“日曜日よりの使者”をカバー。誹謗中傷と闘ったうぴ子が、人の心に寄り添う曲を歌う理由

LINE RECORDSとCINRAによる、レコードやカセット、CDで発売された名曲をカバーし現代に歌い継ぐプロジェクト『Old To The New』。これまでに松本穂香が松任谷由実の“守ってあげたい”を(関連記事:松本穂香は言葉にならない感情に挑む。時代を超える作品のために)、加藤礼愛がDREAMS COME TRUEの“決戦は金曜日”を(関連記事:12歳のシンガー加藤礼愛。とろサーモン久保田や『クセスゴ』製作陣らの証言から紐解く)カバーし話題となった本プロジェクトの第3弾は、シンガーソングライターのうぴ子が登場。1995年にTHE HIGH-LOWSがリリースした“日曜日よりの使者”に挑戦する。

自身が過去に受けた誹謗中傷やアンチ、悪質な嫌がらせといった経験を元に“匿名の檻”というオリジナル曲をつくり、大きな注目を集めたうぴ子。いじめの被害者に寄り添いながら、加害者に対してさえも真摯に向き合おうとするその姿勢は、いったいどのようにして形成されたのだろうか。また、自分が生まれる前に書かれた楽曲“日曜日よりの使者”からどんなメッセージを受け取り、歌い継ぐことにしたのか。本人に話を聞いた。

“日曜日よりの使者”に感じた「心を解き放つ力」

─今回、うぴ子さんがTHE HIGH-LOWSの“日曜日よりの使者”をカバーしようと思ったのはなぜですか?

うぴ子:いま、コロナ禍が続いたり戦争が始まったりして世界中が薄暗い雰囲気になっているじゃないですか。そんななかで、人々の心にそっと寄り添うような楽曲を歌いたいとずっと思っていて。今回『Old To The New』というプロジェクトのお話をいただいて、どんな曲をカバーしようか考えていたときに“日曜日よりの使者”が思い浮かんだんです。

アップテンポの明るい曲調で、歌詞もシンプルでありながら深みもあって。心に希望を持って未来へと突き進んでいくことが、いかに大切であるかを全編にわたって訴えかけている、まさにいま歌い継ぐべき曲だなと感じたんですよね。

<たとえば 世界中が どしゃぶりの雨だろうと ゲラゲラ笑える 日曜日よりの使者>という歌詞も、「こんな世の中だけど、それでも笑えたらいいよね」という意味だと私は思ったんです。世の中で起きている悲しい出来事や辛い現実に、自分の心まで持っていかれてしまってはだめだというメッセージなんじゃないかなと。

うぴ子“日曜日よりの使者“

─<適当な嘘をついて その場を切り抜けて 誰一人傷つけない 日曜日よりの使者>というラインも、「誰一人傷つけないなら、ときにはその場しのぎの嘘をついてもいい」という意味にもとれます。そっと肩の荷をおろさせてくれるような優しさが、この曲にはありますよね。

うぴ子:そう思います。いまおっしゃった部分は私もとても好きです。

─“日曜日よりの使者”を知ったきっかけは?

うぴ子:知ったのは中学生のころです。「Goose house」という大人数のミュージシャンがシェアハウスに集まって音楽活動をしていたプロジェクトで(今年2月に活動再開)、“日曜日よりの使者”がカバーされていて。

自分が生まれる前につくられた楽曲をGoose houseがカバーし、そこから私が新たなメッセージを受けとり歌い継ぐという行為は、『Old To The New』の趣旨にぴったりだと思ったことも、この曲を取り上げた理由の1つでした。

「Goose house」による“日曜日よりの使者”カバー
本プロジェクトの制作背景を収めた、ドキュメンタリー動画。『Ep.2 歌い継ぐこと』

─今回、“日曜日よりの使者”をカバーするにあたってどんな歌い方を目指しましたか?

うぴ子:私が初めてこの曲を聴いたとき、「心を解き放つ力」を感じたんです。<たとえばこの街が 僕を欲しがっても 今すぐ出かけよう 日曜日よりの使者>という部分は、「たとえ家族や友人が引き止めたとしても、自分が信じた道を貫くべきときもある」というメッセージが込められているなと。なので、歌い方もここは若干シリアスなイメージで、バンドの演奏も後ろに下がって私が1人アコギで弾き語りをしているようなアレンジにしています。

私はいまから1年半くらい前、音楽活動を本格的にやろうと思って上京したのですが、そのときに家族は「自分のやりたいことをやればいい」と言ってくれつつも、あとから聞いた話ではすごく心配していたらしくて。地元の友人や先輩からも、「そんなに甘い世界じゃないよ?」「すごい歌手とかほかにもいっぱいいるし無理だと思う」みたいなことも言われました。でもそうやって周りが引き止めようが、その手を振り払ってでも自分の生きる道を見つけて歩いていかなければという強い思いがあったんです。だからこそ、この曲の歌詞が心に響いたというか。

─新しいことに挑戦するとき、次のステップに進んでいくときには、いまあるものをある意味では手放していかなければならない局面はありますよね。

うぴ子:そうなんです。ちなみに昨日、この曲のミュージックビデオを自分にとってとても思い出深い多摩川で撮影したんですよ。上京してすぐ自分が住んでいたのが多摩川の近くで、心が折れそうになるとよくそこに行ってたそがれていたので(笑)、とても感慨深いものがありました。

どうしても人に伝えたいと思ったときに「歌」という手段を使わずにはいられなかった

─YouTube再生回数が10万回を超えるうぴ子さんのオリジナル曲“匿名の檻”は、ご自身が誹謗中傷や、悪質な嫌がらせなど受けた経験を元につくられた楽曲だそうですね。

うぴ子:はい。私が高校生くらいのときに音楽活動を始めたんですが、そのときにかなり長期間にわたって誹謗中傷や嫌がらせを受けていました。相手は匿名だったのですが、そこに書かれていた内容は私の身近な人じゃないと知り得ないようなもので、誰がやっているのか分からない、ひょっとしたら私が一番仲の良い友人かもしれないというとても辛い状況だったんですよね。

一時期はこんな辛い思いをするくらいなら、音楽なんてやめようとさえ思いました。そのときは実際にSNSをすべてやめて、何か月か全く楽器を触らない時期もあったんですけど、「やっぱり音楽がやりたい」という気持ちが湧いてきて。匿名で人を攻撃するような卑怯な人たちのせいで、どうして私が自分のやりたいことを諦めなきゃいけないんだろうと思って乗り越えられました。でも一昨年、木村花さんがSNSで誹謗中傷を受けて自ら命を絶ってしまった事件がありました。そのニュースを知ったときに、自分の記憶がフラッシュバックして、それですぐにつくったのがこの“匿名の檻“でした。

うぴ子“匿名の檻”

─そんな経緯があったのですね。

うぴ子:いまは小学生も気軽にSNSをやっているじゃないですか。そのくらいの年頃だとまだ「心のセメント」が固まっていない時期だと思うのですが、誹謗中傷というのはその固まっていないセメントに思いっきり爪を立てて引っ掻くような行為だと私は思っていて。そういう経験をすると、大人になってセメントが固まっても「傷」として残り続けてしまう。そのくらい誹謗中傷は怖いものだし、やられた人にしか気持ちはわからないと思うんです。

そのことを、どうしても人に伝えたいと思ったときに私には「歌」という手段があり、それを使わずにはいられなかったんです。

─この曲は、<代償は必ずお前に返ってくるから 楽しみに待っときな>という歌い出しの歌詞といい、誹謗中傷の被害者に寄り添うだけでなく加害者に対しての強いメッセージが散りばめられているのも印象的です。

うぴ子:そこには誹謗中傷の被害者というか、私と同じような経験をした人たちに対して「戦っているのはあなただけじゃないよ?」という、寄り添う気持ちも込めています。じつはわたし、誹謗中傷をしている当事者にいろいろ聞いてみたことがあるんですよ。

─え、それはどういうことですか?

うぴ子:とある芸能人のTwitterにアンチコメントをしている人たち一人ひとりに、DMを送ってみたんです。「どんな気持ちでやっているんですか?」って(笑)。べつにその人たちを問いただしたり、ジャッジしたりするつもりではまったくなくて、純粋にその理由が知りたかったんですよ。30人くらいに送ったかな。ほとんど全員が「なんだよ、お前」みたいなリアクションで、まともに取り合ってもらえなかったんですけど、1人だけやり取りを続けた人がいました。

その人は、その芸能人以外の人たちにも「死ね死ね死ね!」みたいなコメントを書き込んでいたのですが、私が「責めるつもりはまったくないです。どうしてそういうことをしているのか、その気持ちを聞かせてください」と尋ねたところ、「自分も昔はいじめられていた」という返事があって。この人もきっと現実世界での生きづらさや寂しさを抱えているのだなと……。もちろん誹謗中傷の加害者全員が、彼と同じというわけではないのですが、そういう気持ちは多かれ少なかれ誰しも抱えていることだと思うんですよ。

─確かにそうですね。

うぴ子:その人の場合は仕事もうまくいかず、家族とも疎遠になって友人もいないなかで、「自分の心の悩みや愚痴を吐き出す場所もない」と。「そんな状態でSNSを眺めていると、自分が不当に貶められているような気持ちになる」と言っていたんです。「でも、もしそうやって攻撃している人が亡くなってしまったらどうしますか?」と聞いたら、「そこまでは考えていない」と言うので、私がつくった“匿名の檻”を聴いてもらったんです。そうしたら「ハッとしました」って。「こんなことをする自分に生きる価値なんてないですよね、もう誹謗中傷はやめようと思います」というメッセージを最後に、やり取りが終わったんです。

その後その人がどうなったかはわからない。でも、そうやって過去に植えつけられた心の痛みや劣等感が、その人を駆り立てていたのだなと。自分が幸せだったり心が満たされたりしているときは、悪口って言わないじゃないですか。ある意味、誹謗中傷の加害者も被害者なのかもしれない。もちろん、そうやって深く考えずにSNSで誹謗中傷を人に送りつける行為は「殺人」にもつながるのだということを、ちゃんと自覚してほしいと思いました。

本プロジェクトの制作背景を収めた、ドキュメンタリー動画。『Ep.1 わたしが歌う理由』

自分が見たものすべてが真実とは限らない

─それにしてもすごい行動力ですよね。お話を聞いていて、うぴ子さんはジャーナリスティックな視点がある人なのだなと思いました。

うぴ子:そうかもしれない。私は「知る」ということが好きなんです。歌を歌い、詞を届ける者として、「自分が見たものすべてが真実とは限らない」という姿勢をつねに持っていたくて。人が何かをするときは、必ず背景があると思うんです。例えば誰かにひどい悪口を言われたとしても、「この人はきっと何か辛いことがあって私に当たっているのだな」と思えたら、その悪口をそのまま受け止めなくて済むと思うんです。相手の背景を知ること、本質を観察することは「自分を守る術」でもあるのかなと思っていますね。

─「知ることは、自分を守る」という視点はとても興味深いです。先ほどうぴ子さんは、「現実世界での生きづらさや寂しさは、多かれ少なかれ誰しも抱えている」とおっしゃいました。つまり、私たちは状況によっては被害者にも加害者にもなり得るということですよね。

うぴ子:そう思います。自分が抱えるフラストレーションを誰かにぶつけてしまいたい気持ちというのは、私のなかにもあることを否定できない。思春期のころは特にそうで、心に抱えているモヤモヤを親にぶつけてしまったこともあります。人は誰でもそうやって間違いを犯してしまうことがあると思うし、それを許す・許さないということではなく、そういう部分が自分のなかにあることを認めなければいけないと思うんですよね。

─怒りや憎しみの発露というのは、ある意味ではその人のSOSでもありますよね。うぴ子さんは、中島みゆきさんの“ファイト!”もカバーしていますが、この曲にも「厳しさ」と「優しさ」の両方が同居しています。

うぴ子:この曲と出会ったのは私が中学生のころで、それからずっと聴き続けています。私はいま、看護師としても働いているのですが、働き始めた当初は定時制の学校にも通っていたので毎日がとても忙しく、人間関係も上手くいっていなくてとにかく自分を奮い立たせなきゃいけないような日々だったんです。そんなときに“ファイト!”を聴いて、泣きながら自転車を漕いで病院まで通っていたこともあるし、そういう意味で私にとっては本当に特別な曲なんです。

カバーするときも、「上手く歌おう」みたいな気負いもなくただ感情の赴くまま歌った結果、たくさんの人に聴いてもらえました。やっぱり「歌」は感情というか、人間の真髄なんだなって。きっと中島みゆきさんも、そういう真髄を曲に込めたんじゃないかなと思っていますし、いろんな人から似てると言ってもらえるのはとても光栄です。ただ、今後はもっと自分の色を出していかなくちゃなとも思っています。カバーに関しても、自分が本当に好きな曲しか歌いたくない。そこはこれからもずっと変わらないと思います。

うぴ子による中島みゆき“ファイト!”のカバー

─うぴ子さんがカバーしたくなるのはどんな曲が多いですか?

うぴ子:“日曜日よりの使者”も“ファイト!”も、1人の時間に聴きたくなるような曲じゃないですか。孤独に寄り添ってくれるような、そういう曲を歌いたくなることが多い気がします。私がいちばん好きなアーティストはMOROHAさんですし、あらためて考えてみると私が好きなのはそういう曲ばかりだなと思いますね。

─オリジナル曲に関しては、今後どんな曲をつくっていきたいですか?

うぴ子:ボヤッとした比喩表現は使わず、ストレートに意味が伝わる曲をこれからも書いていきたいです。“匿名の檻”を発表したときは「勇気づけられました」という声をもらう一方で、「こんな曲を聴いてさらに病む人が出たらどうするんだ」みたいな批判を受けたこともあります。

でも、いろんな人に配慮した歌詞を書こうとしたら、きっとメッセージもぼやけてしまうと思うんです。もちろん、攻撃的な曲を書くときはある程度気をつけなきゃとも思うんですけど、ときには批判も引き受ける覚悟でこれからも曲をつくっていきたいです。

本プロジェクトの制作背景を収めた、ドキュメンタリー動画。『Ep.3 あなたを肯定したい』
リリース情報
Old To The New

レコードやカセット、CDで発表された無数の名曲たちを新鮮さをもって蘇らせるプロジェクト『Old To The New』。音楽サブスクリプションサービスの登場で、無限に広がる音楽ライブラリにアクセスできるようになった今だからこそ、名曲たちを聴き継ぎ、語り継ぎ、歌い継いでいきたい。そして、何よりも大切にしたいのは、どんな時代にあっても変わりなく、人の心を震わせ続ける、「歌」の力です。この企画では、毎回特別な歌い手をお招きし、感動や驚きをお届けします。
うぴ子
『日曜日よりの使者』


2022年4月27日(水)配信
プロフィール
うぴ子 (うぴこ)

2020年11月音楽活動のために上京。TikTok、YouTubeにてアコースティックギターと歌のみでオリジナルソング、カバーソングを投稿。悩める若者の心情をストレートに歌う歌詞と圧倒的な歌唱力、表現力が話題になりフォロワー急増中。他方、アニメのキャラクターの心情を歌った「勝手になりきって作詞作曲してみた」シリーズがTikTokで人気を博す。多彩なオリジナル楽曲のスタイルを持つアーティスト。



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