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変化から3年。舞台芸術祭『F/T』の見所を記者会見から探る

『フェスティバル/トーキョー16』
テキスト
萩原雄太
編集:野村由芽、飯嶋藍子
変化から3年。舞台芸術祭『F/T』の見所を記者会見から探る

実験演劇の聖地ポーランドから「聖人」の異名を持つ巨匠が初来日

日本で最大級の演劇フェスティバル『フェスティバル/トーキョー』(以下、『F/T』)は、2009年の開催から今年で9回目を迎える。毎回、世界中から先鋭的なアーティストたちが来日し、刺激的な作品を上演してきた『F/T』は今回、「境界を越えて、新しい人へ」というコンセプトを提示した。いったい、「境界」とはどんな意味を孕んでいるのだろうか? そして、「新しい人」とは何を意味するのだろうか? 記者会見の模様から、その行方を探ってみよう。

記者会見の様子
記者会見の様子

合計で16の主催演目がラインナップされている今年の『F/T』。なかでも、メインプログラムとして注目を集めているのが、ポーランドの演出家・クリスチャン・ルパによる『Woodcutters ― 伐採 ―』だ。日本にはあまり馴染みのないポーランドのアートシーンだが、演劇界においては、演出家のタデウシュ・カントルやイェジー・グロトフスキなど世界の実験演劇をリードする才能を輩出しており、寺山修司や鈴木忠志をはじめとする演劇人にも少なからぬ影響を与えてきた。そんな、ポーランドシーンで、カントルやグロトフスキとならんで「聖人」の異名を持つルパが、73歳にして、念願の初来日を果たす。

クリスチャン・ルパ『Woodcutters ― 伐採 ―』(写真:Natalia Kabanow)
クリスチャン・ルパ『Woodcutters ― 伐採 ―』(写真:Natalia Kabanow)

今回上演される『Woodcutters ― 伐採 ―』は、ドイツ語圏を代表する作家・トーマス・ベルンハルトが実話を元に描いた作品。2014年にポーランド国内の演劇賞を総ナメにし、昨年の『アヴィニョン演劇祭』(南フランス・アヴィニョンで開催される演劇を中心としたフェスティバルで、約9万人の演者、観客が集まる)をはじめ、中国やスペインでも上演され、各国で賞賛を浴びてきた。

自殺した女優の葬儀後に開かれた「アーティスティックディナー」の会場で、エゴにまみれた芸術家たちが激しい怒りをぶつけ合うというそのストーリーと、4時間20分という規格外の上演時間からも、『Woodcutters ― 伐採 ―』が凡百の作品とは似て非なることがわかるだろう。

ルパは、著書『ユートピア2――貫通』にて、「私は演劇を通して何を語ろうとしているか――私がそれを知っていたためしはない」と記し、演劇とは「思想ではなくプロセス」であり、「不可解な予感を発酵させる行為」だと語る。世代や国境という境界を越え、いったい私たちはどのような「予感」を発酵させることができるのだろうか?

インターネットが無効にした「境界」を浮かび上がらせるアーティストたち

2014年以降、「境界線上で、あそぶ」「融解する境界」と、「境界」をテーマにしてきた『F/T』。グローバル化、インターネットが生み出したフラット化などにより、これまで自明のものと信じられてきた宗教、人種、国籍、ジャンルなどは無効化されつつある。そんな時代的な背景を「境界」という言葉に託し、これまで、ジャンルや世代、国籍を越えたアーティスト同士のコラボレーションを積極的に行ってきている。

左から:ピョトル・ルツキ(演劇学者、ヴロツワフ・ポーランド劇場文芸部長)、市村作知雄(『F/T』ディレクター)
左から:ピョトル・ルツキ(演劇学者、ヴロツワフ・ポーランド劇場文芸部長)、市村作知雄(『F/T』ディレクター)

フェスティバルディレクターの市村作知雄によれば、今回は「境界」シリーズの最後を締めくくる年となる。そして、そんな「境界」の未来に対して、切実な問いを投げかけるのがマレーシアのアーティストたちだ。

マレー系・中華系・インド系の民族を中心に構成される多民族国家マレーシアは、グローバル資本への参加や国内の格差是正などに積極的に取り組んでいる。『F/T』では、そんなマレーシアにおいて、社会の矛盾や葛藤を浮かび上がらせる活動を行っている4組のアーティストたちを招聘した。

インスタントカフェ・シアターカンパニー『NADIRAH』(写真:Sesha Kalimuthu)
インスタントカフェ・シアターカンパニー『NADIRAH』(写真:Sesha Kalimuthu)

「多言語」「信仰」などのテーマを深く見つめたインスタントカフェ・シアターカンパニーの『NADIRAH』や、スポーツを通じて民族の境界を描く『BONDINGS』、実験精神にあふれた振付家・ダンサーであるリー・レンシンのダンス公演『B.E.D.(Episode 5)』、さらに、マレーシアの政治を風刺したカードゲーム『POLITIKO』に至るまで、多様な作品の形態がマレーシアの「境界」を浮かび上がらせるだろう。

劇場を飛び出して、池袋のカフェや公演で上演する「まちなかパフォーマンスシリーズ」

さらに注目したいのが、今年から開始される「まちなかパフォーマンスシリーズ」。このプログラムでは、劇場を飛び出して、池袋各所のカフェや公園などで舞台作品が上演される。

チェルフィッチュは、営業中のカフェの中で、女優が地球や天地創造を物語る『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』を上演。日常のすぐ隣で演劇が行われるというこの作品に、これまでの「舞台芸術」という固定観念は覆されるはず。

チェルフィッチュ『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』 ©おおいたトイレンナーレ実行委員会(写真:Yasunori Takeuchi)
チェルフィッチュ『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』 ©おおいたトイレンナーレ実行委員会(写真:Yasunori Takeuchi)

また、若手の筆頭劇団として名前が挙げられる範宙遊泳の山本卓卓が立ち上げたソロプロジェクトのドキュントメントは、STスポットや、TPAMディレクションでの上演が好評を呼んだ『となり街の知らない踊り子』をあうるすぽっとのホワイエにて上演する予定だ。劇場を飛び出し、街の中でゲリラ的に行われるこのプログラムから、劇場と都市との境界を越えようとする『F/T』の野心が見えてくるはずだ。

ドキュントメント『となり街の知らない踊り子』(写真:Ryuichiro Suzuki)
ドキュントメント『となり街の知らない踊り子』(写真:Ryuichiro Suzuki)

その他にも、ドイツの振付家セバスチャン・マティアスによる「都市のグルーヴ」をテーマとした『 x / groove space』や、今年でファイナルとなる『フェスティバル FUKUSHIMA!@池袋西口公園』、マレビトの会による『福島を上演する』など多彩なラインナップで舞台芸術と社会の「現在」を切り取る『F/T』。市村が記者会見で投げかけた以下の問いは、「これから」を模索する上で深く響いてくるかもしれない。

セバスチャン・マティアス『 x / groove space(写真:Katja Illner, デザイン:Shinpei Onishi)
セバスチャン・マティアス『 x / groove space(写真:Katja Illner, デザイン:Shinpei Onishi)

『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』(写真:菊池良助)
『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』(写真:菊池良助)

「多様性や多民族といった言葉は対立構造を前提とする話です。しかし、私はその先を見てみたい。冷戦構造が崩壊し、物心ついた頃からすでにインターネットを駆使していた若い人たちは、対立構造をそのまま受け取っているのでしょうか?」

この2年間、『F/T』は境界で遊び、境界を溶かしてきた。では、それを越えた先に待っているのはどのような風景なのだろうか? この秋、フェスティバルを目撃することによって、その端緒が掴めることを期待したい。

イベント情報

『フェスティバル/トーキョー16』

2016年10月15日(土)~12月11日(日)
会場:東京都 東京芸術劇場、あうるすぽっと、にしすがも創造舎、池袋西口公園、森下スタジオ ほか

『Woodcutters ― 伐採 ―』
2016年10月21日(金)~10月23日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
翻案・美術・照明・演出:クリスチャン・ルパ
作:トーマス・ベルンハルト

パク・グニョン × 南山芸術センター
『哀れ、兵士』

2016年10月27日(木)~10月30日(日)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと
作・演出:パク・グニョン (劇団コルモッキル)

ドーレ・ホイヤーに捧ぐ
『人間の激情』『アフェクテ』『エフェクテ』

2016年12月9日(金)~12月11日(日)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと
構成・振付:スザンネ・リンケ

『x / groove space』
2016年11月3日(木・祝)~11月6日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
振付・構成:セバスチャン・マティアス

イデビアン・クルー
『シカク』

2016年10月21日(金)~10月29日(土)
会場:東京都 にしすがも創造舎
振付・演出:井手茂太

『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』
2016年10月15日(土)15:00~20:00
2016年10月16日(日)13:00~18:30
会場:東京都 池袋西口公園
総合ディレクション:プロジェクト FUKUSHIMA! + 山岸清之進

マレビトの会
『福島を上演する』

2016年11月17日(木)~11月20日(日)
会場:東京都 にしすがも創造舎
作・演出:マレビトの会

アジアシリーズ vol.3 マレーシア特集

インスタントカフェ・シアターカンパニー
『NADIRAH』

2016年11月11日(金)~11月13日(日)
会場:東京都 にしすがも創造舎
作:アルフィアン・サアット
演出:ジョー・クカサス

『B.E.D. (Episode 5)』
2016年11月12日(土)~11月13日(日)
会場:東京都 江東区某所
(受付場所:SAKuRA GALLERY)
構成・演出・振付:リー・レンシン

ASWARA - マレーシア国立芸術文化遺産大学
『BONDINGS』

2016年11月4日(金)~11月6日(日)
会場:東京都 森下スタジオ
コンセプト:BONDINGS クリエイティブチーム
作:スリ・リウ
講師・演出:ウォン・オイミン

『POLITIKO』
2016年11月8日(火)~11月12日(土)
会場:東京都 森下スタジオ
講師・コンセプト:ムン・カオ

北京発・カルチャーから見る現代中国

FM3
『Buddha Boxing』

2016年12月2日(金)~12月3日(土)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと ホワイエ
演出:FM3

まちなかパフォーマンスシリーズ

『ふくちゃんねる』
2016年10月27日(木)~10月30日(日)
会場:東京都 南池袋公園内 Racines FARM to PARK
作・演出・出演:福田 毅

『うたの木』
2016年11月10日(木)~11月13日(日)
会場:東京都 豊島区庁舎 10階 豊島の森
振付:森川弘和、村上渉
音楽:吉田省念
出演:
森川弘和
村上渉
吉田省念

ドキュントメント『となり街の知らない踊り子』
2016年12月1日(木)~12月4日(日)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと ホワイエ
脚本・振付・演出:山本卓卓

チェルフィッチュ
『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』

2016年12月2日(金)~12月5日(月)
会場:東京都 南池袋公園内Racines FARM to PARK
作・演出:岡田利規

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