星野源、「国民的アーティスト」へと駆け上がる。ひとりぼっちの武道館で示した希有な存在感

単なる弾き語りで終わるはずがない、エンターテイナー・星野源の武道館公演

8月12日と13日の2日間、日本武道館にて、星野源の弾き語りワンマンライブ『星野源のひとりエッジ in 武道館』が開催された。彼が武道館に立つのは、病気療養のために活動休止をした後、復活ライブとなった昨年2月の『STRANGER IN BUDOKAN』以来となる。

筆者が観たのは初日。会場に入ると、武道館の中央に円形のステージが設けられ、マイクスタンド1本のみがセッティングされている。弾き語りという形で自らの音楽と向き合い、1万3千人のオーディエンスと対峙するとは言え、マニアックな音楽性とエンターテイメント性の両方を兼ね備え、両者の「架け橋」的な役割を自認する彼が、単に渋くてパーソナルな弾き語りを披露して終わり、となるはずもない。「ひとりぼっち」で、どれだけ娯楽性の強いパフォーマンスを見せてくれるのか、大きな期待を寄せて臨んだ。

星野源

星野源
星野源

ギター1本で十分に証明した、マニアックな音楽ファンも唸らせる楽曲の豊さ

客電が落ち、アコギを抱えた星野が登場すると、客席からは割れんばかりの歓声が上がる。360度、ぐるりとステージを取り囲んだオーディエンスに深々とお辞儀をしたあと、<殺してやりたい人はいるけれど>と歌い始める美しいバラード“バイト”からスタート。続く“ギャグ”や“化物”といったアップテンポな曲では一転、荒々しいストロークで客席からハンドクラップを導き出し、グイグイと引っ張りまわす。“地獄でなぜ悪い”のイントロでは、アコギをエレキに見立て、チョーキングやピックスクラッチを繰り出し大いに沸かせていた。

その後も、今年5月にリリースされて既に星野源の代表曲の1つとなったヒットソング“Sun”を含めた、新旧織り交ぜたセットリストが繰り広げられていく(NUMBER GIRL“透明少女”のカバーも!)。今回初めてライブで披露する新曲“Snow Men”は、トッド・ラングレンやカーティス・メイフィールド(どちらも1960年代頃から活躍した、アメリカのミュージシャン)あたりを彷彿とさせ、ここ最近彼が傾倒するニューソウル、ブルーアイドソウルなどからの影響が見て取れ興味深い。「アレンジを施す前の、曲が生まれたままの状態を聴いて欲しかった」と言ったように、手つかずのメロディーをそのまま差し出すシンプルな演奏で聴かせた。“フィルム”では、コード進行の巧みさ、ハッとするリズム展開、狂おしいハスキーボイスなど、原石が放つきらびやかさを再発見できた。


絶妙なタイミングで入り込む、ユルい演出

音楽的な深みを十分に見せつけられた程よい緊張感の中、絶妙なタイミングでユルい場面が入り込む。多くの女性ファンに混じって、男性ファンの野太い声援が飛び交うと、そんな声を拾い気さくにやり取りする。その様子はまるで「親戚のお兄ちゃん」のよう。「このあいだフェスに出たとき、『ゲーン!』って名前を呼ばれたのがすっごく気持ちよかったから、またみんなでやって」などと催促するなど、同性をも虜にする「人たらし」な魅力を振りまいていた。

ライブ中盤では、ステージ上にちゃぶ台や扇風機、蚊取り線香、座布団などが置かれ(エロ本も!)、そこであぐらをかいた星野がポロポロとギターをつま弾く。まさに、彼の自宅に上がり込んで「曲が生まれる瞬間」に立ち会っているような、そんな特別な時間を過ごしている気分に。しかも、ここで特別ゲスト、神木隆之介が登場! お茶と水羊羹を持って、まさに「親戚のお兄ちゃん」の家に上がり込んだようなやり取りで客席を笑わせた。

左から:神木隆之介、星野源
左:神木隆之介

「ひとりぼっち」を知っているからこそ、他者と深く繋がることができる

神木が退場した後も、しばらくはこのセットで歌い続ける星野。すると、それまであちこちから上がっていた歓声が徐々に減っていき、曲間には静寂すら訪れる。いつしか、オーディエンスの一人ひとりが星野とダイレクトでつながっているような、濃密な空気へと変わっていく。

星野源

「こうやって(会場)の真ん中で、ひとりでライブをやってると、『本当にひとりなんじゃないか?』って思う瞬間があって。ここにいる1万3千人と一対一で繋がっているような気がして、とても楽しいです」。MCでそう話す星野。今回のタイトル『ひとりエッジ』はもちろん、「ひとりエッチ」のもじりであり、随所で見せたユルくてワガママな(!)演出を「マスターベーション(自己満足)」と自虐的に比喩しているわけだが、たったひとりでエッジ(ギリギリの場所)に立っているからこそ、他者と一対一で深く繋がれるときもある、と教えてくれるようなライブだった。途中、星野が神木に「“SUN”は鏡のような曲で、ハッピーな人が聴くとハッピーに、悲しい人が聴くと悲しく響くように作った」と明かす場面があった(“くだらないの中に”もそんな鏡のような曲の1つだ)。こうした曲が書けるのは、常に心のどこかに「ひとりぼっち」を抱えた者だけだろう。

アンコールではニセ明(星野の「お友達」という設定の別キャラ)が登場し、本編に散りばめた伏線をキチンと回収するなど、凝った仕掛けはさすがの一言。1万3千人の一人ひとりと深く繋がりながら、エンターテイメント性の高いパフォーマンスを見せつけた星野源。「国民的アーティスト」と呼ぶに相応しい存在へと駆け上がっている彼の、次の展開が楽しみでならない。

星野源

イベント情報
『星野源のひとりエッジ in 武道館』

2015年8月12日(水)、8月13日(木)
会場:東京都 九段下 日本武道館

リリース情報
星野源
『SUN』(CD)

2015年5月27日(水)発売
価格:1,296円(税込)
VICL-3705

1. SUN
2. Moon Sick
3. いち に さん
4. マッドメン(House ver.)

星野源
『SUN』(アナログ7inch)

2015年5月27日(水)発売
価格:1,404円(税込)
VIKL-30070

[SIDE-A]
1. SUN
[SIDE-B]
2. SUN(Instrumental)

プロフィール
星野源 (ほしの げん)

1981年1月28日、埼玉県生まれ。2000年に自身が中心となりインストゥルメンタルバンドSAKEROCKを結成。2003年に舞台『ニンゲン御破産』(作・演出:松尾スズキ)への参加をきっかけに大人計画事務所に所属。2010年に1stアルバム『ばかのうた』、2011年に2ndアルバム『エピソード』(第4回CDショップ大賞準大賞)を発表。2013年5月発売の3rdアルバム『Stranger』はオリコンウィークリーチャート2位を記録した。最新作として、2015年3月25日に初の横浜アリーナ単独公演、2日間を収録したBlu-ray&DVD『ツービート IN 横浜アリーナ』をリリース。またテレビブロスで連載中の細野晴臣との対談『地平線の相談』が2015年3月28日に書籍化された。音楽家・俳優・文筆家として、幅広く活躍中。



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