年も離れてない人がいい作品を作っていることは、ホント刺激的だよね。

青葉:最近は音楽のフィールドよりも、舞台や小説をやっている人から刺激をもらうことが多いですね。それから世に名前が出てなくても、身近にいる友人たち、例えば服を作っている人とかからエネルギーをもらうことのほうが多いかも。

―音楽以外のことも見ているから、音楽活動における自由を真っ直ぐ見つめていられるのかもしれませんね。NUUAMMは今後どうなっていくのでしょう?

マヒト:今後のことかぁ。単純にイベントに呼ばれてライブをしていくって感じは湧かないもんなぁ……。

―たしかに(笑)。

マヒト:ずっと引き合いに出してきた砂場で遊ぶことと同じで、どんなカタチを作ってもいいのかなって。

青葉:またいつでも遊びたくなったらね。

マヒト:ずっとそうあるべきだと思っていたからね。音楽活動を始めてからまだ5年ぐらいですけど、「やっぱり間違ってないんだ」って思えるものをカタチにできたことが本当にうれしいです。

リリース情報
NUUAMM
『NUUAMM』(CD)

2014年12月10日(水)発売
価格:2,500円(税込)
十三月の甲虫 / jsgm-011

1. さっぴー
2. もうみどり
3. 時間の墓場
4. なつばくだんふゆだるま
5. 冷光のまゆ
6. れい
7. 鬼ヶ島
8. 深海の人
9. 真夜中のテレビ

イベント情報
NUUAMMライブ

2014年12月13日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 原宿 VACANT

2014年12月18日(木)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:大阪府 梅田 Shangri-La

2014年12月19日(金)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:京都府 UrBANGUILD

NUUAMM
Tシャツ「NUUAMM」(チャコール)

価格:3,240円(税込)
青葉市子とマヒトゥ・ザ・ピーポーの新ユニットによるオリジナルTシャツ

プロフィール
NUUAMM (ぬうあむ)

青葉市子とマヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)によるユニット。2014年12月、1stアルバム『NUUAMM』でデビュー。マヒトゥ・ザ・ピーポーは、2012年よりうたいはじめ、2013年に自主レーベル「十三月の甲虫」より宅録1stアルバム『沈黙の次に美しい日々』をリリース。うたと向きあい様々なミュージシャンとコラボしながら都内を中心に活動中。青葉市子は、17歳からクラシックギターを弾き始め、2010年1月1stアルバム『剃刀乙女』でデビュー。これまで、細野晴臣、坂本龍一、小山田圭吾、七尾旅人、U-zhaanなど錚々たるアーティストたちと、作品やライブで共演を果たしてきた。



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