SHE IS SUMMERの撮影に潜入。ミュージックビデオの作り方とは

ネットを通じてリアルタイムに音楽やビジュアルワークを発信&共有できる今の時代において、音楽に関わるアーティストやクリエイターにとってミュージックビデオは、一気に世界観を知らしめることができる重要なツールだ。ピコ太郎の“PPAP(Pen-Pineapple-Apple-Pen)”を挙げるまでもなく、世界的ヒットが動画コンテンツから生まれる例は、枚挙にいとまがない。

今回、SHE IS SUMMERとBABY-Gがコラボしたミュージックビデオの撮影現場に潜入させてもらった。監督は、映像ディレクター・藤代雄一朗が担当。一本のミュージックビデオがどのようにできあがるのか、その流れや、実はアーティストやクリエイターたちがこだわっているポイントなどを教えてもらった。

一本のミュージックビデオは、どんな流れでできあがる?

4月某日、都内某スタジオ。この日行われていたのは、昨年4月より活動をスタートし、高感度な音楽ファンから熱視線を集め続けているMICO(ex.ふぇのたす)によるソロプロジェクト・SHE IS SUMMER(以下、SIS)のミュージックビデオ(以下、MV)撮影だ。2nd EP『Swimming in the Love E.P.』に収録される、フレンズ / nicotenのひろせひろせと共作した、別れの後の風景を描いた切ないポップソング“あれからの話だけど”が、BABY-GとコラボしてMV化されることになった。

都内某スタジオにて。撮影風景
都内某スタジオにて。撮影風景

監督を務めるのは、水曜日のカンパネラのブレイクの引き金となった“千利休”“マリー・アントワネット”“シャクシャイン”やライブ撮影などを手がける映像ディレクター・藤代雄一朗。SISとは昨年、“とびきりのおしゃれして別れ話を”のMVで初コラボ。SISのライブ撮影も手がけており、SISとMICOの魅力を知り尽くしている。

撮影前に、打ち合わせをする。アーティストと監督のあいだでイメージを共有

MVの撮影方法はアーティスト、監督によってコンセプトも手法も様々だが、ライフワークとして青森を応援するドキュメンタリー『若手りんご農家の静かな挑戦 青森県りんご品評会』などにも力を注いでいる藤代監督が得意とするのは、屋外ロケを多用したストーリー性の高い映像。SISの前作“とびきりのおしゃれして別れ話を”も、彼との別れの場面でMICOがお芝居をしながら、カフェや路上、公園などでキュートな魅力を振りまく楽しい映像に仕上がっていた。

ところが今回の“あれからの話だけど”は、それとはまったく異なるテイストを指向した。それは、事前に行われた、MICOと藤代監督との熱のこもった打ち合わせにて決まった方向性だという。

左から:MICO、藤代雄一朗
左から:MICO、藤代雄一朗

MICO:二人で話し合う前から、藤代さんと私のなかで共通認識としてあったのは、前回の“とびきりのおしゃれして別れ話を”が物語仕立てだったので、今回は裏話的には物語がちゃんとあるんだけど……もう少しコラージュっぽい映像にしたいということ。それだけは、私のなかでも絶対と決めていました。

藤代:僕はいつも外ロケしかしないので、これほどのシーンをスタジオで撮影をするのはほぼ初めて。僕にとっても今回はチャレンジャブルなMV撮影です。MICOさんの「コラージュ風に」という想いからインスパイアされただけでなく、今回は重要な小物としてカラフルな時計のBABY-Gとコラボレーションするというアイデアも出てきました。

打ち合わせ後、監督が絵コンテを作成

MICOとの話し合いをもとに、藤代監督は絵コンテを作成。散らかった暗い部屋のバスタブから起き上がったMICOが、本を開いてピンクとブルーの世界に吸い込まれて明るさを取り戻していく――切ない恋の思い出と鬱陶しい過去を振り切っていく女の子の心象風景を、カラフルに描き出していく映像がコンセプトとして提示された。

絵コンテには、このような絵が30枚ほど描かれていた

絵コンテには、このような絵が30枚ほど描かれていた
絵コンテには、このような絵が30枚ほど描かれていた

そして、撮影当日を迎える。朝5時からスタート

今作においてはコラージュ用のガジェットが多いぶん、撮影自体の手順も細分化される。すべてが屋内だけでは、見ている人が飽きてしまうため、MICOがイエローの衣装を身につけた屋外ロケも早朝5時から敢行。そこから、カラフルな色合いの部屋がいくつもあるスタジオに移動し、ピンクコーディネートの衣装に着替えてピンクの部屋でピンクの小物たちと共に撮影、続いてブルーコーディネートの衣装に着替えてブルーの部屋で同様の撮影を行う。

ピンク、ブルーの色で統一された小物たちは、時計以外はすべてスタッフの手作りで用意されていた。そして小物が増えるぶん、撮影する時間も細切れになる。

藤代:MV撮影でいちばん意識するのは、楽曲のリズム感に合う、見飽きない映像です。僕が外ロケが好きな理由は、演者が同じでも景色を切り替えることで、見飽きない映像になるから。なるべく、アーティストのいろんな表情、景色を変えていきたいんです。それが今回は、景色そのものの変化を交えつつ、ガジェットでも見る人に変化を与えようと心掛けました。

撮影における、陰の立役者……欠かせない人物とは?

細かいこだわりを実現するために、藤代監督の横には常にSISのライブ演出はもとより、水曜日のカンパネラやNGT48などの振り付け・演出を担当している竹森徳芳が待機。魅力的な仕草や動きを指導していく。

この現場で印象的だったのは、MICOや竹森徳芳、藤代監督本人が、絵コンテの演出にこだわらず、その場で挙がったクリエイティブなアイデアをライブ感覚で形にしていくこと。たとえば、ブルーの部屋で青く塗られた果物をMICOが手にするシーンでは、事前に想定していた動きを撮影後、MICOに自由に動いてもらったら、ハンドパワーで果物を操っているようなアクションをして見せた。そこで監督は「あぁ、いいですね!」と言って採用。

藤代:SISのMVでは、すごく自由で楽しげで、活発な女の子を表現したい。パッケージされた可愛い女の子というよりは、どこに行くか分からない、走り出しそうな女の子ですね。もともと、MICOさん自身が映像制作には意欲的だし、本人がプロデューサー的な視点で、自発的にアイデアを出すからパフォーマンスもどんどん変わっていく。だから、一緒に作品を作っていてもすごく楽しいんです。

撮影後に話を聞いた。MICOいわく「日常に訪れるドラマみたいな瞬間を表現したい」

そして最後はスッピンメイクにチェンジして、MV冒頭にあるバスタブのシーンを撮影。すべての撮影を終えた二人に、改めて、MV撮影中にいつも心がけていることや、こだわっていることを聞いてみた。

MICO:MVを撮られる側として意識することは、じつは毎回違っていて。“あれからの話だけど”で意識したのは、いろいろな表情を撮ること。MVを撮り始めた最初の頃は、どれだけ「私、こういうことができるぞ!」を見せてやろうか構えていたんですけど……最近は、自分がどう撮られたいかよりも、監督が考えてくれている画をちゃんと表現したいと思うようになりました。

藤代:今回は、背景がパステルカラー中心なので、どうしても可愛くなりがちなんですが、ニコニコ媚びるような可愛さじゃなくて、ちょっとツンとした表情とか、独特な雰囲気を出したかった。そこはかなり気をつけて撮影しました。

―音楽制作とMV撮影に対する考えは、どのように違う、もしくはつながっていますか?

MICO:SISで私がやりたいことは、普通の街がドラマチックに見える音楽なんです。ファンタジー世界じゃなく、日常に不意に訪れる「わっ、これドラマみたいじゃない!?」という驚きを、音楽でも映像でも表現したい。それには、人柄も素敵な藤代監督の映像がぴったりだし、今回の“あれからの話だけど”の映像は、構成もそうなっていますよね。

あとは、とにかく可愛く見せようというMVもありますけど、今回は特に、自分の嫌いな角度や可愛く見えない顔も、ためらわずに見せようというのがテーマでした。私はレコーディングのときも、OKテイクは上手く歌えたかどうかより、伝えたい気持ちを表現できてることが優先。なので、レコーディングとMV撮影は似ていますね。

SHE IS SUMMER『Swimming in the Love E.P.』
SHE IS SUMMER『Swimming in the Love E.P.』(Amazonで見る

―ちなみに、今日の撮影のなかで、MICOさんがいちばん楽しかったシーンは?

MICO:やっていて楽しかったのは、私の周りを監督が手持ちのカメラでぐるぐる回った、屋上で歌うシーン。たとえば……学校の授業中に、先生に「トイレ行きたいです」って、教室を抜け出してトイレに行くと……誰もいないじゃないですか。そこで思いっきり歌を歌うとか、窮屈なところから抜け出したときの衝動、「やってやった!」みたいな気持ちが、私は人生のなかでいちばん大事にしたい瞬間なんです。

私には、「やっちゃいけないことをやるシリーズ」というのがあって(笑)、今回の屋上シーンはそれがちょっとできた気がします。めちゃめちゃ楽しく動けたので、どういうシーンになったか、MVの完成がとても楽しみですね!

撮影後には映像編集がされて、ついに作品が完成

一つひとつの動きや表情、背景、小道具が積み重なり、音楽の世界観をビジュアルとして提示するMVは、アーティストと映像監督、スタッフのこだわりが数分間に濃縮され、「作品」として後世に残るもの。今作においても、全員が納得いく作品が完成するまで、編集段階で何度も調整が入ったという。

SISの“あれからの話だけど”のMVで、彼らのこだわりとクリエイティブが新しく生み出したものを、存分に楽しんでほしい。

オフショット
オフショット

リリース情報
SHE IS SUMMER
『Swimming in the Love E.P.』

2017年6月7日(水)発売
価格:1,620円(税込)
SCL-002

1. 出会ってから付き合うまでのあの感じ
2. あれからの話だけど
3. 彼女になったの
4. うしろめたいいい気持ち
5. 君のせい Swimming ver.

イベント情報
『Swimming in the Live』

2017年7月1日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW

『2nd E.P.「Swimming in the Love E.P. 」リリース記念ミニライブ&サイン会』

2017年6月7日(水)
会場:東京都 渋谷 HMV&BOOKS TOKYO 7Fイベントスペース

2017年6月10日(土)
会場:東京都 タワーレコード新宿店7Fイベントスペース

2017年6月11日(日)
会場:東京都 タワーレコード渋谷店4Fイベントスペース

2017年6月22日(木)
会場:大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店イベントスペース

2017年6月23日(金)
会場:愛知県 名古屋パルコ西館1F イベントスペース

2017年6月24日(土)
会場:神奈川県 タワーレコード横浜ビブレ店イベントスペース

プロフィール
SHE IS SUMMER
SHE IS SUMMER (しー いず さまー)

vo.MICO。1992年9月3日生まれ。2015年エレクトロポップユニットふぇのたすのボーカル「みこ」としてメジャーデビュー。同年9月にふぇのたすを解散。以降、MICO名義でfeat.参加するなど活動を行う。2016年4月1日、遂に自身のソロプロジェクト「SHE IS SUMMER」を始動させる。同年8月に1st E.P.『LOVELY FRUSTRATION E.P.』をリリース。2017年3月より自主企画ライブ『ROOM SHARE』をスタート。7月1日には初のワンマンライブが渋谷WWWで開催される。ライブに先駆けて6月7日には、2nd E.P.『Swimming in the Love E.P.』をリリース、6月度邦楽「タワレコメン」に選出されている。



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