『オッドタクシー』映画化。ヒロイズムに酔わない主人公が、タクシーから静かに見つめる世界

メイン画像:©P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ

豪華キャスト・音楽からも注目されるアニメ『オッドタクシー』が映画化

2021年の4月から6月まで、テレビ東京の深夜に放送されていたアニメ『オッドタクシー』。その映画版である『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が4月1日から全国の映画館で公開される。

物語の主人公は、個人タクシーの運転手・小戸川。幼少期に両親と別れ、一人で生きてきた彼は、なるべく他人と関わらないようにしていたが、これから売り出すアイドルグループ・ミステリーキッスのメンバーや、そのマネージャーなどを乗客として乗せたことなどがきっかけで、事件に巻き込まれていってしまう。

ただ一つ、ほかのアニメと違っているのは、小戸川を始め、登場人物は、セイウチ(小戸川)であったり、ゴリラ(小戸川の通う病院の医師・剛力)やアルパカ(同病院の看護師の白川)だったりと、動物の見た目をしていることだった。

もちろん、ディズニーの『ズートピア』や日本の『BEASTARS ビースターズ』のように、動物たちが人間界のような社会を形成していて、そこにジェンダー観などが重ねられるものはあるのだが、『オッドタクシー』は、それらの作品とも違い、なぜ動物の姿をしているのかという謎は、見ていくうちに明かされる。その明かされ方にも驚かされた。

オープニングテーマの"ODDTAXI"をスカートとPUNPEEが、エンディングテーマ"シュガーレス・キッス"を三森すずこが担当、劇伴をPUNPEE、VaVa、OMSBらSUMMIT勢が担当しているのも話題で、音楽がオフビート感のあるアニメの世界観ともマッチしている。筆者も、夜中にふとオープニングテーマが流れているのを聞いて、アニメを見てみようと思ったほどだ。

また、劇中に出てくる売れないお笑い芸人・ホモサピエンスの柴垣(イノシシ)をダイアンのユースケが、馬場(ウマ)を、同じくダイアンの津田篤宏が担当している。このふたりがラジオ番組をやっていて、小戸川はいつもその番組をタクシーのなかで聞いているのだが、ネタを考えていてお笑いにストイックで、少々、それに縛られがちな柴垣と、欲のない馬場の対比が、芸人のリアルさを醸し出しており、ときに「傷つけない笑い」についても議論したりもしている。そんな芸人のやりとりをダイアンのふたりが、上手い具合に演技で再現している場面も、毎回の楽しみであった。

警察官の大門兄弟(ミーアキャット)の声を担当しているのはミキの昴生と亜生。ほかにも承認欲求が強くバズりたい大学生の樺沢(コビトカバ)をトレンディエンジェルのたかしが、小戸川らが訪れる居酒屋のママ(カンガルー)を森三中の村上知子、劇中に出てくる若手コンビの煩悩イルミネーション(パンダ・ヒョウ)を、ガーリィレコードが演じている。

もっとも、ミキやたかし、村上は、むしろダイアンのように本人の個性を生かした演技というよりも、自然と物語にとけこむような演技をしているのも新鮮で、エンドロールを見ないと誰が演じているのかわからないほどであった。

ほかの実写映画でも見かけない、ヒロイズムやハードボイルド感に酔わないキャラクター

脚本を『セトウツミ』や、男性ブランコの浦井のりひろのコントライブ『浦井が一人と「話」が三つ』などを手がけた此元和津也が担当しているためか、芸人のパート以外でも、ボケとつっこみの効いた会話が繰り広げられることも多い。

特に、小戸川と白川のやりとりは、それ以前の会話がツッコミになったりと、漫才のようなかけあいがあり、ふたりの息が合っていることがその会話からうかがえる。物語のうえでも、前半で起こった出来事が、何話も後になって「そうだったのか!」と思わせるような、伏線回収とも、フリとオチともとれるような展開もある。それが、作品全体のテンポの良さを醸し出しているように感じる。

主人公の小戸川や、彼の親友などが事件に巻き込まれる物語であるため、どこかハードボイルドな匂いもするこの作品。見ていると、『藁にもすがる獣たち』(2020年)や、『声もなく』(2020年)のような、飄々とした独特のテンポで社会の裏側を描く韓国映画が思い出された。

もっとも、『藁にもすがる獣たち』は、日本の曽根圭介の小説を原作にしている。この映画を見たときに、日本でもこうした群像劇で裏社会を見せるクライムサスペンス映画があってもいいのにと思っていたのだが、『オッドタクシー』が、それを実現しているのかもしれないとも思えた。

しかも、小戸川は、寡黙で優しく、熱すぎない正義感がベースにあり、いざというときに、知恵と機転と運で窮地を脱することができる人間だ。高校時代からの友人である柿花(シロテテナガザル)が危険な目にあったときにも、小戸川は助けにいくのだが、その後、柿花は自分の情けなさで泣いてしまう。そんな柿花に対して小戸川は、高校時代の他愛のない思い出話をして笑わせたあと、「あのときから情けなかったよ」と声をかける。その決してポジティブではない一言が、柿花の気持ちを楽にさせているのがわかって、見ていて泣けてきてしまった。

小戸川は「強さ」を誇示することはなく、ときには、お互いにかすかな好意を寄せあっている白川に助けてもらったりすることもある(そのときの白川がまたかっこいいのだ)。

この小戸川のヒロイズムやハードボイルド感に酔わないキャラクターは、ほかの実写映画でも、なかなか見かけないものだと思った。

思えば、タクシー運転手を主人公にした作品は、ロバート・デニーロの『タクシー・ドライバー』(1976年)にしろ、ソン・ガンホの『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2018年)にしても、長く人々に愛され、見続けられる作品は多い。それは、タクシーという空間から、主人公が世の中をつぶさに見ているような構図がつくりやすいからなのかもしれない。

『オッドタクシー』の小戸川も、そんな風に、端っこから社会を静かに見つめているような目線を持っている。

ちなみに、テレビアニメ版の最終話では、この先、小戸川がどうなるのかと続きが気になるところで終わっていた。映画では、テレビアニメのなかで起こったことを、17人の登場人物たちが、証言を交えながら振り返っていく構成になっている。初めての人にも開かれた作品ではあるが、テレビアニメ版を見ていた人にも、「その後」が示されるところにも注目だ。

ただ、このシリーズの魅力は、あらすじとは関係ないふとした会話の妙でもあると思うので、映画を見る前でも、見たあとでもテレビアニメ版を振り返ると、映画をより楽しめるのではないだろうか。

作品情報
『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』
2022年4月1日(金)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開


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