平本ジョニーとDEPTオーナー・eriに聞く、東京クリエイティブカルチャーの過去とこれから

日本中、世界中からモノ・ヒト・コトが集まる場所「東京」。この街の魅力は、あらゆるカルチャーが渦巻いて生まれた創造性にある。東京では、いつだって「東京にしかないクリエイション」が生み出されてきた。

しかし、それはこれからも変わらないだろうか。いま、東京のカルチャーには翳りが見えるように思える。たとえば、東京の顔・渋谷では、クラブカルチャーの中心地「SOUND MUSEUM VISION」「CONTACT」が閉店。流行の発信地のひとつでもあった東急百貨店本店も55年の歴史に幕を下ろした。

そんな状況に一石を投じようとしているのがヴィンテージショップ「DEPT」オーナーのeriとデザイナー・アーティストの平本ジョニーだ。ふたりは長らく東京のクリエイティブとカルチャーの渦中におり、3月17日から開催されるイベント『TOKYO CREATIVE SALON2023』にもともに携わる。同イベントは「東京のクリエイティビティを世界に発信し、パリやミラノと並ぶ世界的なファッション / デザイン都市にする」ことを目的とし、さまざまなクリエイターや作品・コンテンツが集まる大規模イベントだ。

東京クリエイティブを知り尽くしたふたりはいま、「東京」という街をどうとらえ、どんな未来を予測するのか。そして、『TOKYO CREATIVE SALON2023』で何を表現するのだろうか。ふたりが交わし合う言葉から東京の未来を読み解いていく。

eriと平本ジョニーが感じる「東京」。新たに芽吹くムーブメントの予感

―まずは、おふたりの出会いから教えてください。

eri:たぶん、21年前になると思います。ジョニーの師匠オオスミタケシさんをはじめ、共通の知り合いが多かったんです。

平本:ぼくがeriちゃんの同級生と青山を歩いているときに道で偶然遭遇して、「『DEPT』のeriちゃんだよ」って紹介されたんですよ。もちろん存在は知っていて、遊ぶ場所や人も近かったので、それから顔を合わせるたびに仲良くなっていきましたね。クラブやイベントで一緒にお酒を飲むことも多かったです。

―当時、よく遊んでいた場所はどこでしたか?

eri:青山の「Le Baron de Paris(ル バロン ド パリ)」(2006〜2015年)や、渋谷の「SOUND MUSEUM VISION(サウンド ミュージアム ビジョン)」(2011〜2022年)といったクラブが多かったです。私たちの世代は、「とりあえず『ル バロン』に行ったら誰かいるだろう」という感じでしたね。

平本:ぼくも一番に「ル バロン」を思い出しました。つねにおもしろい人がいて、おもしろい音楽が流れている場所というイメージ。なくなってしまって本当に残念です。いまは「CONTACT(コンタクト)」(2016〜2022年)も閉店してナイトカルチャーが少しずつ小さくなっている感じがあります。

―おふたりが出会った2000年代前半と現在で、東京という街の印象はどう変わりましたか?

eri:もっと変な服装の人が多かったよね?

平本:めちゃくちゃ多かったです。『TUNE』(※1)を読み返すと、ぶっ飛んだスタイルの人ばかりでした。

※1 TUNE:2004年に青木正一により創刊された、原宿のストリートスナップにフォーカスした雑誌。広告を入れないこと、画像の修正をしないことを公言するなどリアルなストリートファッションを映し出すことにこだわり、裏原宿カルチャーの醸成に大きく関与した。2015年を最後に発行が停止している

―2000代から2010年代は「ファッションスナップを撮られに街へ出る文化」がありましたが、いまはファッションスナップというコンテンツ自体が少なくなりましたよね。

平本:そうですね。当時の原宿は、読者モデルになりたくて雑誌編集者に声をかけられるために歩き回ったり、「GAP前」(※2)に居座ったりする人が多かったですね。どれだけ変な格好をするかに命を賭けていた人がたくさんいたことを思い出します。

※2 GAP前:JR原宿駅からほど近く、表参道と明治通りの交差点に位置し、現在は「東急プラザ 表参道原宿」となっている場所は、かつてアパレルブランド「GAP」が入居していた。同店舗に面する歩道は「GAP前」と呼ばれファッションスナップのメッカとなっており、撮影を行なう雑誌編集者やフォトグラファーが多数集まっていた

―旧「GAP前」の話題も出ましたが、東京の中心地は都市開発で変わり続けていますよね。「ビジョン」や「コンタクト」の閉店も渋谷駅周辺の再開発事業の影響による出来事でした。そうした街の変化についてはどんな印象をもっていますか?

平本:宮益坂の「ビックカメラ」前は、ふと通ると自分の知っている渋谷じゃない感覚に陥ります。最近だと、原宿の「オリエンタルバザー」(※3)が「FENDI(フェンディ)」になりましたよね。行くことは少なかったけど、当たり前にあったものがなくなることは寂しいです。

※3 オリエンタルバザー:1979年から表参道沿いに店を構えていた、工芸品・着物・和雑貨などを扱う小道具店の老舗。現在は移転・営業再開を目指して準備中であることがアナウンスされている

eri:新しく生まれ変わった場所で、カルチャー的な背景をもつ人によって新しいムーブメントが生まれるパターンもあると思います。というのも、私は下北沢に新しくできた「reload(リロード)」に入居しているヴィーガンカフェ「明天好好」を監修しているんですが、開業時に再生可能エネルギー100%の電気を利用したいと提案したところ、施設全体を再エネにしてくれたんです。

eri:施設内の生ゴミを処理するためにコンポストを置いてくれるなど、こちらの要望に柔軟に対応してくれて。商業施設の新しい可能性を感じられました。失われた景色もカルチャーもあるけれど、いまの環境でつぎの波をつくることは可能。いまは東京全体がグラデーションの状態にあるのかなと思います。

―なるほど。東京という都市が生まれ変わったいま、そのうえで新しいカルチャーやクリエイション、ムーブメントが芽吹きつつあるんですね。

eri:これまで私たちが過ごしてきた「エラ」(時代)では、オフェンシブな言い方をすると、人々は未来のことを鑑みずに自分たちの欲求を一方的に満たしてきた。いまは、それに疑問をもち循環型を目指そうという方向にシフトしつつある。うまくいけば、クリエイションと社会が結びつくことで、新しいムーブメントが生まれる可能性があるタイミングだと思っています。

より社会性をもちながらクリエイションする時代になっていて、そこにバリューが生まれていく。逆を言えば、そういったこと考えないでクリエイションする人は残りづらい時代になるんじゃないですかね。

―ここ数年の東京のクリエイティブシーンで、そうした次世代的な感覚を持ったクリエイターに出会って胸が踊った経験はありましたか?

eri:最近だと、『パリ・オートクチュール・ファッションウィーク』に日本で唯一参加している「YUIMA NAKAZATO(ユイマ ナカザト)」の2023年春夏コレクションですね。中里デザイナーが、衣料品廃棄物問題で揺れるケニアに自ら赴き、何キロもの古着を購入して再生繊維をつくり、それを使用したオートクチュールを発表していたんです。

eri:ほかにも土でネックレスをつくっていたり、プリミティブでありながら社会問題も含み、それを海外で発表しているスタイルが良い意味ですごく「いまっぽい」と感じましたね。

「まだまだおもしろい場所・人がいる」。ふたりは『TOKYO CREATIVE SALON 2023』で何を仕かける?

―そんな東京のクリエイティブシーンを盛り上げるべく、おふたりは『TOKYO CREATIVE SALON 2023(以下、TCS)』に参加されます。平本さんは3月11日にオープニングイベント『Re-Designing TOKYO Night Culture powered by Rakuten Fashion Week TOKYO × TOKYO CREATIVE SALON』を担当されていますが、この経緯は?

平本:『TCS』のファッション統括ディレクターを務める松井智則さん(株式会社ワンオー代表 *1)に昔からお世話になっていて、「若い世代にも刺さるイベントをオーガナイズしてほしい」とお声がけいただきました。「OR(オア)」と「不眠遊戯ライオン」、「Enter Shibuya(エンター シブヤ)」の3つを会場とした回遊型クラブイベントです。それぞれの会場に合っていて、ぼくが「いま東京で見てほしい」と感じるアーティストのブッキングを進めています。

平本:とくに、「不眠遊戯ライオン」に出演するアーティストはおもしろくなりそうですよ。いま人気のWEBマガジン「sabukaru.online(サブカルオンライン)」(*2)を手がけるドイツ人のエイドリアン・ビアンコ(*3)に手伝ってもらっています。

さきほどの「次世代の東京のクリエイションを引っ張るような存在」の話に戻るんですが、エイドリアンは日本人よりも日本のカルチャーに詳しい人物。日本のカルチャーを盛り上げてくれるのであれば、出自や肌の色は関係ないと思っています。

―クラブの閉店が相つぐ渋谷で、あえてクラブイベントを開催することにしたのは、どんな想いからなのでしょうか。

平本:「ビジョン」や「コンタクト」がなくなって行き場を失った人は多いと思いますけど、同じ会社が新しくオープンした「エンター」だったり、渋谷にはまだまだ楽しい場所があるし、おもしろい人がいるという提案も兼ねています。

今回のイベントを機に、それぞれの場所でコミュニティーが大きくなるかもしれないし、別の新しい居場所ができるきっかけになるかもしれないですよね。それに、ぼくはナイトカルチャーのなかで育ってきた人間なので、無理してデイタイムのイベントをオーガナイズするのはリアルじゃないし、無理した感じが周りにも伝わってしまうなと(笑)。

―eriさんは『TCS』のなかで3月17日にイベントを開催するほか、ジョニーさんのイベントや『TCS』全体とも連動した企画を走らせているんですよね?

eri:私は、社会課題への意思表示としてオリジナルのパッチをつける「REBEL FOR THE FUTURE(レベル フォー ザ フューチャー)」(以下、RFTF)というプロジェクトを手がけているのですが、今回は松井さんから「『RFTF』のパッチを『TCS』の参加証として組み込みたい」とお声がけいただきました。

私が「RFTF」を始めたのは2021年の第49回衆議院議員総選挙の前のこと。投票への呼びかけや政治への興味関心を高める活動をしてきたなかで、私たちに共感してくれるクリエイターたちと「意思表示のためのパッチをつくろう」という話をしたのがきっかけでした。

デザイナーやアーティストなど、さまざまなクリエイターにデザインをしてもらい、アパレル企業が服をつくる際に出てしまう「残生地」を活用してこのパッチをつくっています。

eri:日本では、一般の人々が社会課題について声を上げるのはなかなか難しい現状があると思います。「文化」として根づいていない、というか。ただ、社会のなかで正すべき部分や個々人が感じる生きづらさは、みんなが意思表示をしないと変わっていかない。

そんななかで、このパッチはデザインの良さやファッションとの親和性があるのでつけることでエンパワメントされることに加えて、つけるだけで意思表示ができる。ファッションやデザインといったクリエイティブカルチャーと社会課題への取り組みがうまく融合して、かたちになったのがこのパッチだと思っています。

『TCS』は「Fashion」「Tokyo」「Design」「Peace」というテーマを掲げていて、「RFTF」とは「Peace」の部分で共鳴しました。たとえ『TCS』の参加者が社会課題に興味がなくても自然とタッチポイントができる仕組みであれば大勢の人を巻き込める。

私は、私たち以外のもっといろいろな人に「RFTF」のようなプロジェクトを始めてほしいと思っています。さまざまなかたちで、クリエイティブとかけ合わせた社会課題への取り組みが生まれればいい。『TCS』はそのきっかけにもなるんじゃないかと感じて参加を決めました。

「RFTF」のパッチは、いくつかのセレクトショップさんやラフォーレ原宿さんに設置された募金箱に寄付してくれた方が、好きなものを自由に選ぶことができます。

平本:ぼくのイベントは、普通にお金を払っても入場できるんですが、「RFTF」のパッチをつけていればエントランスフリーになります。eriちゃんとは20年来の仲ですが、こうして一緒にプロジェクトを進めるのは初めてで、いつか一緒に何かをやれたらいいなと思っていたので熱が入っています。

東京で受けた恩を、『TCS』を通じて次世代へつなぐ

―『TCS』は、「東京がパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界有数のファッション / デザイン都市にする」というテーマを掲げていますが、おふたりは担当するイベントでこれをどう表現しますか?

eri:『TCS』が私たちをキャスティングしている時点で、『TCS』も、私のイベントも、ジョニーのイベントも、東京のおもしろさが集まる場所になると思っています(笑)。私たちはクリエイティブ業界のなかで現役年上の方々とも仲良しだし、若い子たちとのコネクションもある中間の世代。ジェネレーションを横断して東京のカルチャーに良い作用をもたらすことができれば嬉しいですね。

何より、私からするとジョニーは生き方も存在も東京っぽくて、『TCS』にぴったりな人選。ほかの都市でも同じような存在はなかなかいないだろうし、そんな人物がオーガナイズするイベントがおもしろくならないわけがないです。

平本:ぼくとeriちゃんが「ル バロン」で会っていたように、昔は行くだけで誰かに会えたり、何かを知ることができたりっていう場所がたくさんありました。それがいまは分散化されたり、単純に数が少なくなったりしている。『TCS』がそういった場所としてリプレイスされる可能性は絶対にあると思います。

ぼくらがかつて東京にあった場所にお世話になったように、『TCS』を通してつぎの世代に経験を還元していければいいですね。

*1 株式会社ワンオー https://one-o.com/

*2 sabukaru.online https://sabukaru.online/

*3 Adrian Bianco https://www.instagram.com/mrbianco/

イベント情報
『Re-Designing TOKYO Night Culture powered by Rakuten Fashion Week TOKYO × TOKYO CREATIVE SALON』
オーガナイザー:平本ジョニー
開催日時:3月11日(土)
場所:OR 17:00〜20:00
不眠遊戯ライオン 17:00〜5:00
Enter Shibuya 22:00〜5:00
『TOKYO CREATIVE SALON OPENING PARTY "WE WANT OUR FUTURE"』
オーガナイザー:eri
開催日時:3月17日(金) 17:00〜23:00
場所:渋谷PARCO ComMunE
『TOKYO CREATIVE SALON 2023』
開催期間:3月17日(金)〜3月31日(金)
プロフィール
eri (えり)

1983年ニューヨーク生まれ、東京育ち。「DEPT Company」で代表とデザイナーを兼任しつつ、アクティビストとしても活動。2015年、父親が創業し「日本のヴィンテージショップの先駆け」と呼ばれた「DEPT」を再スタート。気候危機を基礎から学べるコンテンツ「Peaceful climate strike」や環境とファッションの問題に焦点を当てた「Honest closet」の立ち上げなど、ファッションの枠を超え活動している。またメディアやSNSを通じて可能な限り環境負荷のかからない自身のライフスタイルや企業としてのあり方を発信し、気候変動・繊維産業の問題を主軸にアクティビストとしてさまざまなアクションを行なっている。

平本ジョニー (ひらもと じょにー)

ファッションブランド「PHENOMENON」「MISTERGENTLEMAN」のデザイナーとして知られるオオスミタケシに見出されファッション界での活動を開始。以降、クリエイター・アーティスト・デザイナーとして幅広く活動し、「東京を代表するストリートアイコン」と呼ばれる。自身のブランド「John‘s by Johnny」でデザイナーを務めながら、さまざまなファッションブランドにデザインを提供。2021年にはラッパーとして「THE NEVER SURRENDERS」を結成。2023年にはクリエイティブチーム「MONOLITHIC NEON TOKYO」に参画するなど活躍の幅を広げている。



フィードバック 23

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Fashion
  • 平本ジョニーとDEPTオーナー・eriに聞く、東京クリエイティブカルチャーの過去とこれから

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて