金子ノブアキが清水康彦と実体化した究極に美しいライブを語る

通算3枚目のソロアルバムとなる『Fauve』をリリースした金子ノブアキ。RIZEやAA=などで響かせる野性味溢れるイメージとは異なり、より内省的でシアトリカルな音像を特徴とする彼のソロプロジェクト。そこで大きな意味を持っているのは、その映像表現だ。もはや金子のソロプロジェクトにとって欠くことのできない存在となっている映像ディレクター・清水康彦。同じく1981年生まれである二人は、「Fauve=野獣」と名づけられた本作で、果たして何を描き出そうとしているのだろうか。そして、6月2日、金沢市民芸術村パフォーミングスクエアを皮切りに、全国5か所で行われるホールツアーで、彼らはどんな空間を生み出そうとしているのだろうか。さらには、その最終日、6月16日の東京EXシアターで共演することが決定しているパフォーマンス集団「enra」とは? 2009年に本格的に始動して以来、着実に進化し続けている彼の音楽世界とその変遷、さらには「チーム・金子ノブアキ」が、この先目指すものについて、金子ノブアキと清水康彦に語ってもらった。

ドラムと照明だけでPVを撮ってみようっていう話になって、パーンとその後の道筋が決まった。(金子)

―5月11日にリリースされた3枚目のソロアルバム『Fauve』は、これまでソロでやってきたことの延長線にありながらも、PABLO(Pay money To my Pain)くんがギターで全面的に参加するなど、よりアグレッシブで開かれたアルバムになりましたね。

金子:そうですね。前作『Historia』(2014年)を作った時はライブをやってなかったんですけど、今はツアーもして、イベントにも出るようになったので、それが一番大きな違いですよね。

清水:前は、もっと「作品集」みたいな感じだったよね? 僕が参加した頃は、あっくん(金子)が一人で完結させている世界があって、あとは映像だけが必要っていう状態だったというか。

金子:うん。でも「作品集」みたいなところから、一旦ライブの世界に足を踏み込んだら、もう戻れないわけで(笑)。今回のアルバムは、制作、リリース、ライブを一通り経て、見せ方を逆算して作った部分もあるんですよね。

―ある程度、ライブを想定しながら作ったアルバムであると。

金子:そうですね。もともと僕が一人で作り始めたものだけど、今は映像や照明、音響も含めて、一つのチームができている感じなんです。清水くんと“Historia”のPVを撮った時に、ドラムと照明だけでやってみようっていう話になって。あれでパーンとその後の道筋が決まったというか、「あ、これをライブでやればいいんだ」って思えたんですよね。

清水:あのPVは、絵コンテまでは、ドラムが正面を向いていたんですけど……ピアノの弾き語りとかって、ピアニストが横を向いていたりするじゃないですか? あっくんが「俺、あれと同じようにやりたい」って言い出して。

金子:そのほうが、照明もきれいなんじゃないかって思ったんですよね。動きのシルエットも大きく見えるし。その後ライブをやり始めた時も、横向きでドラムをセットするようになって。だから、今考えると、“Historia”はすごく大きかったですね。

左から:金子ノブアキ、清水康彦
左から:金子ノブアキ、清水康彦

あっくんは、ピアノソナタならぬドラムソナタみたいなものを、いつかきっと見せてくれるんじゃないかって。(清水)

―そもそも二人は、いつ頃からの付き合いになるのですか?

金子:いちばん最初に仕事をしたのは、“オルカ”(2009年『オルカ』収録)のPVを作った時ですね。スタッフから、僕と同い年で面白い監督がいるっていう話を聞いて、会って話してみたら、映画、音楽、あとスポーツとか、青春時代に通ってきたものが結構似ていて。作りたいものや、向かっている方向も、似ているように思ったんですよね。それで、一緒にやってみることにして。今は家族で一緒に焼肉とかにも行くっていう(笑)、友達ですね。

―『オルカ』をリリースした頃って、金子さんが役者の仕事を積極的にやり始めた頃でしたよね?

金子:『ブザービート』っていうドラマに出たり、映画『クローズZERO II』に出たり、AA=のサポートもその頃からスタートして。だから2009年っていうのは、すべてがいっぺんに始まった年なんですよね。その時に、自分の名前で出す作品を初めて作って。どうなるかわからないところや不安もあったけど、新しく旗揚げしてやっていくことの気持ち良さにも、だんだんと気づいてきて。あの年にソロをやり始めたのは、結構大きかったですね。

金子ノブアキ

―その始まりから、清水さんは見ていたわけですね。

清水:そうですね。ただ、『オルカ』の頃は、そこまで「ドラマーの金子ノブアキ」っていう感じではなかったんですよね。僕が会ったのは、「いちアーティストの金子ノブアキ」だった。だから、“オルカ”のPVでも、ドラムを叩いているシーンは撮らなかったし。

金子:ドラムも作品のひとつの要素みたいな考え方だったよね。生のドラムっていうのは空間を作る楽器だから、そこが一番、骨になるとは思っていたけど。

清水:あっくんの場合、自宅のパソコンで作品を作っていて、それをポンと渡されるんです。だから、バンドマンというより……。

金子:宅録野郎みたいな?

清水:そうそう(笑)。ただ、前作『Historia』を聴いた時に、やっぱりあっくんはドラムだなって思ったんですよね。ひょっとすると、本人以上に僕が強く思ったのかもしれない。彼は、ピアノソナタならぬドラムソナタみたいなものを、いつかきっと見せてくれるんじゃないかっていう。それで僕が熱望して、“Historia”のPVで、あっくんにドラムを叩いてもらったんです。

金子:そうだったね。

清水:いざ撮ってみたら、さっきあっくんが言ったように、「これでライブいけるんじゃん?」みたいな感じになったので、やっぱりライブをやっていくべきだって言って、去年の4月に渋谷WWWで初めてライブをやったんです。僕は彼の生み出す音楽を外側から見て、その世界観を考える役割なんですよね。

―その時、すでに映像を使ったライブ表現にトライしていましたよね。

清水:そうですね。“オルカ”のPVでも、あっくんの身体にプロジェクターで映像を当てたりしているので、そこから派生したというか。映像でいろんなことをやって、それがライブで実体化していく部分が、だんだんと出てきているんですよね。

金子:そういう流れの中で、ライブのフォーマットが、だんだん研磨されて、すごく独特になってきていますね。

僕はやっぱりドラムでライブをやるべきだって思った。(金子)

―音楽はもちろん、映像を用いたライブなど、金子さんがソロでやろうとしていることを改めて説明すると、どんな感じになるのでしょう?

金子:ひと言で説明するのは難しいけど、やっぱり音楽に夢を見ているってことなんじゃないですかね。すべてはロマンでしかないんですよ。何か人とは違う、新しいことをやってみたいっていう。

清水:そうだね。

金子:あと、ソロで表現する上で、自分の中に何があるのかって考えてたんですけど、高校時代から周りに、いろんな形で表現をやっている友人がいっぱいいたのも関係しているのかなって。歌舞伎の中村勘九郎くんも同級生だし、ソロを本格的にやる前に、同級生のバレエダンサーたちがやる舞台の客入れの音楽を作ったこともあって。

―音楽という表現だけではなく。

金子:そう。僕の中に自然にあったものっていうのは、そういう高校時代のコミュニティー感というか……バンドカルチャーだけではないものだったんですよね。みんな大人になって、そのコミュニティーがそのまま仕事の現場になり得るんだっていう。“オルカ”のビデオも、もともとは同級生のバレエダンサーと一緒にやろうと思っていたんですけど、そいつが怪我しちゃったので、代わりにコンテンポラリーダンサーの鈴木陽平くんを紹介してもらったり、清水くんも含め、新しい出会いもあって。だからソロに関しては、縁で繋がって転がりながら、ここまで来ているようなところがあるんですよね。

金子ノブアキ

―なるほど。

金子:一人でパソコンで音楽を作るのも、エンジニアの草間(敬)さんと一緒にプログラミングするのも楽しいんですけどね。今回のアルバムは、僕の中での「全部乗せ」じゃないですけど、自分を構成するものを総動員して作ったというか。だからこそ、やっぱり独特なものになりました。ただ、さっき清水くんも言っていたけど、“Historia”のPVを作った時に、僕はやっぱりドラムでライブをやるべきだって思ったんですよね。20年ぐらいドラムをやってきて、ここから先、人に向けて何かをパフォーマンスするなら、やっぱりこれだろうって。

―覚悟みたいなものができたんですか?

金子:ちょうどその頃、父(ドラマーのジョニー吉長)が他界したんですけど、すごく解放された感じがしたんですよね。父が亡くなったのは、もちろん悲しいし、寂しいことなんだけど、どこか清々しいような……。「次は、俺だ」というか、背中をボーンと押された気がして。だから、ドラムというところに、素直に力むことなく着地できたんですよね。

―金子さんのソロは、トラックメイカーとしてのメンタルの部分と、ドラマ―としてのフィジカルの部分が、入れ子状になっていて面白いし、すごく映像的な音楽ですよね。

清水:ああ、それは僕も思いますね。

金子:最初のソロ仕事が、劇伴だっていうのも関係しているのかな? 僕の事務所の役者さんが作った短編映画に音楽をつけたんですよ。あとは、世代的に1990年代が青春時代なので、ジム・ジャームッシュの『デッドマン』(1995年)におけるニール・ヤングみたいな、かっこいい映画のかっこいいサントラに、すごく影響を受けているんですよね。だから、映像的な音楽っていうのは、本質的に好きだし、得意だったりもするんです。

左から:金子ノブアキ、清水康彦

清水:あと、実際に映画の現場を知っていることも大きいんじゃないかな。映像的な世界観というか、風景として音楽を感じることができるというか。その感覚って、他のミュージシャンには、あまりないような気がする。あっくんのライブは、映画を観ている時のような気分になることがあるから。

―広がりがありますよね。

清水:それに今回のツアーの準備と並行して、僕が監督したお笑い芸人の永野さんのDVD『Ω』に、「俳優・金子ノブアキ」として出てもらって。「手から光を出す魚屋さん」っていう作品だったんですけど(笑)、音楽を軸にして色んな表現の幅を持つ、今後の金子ノブアキプロジェクトの可能性を感じますよね。

あっくんもenraも、普段やっている活動から、自分たちをより拡張して表現できるんじゃないかって思う。(清水)

―ライブの話が出ましたが、今回のツアーは、映像的には、何か新しいチャレンジを考えていたりするのですか?

清水:これまでPVやライブでやってきたことの集大成にしたくて、打ち合わせの段階で、キーワードとして「enra」(6名のパフォーマーによる、映像とライブパフォーマンスを融合したパフォーミングアーツカンパニー)が出てきたんです。それで今回一緒にやることが決まって。

清水康彦

―enraとはもともと繋がりがあったんですか?

清水:それが実は、enraが僕の知り合いの知り合いだったことがわかって。声をかけたら興味を示してもらえたので、とりあえず会いましょうかっていう流れになって……。

金子:それで、enraの演出家の花房(伸行)さんに、ライブに来てもらったんですよ。最初に会った時から、ちょっと意外なくらい、すごく盛り上がってくれて。

清水:すごくエキサイトしてたよね(笑)。

金子:うん。「こんにちは、何か一緒にやりましょう!」「やったー!」みたいな(笑)。すごく話が早かった。それで、一緒に“Firebird”の映像を作ってみたら、たまたま衣装も似ていたりとかして(笑)。違和感がまったくなくて、すごい良かったんですよね。

―そこから、今回のツアーの東京公演に出演することが決まったと。

金子:そうですね、最終公演だけ一緒にやれることになって。

清水:今までやってきたことをギュッと形にしてくれる存在が、enraだったんですよね。あっくんが普段ライブでやっている感じを変えるのではなく、違う世界と融合した時にその世界観が拡張する感覚を、みんなが共有していたんだと思います。

―「拡張」って、面白いですね。

清水:だから今回、あっくんもenraも、それぞれの表現をお互いがより拡張していくんじゃないかなって思っているんです。

金子:やることは変わらないけど、それが良いものになるっていう確信はあるんですよね。だからこそ、こうやってトントン話が進んでいったんだろうし。打ち合わせの内容も、「どういうことをやりましょうか?」とかじゃなくて、「どのタイミングでスクリーンを出しますか?」とか、いきなりテクニカルな話で(笑)。また新しい仲間が増えた感じがしました。

金子ノブアキ

何かが確信に変わってきている感じが、今、すごくある。だからこそ、観たら絶対何かを感じてもらえると思う。(金子)

―今回のツアーは、通常の音楽ライブではなく、ある種のアートや総合エンターテイメントとしての空間になりそうですね。

金子:そうですね。その定義づけが、なかなか難しいところではあるんですけど。

清水:前回のツアーの時は、肉弾戦の現場になるんじゃないかと思っていたんですよ。だけど実際やってみたら、僕らが思っているよりも、お客さんは舞台やアートとしてライブを楽しんでくれたところがあったんです。

金子:実際にライブをやってみるまで、そのへんが僕たちにもわからなくて。モッシュとかが起きたわけじゃないけど、何か熱いものはフロアから感じていて。これはちょっと面白いなっていうことで、今回は椅子席の会場にしたんですよね。

―今回のツアーは全部椅子席のホールなんですよね。

金子:イベントに出る場合は、道場破り的にバッと出て行くのが効果的なんですけど、ワンマンでやる場合は、もうちょっとおもてなしの要素があるというか、お客さんに気持ち良く観てもらって、音楽、映像、照明の世界をじっくり共有したい部分もあるんですよね。

清水:前回のツアーを通じて、なんとなくお客さんに椅子を求められているような気がしたっていう(笑)。

金子:やっぱり座って観てもらうことって、より対個人になるってことだと思うんですよね。それぞれの中で広がっていくものを、臆せず投影してもらいたいというか。モッシュとかダイブが起こるライブって、まわりの人とグチャグチャに混ざり合うことで何かを共有していくんだと思うんですよ。座って観る場合は、それとはまったく逆に近いけど、何かを共有するっていう意味では、同じ気がするんですよね。

左から:金子ノブアキ、清水康彦

―1対1の関係が無数にあるというか。

金子:そうそう。だから、それぞれ感じたことを、それぞれ持ち帰ってもらいたい。演奏する僕らは、アグレッシブにやる時もあれば引く時もあるし、それこそ音が鳴ってない時も、音楽だったりするので。そこで一人ひとりの心に何が残せるかっていう。きっと、すごく深いところにいけるんじゃないかなって思います。

―金子さんのキャリア的にはもちろん、新しい形のエンターテイメントとしても、興味深いライブになりそうですね。

清水:ここでしか観られないものがあるっていうことを、ちゃんと明確にしていけたらいいなって思いますね。

金子:ライブでの強度も含めて、腹の据わった段階になってきていて。何かが確信に変わってきている感じが、今、すごくあるんです。だからこそ、たくさんの人に観てもらいたいし、観たら絶対何かを感じてもらえると思いますね。

リリース情報
金子ノブアキ
『Fauve』(CD)

2016年5月11日(水)発売
価格:2,700円(税込)
VPCC-81874

1. awakening
2. Take me home
3. Tremors
4. Garage affair
5. Firebird
6. blanca
7. Lobo (Album ver.)
8. Icecold
9. Girl (Have we met??)
10. dawn
11. The Sun (Album ver.)
12. fauve

イベント情報
『金子ノブアキ Tour 2016“Fauve”』

2016年6月2日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:石川県 金沢市民芸術村 パフォーミングスクエア
料金:4,500円

2016年6月3日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:福岡県 イムズホール
料金:4,500円

2016年6月13日(月)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪府 梅田 AKASO
料金:4,500円

2016年6月14日(火)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 愛知県芸術劇場 小ホール
料金:4,500円

2016年6月16日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 六本木 EX THEATER ROPPONGI
出演:enra
料金:5,000円

プロフィール
金子ノブアキ
金子ノブアキ (かねこ のぶあき)

1981年、東京生まれ。JESSEと共にバンド・RIZEを結成。その随一のドラムセンスが高い評価を受け、2002年に史上最年少でドラムマガジンの表紙、2005年にはパールドラムのバナー広告をChad Smith(RHCP)、Joey(SLIPKNOT)に並びに日本人で初めて飾る。2009年にはソロ活動も開始し、今春3rdアルバム「Fauve」をリリースし全国ツアーを開催。また、俳優としても数々の話題の映画やドラマ、CMに出演し際立った存在感で魅了。

清水康彦 (しみず やすひこ)

映像ディレクター。AKB48、嵐、GLAY、桑田佳祐、KREVA、斉藤和義、Superfly、SPECIAL OTHERS、チャットモンチー、マキシマム ザ ホルモン、RADWIMPS、LAMAなどのPVを手掛けるほか、TVCM、ファッション映像など様々なジャンルで活躍。2012年、MVA最優秀監督賞・BEST DIRECTOR 受賞。文化庁メディア芸術祭出展。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 金子ノブアキが清水康彦と実体化した究極に美しいライブを語る

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて