インディペンデントな音楽活動を資金や学びの場づくりで支援。「B-Side Incubator」設立

インディペンデントな活動をする音楽アーティストへの支援を目的として、一般社団法人「B-Side Incubator」が設立され、5月16日、渋谷・MIDORI.soで立ち上げ記念イベントが行なわれた。

インディペンデントアーティストとは、一般的には大手レコード会社やマネジメント事務所と契約を結ばずに、自ら活動を行なっている人のことを指す。B-Side Incubatorは非営利団体として、資金面の援助をはじめ、法律や契約、メンタルヘルスについての専門家のアドバイス、アーティストやそうした人々を支えるチームに向けた講座、業界動向に関する調査報告などを展開するとしている。

イベントでは、代表理事の岡田弘太郎が団体について説明したのち、理事であるstarRo、Maika Loubté、つやちゃんが登壇。「インディペンデント・アーティストが持続的に活動するために何が必要?──B-Side Incubatorが目指す、新たなるエコシステムづくり」と題してトークセッションを行なった。

B-Side Incubatorが目指すものとは?

今月設立されたB-Side Incubatorは、インディペンデントに活動するアーティストを支える「コミュニティ」として運営する、と岡田は説明する。

2010年代以降、SNSやデジタルディストリビューションサービス(※)などの普及によって、音楽アーティストが大手レコード会社やマネジメント事務所に所属せずとも活躍できる環境が整った。そのうえで、インディペンデントアーティストが持続性の観点から直面している課題があるとした。

例えば、2022年のデータでは音楽ストリーミングサービスには1日10万曲がアップされている現状があり、リスナーの可処分時間の奪い合いによって多くの人々に楽曲を聞いてもらえないということ。また、Spotifyのロイヤリティシステムの変更についてアーティストが意思決定への影響力を持ちづらいこと、物価高騰によってライブから収益を上げづらくなっていること──などを挙げた。

※「ディストリビューション」は分布 · 流通を意味する。デジタルディストリビューションサービスは、楽曲などのデジタル配信を手伝うサービスである。

そもそも「インディペンデント」については、活動すべてを自分で担う人からレーベルのみ所属している人、マネジメント事務所のみ所属している人、PRなどの機能のみ外部に委託している人というように、多岐にわたる。B-Side Incubatorでは「インディペンデントアーティスト」を、「アーティスト本人、または数人程度の少人数のチームで活動全体をコントロールしている人々」と定義を仮置きする。

B-Side Incubatorの活動としては、「インキュベーション」「スクール」「シンクタンク」の3本柱を据えた。

まず、インキュベーションについて、岡田は「アルバムやEPをつくるとき、その原資になるお金の調達が難しい。そういった活動資金の提供をはじめ、メンターとして、例えば音楽プロモーションやメンタルヘルス、法律契約、そういった専門家からのアドバイスを受けられるようにする」とした。これは今年度末から対象者を募集する予定だといい、「もし興味のある方はぜひ応募いただきたい」と呼びかけた。

スクールについては、「インディペンデントアーティストの場合、マネジメントを担当しているのがそのアーティストの友人であったり、音楽業界外の人が担っていたりする。音楽を取り巻く環境の変化が激しいからこそ、活動を持続化するために知見を共有し合う場が重要だと感じています」とし、「例えば、カリキュラムのなかでプロモーションや、マネジメントチームをどうやってつくっていくのか、また法律とか契約の知識、資金調達などについて皆さんと一緒に考えていく場をつくりたい」。7月の開校を目指しており、初年度は無料という。

シンクタンクは、「インキュベーションやスクールの活動で得られたことをまとめていくことをやりたい」と説明。「アーティストとして活動を始めるときに読むようなレポートがあったほうがいいと考えています。そういったものを無料で公開することで皆さんの知見にもつなげていきたい」と話した。

理事には、音楽プロデューサーのstarRo、シンガーソングライター・音楽プロデューサー・DJのMaika Loubté、Vegas PR Group代表のLauren Rose Kocher、文筆家のつやちゃんが務める。

岡田は、「アーティストの皆さんと一緒に考えていくことを大事にしたい。そして、中立的なポジションで非営利活動を通じて、コミュニティを豊かにしていくことができたら」と強調した。

理事ら4人がインディペンデントを考えるトーク

B-Side Incubatorの活動紹介ののち、岡田、starRo、MaikaLoubté、つやちゃんの4人が現在抱えている課題感などについて議論。それぞれ今後の活動についての思いを話した。

つやちゃんは「ライターやメディアと、アーティストとのお付き合いは、記事つくって終わり、みたいな1回1回のものが多いので――もちろんそれで力になることはあるんですけど――中長期でアーティストを支えるためには、書いてるだけじゃ駄目だ、みたいなことを自分で思ったりして。この取り組みによってもっと長く、アーティストの方々を支えることができたらと思っています」。

Maika Loubtéは「これまでインディペンデントな活動をしてきて、あらためていま思うのは、コミュニティに属することや、チームを持つことの大切さ。(B-Side Incubatorの活動をすることには)10年前の自分を助けるような気持ちがちょっとあるんですね」。自分のいままでの経験を活かして、「たくさんの人が自由に音楽をつくることをためらわずにやってみようって思えるような、前向きな気持ちを持てるきっかけをつくっていけたら」とし、「私自身もまだまだ課題を抱えるいちアーティストでもあるので、多くの皆さんと一緒に学んでいきたい」。

starRoは「僕にとって音楽とは、最終的に自分がいちばん大事にしたいもの。例えば、アーティストになったりリリースしたりは、いち側面でしかなくて。人生100年時代って言われているなか、いかに音楽をずっと大事にしていけるかという観点だと、必ずしも音楽で生計を立てることがベストな解ではない時期もある」。そして、「インディペンデントであるということは、音楽を続けるためにつねに自分自身がアメーバのように変化し続けられるということでもある。だから音楽活動やリリースの仕方だけじゃなくって、生き方そのものも含めて、皆さんがインディペンデントであり続けるためのひとつの視点のようなものをシェアできればいいなと考えています」と語った。

サイト情報
プロフィール
岡田弘太郎 (おかだ こうたろう)

一般社団法人B-Side incubator代表理事。一般社団法人デサイロ代表理事。『WIRED』日本版エディター。クリエイティブ集団「PARTY」パートナー。そのほか、アーティスト・マネジメントやスタートアップの編集パートナーなどを経験。アーティストや研究者、クリエイター、起業家などの新しい価値をつくる人々と社会をつなげるための発信支援や、資金調達のモデル構築に取り組む。

プロフィール
starRo (スターロ)

横浜市出身、秋田県仙北市を拠点に活動する音楽プロデューサー。2013年、ビートシーンを代表するレーベル「Soulection」に所属し、オリジナル楽曲から、フランク・オーシャンやリアーナなどのリミックスワーク、アーティストへの楽曲提供なども行なう。16年に1stフルアルバム『Monday』をリリースし、The Silver Lake Chorus”Heavy Star Movin’”のリミックスがグラミー賞のベスト・リミックス・レコーディング部門にノミネートされるなど、オルタナティブR&B、フューチャーソウルなどのシーンを中心に注目を集める。

プロフィール
Maika Loubté (マイカ ルブテ)

東京在住のSSW/音楽プロデューサー/DJ。幼少期から十代を日本パリ香港で過ごす。先進的なエレクトロニックミュージックを基軸としながら、テクスチャーをはぎ取ったオーセンティックな「歌」そのものを重要視している。少人数のマネジメントチームとともにインディペンデントに活動しながらも、国内外のアーティストとのコラボレーションやサウンドプロデュース、リミックスなど多岐にわたり活躍。

プロフィール
つやちゃん

文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。メディアでの企画プロデュースやアーティストのコンセプトメイキングなども多数。活動初期のアーティストの発掘や育成をコンセプトとするオーディションやアワードに審査委員として参画。著書に『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)など。



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