三宅健に聞く、「アートが日常にある」ことの喜びと刺激。五木田智央や河原温作品との衝撃的な出会い

1995年のデビュー以来、アイドルとして30年以上のキャリアを持つ三宅健。2022年にはミニアルバムでソロデビューを果たし、現在も歌や芝居などマルチに活躍する三宅は、じつは大のアート愛好家だ。自宅にさまざまなアーティストの作品を飾る、アートコレクターとしての顔も持つ。

今回は、日本のアートシーンの活性化を目的に経済産業省が2023年7月に公開した「アートと経済社会について考える研究会報告書」の内容をもとに、同省でアート政策に携わり、省内でも作品の展示を通じた職員に与える効果についての調査を自ら企画・実施している野口希紗良氏による解説を交えながら三宅に話を聞いた。その模様を前後編にわたってお届けする。前編は三宅とアートの個人的な関わりと、職場や自宅など身近な環境でアートに触れることで得るインスピレーションについて。(後編はこちら

幼少期の祖父との思い出からファッションに魅せられた10代、20代まで。三宅健とアートの出会い

―はじめに三宅さんとアートの関わりについてお聞きできればと思いますが、三宅さんはいつ頃から、どんなふうにして、アートに親しまれるようになったのでしょうか?

三宅:そもそもの話でいうと、子どもの頃、僕の祖父が美術館に勤めていたこともあり、祖父に会いに行くときはいつもその美術館が待ち合わせ場所になっていたんです。祖父の仕事が終わるのを待つあいだ、美術館の展示物を見ていたりしていて、自然と絵画鑑賞をするようになりました。何も知らずに、モネの『睡蓮』やロートレックのポスター作品を見て、「いいな」「好きだな」って思っていました。

三宅:その後、いまの仕事をするようになってからも美術館にはよく行っていたのですが、僕はファッションも大好きで、当時は洋服のほうに興味があったんです。だから、10代、20代の頃は、とにかく洋服を買い集めたり、レアなスニーカーをゲットするために、行列に並んだりしていました。その頃は、GOODENOUGHの藤原ヒロシさん、A BATHING APE®のNIGO®さんや、UNDERCOVERの高橋盾さんが、もう憧れのスターみたいな感じでした。

―「裏原宿系ファッション」の洗礼を、大いに受けてきたわけですね。

三宅:はい。僕はもう、完全に原宿キッズだったので(笑)。それであるとき、雑誌でNIGO®さんの自宅が特集されていたのですが、それを見て、NIGO®さんがアンディ・ウォーホルやKAWSの作品を所有していて、自宅に飾っていることを知ったんです。ほかにも、ジャン・プルーヴェの家具や、僕がそれまで見たことのない洗練されたデザインの家具やアートが自宅に置かれていて、そこで初めて、そういうものに対する知識を得ました。

だから、ファッションを通じて、アートのことを徐々に知っていった感じなのかもしれないです。KAWSはもちろん、FUTURAの存在も、ファッションを通じて知りました。

―当時の裏原宿系ブランドは、そういった新進気鋭のアーティストたちと、積極的にコラボレーションをしていましたよね。

三宅:そうですね。あとはやはり、Supremeですよね。ジョージ・コンド(※)の存在を知ったのも、たしかSupremeがきっかけだったと思います。

※ジョージ・コンド:1957年、アメリカ・ニューハンプシャー生まれのアーティスト。アンディ・ウォーホルのファクトリーで働いていたこともあり、ミシェル・バスキアやキース・ヘリングとも親交を深めた。カニエ・ウエストのアルバムジャケットも手がける。

─三宅さんは、とりわけ現代アートがお好きだそうですが、それもファッションを通して知っていったのでしょうか?

三宅:美術鑑賞はずっと好きだったので、美術館に足を運んでいろいろな作品を見るようなことはずっとしていたのですが、現在のようにアートに対して興味を持つようになったのは、現代アートが入り口でした。

現代アート市場は世界的に拡大。アートへの関心が高まっているのはなぜ?

─現代アートの市場が拡大している、ということは、今回三宅さんにも読んでいただいた「アートと経済社会について考える研究会報告書」にも書かれていましたね。

今日は報告書の作成に携わった経済産業省の野口希紗良さんにも同席いただいていますが、そもそもなぜ経済産業省がアートに注目したのでしょうか?

野口:ありがとうございます。アートというと文化庁という印象があるかもしれませんが、経済産業省がアートに着目した理由としては、経済社会のグローバル化、デジタル化が一層進み、コストや機能面だけでは、企業や国・地域も差別化が困難になっているなかで、機械やAIでは代替できないアートなどの人の創造性や、国・地域における固有の文化を価値創造の主軸に据えることが大事であると思っているからです。

─報告書には具体的にどのようなことが書かれているのでしょうか。

野口:今回の報告書の内容としては、「アートと経済社会について」という概要について書かれた第1章のあと、アートがもたらす企業の組織力強化や社員の創造性向上といった効果について触れた「アートと企業・産業」、アートプロジェクトによる地域の魅力向上といった意義や事例を紹介した「アートと地域・公共」、より多くの人がアートに親しみ、創造性を高めていくために必要なアートに関わる主体の在り方に言及した「アートと流通・消費」、すべてに共通する部分であり、アートの制作手法や意義を広げる「アートとテクノロジー」という4つの章に分けて、現状や課題点、さらにはその対策などをまとめています。

個人や企業、地域がアートと接する機会が増えることによって、アートと経済社会が相互に発展し合って、循環していくような経済社会になればという思いでつくりました。

三宅:僕も読ませていただいたのですが、近年はアートに対する関心が世界的に高まってきていると書いてありましたね。

野口:そうですね。例えば、現代アートの市場は、世界的にも近年大きく成長していて、そのなかでも「超現代アート」と呼ばれる1974年以降に生まれたアーティストたちの作品の売上高は、ここ数年で大きく伸びています。個人だけではなく、経済社会全体が関心を高めていることを背景に、経済産業省としても支援政策を検討するようになりました。そこでまずは、日本のアートシーンの現状と課題を知るために、有識者による研究会を設置して、その研究会で議論されてきたことをまとめたのが今回の報告書です。

三宅を現代アートの世界に本格的に誘った、五木田智央の作品との出会い

―三宅さんも現代アートが入り口だったと話していましたが、とても興味深いですね。

野口:三宅さんはとくにアートにはまるようなきっかけとなった作家や作品との出会いはありますか?

三宅:僕が、本格的にアートに興味を持つようになったのは、いまから10数年前、五木田智央さんの作品と出会ったことが、一番大きなきっかけだったかもしれません。五木田さんの作品は、自分のなかではすごく衝撃的だったんです。

五木田さんの作品を一目見たとき、モノクロームがつくり出すグラデーションとメタリックに、心をすっかり奪われてしまいました。「この作品を自宅で毎日眺めたい」と、そのとき初めて思ったんです。それまでも、気に入ったアーティストのシルクスクリーンの作品を購入するようなことはしていたのですが、キャンバスに描かれた一点ものの絵画を購入したいと思ったのは、五木田さんの作品が初めてでした。そこから気づけば、アートの魅力に取り憑かれるようにはまってしまい、いまに至ります。

野口:その頃から現代アートに対して、本格的に興味を持つようになったということなんですね。ほかにはどのような作品や作家がお好きですか?

三宅:平面作品だけでなく彫刻など、ジャンルレスに好きです。作家でいうと、五木田さんのほかには、河原温さん、イギリスの建築家ジョン・ポーソン、ガラス造形作家の増田洋美さん、Nerhol、ナム・ジュン・パイク、ヴォルフガング・ティルマンス、エドゥアルド・チリダ、トム・サックス、バリー・マッギーなどの作品が好きですね。

僕はわりと、コンセプチュアルなものが好きなんです。もともとは五木田さんの作品からスタートしたというのもありますが、そのあとに出会った河原温さんの作品の影響も大きいかもしれません。

作家の意思や時代背景を知ると、作品から感じとるものが増えていく

─「日付絵画(※)」で世界的に知られるコンセプチュアルアートの代表的な作家ですね。

※日付絵画:制作した当日の日付のみをキャンバスに描いた、河原温の代表的な作品シリーズ

三宅:ニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれていた河原温さんの回顧展に行く機会があったのですが、そのときに美術館のらせん状の回廊にその日付絵画がずらっと展示されていたんです。それを見ていたら、本当に河原さんの生涯をずっと追っているような気持ちになりました。50年近くにわたって、日付絵画を描き続けるのはすごいことだなと思いましたし、それをコンセプトとして描き続けてきたことに、すごく魅力を感じました。

それでそのあと、河原さんについていろいろと調べたり、本を読んだりしていくうちに、なぜそういう作品を生涯にわたって描き続けることを選んだのか、そこにはどんな時代背景があったのかを知ろうとすることで、作品から感じるものが、さらに増していったような感じがしたんです。その作家の意思を知ることで、より知識が深まって、その作家の作品をますます好きになる。そういうことが楽しくて。

2015年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催されたコンセプチュアルアーティスト・河原温の回顧展『SILENCE』の様子(グッゲンハイム美術館公式Instagramより)

三宅:あとは、必ずしも絵を描くことだけが作家の仕事ではないというのも、コンセプチュアルアートの面白いところだと思います。

―どういうことでしょう?

三宅:例えば、「ウォール・ドローイング」で知られるソル・ルウィットは、作家本人だけでなく、「ドラフトマン」と呼ばれるまったく別の人物にも作品を「ドラフト(製図)」させるんです。つまり作家の「指示書」が作品というわけなんですね。彼にとって最も重要なことは、その概念を考えることで、それがアートであるという。だから、彼の作品の面白いところは、実際の展示が終わると、再び「指示書」という概念に戻ることなんです。僕は、そういうものを面白いと思うし、コンセプチュアルアートの醍醐味ですよね。

アートの楽しみ方はたくさんあると思うのですが、アーティストがその作品を仕上げるまでに費やした時間や当時の社会のことなどに思いをめぐらせながら、その表現に辿り着くまでの背景や、作品に込められたメッセージや風刺を読み解くことが僕は好きなんです。

「アートが身近にあることで、心が満たされる。生活の一部に溶け込んでいることが、すごく良いなと思っているんです」(三宅健)

野口:三宅さんとアートの出会い、とても素敵ですね。近年、アートへの関心が高まっている理由のひとつとして、新しい視点や発想をアートを通じて表現する現代アーティストの着眼点や考え方などに注目が集まっていることが挙げられます。

社会の変化を背景に、人々がより精神的・文化的な豊かさを求めるようになったことで、幸福感や精神的健康、個性などをもたらしてくれるアートに注目が集まっているという側面も報告されているのですが、三宅さんにとっては、アートに触れる時間というのはどんな時間なのでしょうか?

三宅:アートは僕にとっては日常にあるものです。もちろんギャラリーや美術館も行きますが、アートが身近にあることで、心が満たされる。生活の一部に溶け込んでいることが、すごく良いなと思っているんです。だから、日々の生活のなかで楽しんでいます。朝起きてチラッと視界に入ってくることがいい。五木田さんの作品を初めて購入したときも、そういう理由でした。

同じ作品でも、その日の天気はもちろん、季節や自分の精神的なコンディションによっても、見え方や自分の感じ方が変わってくるんです。自宅にも職場にもアートがあるのですが、家と仕事場ではコンセプトを分けています。そうやってアートを身近に感じている時間が、まわり回って自分の創造性を高めることにもつながっているのかなと思います。

野口:職場にアートを飾るというお話しがありましたが、経産省でもオフィスに若手アーティストのアートを置くようにしています。職員と若手アーティストで経産省のミッションや経済社会の課題などについて話し合ったうえで制作してもらった作品を飾っていたのですが、職員のアンケートでも「インスピレーションを得た」とか「コミュニケーションが増えた」といった回答も多く得られたこともあり、職場にアートがあるということの効果は私たちとしても実感しているところです。

─三宅さんご自身は、アートから得たインスピレーションが、実際に自分の表現や活動にも生かされていると感じますか?

三宅:そうですね。例えば、自分のコンサートの演出を考えるときに、「あの作品のような明暗を照明でつくってみよう」と提案することがあるのですが、それはその作品を知っているから思うことですよね。

僕は自宅にはハッピーなものしか飾らないのですが、美術館では何か感情がえぐられるようなものを見たいときもあります。エンターテイメントの世界に身を置く人間として、自分の音楽や作品には、自分が見たものや聞いたもの、感じたものの影響が少なからず反映されているとは思います。アートを見ていると、やはり何か新しい思考や視点が生まれてくるということはあると思います。(後編につづく

詳細情報
「アートと経済社会について考える研究会報告書」
プロフィール
三宅健 (みやけ けん)

1979年7月2日生まれ。神奈川県出身。 2023年7月2日に最初のTOBEアーティストとして出発することを発表。表現者として、新たなエンターテインメントの形に挑戦していくこと、そして新たな「アイドル像」を描いていくことを表明した。 自身の「アイドル像」をテーマにした2nd Digital Single『iDOLING』を2024年1月29日にリリース。YouTubeにて毎週火曜日21時に「健ちゃんの食卓」、木曜日21時からは「ゆるりと生配信」を配信中。



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