わたしたちのヘルシー

妊活、何から始めるべき? パートナーと取り組みたい「プレコンセプションケア」をキンタロー。と考える

妊娠を目指す男女が行なう「妊活」。妊娠するための健康な身体づくりや、日々の行動、食事、治療などの全般を表す言葉として、広く知られている。

では、「プレコンセプションケア」(*1)をご存知だろうか? これは、妊活の前段階で行なう、いわば「プレ妊活」で、将来の妊娠の可能性を考えながら、女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うことを指す言葉だ。

自分の身体について知り、向き合っていく「プレコンセプションケア」は、子どもを授かりたいカップルにとってはもちろん、将来の妊娠・出産を意識していない女性や、男性にとっても必要な概念として広がりつつある。健康な生活習慣を身につけることは、単に健康を維持するだけではなく、人生の選択肢を増やすことにもつながるからだ。

今回は、自身も不妊治療(*2)をとおして2度の妊娠・出産を経験したキンタロー。さんをゲストに迎え、金沢医科大学病院 女性総合医療センターで女性外来を担当する、医師の赤澤純代先生との対談を実施。キンタロー。さんの実体験をうかがいながら、妊活やプレコンセプションケアとの向き合い方について語っていただいた。

妊活の前に、いまできることだけでも。先輩のアドバイスに助けられたキンタロー。さん

―今回のテーマである「プレコンセプションケア」。聞き慣れない言葉かと思いますが、キンタロー。さんはご存知でしたか?

キンタロー。:「妊活」という言葉はよく耳にしますし、私自身も取り組んでいましたが、「プレコンセプションケア」は初めて聞きました。

赤澤:そもそも「コンセプション」とは、受胎、授かるといった意味の言葉です。したがって、「プレコンセプションケア」は、「赤ちゃんを授かる前のケア」ということ。日本ではまだ妊娠前のケアの重要性が浸透していませんが、これを重点的に行なうと、将来の不妊のリスクを減らせたり、子どもを望んだタイミングで、より健康的な妊娠・出産を実現できたりすることがわかっています。規則正しい生活や運動、バランスのよい食事、喫煙や飲酒をしない、かかりつけの婦人科医をつくる、定期的に検診を受けるなど、早いうちからきちんと身体づくりに取り組み、生涯をつうじてプレコンセプションケアを実践することが重要です。

―キンタロー。さんは妊活に取り組まれる前に、何かご自身で健康管理をされていましたか?

キンタロー。:妊活をする前は、「プレコンセプションケア」という言葉はもちろん、妊娠や出産についての知識もほとんどありませんでした。仕事でご一緒する先輩と妊活の話題になったときに、「葉酸を飲んだり、ほうれん草をたくさん食べたりするといい」とか、「いまのうちから検査しておいて損はない」というアドバイスをいただいて、言われるがまま実践していたぐらいで。

結婚直後は、バラエティ番組の社交ダンス企画をやらせていただいていたので、とても妊活に取り組める状況ではなかったんです。しかし、本当ならすぐにでも子どもを授かりたかったのと、すでに当時35歳を過ぎていたこともあり、「できることをやろう」と、子宮の検査を受けました。そのときの結果には、特に異常はありませんでした。

赤澤:時期的に、35歳のタイミングで検査を受けられてよかったと思います。卵胞(=卵子と、それを取り囲む細胞)の数は産まれたときがピークですが、そこから急激に減少するのみで、37歳を過ぎるとなかなか子どもを授かりづらくなるので。パートナーの方も、同じタイミングで検査を受けられたんですか?

キンタロー。:いえ、夫はとにかく腰が重くて。検査に行こうと言っても、「どうせまだ本格的に妊活できないでしょ、急いでもしょうがない」と言って、来てくれませんでした。いま思うと、あれが災いしたなと思いますね。

そして社交ダンス企画が終わり、本格的に妊活に取り組もうとなって。タイミング法(=排卵のタイミングに合わせて性交渉を行なう方法)を2、3回試したのですが、授かりませんでした。私自身に異常がないことはすでにわかっていたので、再度夫に検査をすすめたのですが、この期に及んで渋っていましたね。さすがに腹が立って、病院の先生に相談したら、「精子を入れて持ってきてくれれば検査できるよ」と容器をくれて。嫌がる夫から、朝、無理やり絞り取って、病院に持って行きました(笑)。

後日、私一人で結果を聞きに行くと、先生の空気が明らかに重たい。「プライバシーにかかわることなので、ご本人の委任状がないと、奥様にはお伝えできない」と。これはただ事ではないと思い、急いで夫の職場に行って委任状をもらいました。検査の結果は、無精子症。精子がすごく少ないから自然妊娠は無理だろうと言われて、とにかく頭が真っ白になったのと同時に、「だから言ったのに!」と心のなかで思いましたね。

赤澤:でも、とにかく検査を受けられてよかったです。キンタロー。さんのように、男性が検査を受けてくれないというお話は、私の患者さんからもよく聞きます。

キンタロー。:「それは大変だったね。いままでごめんね」「とんだ苦労をかけちゃったね」といった言葉をかけてくれたらいいのに、そんな気の利いたことは言いません。ずっとイライラしていましたね。思っていなくてもいいから、一言でもかけてくれればまた違ったのかもしれませんが(笑)。

妊活中に大切なのは、栄養を意識した健康管理

―妊活中、なにかご自身で意識して取り組まれていたことはありますか?

キンタロー。:とりあえず先輩に言われたとおり、葉酸のサプリを飲んだり、生のほうれん草を食べたりしていました。ほうれん草には葉酸がたくさん含まれていますが、加熱すると成分が減ってしまうと聞いたことがあったので。

赤澤:妊活においてもプレコンセプションケアにおいても、栄養管理は非常に重要です。特に、日本の女性は海外に比べて、栄養面に関する意識が低く、やせや貧血(*3)の方が多く見られます。栄養不足による若い女性のやせや貧血は、骨密度や筋力の低下、月経不順(*4)や不妊、低出生体重児の原因になることも。

ですから、栄養不良の若い女性の方には、ぜひプレコンセプションケアの概念を知っていただいて、自分の栄養状態が将来の妊娠・出産、生まれてくる子どもの健康にまでにつながることを理解していただきたいです。

―具体的には、どのような栄養管理が重要なのでしょうか?

赤澤:最低限必要なのは、葉酸(*5)と鉄分。葉酸は、子どもの神経の発達にとても大切なので、キンタロー。さんがサプリを飲まれていたのは大正解です。鉄分は、妊婦さんの貧血を防ぐために欠かせません。妊娠中は、胎盤をつうじて胎児が成長するので、血管から酸素をしっかり届けてあげる必要があるからです。

赤澤:じつはミトコンドリアも、妊活において欠かせない要素のひとつと言われています。ミトコンドリアは、細胞のなかにいて、エネルギーを生み出す発電所のようなものです。エネルギーがつくり出されると、細胞の代謝機能がスムーズになるので、元気なミトコンドリアがたくさんあればあるほど、健康につながります。

―ミトコンドリアは、生命の活動にどのような影響を与えているのでしょうか?

赤澤:そもそも、人間の身体は37兆個もの細胞でできていて、心臓も肺も筋肉も、すべてミトコンドリアがつくるエネルギーで動いています。特に、妊娠にかかわるホルモンのなかでも、1か月の生体リズムに関係するのが、女性ホルモンや男性ホルモンなどの性ホルモンです。ミトコンドリアのはたらきは、性ホルモンの生成に不可欠ですし、男性の場合、精子の形成や運動性にも影響を及ぼします。女性の場合は、卵胞形成の段階から、受精から着床、胎児の胚の成長、胎児の成長、そして生まれるまで、ミトコンドリアのはたらきがずっと影響するんです。

赤澤:ミトコンドリアに異常があると、将来、生活習慣病を引き起こすこともあるので、生涯健康でいるためにも、ミトコンドリアを元気な状態に保っておかなければなりません。元気なミトコンドリアを増やすためには、適度な運動をすることや、十分な睡眠をとること、食事でミトコンドリアを元気にする栄養成分を摂ることが大切です。その栄養のひとつに、コエンザイムQ10という成分があります。

キンタロー。:聞いたことあります! 15年ほど前によく耳にしていたのを覚えていますが、最近あまり聞かないイメージです。化粧品などにも配合されていた成分ですよね?

赤澤:そうです、昔すごく流行って。当時は酸化型のコエンザイムQ10でしたが、現在は還元型のコエンザイムQ10という、体内にあるものと同じかたちで吸収されやすくパワーを発揮しやすい進化版も出ています。

キンタロー。:成分が変わったということですか?

赤澤:そうなんです。じつはパワーに違いがあります。コエンザイムQ10は、もともとは1977年に薬としてつくられていたのですが、当時のものは酸化型コエンザイムQ10といって、サビたタイプのコエンザイムQ10でした。そのため、抗酸化パワーを発揮するには、体内で変換する力が必要でした(変換力は年齢とともに低下)。その後、抗酸化作用をもつサビていないコエンザイムQ10=還元型コエンザイムQ10が20年ほどかけてやっとつくられました。それが世に出たのが、2007年くらいでしたね。

キンタロー。:あまりにも当時の印象が強かったので、一発屋じゃないですけど、ちょっと聞かなくなっただけで、「あれ、最近耳にしないね」と思ってしまって……、失礼しました。1977年からすでにあったのは驚きです!

「妊娠は奇跡に近いのだと、不妊治療の経験をとおして初めて気づくことができました」(キンタロー。さん)

―キンタロー。さんが妊活中に、モチベーションや心の支えになったものはありますか?

キンタロー。:飼っているペットと一緒にいたり、夫とおいしいものを食べに行ったり、普段と変わらない生活を送るようにしていました。タイミングよくミュージカルのお仕事も入ってきたのですが、ある一定期間、稽古で毎日同じ人と顔を合わせながら生活するので、それも心の支えになりましたね。踊りながら歌ったり喋ったりするのが私に合っていたのもあって、精神面も充実していました。

―キンタロー。さんが妊活される前と後で、なにか変化はありましたか?

キンタロー。:私の母は、初産が40歳、2人目が45歳のときでした。一番身近な存在の母がそうだったので、高齢出産という概念もじつはなくて、自分のなかでどこかそれが当たり前だと思っていました。

赤澤:それはすごいですね……! きっと素敵なミトコンドリアを持っているお母さまだったのかなと思います。ミトコンドリアは母方から遺伝するので、キンタロー。さんが元気でいらっしゃるのは、そのおかげかもしれません。

キンタロー。:幼いころ、いつも母と一緒に寝ていたのですが、ある日、「きょうだい欲しい?」と聞かれて。欲しいと答えたら、一晩だけ母が一緒に寝てくれなかった日があったのですが、後にも先にもその一晩だけでした。いま思うと、すごくない!? と思って(笑)。

学校の教育でも、妊活については教わったことがないし、どちらかというと、「望まない妊娠を防ぐためには」という話ばかりされていた記憶があるので、妊娠が奇跡に近いものだという認識がありませんでした。私の場合、一度は「赤ちゃんをこの手に抱けないかもしれない」と思ったときもあったので、子どもを授かることが当たり前ではないと、身をもって実感できたんです。

赤澤:命の誕生は奇跡的だということを、多くの方に知っていただければと思います。

キンタロー。:もっと早く、妊活やプレコンセプションケアについて学びたかったです。私自身、30歳を過ぎてほとんど無知の状態からスタートしてしまったので。もし知識があれば、頭のどこかで「急がなきゃ」とか、「検査に行かなきゃ」とか、すぐに行動に移せていたかもしれません。

赤澤:今回お話しした栄養管理や健康管理は、早いうちから取り組んでおいて損はないものです。妊娠を考える前の段階の方も、男性も女性も、自身の健康に向き合うことがまずは大切です。もちろん、プレコンセプションケアは、出産後もずっと続いていく概念ですよ。

キンタロー。:私は40歳前後で出産して、いま子育て真っただ中ですが、どうしても子どもの体力についていけなかったり、すぐに疲れてしまったりすることがあって。若いママさんたちを見ると、羨ましく思うこともありますが、今回教えていただいたことを実践しながら、少しでも健康で、生き生きとした自分であり続けたいですね。

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プロフィール
キンタロー。

1981年、愛知県出身。お笑い芸人。社交ダンスの講師を経て、30歳でお笑いの道へ進む。2012年、元AKB48の前田敦子のものまねで一世を風靡。2015年に一般男性と結婚し、不妊治療を経て2020年に第一子を、2021年に第二子を出産している。

赤澤純代

金沢医科大学 総合内科学 臨床教授。金沢医科大学病院 女性総合医療センター センター長。ウィメンズ・ヘルス・アクション実行委員。金沢医科大学を卒業して研究医として東京大学第三内科、東京大学先端技術研究所ゲノムサイエンス、金沢医科大学循環器内科助手を経て現職。女性特有の身体や心の問題に対し、ライフステージに合わせてやってくる変化とうまくつき合いながらWell-beingな人生を送れるよう、性差の視点をもって日々研究中。3世代にわたる女性の健康をサポートできるよう診療と多方面からの活動を行なっている。宮崎千恵会長が運営する女性医師が政策を提言する会にも参加している。



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