レポート

トレモノ、馬喰町バンドら、多彩な音楽で自由に踊らせた無料企画

テキスト
天野史彬
撮影:小田部伶 編集:山元翔一
トレモノ、馬喰町バンドら、多彩な音楽で自由に踊らせた無料企画

男クサさ溢れるロックバンド、CRAZY WEST MOUNTAINの痛快さ

今月も、音楽アプリ「Eggs」とCINRA共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が、渋谷O-nestにて開催された。93回目の開催となったこの日は、シューゲイザーから民族音楽まで、出演した5組5色のサウンドが夜を彩った。

トップバッターは、メンバー全員が1991年生まれの5人組、CRAZY WEST MOUNTAIN。昨年11月、渋谷 CHELSEA HOTELで開催されたワンマンライブをソールドアウトし、勢いを増している彼らが鳴らすのは、怒髪天や四星球にも通じるような、男クサさが匂い立つ、今や珍しいほど全力投球なロック。

CRAZY WEST MOUNTAIN
CRAZY WEST MOUNTAIN

“全力オフサイド”や“セカンド童貞”という曲名さながら、「男」という生き物の情けなさと生き様が気持ちいいほど実直にメロディーとリズムから溢れ出る。昨今のシティポップ勢のクールさやお洒落さとは無縁。しかし、<男なら男らしく>なんて歌詞をキャッチーなメロディーと共に、声を高らかに歌うCRAZY WEST MOUNTAINのスケールのデカさは、今の時代だからこそ、とても痛快だ。

CRAZY WEST MOUNTAIN

正しさも間違いも、情けなさも優しさ醜さも、全部ひっくるめて、みんなでデカい声で歌っちまえばいい。最後に演奏されたOasisばりにスケールの大きな“曙”を聴き終えたとき、「あ、今こういうのが聴きたかったんだなぁ」と、胸がすく気持ちになった。

ギターとMacBookを駆使した「一人バンド」、arko lemming

続いて登場したのは、toldのベーシストにして、ドレスコーズや0.8秒と衝撃。のサポートとしても活動するなど、多彩な顔を持つミュージシャン、有島コレスケの一人バンド、arko lemming。ギター、MacBook、ループペダルを駆使し、ステージの中央で一人、音を重ね合わせ、独創的な音世界を産み出していく。

arko lemming
arko lemming

ループする美しいメロディーと、ハウスやダブステップなどを昇華し、多様に展開するリズム、そして、その均衡を破壊するように掻き鳴らされるギターノイズ。彼が1月にリリースしたアルバム『S P A C E』は、「OUTER」と「INNER」という2枚のディスクによって構成される作品だった。そこには、一人の人間が持つ「外側」と「内側」を、どちらかを否定するのではなく、その両方が存在する矛盾を肯定し描こうとする有島の意志があったのだろう。

この日も、美しい旋律と不協和音を同時に奏でる彼の姿からは、人間が本来持つ複雑さを受け入れる、アーティストとしての誠実な在り方が見てとれた。ギターを掻き鳴らすその姿にも、「人」という存在への無上の優しさが滲んでいるようだった。

arko lemming

「蒼さ」を掻き鳴らしたFor Tracy Hydeの切実な想い

続いては5人組バンド、For Tracy Hyde。疾走感溢れるアンサンブル、光の洪水のようなギターサウンドの中央で歌う美しいボーカリスト・eurekaの無垢な歌声が、光の中を貫くように真っ直ぐ響く。

eureka
eureka

彼らのプロフィールには「21世紀のTeenage Symphony for God」という謳い文句があるのだが、これは1990年代を中心に活躍したアメリカのギターポップバンド、Velvet Crushのアルバム『Teenage Symphonies to God』(1994年)に由来しているのだろう。Velvet Crush以外にも、イギリスのRideやTeenage Fanclubなど、90年代初頭には「蒼さ」をギターに託し鳴らす名バンドがたくさんいたが、For Tracy Hydeは、その血をこの2017年の日本に受け継ぐ存在だ。

90年代からロックの世界で大きく語られるようになった「シューゲイザー」と呼ばれる音楽性の語源は、まるで靴を見つめるように俯き、ひたすらギターノイズを掻き鳴らすプレイヤーの姿からきているが、それは世界の喧騒を遮断し、その繊細な感性と甘美なピュアネスを守りながら生きる若者たちの武器だった。ステージ上でクールに佇みながらも、押し殺すことのできない叫びを音に託すように演奏するFor Tracy Hydeの姿には、汚されたくないものを守りながら生きようとする若者たちの切実さがあった。

For Tracy Hyde
For Tracy Hyde

「新しい踊り方」を発見させる民族音楽集団、馬喰町バンド

4番手は、「ゼロから始める民族音楽」をコンセプトに活動する3人組、馬喰町バンド。歴史や伝統と切っても切り離せないはずの民族音楽を、あえて「ゼロから」始める。そのスタンスからは、音楽とは、歌い継がれ、伝搬していく先で「今」生きる人々の生活の中で響いてこそ輝くものなのだ、というバンドの意志を強く感じる。

基本的に屋外での演奏が多い馬喰町バンドにとって、貴重なライブハウスでの演奏だったこの日は、アイヌの伝統音楽をもとに産み出されたという楽曲“konkon”で、とてつもなく難しい手拍子をオーディエンスと共有しようとしていた。その光景が、本当に素晴しかった。「難しい!」「わからない!」と言いながらも、なんとかリズムに合わせて手拍子を試みるオーディエンス。この「わからない」という感覚こそが希望なのだ。

馬喰町バンド
馬喰町バンド

聴いたこともないリズムを理解しようとすること。その先で、自分の中の新しい踊り方を発見すること。この「歴史」から「未来」を学ぶ瞬間の幸福にこそ、馬喰町バンドの鳴らす民族音楽が瑞々しく、そして喜びに満ちて生きている理由があるのだろうと強く感じた。

馬喰町バンド

喜怒哀楽、その全てが尊いと教えてくれるトレモノの解放感

そして、この日のトリを務めたのは、石垣島や西表島など、沖縄の離島出身のメンバーによる4ピースバンド、トレモノ。「シティポップ」ならぬ「アイランドポップ」を標榜する彼らのサウンドは、50~60年代のポップスやラテンミュージック、さらにはカントリーなどを飲み込んだ雑食的なもの。

その雑食性の芯は、踊れるときにも立ち止まるときにも、笑顔のときも泣き顔のときも、その瞬間瞬間、あらゆる感情を抱くことのできる人の感性の「自由」の中にこそ、「幸福」を見つけ出す意志の強さだ。1曲目“会いに行くよ”から、トロピカルなリズムと陽気に刻むギターに乗せてアッパーな空気がフロアを包むが、トレモノは「笑顔にならなきゃいけない」なんてオーディエンスを縛りつけはしない。その柔軟なサウンドが「自由」そのものであるように、音楽に包まれる人の気持ちすら自由へと解放してくれる。「喜怒哀楽」、どれだって宝物なのだと。

トレモノ
トレモノ

これはきっと、沖縄の離島から東京へ出てきて、夢を抱きながら音楽活動をしている、そんな彼らの生き様が、まるで「旅人」のようなスタンスのもとに成り立っているからこそ生まれる解放感なのだろう。こんなにも自由に幸福を定義づけてくれるバンドが、この時代にいることの喜びを噛み締めるように、この日のフロアは大きな盛り上がりを見せていた。

トレモノ

トレモノの幸福に満ちたパフォーマンス、あるいは馬喰町バンドの「発見」と共にあるダンスやarko lemmingの「人間」という存在への肯定、さらにFor Tracy Hydeの純粋性への希求に、CRAZY WEST MOUNTAINのガハハと笑えるスケールのデカさ。この日の『exPoP!!!!!』はとにかく自由だった。それぞれのアーティストが、それぞれの中にある祈りも欲望も、その全てを肯定して音楽を鳴らしている。その自由さが、とても心地のよい夜だった。

イベント情報

CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume93』

2017年1月26日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
arko lemming
For Tracy Hyde
トレモノ
馬喰町バンド
CRAZY WEST MOUNTAIN
料金:無料(2ドリンク別)

CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume94』

2017年2月23日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
Lee&Small Mountains
Qaijff
TENDOUJI
yule
caino(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール

CRAZY WEST MOUNTAIN
CRAZY WEST MOUNTAIN(くれいじー うぇすと まうんてん)

東京・大阪を中心に活動する東京の5人組ロックバンド。90'sオルタナを沸騰とさせるグルーヴィーでミクスチャーなサウンドを基盤に音の幅を広げ音楽と言葉で遊ぶ面白可笑しい奇想天外なクレイジーワールド。若き(脂ぎった)男達の青春の1ページや欲望・希望、そして、込み上げる思いをシュールさも織り交ぜ全力でぶつけた珠玉の曲達。力強く独特でキャッチーなメッセージとアグレッシブなライブには中毒性が有り、その世界は実に楽しい。2016年は年間自主企画『クレイジーアカデミー』を立ち上げ、11月に渋谷チェルシーホテルにて行われたワンマンライブ『クレイジーアカデミー~卒業式~』もSOLD OUTし、超満員で幕を閉じた。

arko lemming
arko lemming(あるこ れみんぐ)

有島コレスケが全ての作詞作曲、演奏を一人でこなす一人バンド「arko lemming」。2015年11月に1stアルバム『PLANKTON』をリリース。2017年1月11日には2枚組の2ndアルバム『S P A C E』のリリースを控える。自身が所属するバンド・toldのベースとして活動する一方、ドレスコーズではベースとして0.8秒と衝撃。ではドラムとしてサポート活動を行う。曾祖父は白樺派の文豪、有島武郎。祖父は黒澤明監督『羅生門』で知られる名優、森雅之。

For Tracy Hyde
For Tracy Hyde(ふぉー とれいしー はいど)

eureka(Vo)、夏bot(Gt)、U-1(Gt)、Mav(Ba)、まーしーさん(Dr)による5ピースバンド。2012年秋、夏botの宅録プロジェクトとしてU-1と共に活動開始。Twitterでメンバーを集めMavとまーしーさんが揃う。2014年、ラブリーサマーちゃん(Vo)が加入し、女性ボーカルの5ピースバンドとして原形が出来る。同年5月に初の自主制作CDとなる1st EP『In Fear Of Love』を全国各地のレコード店にて無料配布。配信も含めて3000部近く配布し話題となる。同年8月には2nd EP『Born to be Breathtaken』をライブ会場限定にてステッカー、バッジ形態で販売、同時にiTunesで配信しオルタナティブチャートで最高4位を記録。2015年5月、ラブリーサマーちゃん脱退に伴い、新ボーカリストにeurekaが加入。シューゲイザーや渋谷系、60年代から現在までの様々な音楽を自由な発想で取り込み、中高生から「Creation Records」にリアルタイムで触れた40~50代まで、幅広いリスナーの日常に彩りを添える「21世紀のTeenage Symphony for God」を作り出す。

馬喰町バンド
馬喰町バンド(ばくろちょうばんど)

「ゼロから始める民俗音楽」をコンセプトに結成された3人組。懐かしいようでいて何処にもなかった音楽を、バンド形式で唄って演奏する。日本各地の古い唄のフィールドワークや独自の「うたあそび」を元に奇跡的なバランス感覚で生みだされる彼らの音楽は、わらべうた・民謡・踊り念仏・アフロビート・世界各地のフォークロアが、まるで大昔からそうであったかのように自然に共存する。2015年9月に4thフルアルバム『遊びましょう』を、2016年11月9日に5thアルバム『あみこねあほい』を「HOWANIMALMOVE」よりリリース。勢力的に活動中。

トレモノ
トレモノ

沖縄県石垣島出身の木田龍良(Vo,Gt)、仲間全慶(Ba)と西表島出身の難波良(Gt)の3人からなるバンド。2009年、東京にて結成。2013年、タワーレコード主催オーディションにてグランプリを獲得し、同年7月に1stミニアルバム『TropiCarnival』をリリース。同作は全国のタワーレコード・スタッフがまだ世間で話題になる前のアーティストを、いち早くピックアップする「タワレコメン」にも選出される。2014年5月に2ndミニアルバム『Paradise A Go Go!!』をリリース。2016年には自主レーベルを立ち上げ、3月に1st EP『Traveler's High』をリリース。そして同年9月に2nd EP『Traveler's High 2』をリリースし、キャリア史上最大規模となるツアーを開催。これまで、SUMMER SONIC、Greenroom Festival、New Acoustic Camp、What a Wonderful World!!など全国各地のフェスにも出演するなどライヴバンドとして高みを目指すアイランドポップバンド。

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