「戦争は大きい物語ではなく、ごく身近なもの」ALI・LEOが共鳴する、バンクシーのピュアな衝動と怒り

匿名のグラフィティアーティスト、バンクシーの代表作品を街並みごと再現した『バンクシーって誰?展』が、4月23日(土)より大阪で開催中。路上から権威・体制批判を突き上げるバンクシーの作品は、混迷を極める世界に生きる私たちの歩みを一度止め、戦争や資本主義などあらゆる社会問題について主体的に考えさせる力を強く帯びている。作品の商業的・美術的価値が膨張していくなかでも、ピュアな怒りを維持し、バンダリスト(破壊者)であり続ける、唯一無二の存在だ。

そんなバンクシーの創作に対する初期衝動は、彼を取り巻く仲間をはじめ、身近な出来事から起因しているのではないか。バンド「ALI」のフロントマン・LEOはいう。

メンバーの逮捕・起訴によるバンドの活動停止から、昨年活動を再開したALIを率いるLEOは、これまでの自身の歩みを「ドブネズミのような人生」と表現する。そんな彼を救い続けた音楽や芸術は、自身にとって「教会」のような存在で、そこに集まる人々がLEOを支えてくれた。

バンクシーの再現展示を巡り、自身の人生をバンクシーと重ねることで感じた、友人や仲間の大切さ、名声を得てもピュアを貫く姿勢の重要さについて語った。

「自分みたいな人間でも大丈夫」。芸術がLEOにもたらした安心感と共感

─LEOさんがバンクシーにはじめて触れたのはいつごろのことでしょうか?

LEO:2010年代の前半かな。バンクシーが監督した映画『Exit Through the Gift Shop』(2010年)はリアルタイムで観ていたし、書店で作品集『Wall and Piece』の翻訳版を手に取ったのもそのころだったと思う。

LEO:もっとさかのぼれば17歳くらいのころに聴いてたBlurのアルバム『THINK TANK』(2003年)が原体験かもな。そのなかに収録されてる“Crazy Beat”と“Good Song”って曲が本当にかっこ良くてさ。Blurはヘッドライナーだった2003年のサマソニも観に行くくらい夢中になったバンドだった。そのジャケットをバンクシーが手がけてるって知ったのは数年後だったけどね。

バンクシー監督作『Exit Through The Gift Shop』のトレイラー

Blur『THINK TANK』(2003年)を聴く(Apple Musicはこちら

─音楽から受けた初期衝動とバンクシーが意外なところでリンクしてたんですね。LEOさんは映画や本が好きな子どもだったそうですが、きっかけとなった芸術の原体験はどんなものでしょう?

LEO:10代のとき、クラシック音楽の歌唱法とピアノを週5日習ってたんだけど、先生のパートナーが西洋芸術・文学の大学教授で、いろんなことを教えてもらって。そのなかでもアルチュール・ランボーやシャルル・ボードレール、ゲーテの詩にのめり込んでいったんですよ。

─詩が10代のLEOさんに響いたのはなぜだと思いますか?

LEO:意外に思うかもしれないけど、10代のころは友達が少なくて、気持ちを塞ぎ込みがちだったからかな。家庭環境も崩壊してたしね(笑)。俺もいろんな問題を起こしてきたけど、両親は俺よりはるかにイカれてて、「俺がグレたら全員終わる」と思っていたんだ。

LEOのTwitterより

─そういう環境にいた自分の受け皿になったのが詩や音楽だったと。

LEO:そうだね。好きになった詩人やロックスターには自分と似た境遇にある人もいたし、一般的に「普通」じゃないと思われるような人もたくさんいた。だから、芸術に対しては憧れというよりも、自分との「共通点」が見つかった嬉しさから惹かれていったんだと思うな。「自分みたいな人間でも大丈夫なんだ。俺もこの人たちみたいになれるかもしれない」って思えてさ。

名声を得てもぶれない。バンクシーの根底にあるパンクロックのアティチュード

─「憧れ」というよりも、「共感」に近いと。その気持ちはバンクシーに対しても同じですか?

LEO:バンクシーも「俺でもやれるんじゃないか」って思わせてくれるから好きなんですよ。それは「俺でも簡単に描けそう」みたいな話じゃなくてね。きっと彼は俺らと同じように、日常生活にムカつくことがあったりして、そこでの怒りが創作の源になっているんだと思う。

LEO:どれだけ商業的・美術的評価を見出されても、そのムカつくことに対して描きたいままに、ピュアに描き続けてるじゃん。俺もピュアであり続けることがかっこいいと思うし、絶対に失っちゃいけない態度だと思っている。

いま、バンクシーはさまざまなメディアで取り上げられていて、社会でも唯一無二の存在になっている。でも、誰にも支配されずに、正しいと思うことを自由にやり続けている。そういう意味で、すごくパンクロック的なアティチュードだなって。見た人の背中を押してくれるような作品をつくるアーティストだと思うな。

「それでも音楽を続けたい」。不祥事で窮地に立たされるも消えない情熱

─有名になったり、商業的価値を得ることで、つくり手は純粋な創作の動機から離れて、社会から役割や責任を引き受けることもあると思います。バンクシーはそれすらも逆手にとる反逆者であり続けているわけですが。

LEO:サザビーズのオークションで裁断された『Girl with Balloon(風船と少女)』はまさにそういうエピソードだね。

2018年の『Girl with Balloon(風船と少女)』のオークションで起きた「シュレッダー事件」。落札者が決定した瞬間、会場でアラームが鳴り響き、額縁に仕掛けられていたシュレッダーが作動し、作品が断裁された
断裁された作品は『Love is in the Bin(愛はごみ箱の中に)』に改題

─ALIも、メインストリームに駆け上がることで大衆性・商業的価値を帯びていくと思います。LEOさんは昔から「売れたい」とストレートに公言していましたが、実際にALIがその過程にあるいま、アーティストとして見る景色は変化していますか?

LEO:景色は全然変わらないね。まず経済的なところから話すと、売れた実感がないから。昨年逮捕されたメンバーがALIの事務所の社長をやっていたんだけど、逮捕されたタイミングで、事務所の金がまったく管理されていなかったことに気づいて。ALIは結成して6年目になるけど、つい最近まで給料をほとんどもらったことがなかったんですよ。

『Barely Legal』で展示された、生きた像にスプレーペイントを施した『Tai』の再現展示
『Barely Legal』で展示された、生きた像にスプレーペイントを施した『Tai』の再現展示
『Barely Legal』で展示された、生きた像にスプレーペイントを施した『Tai』の再現展示

─それは話して大丈夫なやつですか……?

LEO:大丈夫だよ。俺はALIを始めたとき、死ぬまで自分に嘘をつかないやり方でバンドをするって決めているから。これまでメジャーバンドで2回失敗して、10年以上バンドを続けているけど、見えている景色は変わっていないし、バンドを始めたときから価値観もずっと同じだよ。

─バンドを続けていくことで、ピュアでいることの大切さに気づいていったと。

LEO:自分の家庭環境もそうだし、メンバーの脱退が続いたり、昨年はメンバーが不祥事を起こして逮捕されたり、資金を貯めて進めていた海外のビッグアーティストのコラボレーションも飛んだりして、一度すべての楽曲が社会的に消えて作品の経済的価値もなくなった。俺らの活動も途絶えた。

でも、どんな逆境に立っても、「音楽をやりたい」って気持ちは消えなかったんですよ。「グラミー賞」受賞、「コーチェラ」出演とか達成したい目標はたくさんあるけど、なにより、俺がやりたいのは「音楽」で。ALIを始めてまだ5%くらいしかやりたい曲はできていないし、残り95%をやるまで終われないから、毎日出す音やつくる音楽を真正面から丁寧にやるだけだよね。

良い人間には良い仲間が集まる。人を動かすピュアな精神

─LEOさんのピュアさに懸けてくれる人が変わらずたくさんいるわけですよね。バンクシーについて一番気になっていたのも、彼と一緒にプロジェクトを遂行しているであろう「チーム」の存在だとか。

LEO:そう。俺は普段から妻や仲間をはじめ、周囲のサポートに助けられていることがたくさんあるから。ALIに可能性を見出して、いろんなハードルがあるなかでも期待してくれる人たちもいる。だから、いろんな奇跡に支えられていると実感して、よりピュアになっていくというか。バンクシーも自分の考えに共感してくれる優秀な仲間がそばにいるんじゃないかなって思うよ。

ALI“LOST IN PARADISE feat. AKLO”を聴く(Apple Musicはこちら / Spotifyはこちら

─今回の再現展示のなかでも、パレスチナに建設された『The Walled Off Hotel』が一番気になったそうですが。

LEO:『The Walled Off Hotel』は彼の作品のなかでもチームの存在を感じさせてくれるし、バンクシーが作品をすべて「支配」しているという感じが伝わってくるんだよね。ホテルは美術館に修蔵されたり、一部のセレブやコレクターに所有されたりすることもないからさ。しかも、$70ぐらいで泊まることができるんでしょ(*1)。誰にもコントロールされずに、誰にでも開かれている。

『The Walled Off Hotel』の再現展示(写真:©NTV 東京会場より)
『The Walled Off Hotel』の再現展示(写真:©NTV 東京会場より)

LEO:ああいった作品をつくるとき、彼にはきっとすてきなパレスチナの友達やチームがいるんだろうなって思ったんですよ。俺の想像だけどね。パレスチナで起きていることを作品のテーマにしたいと彼が思ったとき、共感して手助けしてくれる友達がいるのがバンクシーなんじゃないかな。良い人間には良い友達が集まる。バンクシーが正体を一切漏らさずに、匿名性を維持できるのもその証拠だと思うんだ。

戦争がFUCKなんてあたり前。アーティストが社会性を帯びることの葛藤

─バンクシーは、資本主義やシステム、権威、政治、戦争、それこそ自分が位置する美術界すらも明確に風刺・批判していますよね。彼に限らず、文学や映画などにおいても、作家のメッセージがストレートに映し出される作品が世界的に増えているし、かつ評価を得ていると実感します。LEOさんは、政治的な意図や社会的メッセージをアーティストが作品に組み込むことついてどのように考えていますか?

LEO:音楽もアートも人間がやってることだから、その人におかしいと思うことがあったら、その考えが作品に投影されていくのはあたり前だと思う。それが政治的なメッセージであれ、人種差別への抗議であれ。でも日本だと、アーティストが政治性や社会性を帯びると、煙たがられる傾向にあるよね。

LEO:俺はアーティストが発信するメッセージがすべてだとも思わないけど、ただ1ついえるのは、アーティストも社会のなかで葛藤して、悩んでるはずだってこと。いろんなものの見方があるし、いま起こってる、ロシアとウクライナの戦争も情報戦が起きているわけだし。真実と嘘の境界線がわかりづらいぶん、より慎重にならないといけない。だからある問題についてパブリックに意見を表明するのは本当に難しいと思う。

ALIにはウクライナとロシアのファンがいる。俺らから見た真実と、それぞれが信じる真実がある。戦争が「FUCK」だってことなんて、いうまでもなくあたり前の話で、それは誰もが思ってること。それでも戦争は起こっちゃう。じゃあ俺らはどうするべきかって考えたとき、バンクシーのように問題を自分ごととして捉えていきたいなって。

─自分ごとですか。

LEO:バンクシーの作品は、社会的メッセージだったり反戦、体制批判みたいなものを帯びているけど、最初にいったとおり、創作の源になってるものってすごい身近な問題なんだと思う。めちゃくちゃムカついたことがあったとき、それは自分の近くにいる人たちのことを思って腹を立ててるんだと思うんだ。

『Girl with Balloon(風船と少女)』の再現展示
『Girl with Balloon(風船と少女)』の再現展示

多種多様な人種が暮らすイギリス。バンクシーにとって社会課題は身近だった?

─大きな社会問題というよりも、生活の周辺にある怒りが出発点になっているということでしょうか。

LEO:そうそう。自分が見てきたものに端を発してるというかさ。たとえば、彼の生まれ故郷のイギリスは多様な人種がいる国だけど、そこで人種差別を経験した友達、美術界で搾取されてるアーティストの友達がいるからなんじゃないかって、彼の作品を見て思うんだよね。俺の推論だけど。

LEO:世界中を旅して、すてきな友達や仲間がそこにたくさんいて、そのなかに戦争で悲惨な状況にある友達がいるのかもしれない。だからこそ、金持ちや権力者のくだらない論理や振る舞いに死ぬほど腹が立つんだと思うんだよ。バンクシーが反戦をテーマにするのも、彼にとっては戦争も大きい物語じゃなくて、ごく身近な物語で、シンプルな怒りなんじゃないかな。

彼がピュアな衝動を維持し続けてるのは、そのムカつくことと、その問題で悩んでいる友達が、いまだに解消されないからじゃないかって。そういうリアリティがないと、大きな捉え方してもなにも噛み合わないままだしさ。

『バンクシーって誰?展』を見て、気づいた多国籍音楽集団ALIにできること

─今回の『バンクシーって誰?展』を見てあらためて感じたこともあったんじゃないですか?

LEO:いまこうした世のなかにあって、考えさせられることはたくさんあるよね。じつは次のALIのアルバムのタイトルも決まってるんだ。『Music World』。作品では世界中のアーティストと会って曲をつくりたいなって。

─なるほど。それが自分ごとにするためのアプローチということですね。

LEO:「戦争反対!」って口でぶつけ合うよりも、「お前はどう思う?」「俺はこう思う」って一緒につくった音楽を通して、対話しあうほうが俺らに合ってると思うんだよね。ロシアとウクライナの両方のアーティストとやりたいよ。多国籍のメンバーが集まる、俺たちALIには音楽を通じた対話ができるって信じてる。

LEO:ALIもそうだけど、国同士めちゃくちゃ仲悪くても、人間同士は仲良くなれることってあると思うんだ。昨日まで友達だと思ってたやつが、次の日には殺したいとさえ思う出来事だってあるし、その逆も起きることだってある。

俺は人にああだこうだいえる人間じゃないから、自分の手の届く範囲で感じたことに従って歌っていくしかないよね。じゃあ、手の届く範囲で戦争のことを考えることができるとしたら、それは自分たちの音楽を抱えてそいつらのところに行って、同じものつくりあうことなんじゃないかな。それが結果的に誰かの救いになるものになるかもしれない。

「クソみたいな現実」に可能性や救いを与える「教会」のような音楽

─こどものころからいまに至るまで音楽や芸術に救われてきて、救いになるような音楽を自身もつくりたいと。LEOさんにとっての音楽は、ある意味「教会」のようなものなんじゃないかと感じます。

LEO:まさにそう。俺らがやるライブって、音楽の神様を称える「教会」みたいなものだと思ってる。バンドのなかでもいろんな思想や信仰をもつやつがいるし、ビーガンもいる。どんなやつがいてもいいんだけど、その場にいる人が信じてるものを讃える存在でいたいよね。それこそが、俺が思う「ファンク(団結)」だと思うんだよ。

─批判や風刺にとどまらない、希望や救いとしてのオルタナティブを提示できるということでしょうか。

LEO:映画とか音楽とか芸術への感受性は、生きてる世界のつらさをどう受け止めてるかの幅によると思うんですよ。それが人の豊かさに直結してる。つらくても明るく生きたいって思う人は、芸術を受け入れることができるし、クソみたいな現実を受けとめて、それでも素晴らしい世界への可能性や救いがあるって芸術が教えてくれる。社会批判や風刺だけが芸術の前提じゃないと思うんだよね。

「ドブネズミみたいな人生を送ってきたけど、バンクシーの描くネズミは自由で美しい」

─作品がメッセージの器でしかなくなってしまうのは、ある意味貧しくもなる気もしますね。

LEO:バンクシーだって、彼自身の明確なメッセージはあるし、すごくシリアスな問題を身近に抱えた結果のあの作品たちだと思うけど、それを直接、説明的に押し付けるんじゃなくて、ユーモアを交えてポップかつキャッチーにしながら表現して、立ち止まった受け手に、なにかを考えさせてくれるじゃん。観た人を主体的に行動させる力があるというか。

そうしたユーモアって救いになるんだよ。クソみたいな世界にある小さな日常の愛情とか、ちょっとした奇跡の美しさや希望を見せてくれるし、それがバンクシーの美しさだと思うな。

LEO:俺は本当にドブネズミみたいな人生を送ってきたけど、俺が好きだった詩人やアーティストが俺を救ってくれたみたいに、もしかしたら少しでも誰かの救いになることができるかもしれない。だから、そういう希望や救いをシンプルに、純粋に歌いたい。バンクシーはよくネズミをモチーフにしてるけど、彼の描くネズミは自由で美しいし、自分もそうありたい。

*1:The Walled Off Hotel参照(外部サイトを開く

イベント情報
『バンクシーって誰?展』

2022年4月23日(土)~6月12日(日)
会場:グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボ
時間:平日11:00~20:00(最終入館19:30)※5/13(金)は18:30閉館。土日祝10:00~19:00(最終入館18:30)
料金:平日:一般2000円、大学・高校生1800円、中学・小学生1300円、土日祝:一般2200円、大学・高校生2000円、中学・小学生1500円
プロフィール
LEO (れお)

1987年、東京都生まれ。東京・渋谷発の7人組バンド「ALI」のボーカル。メンバーは日本をはじめ、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカといったさまざまな地域にルーツを持つ。ファンク、ソウル、ジャズ、ラテンなどのルーツミュージックをベースに、ヒップヒップ、ロック、スカなどをミックスしたクロスオーバーな音楽性で注目を集めている。



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