音楽を入り口に環境問題を考えるということ。環境=文化運動家は、現状と未来に何を思う?

SIRUPとShin Sakiuraが国際環境NGO「グリーンピース」とタッグを組み制作した楽曲”FOREVER”が4月に発表された。同曲は、気候変動や生物多様性などの環境問題について身近に「学ぶこと・ 考えること・ 知ること」へのきっかけをつくることを目指してスタートした『Nature Sound Project』の一環で、楽曲配信の売り上げは、環境・平和活動に寄付される。

SIRUP & Shin Sakiura - FOREVER (Official Music Video)

気候変動対策は「待ったなし」の状況といわれる喫緊の課題だ。日本は脱炭素社会に向け、2050年までに二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現すると宣言している。

世界各地では、若者たちが中心となって温暖化対策を訴えるデモや活動を行なっている。本稿では、CINRAで実施した対談(環境問題に向き合い、学び、踊る。SIRUPとShin Sakiuraに訊く、音楽家は社会にどう関われる?)にくわえて、環境=文化運動家で文化人類学者の辻信一氏に、いま国内のアーティストが主体的に発信をし始め、若者たちが積極的に声を上げ始めている背景などについて、見解を聞いた。

音楽家としてアティチュードを示すことの意義

―『Nature Sound Project』は音楽を通して環境保護の活動を伝えていくというプロジェクトです。まず、今回のプロジェクトにどんな印象を持ちましたか?

:やっとこういうことが始まってきたと嬉しくなりました。日本では、気候変動とか生物多様性とか、根本的な問題に取り組むムーブメントに対して揶揄したり、シニカルな態度をとったりするような、残念な社会的雰囲気があります。ラディカル、つまり過激だという印象も持たれやすい。

「グリーンピース」に対してもそんな印象を持っている人が多いかもしれませんが、環境と文化を跨いでライフスタイルを変えていくということに真摯に取り組む活動をやっていて、ぼくは好感をずっと持っています。グリーンピースをめぐる個々のイシューについての異議があるとしても、それ以前の問題もあるとぼくは思っているんですね。

―それ以前の問題とは?

:日本では「ラディカル」という言葉に対していい印象が持たれていませんが、そもそも言葉の語源をたどると、ラディカルとは「根っこ」という意味を持っています。つまり、本来は「根源的」とか、「根本的」であるということを指している。

表面的に物事を済ませないという、とても大事な言葉です。その意味では、みんながもう一度ラディカルにならなくてはいけないと思う。そうした文脈がなくなって一緒くたに「過激」という言葉で訳されてしまうことはおかしいんですが、SIRUPさんとShin Sakiuraさんはむしろ「ラディカル」の本来の意味を自分たちの語彙のなかに取り入れているという感じがしました。

―たしかに、私も「ラディカル」は「過激」という意味だと思っていました。

:そうでしょ。でも本来は、とてもいい意味を持っている言葉なんです。

それから、「アティチュード」(姿勢、態度)という言葉で表現されますが、元をたどると1970年代にヒップホップ文化が始まったとき、このアティチュードが一つのキーワードになりました。しかし、日本ではいまだに「アティチュードがない芸能」というものが蔓延している。ちょっとでもアティチュードを表に出すだけでいろんなかたちで叩かれてしまう。だからこそ、若い世代のアーティストが力まずに「アティチュードが大事だ」という風に言っていることは、ぼくにとってはとても嬉しく、また新鮮で、共感を覚えます。

若い世代のあいだで起きている静かな変化

―辻さんは、日本の10代〜20代の若い人たちが気候変動や環境破壊に対する活動に積極的になってきていると感じますか?

:ぼくは長く海外にいて、日本に帰ってきてから30年くらい経ちました。たしかに、若者たちが動き始めているという感じはとてもします。ただ、それがとても「静か」だとも感じています。ぼくたちが若いときと違って。でも、若者たちの内面でとても大きなことが起きているということは実感していて、それが何なのか知りたいと強く思っているところです。

大学で教えながらここ10年くらい感じていることは、本当に多くの若者たちがいろんなことに疑問を持っていて、その疑問を確かめるために実際にその場所に行くとか、卒業と同時に引越して東京から出て行ってしまうとか、そういった行動をとる人たちが出てきたということです。これまで若者のあいだではまったく人気がなかった農的な営みとか、もっと自由な教育だとか、日本では「特殊」だと見なされていたようなことがスッと受け入れられて、それを入り口にして動いている人たちが出てきている。

―たしかに、グレタ・トゥーンベリさんから始まった気候変動対策を求める「Fridays For Future」の運動は日本にも広がっていて、デモなど、若年層がアクションを起こしていますよね。一方で、「静か」だとも感じるというのはどういうことでしょうか?

:ぼくらの世代と大きく違うと感じるのは、淡々としているというか、本当にサッと動くんですよね。社会を批判したりとか、怒ったり憎んだりとかを飛び越えて、自分がより良いと思った方向に動く。これを支えているのは、分析や合理的な判断ではなくて、むしろ感性や感覚のレベルなんじゃないでしょうか。

では、その感覚のレベルは頭で考える理性のレベルよりも「浅い」のかというと、ぼくはむしろ逆だと思うんです。頭で考える方がじつは浅くて、自分の感性に沿って動くという方が本当は深いということを、ぼくは若い人たちに教えてもらっている気がするんです。

「人類を崖っぷちに追いやっているのは、コロナではなくて孤独です」。人々に深まる孤独感

:一方で、若者たちのあいだで変化が起きていることは良いことなんだけれど、その反面、変化が起きているのは、内面的な危機が若い世代に訪れているということだとも思っています。ぼくらの世代よりもさらに孤独が深まっている。絶望感、何も希望が見えない、今後生きていても何もいいことが起こりそうもない。いざという時に自分を支えてくれるものがないんじゃないか、という不安。これはとても深まっていると思います。

ぼくたちの世代はそのことにもっともっと気が付かなくてはいけない。もっと共感力を持って理解しなければいけないと思います。

―孤独が深まっているという問題については、コロナ以降、より顕在化してきた気がします。

:去年、『THE LONELY CENTURY なぜ私たちは「孤独」なのか』(ノリーナ・ハーツ 著 / 藤原朝子 訳、ダイヤモンド社)という本が世界中で話題になりました。コロナパンデミックより深刻なのは「孤独パンデミック」なんじゃないかと思います。

本当に人類を崖っぷちに追いやっているのは、孤独ではないかと。またそれは、気候変動や生物多様性の喪失と並ぶ危機だと思っています。自然環境だけではなくて、内面の方から人間自体が崩壊してしまうような危機で、若い人たちはそのことに反応し始めているのではないかと思います。

SIRUPさんとShin Sakiuraさんの楽曲や二人の話で素晴らしいなと思ったのが、とても優しく「君はひとりじゃない」と伝えている感じがしたんです。思いをともにする仲間はいるし、自然界はいつも自分たちを支えてくれる。大丈夫、本当は孤独じゃないというメッセージにぼくには聞こえました。

“FOREVER”の制作背景を追ったドキュメンタリー映像。楽曲では長野県大町市のフィールドワークで集めた音が使われている

「日本はもともと豊かな国」。生物多様性の現状といま考えるべきこと

―あらためてですが、日本の生物多様性や気候変動の現状というのはどうなっているのでしょうか?

:生物多様性の豊かさを測る「生きている地球指数」というものがあるんだけれど、1970年から50年で脊椎動物の個体群が68%も減少したと言われています(*1)。

それは、単に一つひとつの種が消えてなくなった、という言葉で済ませられるような問題じゃないんです。すべての生き物はバラバラに生きているのではなく、全部が関わりあいながら、そして競合しつつも、同時に支えあい、補いあって、つながりあって生きている。つまり、どこか一つが欠けるだけでも、まわりの多くのものもドミノ式に崩れて危機を迎えてしまう。

:地球を一つの生命体ととらえて、生物と無生物が相互に関係し合って自然界を成り立たせているというのが「ガイア仮説」です。この理論でいうと、生物多様性の減少は、そのまま生きている地球の「生き生き度」の減少につながります。生命としての地球が衰えているんです、いま。

そのなかで日本はどうなのかというと、ものすごく危機的な状況にあるわけです。日本はエコロジカル・ホットスポットの一つで、海に囲まれ、高い山脈がいくつも走る長い列島であり、いろんな気候帯があり、すごく生物が多様な国なんですね。それなのに、都市化のためにものすごい勢いで環境を破壊してきました。エネルギー消費量もゴミの量も世界的に見て非常に高い。

―地球温暖化の影響で平均気温も上がり続けていて、日本は100年あたりおよそ1.2℃の割合で上昇していると言われています(*2)。

:少し前は30度を超えると暑いとか、言っていましたけれど、いまはもう違う次元ですね。昔の夏はとても素敵でした。いまは雨の降り方も暴力的なほど強くて、短時間にものすごい雨量ですよね。自然災害のすぐ裏側に人災(人間が引き起こした災害)があるというふうに、両者はもう切り離さずに考えていかなければならないと思います。

:いま、本当に世界中が深刻な状況になっている。一方で、日本は世界と比べてとても有利な側面も持っています。だから、いま一度良い方向をみんなで模索していこうという意思統一みたいなものができれば、日本はおそらくそこからリカバーしていく速度は速いのではないかとも思っています。

―それはなぜでしょうか?

:例えば、日本人の主食であるお米をつくる田んぼはもともと豊かな生態系です。その田んぼを取り囲む里山には、森があり、さまざまな動物が生息する領域があって、そしてその内側には人間が暮らす里がある。海外でも「SATOYAMA」と呼ばれるようになりましたが、これは一種の、自然と人間の農的な生き方の共存のあり方です。環境を保護するのか、それとも農業を取るのか、という二者択一は西洋的な考えですが、日本はじつに長い間、森と農業が共存することで自然と人間が折り合いをつけてました。

:いまでは、人間が住むと周囲の自然環境はダメージを受けて破壊されて劣化するという悲観的なイメージが広がっていますが、本来はそうではない。田畑には豊かな土壌があって、人間は豊かな生態系に支えられていた。田んぼというのは本当に豊かな場所だったんです。人間と自然界の共存のかたちを日本は何千年ものあいだ続けてきたわけです。

「川の国」と言ってもいいくらいに川が多い国でもある。日本は本当によい水、よい空気、よい土と豊かなエネルギーに恵まれた、豊かな国なんですよ。ところが、川をコンクリート張りにして、曲がっていた川をまっすぐにして、増水しないようにダムを建設し、開発で土砂が流れれば砂防ダムを建設して。自然や生き物の循環を人間の手でストップしてしまった。

これを50年や100年くらいのあいだに急速にやってきたわけです。でも急速だっただけに、逆に言えば、その少し前に目を向ければいいんです。

―もともと日本にあった「豊かさ」に目を向けるべきだと。

:そうです。日本は「資源のない国」と口癖のように言われるけれど、その資源というのは、現在のグローバル経済を推し進めるうえで「花形」だった石油だとか石炭だとか、特定の鉱物のことを指しています。

日本は、そういうものが他の国に比べてちょっと少ないというだけの話なんですよ。でも、本当に人間が生きていくために必要なものは、決してそういう資源じゃない。いざとなったら石油なんか飲めないでしょう?

―たしかに、そのとおりですね。

:今までは日本には「これがない」「あれがない」とないものねだりばかりしていましたが、足元に目を向ければものすごく豊かな国なんですよ。だから視点を変えて、本当にぼくたちが幸せに生きていくために必要なものは何か、という風に考えるべきだと思います。

日本のもともとの姿、もともとの文化のエッセンスをつかむことさえできれば、まだまだ希望はあると思っています。

「一歩踏み出せば、思いをシェアできる友人が見つかる」。辻信一氏が伝えたいこと

―一方で、気候変動や生物多様性の問題を何とかしたいと思っても、個人でできることは小さなことなんじゃないかという無力感を持ってしまうこともあります。

:そんなことはないですよ。日常生活はとても大事です。あの楽曲が伝えているように、日常生活と政治的な問題、社会的な問題というのは「地続き」にあるという感覚をみんな取り戻してほしいなと思います。

:世界のいろんな国に行きましたが、先進国だとか発展途上国だということに関係なく、どこに行っても多くの若い世代がすごい勢いで動き始めているのを目の当たりにしました。大人たちが政治を変えるのを待ってられないから、もう変えられるところから自分たちの生き方を変えていく。そんな流れが世界で起きていると感じます。

“FOREVER”の歌詞にも<もういいやは言わない>という言葉がありました。無力感に絶望したり、あきらめてしまうのは簡単ですが、それもまた刷り込みの結果だとぼくは思います。「あなたには何にもできない、あなたにできることは『よき消費者』であることだけ」みたいに、みんながお互いに刷り込みあってるというか。本当に、いま違和感を持っている人たちはぜひ世界に目を向けて、いろいろなところにアンテナを張る力を持ってほしいなと思います。

―非常に勇気づけられる言葉だと思います。

:入り口はどこでもいいんです。本を読んでみるとか、誰かの講演会に行ってみるとか、学生だったら授業にちょっとフォーカスしてみるとか、いつもと違う情報にも触れてみるとか……。世の中には面白い活動がたくさんありますから、そのなかのどれでもいいから自分の感性にフィットしそうなもの、気になるものがあったらちょっとの勇気を持って首を突っ込んでみてほしい。入り口のなかは広いんです。そして、じつは全部つながってる。一つの入り口から入って、そこに面白さを見出せた人は、きっとそのなかに広がっている深い世界をむしろ「自分の人生を豊かにするもの」ととらえることができると思うんですよ。

そしてその過程で人と出会っていく。アンテナを張って意識的に何か一歩進んでみれば、そこには必ず自分の思いをシェアできる友人が見つかります。そうやって少しずつでいいから、自分のまわりに一種のコミュニティーをつくっていってほしいなと思いますね。

―気候変動対策には政府の方針が重要ですが、7月には参院選があります。

:こういう選挙も軽くとってほしくない。残念ながらいろいろな政党をみても、生物多様性や気候変動はほとんど話題になりません。これはおかしなことだけど、それも、そういうことにぼくたちが関心がない、と政治家たちがたかをくくっているから。やはり、私たちが本当に望んでいることはこういうことだと言っていかなくては駄目だなと思います。

だから、ちょっとした勇気を持って一歩前へ出なくちゃいけない。同じように疑問を持っている人はじつはいっぱいいます。残念ながらそれが見えないようにされてしまっていますが、一歩踏み出してみれば、すぐそばに思いをシェアできる人がいるということに気づくはずです。

プロフィール
辻信一
辻信一 (つじ しんいち)

文化人類学者、環境=文化NGO「ナマケモノ倶楽部」代表、明治学院大学名誉教授。北米の諸大学で哲学・文化人類学を学び、コーネル大学で文化人類学博士号。1992年より2020年まで明治学院大学国際学部教員として「文化とエコロジー」などの講座を担当。またアクティビストとして、「スローライフ」、「ハチドリのひとしずく」、「キャンドルナイト」、「しあわせの経済」などの社会ムーブメントの先頭に立つ。『スロー・イズ・ビューティフル』、『常世の舟を漕ぎて』など著書多数、映像作品に『アジアの叡智』(DVDブックシリーズ、現在8巻)など。



フィードバック 9

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Life&Society
  • 音楽を入り口に環境問題を考えるということ。環境=文化運動家は、現状と未来に何を思う?

Special Feature

メタ・サピエンス──デジタルとリアルが溶け合う世界を探究する

デジタルとリアルが融合する世界。世界はどう変化し、人々はどう進化するのだろうか?私たちはその進化した存在を「メタ・サピエンス」と名づけ、「Humanity - 人類の進化」「Life - 生活・文化の進化」「Society - 社会基盤の進化」の3つの視点からメタ・サピエンスの行動原理を探究していく。

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて